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ゲーム分野のアクセシビリティについて,Microsoftが取り組みを紹介。障害のある人をサポートする「Xbox Adaptive Controller」の紹介映像が公開に
“アクセシビリティ”とは「あらゆる人が自身のアクセスしたいもの(情報や行き先など)に問題なくアクセスできること」を意味する。大島氏によると,MicrosoftではWindowsの初期バージョンを提供した際に,障害のある人から「Windowsを使うことができない」という意見が寄せられ,それ以降,アクセシビリティを意識した活動を行ってきたそうだ。
なお,ここで言うアクセシビリティとは,単に「アクセスできなかったことを,アクセスできるようにすること」だけでなく,「アクセスできるようになったことで,その人が何かを達成できること」を指すという。
世界保健機関(WHO)の発表によると,アクセシビリティによる支援を必要とする人々は世界に10億人以上いる。しかし,そのなかで必要な製品や技術を入手できるのは,10人に1人とのこと。
また大島氏は,障害があると言っても一見してそれと分かるケースは少ないこと,かつ障害は誰にでも発生しうるものであることを指摘する。また,永続的な障害だけでなく,怪我や育児などで一時的や状況的に身体を自由に動かすことが難しくなるケースもある。これらを鑑みて,Microsoftでは「アクセシビリティの技術は,決して一部の人だけに向けたものではない」と考えていると大島氏は説明した。
さらに障害の内容や度合いは,当事者それぞれに異なる。Microsoftでは視覚や聴覚など,さまざまな部分に困難を抱える人に向けたアクセシビリティの提供を目指しているという。
同社が2018年から販売している(国内販売は2020年1月から)Xbox Adaptive Controllerは,主にモビリティ面に困難を抱えている人向けの製品。現在,日本を含む33の国や地域で販売展開が行われている。
今回のブリーフィングでは,デバイスの設計思想などについて,MicrosoftのUser Experience ReseacherであるBryce Johnson氏と,Principal DesignerのChris Kujawski氏から説明が行われた。
Johnson氏によると,Microsoftは「ゲームはすべての人のためのものである」という信念のもとに活動しているという。そのため,製品デザインのアプローチには,障害のある人達から発想を得る「インクルーシブデザイン」を採用しているとのこと。
インクルーシブデザインはXbox Adaptive Controllerにも採用されている。それは,従来のXboxコントローラーには,障害のある人達にとってバリアとなる要素が含まれていると気づいたからだ。
Johnson氏らのチームは入力に関する別の選択肢について,2015年から模索を始めた。その過程では,Xbox Adaptive Controllerの設計に関して,障害のある人達のゲームプレイを支援する複数の機関・団体の協力を得たという。
その結果,同デバイスは外部ボタンやスイッチ,ジョイスティック,マウントを接続でき,身体が不自由なゲーマーそれぞれのニーズに合わせて自由にセットアップできるようになった。
Kujawski氏はまず,Xbox Adaptive Controllerが特定の障害を持つ人だけに向けた製品ではなく,さまざまなニーズに応えられるようデザインしたことを説明した。Johnson氏が紹介した,障害のある人達のゲームプレイを支援する機関・団体と連携したことにより,さまざまなアイデアを試しながら改善を重ね,最終的に製品化を果たしたという。例えばボタンの間隔,ボディ上面の傾斜,レイアウトなどに,ヒアリングの成果が反映されているそうだ。
加えて,Xbox Adaptive Controllerの梱包デザインにも製品デザインのコンセプトを適用し,アクセシビリティによって開封体験を特別なものと感じられるよう意識した。その実現のために障害のある人達にヒアリングを行ったところ,格好いい印象を一貫してキープしつつ,「さまざまな部分にループ状の引手を付ける」というデザインが最適であることが判明したとのこと。
Xbox Adaptive Controllerの製品デザインは,「Xboxらしさ」の実現を目指した。これはXboxファンがXbox製品を選ぶ背景に,それが必要だからではなく「Xbox製品だから」という理由があることを意識したからだとか。
Kujawski氏は同デバイスについて,「ハードウェアのインクルーシブデザインに関して,すばらしい実例になったことを誇りに思う」と話していた。
続いて,国立病院機構 北海道医療センター 神経筋/成育センター 作業療法士である田中栄一氏と,Xbox Adaptive Controller 紹介ビデオ制作プロジェクト統括 吉成健太朗氏がゲストスピーカーとして登場した。
田中氏は最初に,筋ジストロフィーなどを患って身体を動かすことに制限がある人達は,野球やサッカーなどのスポーツや手を使う遊びをすることが難しいと説明した。しかしゲームであれば,コントローラを使うことさえできるなら,皆と一緒に競い合ったり協力したりしながらプレイできる。実際,「ゲームに救われた」と言う患者も多いそうだ。
その一方,患者は症状の進行に伴い筋力を失っていくため,それまで使えていたコントローラが徐々に使えなることも珍しくない。田中氏はコントローラを改造し,患者がゲームのプレイを続けられるように注力してきたとのこと。それがXbox Adaptive Controllerの登場により,飛躍的に状況が改善されたという。
脊髄性筋萎縮症(SMA)の当事者である吉成氏は,現在25歳である。幼少の頃からゲームに親しみ,中高生時代までは普通に楽しめていたが,20歳を過ぎたあたりから市販のコントローラを使えなくなり,田中氏らにより改造されたものを使用していたという。ただ,それらの改造コントローラは患者それぞれにカスタマイズされた,言わばワンオフデバイスであり,世間に大きく広がるような性質のものではない。
そうした状況の中,障害によるさまざまなニーズに対応し,かつ価格も手頃であるXbox Adaptive Controllerが登場したことで,「障害のあるより多くの人達が,ゲームを楽しめるようになるのではないか」と期待を語った。
今回,吉成氏がMicrosoftの依頼を受けて制作したという,Xbox Adaptive Controllerの紹介映像2本が披露された。田中氏によると,これらの映像を作ることにより,同デバイスがよく考えられて設計されていることに改めて気づかされることが多く,感心したとのこと。
また,吉成氏自身はどうすれば格好よくなるかを念頭に置き,Windowsのアクセシビリティ機能を活用して映像を編集したという。なお,紹介映像には英語字幕版も用意されているが,「より多くの人に広めたい」という吉成氏の意思によって制作されたそうだ。
なお,映像の一部にはロジクール製のデバイスも使われている。田中氏は「これまでは福祉機器を応用することが多かったが,ロジクール製品は使いやすくて,何より格好いい。こういう製品がもっと世に出てくると嬉しい」と感想を述べていた。
また,映像制作の過程については,日本マイクロソフト公式サイトのMicrosoft Story「ゲームは自分の世界と外の世界をつなげる架け橋。あらゆる人がプレイを通じてつながるために」にて紹介されている。
田中氏はXbox Adaptive Controllerについて,「障害の有無にかかわらず,多くの人がゲームを楽しむためのきっかけになるデバイス」と称賛しつつ,「その人に合ったスイッチがないと性能を最大限に発揮できない」という課題を指摘。その解決のために,引き続き作業療法士として障害のある人達がゲームを楽しめるようにサポートしていきたいと意欲を語った。
また,吉成氏は自身のようになかなか外出することのできない人達にとって,ゲームを通じて多くの人とつながりを持てるということは極めて大切であると指摘する。Xbox Adaptive Controllerの登場により,障害のある人達もゲームにアクセスしやすい環境が整ってきたことを,より広くアピールしていきたいと話していた。
最後に大島氏は,今回の北海道医療センターとの取り組みにより「ゲームは1人でも複数でも楽しめるものであり,またコロナ禍のような状況でもオンラインで多くの人とコミュニケーションが取れるエンターテイメントであると改めて実感した」とコメント。だからこそ,「自分にはゲームをプレイするのは難しい」という人に,Xbox Adaptive Controllerを知ってほしいと語っていた。
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障害を持つユーザーでも使える「Xbox Adaptive Controller」向けの入力デバイスセットをLogitech Gが発表
北米時間2019年11月18日,Logitech Gは,障害がある人でも使えるMicrosoft製ゲームコントローラ「Xbox Adaptive Controller」に接続する入力デバイスセット「Logitech G Adaptive Gaming Kit」を2019年11月中に99.99ドルで発売すると発表した。大小のボタンや大きめのトリガーボタン,タッチセンサーなどがセットになった製品である。
Microsoftストアの「Xbox Adaptive Controller」ページ
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