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[GDC 2018]複合現実はアトラクション向き? HoloLensを使ったパックマンの開発で見えたものとは
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印刷2018/03/21 19:37

イベント

[GDC 2018]複合現実はアトラクション向き? HoloLensを使ったパックマンの開発で見えたものとは

バンダイナムコスタジオのクリエイティブディレクターである本山博文氏
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 GDC 2018の2日めとなる北米時間2018年3月20日,バンダイナムコスタジオでクリエイティブディレクターを務める本山博文氏による「'Pac-Man' HoloLens: Developing a Mixed Reality Game for a Broad Audience」というセッションが行われた。
 セッションのテーマは,MR(Mixed Reality,複合現実)対応ヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」を利用するアトラクションとして本山氏らのチームが製作したコンテンツ「PAC-IN-TOWN」である(関連記事)。


 PAC-IN-TOWNとは,バンダイナムコが展開する東京・池袋にあるアミューズメント施設「ナンジャタウン」にて,2018年1月15日から同年5月6日までの期間限定展開となっているアトラクションだ。参加者はHoloLensを被ってパックマンとなり,MR技術で表示されるゴーストを避けながら,迷路を巡ってクッキーを食べていくことになる。

ナンジャタウンでサービス中のPAC-IN-TOWN
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 本稿では,どのようにしてバンダイナムコスタジオがPAC-IN-TOWNを開発したのか,本山氏が語った内容の要点をレポートしてみたい。
 なおセッション中,氏は本アトラクションのことを「PAC-MAN HoloLens」と呼んでいたことから,本稿でも以下,その表記を用いるので,この点はご了承を。


PAC-MAN HoloLensは少人数・短期間で開発


 本山氏は冒頭で,PAC-MAN HoloLensとは何かを説明した。
 氏によると,もともとPAC-MAN HoloLensは,オーストリアのリンツで毎年行われる芸術や先端技術関連イベントの2017年版「Ars Electronica Festival 2017」において,パックマンというコンテンツの新しい使い方を模索する「Pacathon」(パッカソン)のために開発したものだそうだ。そのPacathonでは,5日間で約400人が体験したという。

PAC-MAN HoloLensの原型は2017年にイベント出展用として開発されたものとのことである
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 そして,イベントでの好評を受けて,2018年1月,ナンジャタウンのアトラクションとして正式なデビューを果たした。本山氏いわく,「我々の試みは,日本のテーマパークでMicrosoftのHoloLensを使った最初の例」とのことだが,ナンジャタウンではすでに約8000人の来場者がPAC-MAN HoloLensを体験したとのことである。

すでに8000人ほどがPAC-MAN HoloLensを体験した
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 本山氏の所属するチームにおいて,開発者はわずかに3名とのこと。その3名で2017年8月にイベント用バージョンの開発に取りかかって,9月にはPacathonで公開までこぎつけたそうだ。さらに,イベント版の公開後はやはり1か月で最適化を行ってアトラクション版を完成させたそうなので,実に驚くべき速度で開発が進んだことになる。

PAC-MAN HoloLensの開発スケジュール。本山氏らのチームは先行して同じHoloLensを用いたアトラクション「一網打尽!蚊取りパッチン!大作戦」(※スライドでは「MOSQUITO」)の開発を進めていたのだが,それに割り込む形で昨年8月に開発をスタートさせることになったという。開発開始からわずか1か月でイベント版が仕上がったわけである
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 なぜそれほど迅速な開発ができたのか。本山氏は最初に,VRやAR(Augmented Reality,拡張現実),あるいはMRのコンテンツ制作を手がけるスタートアップ企業の手法に学んだことを挙げた。

短期間で開発を行えた理由の1つに,スタートアップ企業特有のスピードを学んだことを挙げていた
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PAC-MAN HoloLensの開発における「3本の柱」


 さらに,短期間での開発完了を目指したPAC-MAN HoloLensでは3つのコンセプトを柱に据えたと,本山氏は述べている。
 1つめは,8×8mという限られたスペースでプレイできること。2つめは,3人のプレイヤーによる協力プレイを行えるようにして,プレイが終わったときはハイタッチしたくなるような感動を与えること。そして3つめは,PAC-MANやアイテムのパワーエサ,ボーナスアイテムのチェリーといった,パックマンに欠かせないルールやアイテムを使用することだ。
 「8×8mという限られたスペースの中で,パワーエサやチェリーといったアセットを使うことは,PAC-MAN HoloLensの開発における大きな挑戦だった」(本山氏)。

PAC-MAN HoloLensにおける3つの柱
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 このコンセプトを実現するために本山氏らが行ったのは,まず敵キャラであるゴーストの動きをオリジナルのPAC-MANから変えることだった。
 具体的には,PAC-MANを追いかけるのではなく,敵が特定のエリアをパトロールするようにした。これによりプレイヤーは,十分な時間をかけて,戦略的に考えることができるようになったと,本山氏は言う。

PAC-MAN HoloLensのゴーストは,PAC-MANを追いかけるのではなく,特定のエリアをパトロールする動きになっている
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 また,オリジナルのPAC-MANは迷路のすべてを真上から見通した2Dゲームだったことは言うまでもないが,3D空間をPAC-MANの視点で歩き回るPAC-MAN HoloLensでは,ゲーム中に登場するオブジェクトを同じ高さに配置することで,プレイヤーが周囲を見回すだけでゴーストの頭やアイテムの上端を視認できるよう見せ方を工夫したと,本山氏はスライドを使いながら紹介していた。
 これも,プレイヤーが作戦を立てて行動するための大きなヒントになる。

オブジェクトの頭がプレイヤーから見えるように。これでプレイヤーは,離れたところにいるゴーストやアイテムの位置を把握できる
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 それに加えて,ゴーストのコリジョン(当たり判定)を小さくするといった,ゲームとしての最適化も行ったという。簡単に言えば,プレイヤーが楽しくプレイできるように,ゲームの細かい部分に調節を加えたという感じだろう。

敵キャラのコリジョンを小さくするなど,人間が遊ぶことを考慮した最適化を加えている
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「MRはアトラクションに最適なツール」


 ところで,そもそもオリジナルのPAC-MANはシングルプレイのゲームなのに,なぜPAC-MAN HoloLensは,3人で協力プレイをするゲームになったのだろうか。
 その答えは「MRの利点を活かすため」だそうだ。現実と仮想世界が融合するMRを使って,3人のプレイヤーが1つの目標を達成しようとするときそこに自然とコミュニケーションが生まれる。「それが素晴らしい体験となることが,MRの優れた点の1つではないか」(同氏)。
 コミュニケーションの中でチームワークが生まれ,それが楽しさにつながるという点も,氏は強調していた。

ゲームをクリアするという目的を3人で達成しようとするとき,そこに自然とコミュニケーションが生まれる
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 また,ゲームにスポーツ的な要素をもたせることも,プレイヤーを3人にした理由であるそうだ。いずれにしても「プレイヤー同士が協調してプレイするのは楽しいものだ」という本山氏の見解は,シンプルだが同意できるものだろう。

3人でプレイする形態にルールを変更したことで,より楽しいゲームになり,そこが重要だったと本山氏は述べる
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 さて,こうした工夫が盛り込まれたPAC-MAN HoloLensだが,アトラクションとして展開するときには,いくつかの問題が生じたという。

 その1つは,観客がHoloLensの世界を見ることができないという点。横で見ていると,3人のプレイヤーが何もない空間でウロウロしているだけなので,確かに,観客からはプレイヤーが何を楽しんでいるのか分かりにくい。
 この問題の解決策はシンプルで,会場に観客用の設備「Audience View」を設けた。Audience Viewは,プレイヤーのプレイ映像とゲームCGの映像を合成してディスプレイに表示するというもので,観客はこれを見れば「プレイヤーが何をしているのか」分かるようになっている。

Audience Viewは,プレイ映像とCGを合成した映像を観客向けディスプレイに表示して,観客にも楽しんでもらおうというシステムだ
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実際にアトラクションで使っている,「イヤーパッド」装備版HoloLens
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 また,アトラクション会場という性質上,非常に騒音が多いという問題もあったそうだ。プレイヤー同士がコミュニケーションを取りたくても,会場の騒音で互いの声が聞き取れないというわけである。
 そこで本山氏らは,HoloLensに騒音防止用のイヤーマフ的カバー「イヤーパッド」を取り付ける改造を施し,騒音が耳に入りにくくしている。

 もう1つ,プレイヤーが装備を装着するのに時間がかかるという難点もあったそうだ。
 イベントで披露したデモ版では,HoloLensだけでなく,プレイヤーにThalmic Labs製のウェアラブルモーションコントローラ「Myo」を取り付けて,腕の動きを認識するのに使っていたという。ただ,これを3人分取り付けるとなると,相応に時間がかかるのは当然だ。そこでナンジャタウン版では,Myoを廃止することで装備を簡略化している。

デモ版は,Myoを3人が身につける必要があったため,ゲーム開始まで5ステップ必要だったが,ナンジャタウン版ではMyoを省略したおかげで,3ステップでゲームを始められるようになった
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 セッションの最後に本山氏は,MRのアトラクションにおける利点をまとめた。
 いわく,「我々がMRを選ぶ理由は簡単。アトラクションは,そもそも設備や建物にコストをかけている。そんなコストがかかる設備や建物を,仮想世界に取り込めるMRは,テーマパークに最適」とのことだ。言われてみればそのとおりで,仮想世界でテーマパークを覆い隠してしまうVR型のアトラクションはもったいないとも言える。MRを使って,テーマパークにデジタルコンテンツを取り込んでいくというのは,理にかなった利点だろう。
 またコスト的な利点もあるという。「ナンジャタウンは,昔の日本の風景を模したテーマパークで,MRなら,そんな風景をゲームに取り込むことができる。すべてを作り込む必要がないのでコスト効果が高い」(本山氏)というわけだ。

 実際に商用のアトラクションを手がけた本山氏の指摘は,実に的確で,納得させられる面が多い。MRは,リアルを楽しむテーマパークや観光地といったところから利用が広がっていくのかもしれない。

ナムコのPAC-IN-TOWN説明ページ

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