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「患者はBilly Kerr,男性,60歳。心臓発作で重態です」から始まる医療ドラマ。協力型ボードゲーム「Holding On: The Troubled Life of Billy Kerr」をレポート
そんな中,2018年にリリースされる予定の「Holding On: The Troubled Life of Billy Kerr」(以下「Holding On」)は,救急救命をしつつ,重症患者のQOL(Quality of Life)にも取り組んだ協力型のゲームになっている。本作は,シナリオクリア型のレガシースタイルだが,1つのシナリオを複数回プレイすることも可能だ。
ドイツで開催されたイベント「SPIEL'18」では試遊卓を数多く用意したにもかかわらず,一時は試遊予約が午前中で一杯になるほどの盛況ぶりだった本作。以下,本作のシステムと面白さを簡単に紹介しよう。
「Holding On: The Troubled Life of Billy Kerr」公式サイト
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医者のストレスを管理しつつ,患者のHPを守れ
「Holding On」でプレイヤーは救急救命部の医師となり,重篤な心臓発作で運び込まれた患者のケアを行う。
患者はシドニーからロンドンに向かう飛行機の中で心臓発作に襲われており,ゲーム開始時にプレイヤー達が知っているのは患者の名前がBilly Kerrであること,彼が60歳であること,そして,このままでは彼の余命がいくばくもないということだけだ(「国際線の機内での急患だからパスポートを持っているはずで,身元調査は割と簡単なのでは」と思わなくもないが)。
最近の協力型ゲームでよく見られるように,毎ターン(1ターン=1日),「責任者」が時計回りでプレイヤーの間を移り,そのターンの行動の最終的な決済は責任者が行うというスタイルになっている。ちなみに,医師には個性がなく,すべてのプレイヤーは同等の能力を持つ。
1ターンは朝,昼,夕方の3ラウンドに分かれ,ラウンドごとに行うべき行動は,それぞれで開かれたイベントカードに対してどう対処するかという点に絞られる。ある程度,計画的にことに当たらねばならないのは当然だが,「とにかく今,目の前で起きている問題をクリアすること」が第一目標となるため,選択肢が多すぎて何をすべきか見当がつかない,といったことにはならない。では,実際のカードを見ながら,どのようにプレイが進むかを見てみよう。
イベントカードには,選択肢のあるカードと,ないカードの,大きく分けて2種類ある。
上の写真の左側のカードは,選択肢のあるもので,この場合,まず最初に左右どちらの行動をとるのかを選ぶ。右は「話を聞く」で,左は「治療する」だ。この選択肢は,どちらか片方しか選べない。
「話を聞く」を選択した場合,「漠然とした記憶」カードを入手する。Billy Kerrと話をすることで,いまいちおぼつかない話を聞き出すことに成功したということになる。写真のカードの場合,アイコンが示すように「漠然とした記憶」カード1枚入手する。
また,「治療する」を選択した場合,患者のHPが1回復する――このシナリオの場合,患者は30HPを有している。ただしこれはアイコンが黄色ならばの話で,右側のカードのようにアイコンが赤い場合,治療しないとHPが1減るし,治療してもHPが回復するわけではない。治療するためには,1アイコンごとに1つ,「治療リソーストークン」を消費する。
上記の選択を行ったあと,カードの一番下にある「?」アイコンが示すように,「はっきりした記憶」カードを,治療リソーストークンを1つ消費して手に入れるチャンスを得る。これは「漠然とした記憶」を上書きし,勝利条件にも関わってくるのだが,詳しくは後述する。
一方,右側のカードは,「選択肢のないカード」で,患者の容態が急変したので,プレイヤーは全力で彼を治療するしかない。またアイコンが赤なので,治療する,つまり治療リソーストークンを置けなかったら,患者のHPが減少する。
さて,ここで問題になるのは,病院側の人的リソースである。
見てのとおり,上のカードにはグレイで印刷された人物アイコンが1つから3つ,印刷されている。ゲーム慣れした人なら想像できると思うが,このアイコンは「ワーカー」をプレイスする場所で,実際にワーカーを置くと,以下のようになる。
ワーカーの色は各プレイヤーに対応しており,治療リソーストークンを置く場合,そのイベントを担当しているプレイヤーが持つトークンしか使えない。
また,イベントカードによっては治療リソーストークンを獲得することがある(この写真では一番右のカードで,「話をする」選択肢を選ぶと,「漠然とした記憶」か「治療リソーストークン」のいずれかを獲得できる)。この治療リソーストークンを得る権利を持つのも,そのイベントを担当しているプレイヤーに限られる。
なお,やや水色がかったグレイのワーカーは,NPCの駒である。彼らが使用したり獲得したりする治療リソーストークンは,「NPC用」として別に管理される。
ワーカーにとって重要なのは,「ストレス」である。すべてのワーカーは,「連勤」ができ,これは「1枚前のイベントカードから,次のイベントカードに移動して,ワーカーの要求マスを満たす」という行動になる。なお連勤は1連勤しかできず,勤務シフトを越えての連勤もできない。この病院は,とてもホワイトである。
ワーカーが連勤を行うと,「ストレス」を得る。獲得されたストレスは赤い輪のトークンで表現されており,ワーカーに輪がかぶせられる。
プレイヤーのワーカーは2つのストレスを保持できるが,NPCのワーカーは1つしかストレスを溜め込めず,いずれもストレスを解消するため,帰宅して休養させなければならない。このため,ゲームが進むと,どうしても人手不足に陥る瞬間が発生する。
ゲームは,シナリオごとに設定された勝利条件を満たすか,さもなくばイベントカードの山札が尽きる(=余命が尽きる),患者のHPが0以下になる,指定されただけのワーカーを配置できないことが2回発生する(=行政指導によって終了),といったことで終わりになる。
つまり,プレイヤーはワーカーのストレスをうまく管理して患者の容態をコントロールしつつ,かつ患者とコミュニケートして彼の記憶を掘り起こしていく必要があるわけだ。
「記憶」という名前のパズル
「漠然とした記憶」と「はっきりした記憶」は,本作のもう1つの鍵になる。勝利条件はシナリオによって異なるが,多くの場合,「はっきりした記憶」を蘇らせるのがゴールになり,これがなかなか難しい。
治療の過程で入手した「漠然とした記憶」は,カードとして提供される。「記憶」は横6列,縦5段の30枚で構成されており,カードに描かれたノッチ(白線)によって,どのあたりにその記憶のカードが入り得るかが推測(ないし決定)できる。
本作では,「漠然とした記憶」で絵合わせをしていても,勝利条件はまず満たせない。このうちいくつかを「はっきりした記憶」にしていかなければならず,筆者がプレイしたシナリオの場合,各段で最低1枚は「はっきりした記憶」にすることが目標だった。
「漠然とした記憶」を「はっきりした記憶」にするためには,以下の手順が必要になる。
- 「はっきりした記憶」をドローする
- 「はっきりした記憶」と同じ位置に入る「漠然とした記憶」がすでに場に出ていれば,その「漠然とした記憶」の上に「はっきりした記憶」を置く
- もし場に対応する「漠然とした記憶」が存在しないなら,ドローした「はっきりした記憶」は事実上のディスカードになる
このため本作では,まずはなるべく「漠然とした記憶」を集め,それなりに一致が見込めるくらいの数になったら「はっきりした記憶」を聞き出す,という手順が必要になる。
だが,あまりノンビリやっているとイベントカードの山が尽きるし,記憶を聞き出すことに専念していると患者のHPがマズいことになる。加えて,ワーカーのストレスも管理しなくてはならない。このあたりのバランス感覚は,数回プレイしないとなかなか掴みづらい。
勝利条件に「記憶を蘇らせる」ことがあるため,つい患者のHPを「まだ死なないんだから削っていいだろ」的なリソースとして扱いがちだという意識は,間違いなくある。ストレス管理も大変なので,試遊中,筆者が思わず「我々はひどいストレスに晒されているが,この患者は十分に体力がある。どちらを大事にすべきかは明白だ」と言ったところ,ほかのプレイヤーが一斉に賛同したのだが,よく考えたら,それはどうなの? と思わなくもない。
とはいえ,それは「患者のHPが30ある」というシナリオだから発生した展開であり,「患者のHPが10」なら相当慎重なケアが必要だろう。このあたりは,シナリオ依存になる。
ちょっと残念に感じるのは,ゲームの進行に熱中するあまり,次第に明らかになるBilly Kerrの記憶の物語を楽しむ余裕がなかなか持てないことだろう。
ゲームに慣れてくれば見る余裕もできると思うのだが,「記憶」がすべてイラストで表現されているため,「ちゃんとイラストを見て,何が起こったかを想像する」負荷は低くはなく,このあたりにゲームが目指す理想と実装が微妙に食い違いを起こしている印象が残った。
とはいえ,本作が医療ドラマ的な展開をうまくゲームに落とし込んでいることは間違いない。システムに慣れ,ゲームバランスに慣れたところで,ちゃんと物語を楽しんでみたいと感じさせられる作品である。
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