インタビュー
なぜ打越鋼太郎氏は,「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」で“運命の理不尽さ”を描いたのか。その背景と意図に迫る
「ゼロ」と名乗る謎の人物によって,とある施設に閉じ込められ,強制的にデスゲームに参加させられる9人の登場人物達の過酷極まりない運命が,「クエストパート」と「シネマパート」で描かれている。
そんな本作のディレクションとシナリオを担当しているのは,これまでのシリーズ作品と同じ,スパイク・チュンソフトの打越鋼太郎氏だ。4Gamerでは,打越氏に取材をする機会を得たのだが,ストーリーに関する話題はネタバレに直結してしまう恐れがある。そこで今回は,打越氏がこの作品に込めたテーマや意気込みを中心に聞いてみた。
「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」公式サイト
「極限脱出」シリーズの完結編だが,
リニューアル感も出したかった
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
打越鋼太郎氏(以下,打越氏):
よろしくお願いします。
4Gamer:
真っ先にお聞きしたいことがあるんです。今回の作品は「極限脱出 9時間9人9の扉」「極限脱出ADV 善人シボウデス」に続くシリーズ第3弾という位置付けですが,タイトルから「極限脱出」という言葉が消えたのには,何か意味があるんでしょうか?
一番大きな理由は,今回はこれまでと違って,部屋からの脱出を目的としていないステージがあるからなんです。例えば「解毒剤を探せ」とか「金庫を開けろ」のような形で。
もちろん脱出を目的としたステージもあるんですけど,そういったステージを入れたので,あえて外してみました。それに,タイトルに「ESCAPE」という言葉が入っているんで,「極限脱出」を加えると,意味が重なってしまってくどくなってしまうかな? という懸念もありましたね。
ほかに,今回はリニューアル感を出したかったというのもあります。
4Gamer:
とはいえシリーズものですし,その言葉を外すことに対して周囲からの反発などはありませんでした?
打越氏:
プロデューサーの飯塚が「とにかく打越さんがやりたいことをやるべきだ」と言ってくれたんですよ。なのでタイトルを決めるときも,「『極限脱出』を外したいんですけど」と言ったら,「いいよいいよ外しちゃおうよ」という感じで。
4Gamer:
意外とあっさり脱出できたと。
打越氏:
できましたね(笑)。
4Gamer:
それと今回,キャラクターデザインをこれまでの西村キヌさんではなく,友野るいさんが担当されていますが,これも先ほどおっしゃっていたリニューアル感を出すためでしょうか。
打越氏:
ええ。これまでの作品にもファンはいっぱいいますし,西村キヌさんの評判も非常に良かったので,僕自身も悩みましたし社内でもいろいろと検討はしました。それでもやはり,新しいものを打ち出したかったんですね。
それと,言葉にするのはちょっと難しいんですけど,今回の作品のテーマがちょっと哲学っぽいんですね。友野さんの絵は,そのテーマとバッチリ合うような気がしたので……。
4Gamer:
テーマに合う,ですか。
打越氏:
ええ。例えるなら白ワインと赤ワインなんですよ。どっちもおいしいし,比べようがない。だけど魚料理に合うのは白ワイン,肉料理に合うのは赤ワインですよね。そういう意味合いで,今回は友野さんにお願いしました。
4Gamer:
シェフのチョイスだったというわけですね。実際に作り終えてみて,テーマとキャラクターデザインの相性はいかがでしたか?
打越氏:
抜群に合いましたね。
海外のファンから届いたリクエストが
続編リリースのきっかけ
4Gamer:
しかしなぜ,リニューアルをしようと考えたんでしょう?
打越氏:
これまでの作品も多くの人に遊んでいただいていますが,もっともっと多くの人達に遊んでいただきたいと考えたのが大きいですね。ファンの人達がこれまでと変わらないものを求めているのは理解しているんですが,変わらないものを作ってしまうとそこから外に広がっていきづらくなるとも思うんです。
4Gamer:
そこのバランスは難しいですよね。
一歩間違うと,既存のファンからそっぽを向かれ,新しい人にも刺さらない……ということにもなりかねませんし。
打越氏:
そうですね……。
ただ,これまでのファンの人向けに作っているのも確かなんです。というのも今回の作品って,一度はペンディングになった企画なんですよ。
4Gamer:
そうだったんですか?
打越氏:
はい。それで以前,善人シボウデスの続編を求める海外のファンに向けて「(続編は)すぐにはリリースできないかも」ってツイートしたことがあったんです。それが海外のニュースサイトで取り上げられたりして盛り上がって,うちの会社にも「作らせてあげてくれ」みたいなご意見がたくさん届きまして。結果,これだけのファンが待っているのなら作りましょう,ということになったんです。
なのでまず第一には,そう言ってくれたファンの皆さんを満足させたいと思って作りました。
4Gamer:
今回,PC版がSteamで配信されることも,そこと関係があるんですか?
打越氏:
そうですね。善人シボウデスが日本では2012年2月のリリースで,海外版は半年以上経ってからのリリースだったんですが,そのあとで「続編が出るとしたらどのプラットフォームで遊びたいですか?」というアンケートを採ったところ,20%近くがSteamという答えだったんです。
あれ以降,Steam自体のユーザー数も年々増えていますし,当時でもそれだけの人がSteam版を求めていたのだから,今回はSteamでもいきましょう,と。
4Gamer:
なるほど。ちょっと気になったんですが,日本と海外で同じゲームをリリースしたとき,反応って違うものなんですか?
打越氏:
やっぱり違いますね。
4Gamer:
端的に言って,どんな違いがありました?
打越氏:
善人シボウデスの場合なんですが,僕の中では一連の物語は解決したつもりもありつつ,あえてその後も続きますよ……みたいな終わり方にしたんですね。
それに対して日本のファンの方は,「腑に落ちない」という反応が割合としては多かったようです。海外のファンの方の場合,「え? ここで終わりなの? 気になるから続きをやってよ!」という感じだったんですよね。「そのために俺らが盛り上げていこうぜ!」ぐらいの勢いもあって。
4Gamer:
実際にその声があったからこそ,こうして続編につながったわけですし。でもそういう違いって,どこから来るものだと分析していますか?
打越氏:
正確には分からないんですけど,海外の場合,TVドラマシリーズって,どんどん新しいものが作られて,人気がないとすぐ打ち切りになりますよね。逆に,ファンが面白いと言ったら作らせてもらえるみたいな文化があって。ひょっとしたら,そういう文化に慣れ親しんでいる人達が応援してくれたのかな? という気はしています。
4Gamer:
ファンが声を上げることで,続編が作られやすくなる文化みたいなものがあるのかもしれない,と。
では今回,ゲームを作るにあたって海外のファンを意識した部分などはありますか?
打越氏:
もちろんそういった部分もなきにしもあらずですが,過剰には意識しないようにしました。例えば露骨に海外向けみたいにしちゃうのも,それはそれで求められているものではないと思うんですよ。頭の片隅に海外のファンのことを置きつつも,いつもどおりに自分達がやっているスタイルで作りました。
ストーリーのつながりはあるが
前作までを未経験でも楽しめる作品に
4Gamer:
ZERO ESCAPEがリリースされるに至った経緯は分かったんですが,ここで念のため,どんなゲームなのかを打越さんの言葉で簡単に説明いただけないでしょうか。
打越氏:
簡単にっていうのが一番難しいんですけど(笑)。
まず,脱出要素とシナリオが入っていているゲームです。今回はシナリオが「物語の断片」というものに分かれているんですが,時系列はばらばらになっています。一つの物語の断片をクリアすると,「グローバル・フローチャート」というものに,それがはめられていきます。
つまり,物語の断片をどんどんクリアしていって,グローバル・フローチャートを埋めていくことで,初めて時系列が整理されていくという形なんです。
4Gamer:
時系列がばらばらということは……?
打越氏:
例えば,どれかの物語の断片を始めると,すでに誰かが死んでいる状態から始まったりもするんです。ただ,それがなぜなのか,その時点では分かりません。でも,いろんな物語の断片をクリアしていって,時系列が整理されていくと,その死の真相が分かったりするんです。
こういう具合にたくさんの謎がちりばめられていて,それらが最終的につながっていく構造になっています。
4Gamer:
そこは前作までとはだいぶ違うアプローチである,と。
先ほどから続編,続編と言ってきてはいますが,もちろんZERO ESCAPEから遊び始めても大丈夫……ですよね?
打越氏:
もちろん大丈夫です。ストーリー的なつながりはありますし,前作までの謎は解明されますが,今作だけでも楽しめるように作っています。
とくに今回はシネマティックな演出も入っているので,前作までよりもドラマやアニメを見ているかのような感じの没入感を味わっていただけると思うんです。このあたりは前作までを遊んだことのある方にも,今回が初めてという方にも楽しんでいただけるところだと思っています。
4Gamer:
こういう作りにするうえで,参考にしたものなんかはありますか? やはり海外ドラマでしょうか。
打越氏:
演出については海外ドラマが近いかもしれないですね。ただ,ゲームシステム的には「SIREN」にインスパイアされた部分はあります。複数の主人公がいて,それぞれの視点でのシナリオを進めていくと,つながりが見えていくみたいな意味で。
4Gamer:
そうなってくると気になるのはボリュームなんですよ。結末が必要なタイプのゲームで,そこまで飽きさせることのない展開のさせ方って難しいのではないかと思うんですが。
打越氏:
確かに難しいですね。
ただ,グローバル・フローチャートを見れば,小説でいうと全何ページのうちの何ページまで読み終わったかみたいなものは確認できるんです。なので少なくとも,「これ,いつ終わるんだ?」みたいなことにはならないと思いますよ。
4Gamer:
自分がどの程度までゲームを進められているのかを確認できるということですね。それもまた,前作までと違う新しさの一つじゃないかと思うんですが,そのアイデアはいつ頃からあったんでしょう?
打越氏:
けっこう最初のほうからですね。僕自身,終わりを求めるタイプなんですよ。例えばアニメを見るにしても,何話まであるのかを知ったうえじゃないと怖くて見られないんですよ。それこそ最近,アニメの「母をたずねて三千里」(1976年作品)を見ているんですが,あれって全52話なんです。すごく長く感じるんですが,どこまで見たかは分かるので,安心して楽しめていて。
4Gamer:
打越さん自身,自分の中でペース配分ができるものを好んでいるということですね。
打越氏:
そうなんです。なので今作でも最初からそういう形にしようと思っていました。
それと,グローバル・フローチャートに関して言えば,「?」になっているところを一つ一つ埋めていくのって,シンプルで原始的な欲求にかなっていて嬉しいはずなんです。最後にすべてが埋まると気持ちいいですし。
4Gamer:
埋められないと悔しいから,最後まで続けようというモチベーションにもなるわけですね。
今作のテーマは“運命の理不尽さ”
一部の人には必ず刺さるはず
4Gamer:
このゲームのテーマってひと言でまとめると何でしょう? こういう聞き方をしてしまうのは無粋だとも思うんですが。
“運命の理不尽さ”ですね。たった一つの選択で幸福な道を歩む人もいるし,そうじゃない人もいる。それは人生も同じだと思うんで,その辺はうまく表現できたんじゃないかなと思っています。
4Gamer:
なぜ今,それを描きたかったんでしょう?
打越氏:
つね日頃から理不尽な目に遭っているからです。仕事でも仕事以外でも(笑)。
4Gamer:
世の中は理不尽にあふれていますからね。
そこはよく理解できるんですが,それをゲームにぶつけるのって,どういう思いからなんですか?
打越氏:
うーん……。僕は今,42歳なんですけど,30代まではとにかく面白いゲームを作ろうと思っていたんです。でも40代になって,面白いだけじゃなくて,世の中に対してであったり,ゲーム業界全体に対してであったり,ちょっと何かを言ったほうがいいんじゃないかな? という思いが沸いてきたんです。
そのことにはきっと賛否両論あると思うんですけど,それでも40代の人間がものを作るうえでの責任みたいなものがあるんじゃないかな,と。
4Gamer:
40代という節目以外に,何かきっかけはあったんですか?
打越氏:
それはたぶん,「パンチライン」のアニメとゲームの脚本をエンターテイメントに特化したものとして作ったことが大きいかもしれません。自分の中で同じようなものを作り続けていると退屈してきちゃうんですよね。だからパンチラインとは真逆のベクトルに振ってみようと考えて,これまでよりもさらにテーマ性を掘り下げてみたくなったんです。
4Gamer:
“運命の理不尽さ”って言葉だけを聞くと,少しネガティブなものとして感じられなくもないんですが,それを遊びに昇華するうえで心掛けたことはありますか?
打越氏:
遊びとして,ゲームとして,純粋に楽しくなければならない,というのはもちろん重要視しましたが,そのうえで,エンターテイメントじゃなくてもいいぐらいの割り切りもしていました。雰囲気でいうと,ハリウッド映画のような完全なエンターテイメントというよりも,単館映画みたいなイメージですね。必ず刺さる人が一部にはいる,みたいな。
4Gamer:
その“一部の人”というのは,どういう年代の人達を想定しました?
打越氏:
まず大人ですね。テーマ的にも物語自体もすごく大人向けだと思います。それと,若い人の中でも,ちょっと大人な感じが好きな人なら,きっと何かを受け取ってくれるんじゃないかと思ってはいます。
4Gamer:
例えば小説でいうと……ミステリーが好きな人,みたいなイメージでしょうか。
打越氏:
そうですね。小説でいうと,けっこうコア寄りの,ダークでグロっぽいミステリーが好きな人には喜んでもらえると思います。あとはSF映画や海外ドラマが好きな人には気に入っていただけそうです。
4Gamer:
そういったものを描くうえで,ゲームという手法である必然性はどこにあるんでしょう?
打越氏:
常に意識しているのは“ゲームでしかできないこと”なんですね。映画にも漫画にもアニメにも,途中に選択肢は出て来ないですよね。つまり受け手に選択権があるというのが,ゲームの特殊性だと思うんです。そこでまた,意味のない選択肢ではなく,選択権があることによって生まれていくドラマというものを,今回はとくに重視しています。
4Gamer:
何となくですが,ゲームが持つ雰囲気は想像できてきました。
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