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[GDC 2017]「バイオハザード7」はこうして作られた。方向性の転換が迫られた最新作の開発秘話
登壇したのはゲームディレクターの中西晃史氏(Division1,Game Section1,Senior Manager,Capcom)と,Peter Fabiano氏(Global R&D,Senior Manager,Capcom)の2名だ。英語のプレゼンテーションはFabiano氏が担当し,質疑応答などに中西氏が通訳付きで答えるといった進行形態で実施されたセッションの内容をお伝えしよう。なお,講演の性質上,いわゆるネタバレの要素も含まれているので,これからプレイしようと思っている人は注意してほしい。
Peter Fabiano氏。ゲーム冒頭,最初に行方不明になる,人使いの荒いテレビ番組MCのキャラクターとしても出演している |
中西晃史氏。バイオハザード7の監督をつとめ,チームを完成まで導いた。新たなミスター「バイオハザード」ともいえる人物 |
「方向性の転換」を迫られたバイオハザードシリーズ
バイオハザードは20年以上続いている人気シリーズだ。積み上げてきた成功の歴史は,「安心のシリーズである」というブランド力をもたらしたのと同時に,「最初期シリーズでプレイヤーに与えた種類の感動が薄くなってきた感」(意訳すればマンネリ感が漂ってきた)をもたらし始めた。
主役級のシリーズ人気キャラクタ達が一堂に会して共演する様子は,シリーズのコアなファンにとっては嬉しいことだが,逆に新たなファンを獲得することが難しくなってきていると,開発サイドも認識していたようだ。
そもそも,バイオハザードシリーズといえば「恐怖」がテーマだったが,最近は「ゾンビやバイオ兵器モンスターを撃破していく爽快感」のほうに重きが置かれていた印象があった。
Fabiano氏は「バイオハザードシリーズのファンは飽和状態である。最新作の7では何か手を打たなければ」と考えたそうだ。
そんな状況下の2014年,バイオハザード7の制作方針を考える会議がカプコンの大阪本社で行われた。そこで「バイオハザードの原点に立ち返る新シリーズをたちあげる」ことが決定する。
そもそも初代バイオハザードはなんで怖かったのか。
まず,初回作では主人公を操るプレイヤーに,ゲーム世界の状況がいまいち飲み込めないという「不安感」を与えることに成功していた。そして得体の知れない館に紛れ込んだ疎外感,ゾンビ(やゾンビ犬)が襲いかかってくる恐怖,そもそも登場人物が全員怪しいという状況……といった要素も初回作の面白さを盛り立てていた。
しかし,作を重ねていくうち「ウェスカーは裏切り者」「クリスはいいヤツ」といったキャラクター像が固まっていき,初回作でできた,複雑な感情をプレイヤーに与えることは難しくなっていったというわけである。
そこで,可能な限り,従来作のイメージを払拭するディレクションを行うことになる。
舞台はラクーンシティのようなシリーズゆかりのの地ではなく,コアなファンも新参プレイヤーにとっても未知なルイジアナ州の片田舎に設定された。
敵は強烈な存在感を持つものに設定され,リッカーでもタイラントでもない,どのシリーズでも見たことがない動きで迫ってくるとし,初期シリーズをプレイしたときのような,プレイヤーの脳裏に「なに? なに?」を植え続ける展開を目指すことになる。
ただし,初回作の雰囲気を再現する意味合いもあり,初回作にあった屋敷を探索するというゲームメカニクスはそのまま「7」で採用された。また,敵を攻撃するための残弾数は有限,謎を解き明かすことで別のエリアに進める……といったゲームメカニクスも初回作から色濃く残されたのだ。
そして本作ならではのテーマとして「家族」というものが設定された。
「家族」というと「心温まる平和なイメージ」があるが,「7」のテーマである「家族」は少し違う。本作に登場する「恐怖の家族メンバー」の一人一人に,異なった「サブジャンル」が設定されたのだ。例えば,一家の主ジャックは「刃物の恐怖」とし,肝っ玉母さんのマーガレットは「虫の恐怖」といった具合だ。
「家族になろうよ」が「7」のテーマだ。ただし「恐怖」のがつくが |
家族メンバーの一人一人に恐怖のサブジャンルが設定された |
さらに検討を進めた結果,「ゲームの仕様」も決定した。「フォトリアルなグラフィックス」「説得力の高い世界観」といった部分は歴代作から色濃く受け継ぐも,視点についてはこれまでとは変え,「一人称視点」が採用された。プレイヤーが扮する主人公についても歴代作からは打って変わってヒーロー性を排除して無個性キャラクタとなった。
歴代作にはあった要素で「7」では省略,排除した要素も洗い出された。
例えば「シリーズを通して出演してきた見慣れたキャラクターの登場の排除」は,マンネリ感を低減させると共に,新規シリーズの開始を予感させ,新たなファン層の取り込みが期待できる。
そして「アクション要素の再考」は,バイオハザード4,5,6で確立された三人称シューティングのゲーム性からの脱却を狙ったものになる。なお,本作ではプレイヤー操作で飛び上がるようなアクション動作は行えない。
「協力プレイ要素の排除」はバイオハザード5と6で採用された共闘要素の排除のことを指す。これは「7」では,より「恐怖」の表現にこだわって,「孤独な戦い」にフォーカスした展開にする意図があったためだという。
歴代作から排除されたゲーム要素 |
こうした一連の大胆なリファインは,歴代作のファンと新規ファンの両方を取り込むため |
また,「恐怖体験の強化」がはかられた。ただし,「ただ怖いだけ」では「ゲームとしては不十分」であると考え「ゲームプレイで得られる旨味」にも気をつかわなければならない。
恐怖だけ強化してもだめ。ゲームとしての面白さが重要 |
それは「旨味」とでもいうべきものである。この旨味とはいったい…… |
Unityで行われたプロトタイプ版制作
かくして2014年4月,バイオハザード7の開発がスタートする。といってもいきなり本編の開発が行われたわけではなく,最初はプリプロダクション,実質的なプロトタイプの制作が始まった。
前段でまとめたような「7」ならではの基本コンセプトを開発チーム内で共有していくために,開発チームは世界各地の恐怖スポットのロケハンやホラー映画の上映会を行ったという。
いろいろなホラー映画を見たというが,「7」の恐怖表現の方向性は大枠としてはB級ホラーの金字塔,サム・ライミ監督の「死霊のはらわた」(The Evil Dead)になったとのこと。なので,この時制作されたプロトタイプの開発コードネームは「はらわた」だったらしい。
いざプロトタイプ版の制作に取りかかることになって,開発チームが直面したのは「ゲームエンジンがない」というトラブルであった。
もともとカプコンは「MTフレームワーク」という先進エンジンを自社開発して持っていたが,これはPS3,Xbox 360時代のもので基本設計が古い。PS4,Xbox One時代に向けては「Panta Rhei」という新世代ゲームエンジンの開発を行っていたが,こちらは頓挫していた。
そこで新たなゲームエンジン「REエンジン」の開発が仕切り直された。だが,2014年の時点では未完成であった。とはいえ,プロトタイプを制作しなければならないということで,既存ゲームエンジンを使うことになり,Unityが選ばれたのであった。
プロトタイプの開発は,短期間での試作と評価を繰り返して進めていくアジャイルスタイルで進行した。
開発チームを独立した小グループに分割し,各グループが自由な発想で「新しい恐怖表現」「新しいバイオハザード」の試作に着手した。このあたりはプロトタイピングのしやすかったゲームエンジンUnityの特徴が十分にいかされたようだ。
各グループで制作された各プロトタイプ作品に相関性や一貫性はなかったが,自由な発想で開発され,それぞれに斬新なゲーム表現もあったという。
「7」が「ホラー作品としての完成度」以上に「ゲームとしての本質が楽しい」のは,こうした開発スタイルが根幹にあったからなのかもしれない。
製品版開発でこだわったのは「恐怖」と「平穏」のバランス
2015年4月からは製品版の開発が行われた。REエンジンも制作を進行させられるまでの完成域に達する。
製品版の制作が2015年4月にスタート |
REエンジンも実際のゲーム制作が行えるレベルでの完成期に達した |
与えられた開発期間は約18か月。REエンジンの初回作でしかもPS VR対応ということも考えると,十分とはいえなかったようだ。
ただ新エンジン「REエンジン」は「少人数でも大規模な制作が行える」「短期間の開発に応える機能とパフォーマンス」というのがウリであり,さらに「今までにないほどのフォトリアル表現」までが行えるとあって,この逆境といえる開発をこなせる武器なると,チームメンバーは確信していたようである。
REエンジンは,かなり逆境ともいえた「7」の開発成功を予感させるだけの機能と性能があった |
ちなみに,常務執行役員CS第一開発統括の竹内 潤氏からは「延期はできません」と宣告されていたという |
当時立ち止まることが許されなかった開発チームは,プロトタイプ制作段階で各グループが作成した自由な発想のゲーム要素を,製品版に取り込んでいくことを実践していく。
製品版の開発でとくにこだわったのは,プレイヤーに「謎」を常に与え続けることだったという。「何をどうしていいか分からない」という状況下で,プレイヤーはゲーム世界から新しい要素を発見していき,それを自分のプレイに優位に役立てていく。そんなゲームデザインが心がけられたのだ。そういったものの積み重ねでプレイヤーは徐々に「7」の世界でやるべきことを理解していくことになる。
Fabiano氏はこの好例としてガレージシーンにおけるボス戦「ジャックとの戦闘」を引き合いに出した。プレイヤーはナイフだけでジャックと挑むことになり,最初は逃げ回るだけですぐに殺されてしまうことが多い。しかし,逃げ回っているうちに車の鍵を発見する。車の鍵を取ったあとは車に乗り込みジャックの轢き殺しを試みることになる。
「逃げ回るだけの恐怖」「そのまま殺される絶望」「車の鍵の発見の驚き」「自動車に乗り込んでの轢き殺しの逆転劇」……といった要素がこのシーンに盛り込まれているのだ。まさに上で挙げた目標のゲームデザインがそのまま具現化されたシーンだといえよう。
ただ,プレイヤーに常に恐怖を与え続けてしまうと,プレイヤーはそれに慣れていってしまう。
したがって,ゲームの進行演出においては,「恐怖」と「平穏」の緩急のバランスにもこだわったという。つまり,恐怖を与え続けて慣れたところで平穏を与えてプレイヤーの「恐怖への慣れ」のリセットさせるわけである。
筆者もその一人だが,「7」をプレイした多くの人が感じたと思われる「序盤から後半まで衰えなかった恐怖レベル」は,こうした工夫が功を奏した結果なのだろう。
プレイヤーは得体の知れないこのゲーム世界で生き抜いていく術を徐々に知っていく |
プレイヤーに「何が起きてるんだ?」という疑問を与え続けることにこだわったゲームデザイン |
プレイヤーは恐怖にすら慣れてしまう。その「慣れ」を進行の緩急でリセットさせる |
きつくも楽しかった「7」の制作
Fabiano氏と中西氏は「7」の開発について「カプコンの看板タイトルの大胆リニューアル」「ゲームエンジンがない状態からのプロジェクト開始」「短い開発期間」「PS VRへの対応」といった好条件が1つもない,厳しくつらいプロジェクトであったが,完成した今,思い返してみれば「楽しいことばかり」だったという。
開発チームの面々は自らのクリエーションを楽しんでいたし,開発チームの面々からは常に笑顔が溢れていたのだとか。
Fabiano氏と中西氏は,開発チームの面々,そしてゲームをプレイしてくれたすべてのファンに謝辞を述べて講演を締めくり,会場は拍手に包まれた。
また,「ご清聴をありがとう」という挨拶に加え,「プレイしてない人はサンフランシスコ市内のここで売ってますから買って帰ってね」と,市内のゲームショップを示した地図のスライドを表示したため,拍手から一転,場内は暖かい笑いに満たされた。
苦労の絶えないプロジェクトだったが制作は楽しかったという |
制作中の開発メンバーには常に笑顔があった |
講演の締め括りにはサンフランシスコ市内のゲームショップ「ゲームストップ」までの地図が示された。来場者からは拍手と共に笑いが |
「バイオハザード7 レジデント イービル」公式サイト
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