プレイレポート
「十三機兵防衛圏」プレイレポート。緻密に交わる13人の主人公の物語や“自分自身で謎を解き,世界の真相に迫る”感覚が魅力のSFアドベンチャー
本作は,「機兵」と呼ばれるロボットで人類の存亡をかけた戦いに挑む13人の少年少女を主人公としたSFアドベンチャーだ。第二次世界大戦時や1980年代,そして未来といったあらゆる時代を舞台に描かれる謎多き世界観と物語,それらの謎を「アドベンチャー」「SLGバトル」「アーカイブ」という3つのメインパートを進めながら解いていくプレイスタイルが特徴の作品となっている。そんな本作を発売前にプレイしたので,アドベンチャーパートの「追想編」を中心に紹介していこう。
「十三機兵防衛圏」公式サイト
これは夢か,それとも“未来の想い出”か
物語のキーとなる「タイムリープと記憶」
隕石のように飛来し,街を破壊する大きな未確認物体。緊急非常事態宣言が出され逃げ惑う住民たちのなか,その流れに逆らうように進む2人の高校生がいる。そのうちの1人の女子高校生が巨大なロボットを呼び出してそれに乗り込み,破壊者たちに戦いを挑む。そして,それを見届けていたもう1人の男子高校生がこう語る。
あの映画のように怪獣は現れ,僕たちがロボットに乗って戦う。ずっと前から決まっていたことなんだ――と。
謎の敵「怪獣」の襲来で物語の幕が開き,続いて鞍部十郎と冬坂五百里というオープニングに登場した2人を含む数人の主人公の物語と,合間に挿入されるバトルのチュートリアルとなる「終焉の始まり」で構成されたプロローグが始まる。これをクリアすると「追想編」「崩壊編」「究明編」という3つのパートが開放となる流れだ。
プレイヤーは,13人の主人公それぞれの視点と時系列が異なる物語を進めていき,防衛拠点を守り抜くためロボット「機兵」で怪獣と戦い,明らかとなった情報を振り返り,この世界の真相を解明していく。
メインパートといえるのが,アドベンチャーパートの「追想編」だ。物語を読み進めたい主人公を選択すると,それぞれの物語が進行する。主な舞台となる1985年を中心に主人公を切り替えつつ,太平洋戦争末期,プレイヤーである我々の「現在」に近い2020年代,宇宙開発やナノテクノロジーが進んだ未来など,さまざまな時代を巡りながら世界の謎を紐解いていく。
物語を進めていくうえで特徴となっているのが,これまでにないゲーム体験を与えてくれるシステム「クラウドシンク」だろう。これは見聞きしたものがキーワードとしてリング状の選択メニューに“記憶”されるもので,さらに思考することで異なるキーワードに変化したり,人に話しかける際に使用することで通常とは違う会話が発生したりする。このように,入手した新たなキーワードを会話や行動に使用することで新たな展開が生まれ,物語が進展していくのだ。
主人公たちの物語は,エピソードによって複数のルートに分岐する。それも,ただ分岐して別々の話が展開するだけではない。一方のルートで手に入るキーワードで,もう一方のルートに新たな展開が生まれるというように,分岐したルートは完全に切り離されたものではなく,ほぼすべてのエピソードが,世界の真相を解明するために重要なピースとなっているのだ。
ルート分岐の方法も,ただ会話中に「AかBか」を選ぶだけではない。鞍部十郎の「クラスメイトの柴 久太とともに網口 愁を探す」という一場面を例に挙げると,「2人で教室を出て網口 愁の居場所を探す」「教室内でクラスメイトの会話を立ち聞きし,網口 愁の居場所を特定する」「柴 久太をまいて違う行動を取る」というように,プレイヤー自身がどう行動したかでルートが変わっていくのだ。
ルートの分岐やエピソードの交わり方も緻密で,最初は複雑で難解なものに見えるかもしれないが,どのエピソードも必ず何かしらの区切りを迎えるので物語が行き詰ることはないはず。主人公別に用意された「フローチャート」でこれまで辿ってきた物語が確認でき,分岐のあるエピソードもある程度進めるとほかのルートに必要なキーワードが表示されるようになるので,迷ったときはこれを確認して次の展開への糸口を掴もう。
まっすぐ教室を出て2人で網口 愁を探すも見つけられず。食堂にいた南 奈津乃に話しかけると,自宅で起きたとある出来事の回想に |
すぐに教室を出ずクラスメイトの会話に耳を傾けると……網口 愁の居場所が分かり,無事に会うことができた |
最初は数人の主人公しか選択できないが,特定の主人公の物語を読み進めていくことで開放されていき,13人すべてを選べるようになる。また,開放されている主人公でも,一定のエピソードまで到達するとその先の物語がロックされることも。「その主人公と関わりのある主人公のエピソードを進める」「指定されたバトルをクリアする」「指定された数のミステリーファイル(後述)を開封する」など,アンロック条件はさまざま。どの順番で,どの主人公から世界の謎に迫るかはプレイヤー次第だ。
ネタバレ回避のため詳細は語れないが,メインとなるストーリーは“タイムリープと記憶”という2つの要素が,主人公によって全く異なる形で表現されていることに圧倒された。
BJという謎のロボットとともに時間を移動する南 奈津乃のように,実際に各時代を行き来する形で話が進む主人公もいれば,先の時代から来た薬師寺 恵や東雲諒子のように回想として語られる主人公,鞍部十郎,冬坂五百里,網口 愁の3人のように“共有しあう夢の話”として未来の出来事のようなエピソードが展開する主人公もいる。
さらにそこに,特定の時間をループし続ける緒方稔二や,過去の自分が収められた映像をとおし「別次元から来た人間だ」と告げられる関ヶ原 瑛などのエピソードが持つ特殊な要素も加わり,それらが緻密に結びつき広がりを見せていくのだ。
2024年からやってきた如月兎美は,なぜか1985年から崩壊した未来に送られることに |
緒方稔二は,同じ時間の繰り返しから抜け出すため,謎の声の指令に従うことになる |
13人の主人公以外にも,1人でさまざまな時代を巡り暗躍する沖野 司や,鞍部十郎たちが通う咲良高等学校の教諭で彼らの秘密を知る森村先生,薬師寺 恵と契約を交わして“魔法少女”にし,彼女の願いを叶える代わりにとある任務を遂行させる“しゃべる猫”しっぽなど,謎多き人物(と猫?)が多数登場する。なかには時代を超えて登場する人物や,別の時代にそっくりさんがいる人などもあり,その謎はより深いものになっていく。まさに“SF全部のせのタイムリープ”(※)な世界観と物語となっているので,とくに謎解きや考察好きなプレイヤーは思う存分楽しめるだろう。
※11月12日に掲載した,ディレクターの神谷盛治氏メールインタビューより(記事リンク)
郷登蓮也とともに行動する千尋。幼い少女の姿だが,その話ぶりからただの子供ではない様子 |
鷹宮由貴にくっついて,南 奈津乃の失踪事件を調査する相葉絵理花。探偵助手気分で調査を楽しんでいる |
SF要素をメインに紹介してきたが,SF“ジュブナイル”作品である本作の物語は,ロマンス溢れる少年少女たちの青春群像劇としての魅力も溢れている。
スケバンである鷹宮由貴の腕っぷしの強さと可愛さに惚れたプレイボーイ(?)の網口 愁,自身のクラスの担任で所属するスパイ機関の上司である井田鉄也を慕う東雲諒子,女装した沖野 司に惚れてしまった比治山隆俊……甘酸っぱいものや悲哀を感じるものなど,多種多様な恋模様が描かれているので,こちらにも注目してほしい。
女装だったとはいえ,男性に惚れたことに複雑な心境の比治山隆俊。その後も沖野 司に振り回されるが,どうもまんざらではない様子 |
「ちこく,ちこく」とパンをくわえてダッシュで学校に向かった冬坂五百里は,校門前でぶつかった関ヶ原 瑛に一目惚れする |
物語を追い,怪獣と戦い,集めた情報で世界の謎を解く
ポップカルチャー好きに刺さる要素も盛りだくさん
ここからは「崩壊編」と「究明編」について紹介しよう。「崩壊編」は,主人公たちが操縦する機兵に指示を出して怪獣と戦い,世界防衛の拠点となる「ターミナル」を守り抜くシミュレーションバトルパートだ。
主人公たちが乗り込む機兵は,近接格闘型の第一世代機兵,万能型の第二世代機兵,遠距離型の第三世代機兵,飛行支援型の第四世代機兵という4種類。第一世代は,頑丈な大型怪獣に対して高威力を発揮するが,空中の敵への攻撃方法が限られる。第三世代は,複数の怪獣を一網打尽にできる広範囲攻撃を得意とするが接近戦は苦手という風に,機兵の種類によって性能は異なる。
出撃できる機兵は最大6機で,そのほかのメンバーはターミナルから支援攻撃や回復を行うことになる。機兵を動かすことは搭乗者の脳に大きな負荷を与えるため,連戦させると脳過負荷状態になってしまう。出撃はもちろんターミナルでの支援もできなくなるので注意が必要だ。メンバーの状態や機兵の特性,挑戦するWAVEに出現する怪獣などの情報をよく確認し,チームを編成しよう。
バトルはタワーディフェンス型のリアルタイムストラテジーのようなシステムで,勝利条件は基本的に「登場する怪獣をすべて倒す」「制限時間内ターミナルを守り抜く」となるが,WAVE(ステージ)によっては「指定された種類の怪獣(ボス)を倒す」になることもある。勝利条件にかかわらず,ターミナルが破壊されるか,味方の誰かが死亡すると防衛失敗だ。
怪獣は四方八方から押し寄せてくるので,機兵を1か所に集めてしまうとたちまちターミナルが囲まれることになる。効率よく怪獣を攻撃できる位置に機兵を配置し,連携を意識しながら戦おう。
遠距離型の機兵で飛行怪獣を落下させ,第一世代の機兵の近接攻撃で大ダメージを与える。強敵と戦う際はこういった連携も重要となる |
ダメージを受けた機兵は「機兵修復」で回復。修復中,搭乗者はむき出しの生身となっているので安全な場所で待機させよう。再起動時のカットイン演出も注目 |
バトルスタイル(難度)は「CASUAL」「NORMAL」「STRONG」の3種類。低難度の「CASUAL」であれば,行動順が回ってきた機兵で近寄ってきた怪獣を攻撃するといった流れでサクッとクリアできるので,SLGになれていない人や物語をメインに進めたい人でも安心してゲームが進められるはず。世界崩壊の危機という緊張感を味わいたいという人は「STRONG」に挑戦しよう。
「究明編」は,「追想編」での出来事を振り返りながら真相を解明するアーカイブパートだ。用語や舞台設定,登場人物,機兵,ちょっとした小物や食べ物などが「ミステリーファイル」という名前で保存されており,それは本作の世界観がいかに綿密に作り上げられたものかが確認できる情報量となっている。
「追想編」のエピソードを進めると公開されるものや,「崩壊編」のクリア報酬でもらえる「ミステリーポイント」で開放できるものなど,情報によって閲覧条件は異なる。「追想編」と「崩壊編」をバランスよく進めると,その分「究明編」で閲覧できる情報も増えていくのだ。
「追想編」のクリア済みエピソードをリプレイできるので,これまでプレイした分の情報整理だけではなく,エピソードを進める途中の「この話は前にどこかで聞いたような……」といった場面での振り返りにも役立てよう。
ここからは,筆者がオススメしたいポイントを紹介したい。それは,メインの時代となる1980年代の学生生活やカルチャーの描かれ方と,小説や映画,ドラマ好きに刺さる要素やオマージュが盛りだくさんなところだ。
物語の中で頻繁に出てくるビデオの貸し借りもその一つ。筆者の青春は1990年代〜2000年代前半と本作より後の時代ではあるが,中学生くらいまでは“ビデオの貸し借り”という文化があったので懐かしい気持ちになった。ビデオからDVD,そしてストリーミングと,時代を経て形は変わってきたので,現在10代〜20代の人にはどのように映るか気になるところだ。
なんの因果かマッポ(警察)の手先……ではなくスパイ組織の手先となるスケバンの鷹宮由貴,「デヴィッド・クローネンバーグ作品?」と思わされるような映画の話題で盛り上がる会話など,取り上げたいポイントはいくつもあるが,とくに心を掴まれたのがオカルトネタ。メインとなっているタイムリープはもちろん,MIB(メン・イン・ブラック),古代文明のコード,UFOや探検隊がテーマのテレビ特番など,オカルトや陰謀論好きにはたまらないワードがたくさん登場するのだ。それらがただの“ネタ”ではなく,物語の重要な要素としてしっかり練り込まれているところにも驚かされるだろう。
鞍部十郎が好きな映画「怪獣ダイモス」のシリーズ第1作は1954年公開。特撮映画好きならこの公開年にピンとくるだろう |
テレビから網口 愁に話しかけてくるアイドル(?)の髪型は,1980年代に流行した「聖子ちゃんカット」 |
最後は,ヴァニラウェア作品を紹介するうえで触れないわけにはいかない,グラフィックスについて。戦中,1980年代〜現代,未来といったさまざまな時代や,近代的な街並み,戦火の最中,怪獣に破壊された廃墟などが,圧倒的なクオリティで表現されている。
登場人物たちの仕草や表情,都市を蹂躙する怪獣の動き,食べ物や小物などの描かれ方も緻密で,初めてヴァニラウェア作品に触れる人はもちろん,ヴァニラウェア作品のファンもあらためて,この“職人芸”のようなグラフィックスに驚かされるだろう。
挑戦的なゲームシステムや大ボリュームの物語,美麗なグラフィックスと,さまざまな魅力にあふれる本作で,“自分自身で謎を解き,世界の真相に迫る”という新たな感覚を味わってほしい。
「十三機兵防衛圏」公式サイト
- 関連タイトル:
十三機兵防衛圏
- この記事のURL:
キーワード
(C)ATLUS(C)SEGA All rights reserved.
- 十三機兵防衛圏 プレミアムボックス 【限定版同梱物】豪華スペシャルBOX・『十三機兵防衛圏』シークレットファイル・第二世代型13番機兵ペーパークラフトモデルキット・DLCオリジナルテーマ&アバターセット 同梱 & 【先着購入特典】 『十三機兵防衛圏』デジタル・アートワークスDLC 同梱 - PS4
- ビデオゲーム
- 発売日:2019/11/28
- 価格:5800円(Yahoo)