プレイレポート
パラドゲーがついに宇宙進出。「Stellaris」がなぜ,ファンから大きな支持を受けたのかを探ってみた
「Stellaris」公式サイト
日本ではすでに,日本語表示を可能にするMODが「Steam Workshop」に公開されており,Paradoxのストラテジーゲーム,いわゆるパラドゲーのファンだけでなく,広く宇宙モノの好きなプレイヤーに注目されているようだ。
というわけで,本稿ではStellarisの基本的なゲームの流れを紹介しつつ,Paradox初の宇宙モノのストラテジーとなったこの作品の特徴について考えてみたい。
ゲーム開始の前に
自分だけのオリジナル勢力を作ってみよう
一秒でも早く宇宙に出たいプレイヤーのために,選択できる勢力はあらかじめ何種類も用意されているが,ここはやはりオリジナルのものを作ってみたい。Stellarisは種族メイキングの幅が宇宙ストラテジーとしてはかなり広く,筆者を含めたキャラメイク好きにとって,いろいろ楽しめるからだ。
メイキングで選べる最初のカテゴリーは「種族」(Species)で,自分の種族の外見,名前,特性などを決められる。プレイヤーが選択できる種族は哺乳類,爬虫類,鳥類,昆虫類,両生類,菌類の6種類で,それぞれの外見など,そこからさらに細かく選択できる。
ちなみに特性(Trait)とは,固有の長所や短所が決められるというもの。何回か試行錯誤した結果,たとえ多くの短所があっても,ゲーム展開が大きく不利になることはないという印象。またゲーム中,「遺伝子改良技術」を発見すれば,短所を補正できるので,ここは趣味を優先して選ぶのも悪くない。
「母星系」(Homeworld)では,ゲームスタート時に所有する母星の名前や環境が決められる。ゲームが始まった直後に植民できるのは,ここで設定した環境と同じ環境を持つ惑星だけで,それ以外の環境の星については技術の開発を待って進出が可能になる。その際の難度も母星の環境に影響されるところがStellarisのユニークな部分で,例えば,地球のような大陸型惑星を母星とする種族は,岩や砂だらけの惑星よりも水の豊富な海洋型や熱帯型の惑星のほうが居住しやすい。もっとも,それぞれのタイプの惑星はマップ上にほぼ均等に配分されるので,プレイのうえで有利不利はない。
母星系より吟味すべきなのは次の「帝国」(Empire)で,とくに「政体と価値観」(Government&Ethics)の項目が重要だ。価値観は種族の特性と同じく国家にボーナスを与える要素だが,すでに選択した特性によって選べる政体が左右されることには注意したい。例えば,「物質主義的」な種族が「神権政治」をしくことはできないし,「平和主義」を信奉する「軍事独裁国家」というのも作れない。
なお,それぞれには上位形態が用意されており,技術開発によってそれがアンロックできるのもポイントだろう。このあたりの統治体制へのこだわりは,共和制ローマから日本の戦国時代までさまざまな時代の社会をテーマにしてきたパラドゲーならではで,パラドゲーファンはぜひニンマリしてほしい。
「艦艇」(Ships)カテゴリーは,一見すると,ごく普通の初期設定のように見える。だが筆者を含めた宇宙ストラテジーファンにとって,自国の得意な兵装を投射兵器,ミサイル,そしてレーザーから選べたり,移動手段をワープ,ワームホール,さらにハイパースペースから選べたりすることにはたまらないものがあるはずだ。うーん,たまらない。
銀河帝国は一日にして成らず
序盤から中盤にかけて必要な戦略とは
Stellarisは,「Civilization」シリーズに代表される「4Xストラテジー」に属する作品だ。これは,プレイヤーがマップ上を探索(explore)し,自勢力を拡大(expand)して領土を開発(exploit)しつつ,敵対勢力を根絶(exterminate)していくという,4つのエックスを中心としたストラテジーを指し,本作の序盤から中盤にかけての展開も,この流れをきっちりと踏まえている。
ゲーム開始時にプレイヤーが与えられているのは,植民の済んだ「母星」が1つと,「調査船」(Research Ship)および「作業船」(Construction Ship)が1隻ずつ,そして軍事用の「コルベット船」が数隻だ。まずは,調査船を自星系内外に派遣して,惑星や衛星を探査しよう。この探査によってさまざまな資源が発見できるので,それらの星に作業船を送って「採掘施設」(Mining Station)を造っていく。
資源の中でもとくに重要なのが,エネルギーと鉱物で,エネルギーが施設の維持などに消費される一方,鉱物は艦艇や施設の購入に使われる。一般的なストラテジーで資金に相当する機能を,これら2種のリソースが分担しているといえるだろう。また,国家や惑星レベルでの「政策」(Policy)の実行などに必要となる「影響力」(Influence)の増減も気にかけておきたい。
各星系の探索に並行して,母星の開発を進めていこう。Stellarisでは居住可能な惑星がいくつかの地域に分けられており,各地域に「住民」(Pop)が増えていくことで各種施設の建設ができるようになる。この住民や開発の概念は,Paradoxの戦略ストラテジーである「ヴィクトリア 2」や「クルセイダーキングスII」の領土経営システムを思わせるものがある。
序盤の資源配分は,この手のゲームの中でも難しいほうだ。4Xストラテジーの場合,序盤のリソース管理がドンブリ勘定でもなんとかなってしまうこと多いのだが,Stellarisでは何も考えずに施設を立てていると資源がすぐに枯渇してしまう。
筆者が何回か試行錯誤した限り,とくにエネルギーが枯渇することが多かった。エネルギーは鉱物に比べてどうも埋蔵量が少ないようなので,優先的に確保したい。自分の勢力圏外の星系で大量のエネルギーが発見されたら,ただちに「辺境基地」(Frontier Outpost)を建て,ほかの勢力に取られる前に抑えてしまうのも一つの手だ。
ただし,エネルギーは鉱物と違い,大量消費の機会があまりないうえにプールできる絶対量も少ないため,エネルギー確保にこだわりすぎると,無駄に余らせてしまうことになる。「短期的にどのくらいのエネルギーが必要になるか」を計算しながらゲームを進めていくといいだろう。
また本作では,宇宙海賊やアメーバ生命体が序盤から攻めてくることが多い。敵の数は大したことはないものの,ゲーム開始時のコルベット船だけではまず勝てないので,維持費に注意しながら自艦隊の「戦闘力」(Military Power)を150くらいに増強しておきたい。
どうやらわが太陽系にはエネルギーと鉱物がそれぞれ11づつあるようだ。実はこれ,非常に恵まれたスタート環境 |
同種族のハイジャック集団との戦闘。ゲーム序盤でもこうした「単純に数を揃えたほうが勝つ」戦いが発生する |
だが,本作が既存の作品と大きく異なるのは,技術ツリー全体の見取り図が可視化されていないという点だ。もちろん,「技術Aを開発すると技術Bの研究が可能になる」という関連性は分かるが,プレイヤーは研究可能な技術のうち,ランダムで表示される候補の中から次に研究する項目を選ぶことになる。
このため,技術開発の順番を前もって決めておくことは難しく,通常の技術ツリーに慣れ親しんだ人にとっては戸惑う点かもしれない。しかし,筆者としてはこの試みを意欲的なものであると高く評価したい。
というのも筆者は,SFやファンタジーなどの架空史を扱う作品において「スタート時に,今後の技術発展の全貌が解明されている」ことに対してずっと違和感を覚えてきたからだ(これは,「Civilization」シリーズにおける,いわゆる「未来技術」などに対しても同じだ)。SFやファンタジーでは,「先が見えない技術の進展」のほうが驚きがあり,テーマにふさわしいように思える。
母星の勢力圏内の開発が一段落したら,勢力圏を拡大すべく植民を開始しよう。植民は,それに対応した技術を研究して「植民船」を建造し,これを植民可能な惑星に派遣することで完了する。ただし,植民船を建造してから植民が完了するまでの期間,少なからぬ量のエネルギーが毎月消費されるので,事前にエネルギーの備蓄はしっかり整えておきたい。
なお,種族メイキングでも触れたように,技術開発によって,自分の種族には本来適さない惑星にも植民できるようになる。しかし,こうした環境の悪い惑星に植民した住民の幸福度は総じて低く,やがて母星に対して独立運動を始めたりする。したがって,植民の際には,新惑星の獲得による勢力圏の拡大で「どれだけの資源を獲得できるか?」だけでなく,惑星に対する自種族の適応力も考慮する必要があるわけだ。
また,プレイヤーが直接統治できる惑星は5つまでなので,それ以上の数の星に植民するようになったら,間接統治地域であるセクターを設置する必要が出てくる。「5惑星のみ統治可能」というのは一見シビアだが,各セクターには統治の方向性や税率を設定できるほか,各セクターが管理する惑星における施設の建設や軍隊の増強などを直接指示できるため,実際にプレイしていて,行動が制限されている感じはしない。
何百という星にまたがる帝国を築き上げていく宇宙ストラテジーの問題点の一つに,ゲームが進むにつれてプレイヤーが操作しなければいけない項目が膨れあがっていくことがあるが,Stellarisのセクターシステムはこの問題への対策として(少なくとも方向性としては)成功しているように思える。
セクターを設置する時期は,ゲームが序盤から中盤へとさしかかる頃でもある。すでにほかのいくつかの国家とも遭遇しているはずで,これらの国家とは外交によるさまざまな交渉が可能だ。ここで注意したいのは,「誰が敵で誰が味方か」をはっきりさせることだろう。
各国家との「友好度」(Opinion)を上げるための大使館は最大で3つしか設置できないので,結果的に友好関係を結べる相手の数は絞られる。また,「Europa Universalis IV」のように,ある国家をライバルに指定すれば,その国家との友好度は当然,大きく低下する一方,その国家をライバル視している別の国家との関係は向上する。このように,本作では八方美人的な外交はしづらくなっており,ゲームクリアに向けて自勢力を拡大する地域については,植民のときと同様,しっかり吟味したい。
そして,4Xストラテジー最大の醍醐味ともいえる戦争だが,Stellarisはこれまでのパラドゲーと異なり,戦争に大義名分は必要ない。とはいえ,「何を目的とした戦争なのか」を開戦時に設定する必要があり,戦争目的としては,征服のほかにも属国化や特定惑星の分離独立など,さまざまな種類がある。気をつけたいのは,戦争中に惑星を占領してもそのまま自分のものになるわけではなく,あくまで和平交渉の際の取引材料として利用することになる点だ。
たとえ戦争に勝利して惑星を獲得しても,油断はできない。それらの惑星では,自分の種族とは価値観の異なる異種族が大半を占めているからだ。異種族は絶滅,ないしは追放してもいいし,もし戦闘などで役に立ちそうだと判断したら,そのまま奴隷として使役してもいい。残酷に思えるが,宇宙は厳しい世界なのだ。たぶん。
こうした被征服民の扱いなどは,「Europa Universalis IV」や「ヴィクトリア 2」で植民帝国をプレイした経験がある人ならば「うんうん」という感じかもしれない。
宇宙ストラテジーの基本を押さえつつ
パラドゲーの遺伝子を受け継ぐ佳作
以上のように,やりごたえのあるバランスに仕上がっている本作だが,パラドゲーを説明するときにしばしば使われる「複雑なシステムを備えた硬派なストラテジー」という表現は必ずしも当てはまらない。単純に,複雑かつ壮大なストラテジーということであれば,Matrix Gamesの「Distance Worlds」のほうが上回っているし,リアルタイムでテンポよく進む戦闘に重きを置くなら,「シンズ オブ ア ソーラーエンパイア」がある。興味深い艦艇設計システムを備えた「Star Ruler」や,ターン制のおかげで腰を据えたプレイが可能な「Galactic Civilization」など,個性的な宇宙ストラテジーも数多い。
これらのタイトルと比べて,本作が何か一点において突き抜けた特徴を持っているわけではない。しかし,「ゲームシステムの面白さ」「物語の魅力」,そして「映像や音楽表現」の三者いずれもが,高いレベルを備えているのだ。
ゲームシステムについては,複雑さを抑えつつもプレイヤーを飽きさせない充実したものになっているが,これは従来のParadox Development Studioの作品とは異なり,Stellarisが架空世界を扱っていることが大きく影響しているだろう。これまでのパラドゲーは,ともすれば「史実を踏まえたゲームシステムやAIの完成形」を探しているうち,必要以上に複雑なシステムを構築してしまったように思われる。だが,そうした史実という束縛のない本作では,銀河を舞台にした架空世界のストラテジーとしての面白さの追求に集中できている。
もちろん,歴史ゲームを制作することで培われた経験は,この作品にも十分反映されている。本作では,ゲームを進めていくと星間国家未満の「未開種族」や,逆に強大な力でプレイヤーの前に立ちはだかる「堕ちた帝国」など,大小異なる規模の勢力に多数遭遇する。これは,ゲーム開始時に全勢力が同じ条件に置かれることが多い4Xストラテジーとしては珍しい仕様だが,こうした勢力規模の不均衡は歴史ゲームでは欠かせない要素だ。さらに,歴史上の植民地を思わせる被支配民の扱いなどを通して,プレイヤーは「銀河の歴史を作り上げている」という気分が味わえる仕掛けになっている。
物語という点では,冒頭でも述べた種族メイキングの多彩さによって,プレイヤーは自分の勢力に対する愛着を持てる。加えて,古代文明の遺産を求めて銀河を探索する連鎖イベントなど,往年のSFタイトルを踏まえたネタも数多く仕込まれていて面白い。ビジュアルやサウンドなどにも,一世代前のパラドゲーからは考えられないほどに力が入っており,とくにファンにはおなじみの作曲家,Andreas Waldetoft氏によるBGMは繰り返し聞いていても飽きない。
こうしたバランスの良さのおかげで,Stellarisはパラドゲーの遺伝子を色濃く受け継ぎつつも万人におススメできる良質の宇宙ストラテジーに仕上がっている。もちろん,Paradox初のSFモノということで,煮詰められていない部分や物足りない部分があるのも事実。最近の4Xストラテジーとしては諜報,文化,経済などのソフトパワー的な要素に乏しいことなどはその一例だ。
開発チームを率いるHenrik Fahraeus(通称,Doomdark)氏もこうした問題点を認識しており,5月17日に公開された開発後日誌では,著名SF作家の名前を冠した3つのアップデートを計画していることを明かしている。これらのアップデートでは,細かいバグの修正と共に外交システムやユーザーインタフェースの改良,中盤のゲームプレイの充実などを予定しているという。
名作と呼ばれる宇宙ストラテジーの多くが,拡張版や続編による改良を繰り返して作り上げられたことを考えれば,Stellarisの現時点での完成度と発売後の開発計画からは,過去の名作に肩を並べる作品に成長していく可能性が十分に感じられる。どのようなDLCが発売されていくかも合わせて,本作の今後に注目していきたい。
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