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印刷2017/03/04 19:02

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[GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは

 GDC 2017の3日めに行われた,「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」Nintendo Switch / Wii U,以下,BotW)の開発陣によるセッション「Change and Constant: Breaking Conventions with 'The Legend of Zelda: Breath of the Wild'」(変わるものと変わらぬもの,「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」で慣例を打ち破る)は,コンセプト,ゲームエンジン,アートワークの3編構成で行われた。そのうちコンセプトとゲームエンジンについては,すでにレポートしているので,本稿では残るアートワークについて紹介しよう。アートワークの点で変わった部分,そして変わらぬ部分はどこなのだろうか。



風のタクトHDをベースに練られた新作のアートワーク


滝澤 智氏(アートディレクター,任天堂)
画像集 No.001のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは
 セッションのアートワークのパートを担当したのは,BotWのアートディレクターを務めた滝澤 智氏だ。
 滝澤氏はゼルダの伝説という長い歴史を持つシリーズのアートワークついて「(歴代ゼルダで)これだけアグレッシブにゲームシステムを変えたことは珍しい。そこで我々(アートチーム)は“嘘のつきやすい絵作り”を探求することになった」とアートワークの特徴を説明した。ちなみに,嘘をつきやすい絵作りとは「プレイアビリティとリアリティを失わないゲームにとって都合のいい絵作り」のことだという。

ゼルダの伝説シリーズでは,プレイアビリティとリアリティを失わず,かつ嘘のつきやすい絵作りを目指したという
画像集 No.002のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは
画像集 No.003のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは

 アート面のリアリティを犠牲にするとゲームのテンポやプレイアビリティは向上するが,ゼルダの世界を表現するリアリティが失われてしまう。逆にリアリティを追求しすぎるとテンポやプレイアビリティが低下してしまう。

 そして滝澤氏は,HD時代の“嘘のつきやすい画作りはどうあるべきなのか”という問いかけをもとに新作ゼルダのアートを練っていった。そこには,さまざまな試行錯誤があったそうだ。

 下のスライドは,「2011年のE3に最初に発表したコンセプトアート」(滝澤氏)で,HD解像度に合わせてリアリティ寄りに振ってみたものだという。

画像集 No.004のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは 画像集 No.005のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは
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 また,物理ベースレンダリングの利用を想定してリアルな街並みを作ってみたこともあるそうだ。

ゼルダで物理ベースレンダリングの利用を想定して用意したリアルな町並み表現
画像集 No.008のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは

 さらに過去作を最新の技術を使って“なんちゃってHD化”する試みも行ったという。その中でチームの高い評価を得たのが「ゼルダの伝説 風のタクト」のアートだったと滝澤氏は振り返る。結果.HD化した風のタクトは,WiiU向けの「ゼルダの伝説 風のタクトHD」(以下,風のタクトHD)として製品化されることになった。

画像集 No.009のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは
風のタクトを擬似HD化したサンプル画像。これがアートチームの中で非常に高い評価を得たそうだ
画像集 No.010のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは
HD化したアートワークが高い評価を受け,WiiU対応の風のタクトHDとして製品化された

 そんな流れの中でBotWのプロジェクトを進めていた藤林氏に呼ばれ,アートワークの方向性はBotWも風のタクトHDのそれで良いのではないかとあっさり決まったという。これは「風のタクトHDを製作していくなかで,それが形になっていく様を(チームの)皆が見ていたからだろう」と滝澤氏は語る。

 ただ,風のタクトHDのスタイルにはBotWにとって,藤林氏らが目指していた「広大な世界の物理や化学で壮大に遊ぶ」というコンセプトが実現しにくいという弱点があった。というのは「風のタクトHDのスタイルは,物体のフォルムが激しくスタイライズ(様式化)されているから」(滝澤氏)だ。ゲーム内で起こる物理や化学の現象をプレイヤーが本物の世界から直感的に連想できないとBotWのコンセプトは実現できないが,風のタクトHDのスタイルは「絵的に激しく嘘をつきすぎている」のだという。

BotWのコンセプトは「広大な世界の物理や化学で壮大に遊ぶ」というものだが,風のタクトHDのグラフィックスはスタイライズされすぎているのが問題だった
画像集 No.011のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは

 また,画面で起きていることが一瞬で分かってしまう風のタクトHDのスタイルは,子供向きと受け取られてしまい,年齢層の高いプレイヤーに受け入れられないという危惧もあったと語っている。ここは30年の歴史を持ち幅広い年齢層にファンを抱えるゼルダの伝説シリーズならではの悩みというところだろうか。

子供向けと受け取られてしまうことを危惧する声もチーム内にあったとのこと
画像集 No.012のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは

 そこで,風のタクトHDの味わいを残しながらも,ある程度のリアリティを感じさせ,現実世界とリンクしている印象を与える絵作りを目指したのが,BotWだったという。この方針は,ゲーム内のアートワークのみならず,ユーザーインタフェースを含めすべてのデザインにおいて徹底された。


スタイライズとリアルを絶妙にバランスさせたBotWの世界


 このような試行錯誤の結果,どんな効果が生まれたのか,滝澤氏が紹介したので,いくつか掲載しておこう。

仕留めた獲物が肉に変わる。コミカルだが,絶妙にスタイライズされている絵作りだから違和感なく受け入れられる
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食材を抱えて走り回るリンク。「これがリアル表現だったらどうしたらよいか想像もつかない」とのこと
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壮大な世界を飛び回るリンク。こうしたリアルな表現もハマる画作りになっていることがよく分かるシーンだ
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バトルシーン。コミカルな的とリアルっぽさが絶妙なバランスになっている
画像集 No.017のサムネイル画像 / [GDC 2017]新作「ゼルダの伝説」のアートチームが目指した“嘘のつきやすい絵作り”とは

 これらのシーンが実装できたとき,楽しさを感じると同時に「このゲームが求める画作りに答えが出せた瞬間だった」と滝澤氏は満足気に振り返った。氏が語っていたように,これらのシーンは,リアリティとプレイアビリティを融合させた結果として生まれたアートスタイルだというわけだ。

 とはいえ,リアリティとプレイアビリティの融合は「過去のどの(ゼルダ)タイトルでも行ってきたことだ。BotWのアートスタイルは過去のどのタイトルとも異なるが,我々のゲーム作りからたどり着いた当たり前の結果だった」と氏はまとめていた。

 氏がいうリアリティとプレイアビリティの融合がどう実現されているのか,プレイして確かめたいと思う。

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