連載
「あんスタ!!」ストーリー紹介連載第11回。スカウト!月見語り,陽炎◆夏の名残とホットリミット,スカウト!ジンロウ,銀幕死闘の/桃源郷偶像拳を語る
Happy Elementsがサービス中のアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」。そのストーリーを紹介する連載第11回では,「スカウト!月見語り」「陽炎◆夏の名残とホットリミット」「スカウト!ジンロウ」「銀幕死闘の/桃源郷偶像拳」の4本について取りあげる。本記事では,“知っているとストーリーがより楽しめるポイント”の解説と,各イベントやスカウトの感想,考察をお届けする。記事内では詳細なネタバレは控えているが,できるだけ各ストーリーの読了後に読むのがおすすめだ。
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「あんさんぶるスターズ!!」公式サイト
ストーリーピックアップ
「スカウト!月見語り」
開催期間:2020年9月14日〜9月29日――あらすじ――
茶道を勉強中の乙狩アドニスは,お月見をしながらの茶会にアイドルたちを招くことになる。仁兎なずなが言った「月には兎がいる」という冗談を本気にしてしまったアドニスのために,なずなと遊木 真,大神晃牙は,どうにか「月の兎」を再現しようと奮闘する。<全8話/シナリオ:西岡麻衣子(Happy Elements株式会社)>
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乙狩アドニスの故郷について
乙狩アドニスは,一昨年度(高校1年生時)に夢ノ咲学院にやってきた。彼の祖国は今も紛争が絶えない地域のようで,3人いるという姉とアドニス,両親は離れて暮らしているらしい。彼が日本にやってきたばかりのころの様子は「!」の【追憶*それぞれのクロスロード】で,彼の出自や家族についてのより詳しい話は「!」の【灼熱!南国景色とサマーバカンス】などで描かれている。また,今年度になり,真ん中の姉が美容師であることと,「音楽特区」と呼ばれる地域に住んでいることが判明した。この話については【温故知新/継承の御前試合】で確認できる。
サークル「Kaori」とは
アドニスが所属するサークル「ティーパーティ(Kaori)」には,アドニスのほか桜河こはく,三毛縞 斑,朱桜 司,神崎颯馬が所属している。名前を挙げていて思ったが,優雅そうな雰囲気に反してやたら強そうなメンバーである……。「ティーパーティ」と名がつくサークルにはもう1つ「ティーパーティ(フレイヴァー)」があり,こちらには前年度の夢ノ咲学院紅茶部のメンバーが揃っているようだ。
仁兎なずなの「戻れない場所」
アドニスが祖国を思い出し,ふとしたときに寂しい気持ちになると打ち明けると,仁兎なずなは「似たようなことがあったから分かる」と話す。おそらくなずなにとっての「今はもう戻れない場所」とは,以前所属していたValkyrieを指すのだろう。このことを踏まえると,彼がアドニスに対して言った「寂しいと思うのは,それだけ愛して大事にしているからだ」という言葉に重みが増すのではないだろうか。なずなとValkyrieの物語については,「!」の【追憶*マリオネットの糸の先】【光輝★騎士たちのスターライトフェスティバル】(できれば【キャロル*白雪と聖夜のスターライトフェスティバル】も),【モーメント*未来へ進む返礼祭】をおさえておくと,流れを理解しやすいのではないかと思う。
動物には優しい大神晃牙
「俺様は動物には優しいんだよ」と言い放つ大神晃牙。口調は乱暴な彼だが,アイドルが動物と触れ合う姿を描いた多くのストーリーのなかで,実にいい笑顔を見せてくれるのである。スチルにもなっているもので例を挙げると,犬と戯れていた「!」の【開演 ダークナイトハロウィン】【スカウト!ワンぱくピクニック】と,モルモットと遊んだ【撮影!ぽかぽかアスレチック】がある。晃牙は星奏館に住むにあたってペットの犬のレオンを連れてきたが,長期不在にする際はほかのアイドルに迷惑がかかるからとペットホテルに預けるようにしているらしい(【スカウト!ケモノサバイバル】より)。
遊木 真の“不憫な”経験
アドニスに月の兎を見せるためのアイデアを出し合う場面で,遊木 真は「アドニスを気絶させ,内装を月にして本物の兎を置いた部屋に閉じ込めてはどうか」などと言い出す。発想がかなりやばいが,これは主に「!」のメインストーリー第一部での経験から来るものだろう。大神晃牙による紐なしバンジージャンプや爬虫類が蠢く落とし穴といったさまざまな試練に始まり,極めつけは瀬名 泉による監禁である。
なお,このストーリーに出てくる「夏目が昔作ったVRゲーム」とは,「!」の【スカウト!夏の花】で逆先夏目と春川 宙のゲーム研究部と真が開発したものを指すと思われる。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
ほのぼのした空気とESらしいドタバタと,しみじみ伝わる感動が盛りだくさんの「お月見団子」ならぬ「お月見幕の内弁当(肉入り)」といったストーリーである。まず言及したいのは,乙狩アドニスと仁兎なずなによる2つのセリフについてだ。
どちらも「相手と同じ立場でなければ,その気持ちに寄り添う資格はない」という気持ちからくる遠慮というか,相手を思いやるからこその優しさから導き出された言葉に思えた。けれどそう思っているだけでは相手には伝わらないし,その先にも進めなくなってしまう。だからアドニスに対して,なずなはこんな言葉をかける。
先ほど述べたとおり,アドニスもなずなも「今は戻れない大切な場所」があるという共通点を持つ。アドニスは海の向こうにある遠い祖国が,なずなにとってはかつて在籍していたユニットがそれだ。だが,ほかのアイドルたちにも――いや,今を生きる多くの人にとって,戻りたくても戻れない場所はあるものだろう。どう生きていようが時間は勝手に過ぎていくし,世界はどんどん変わっていく。けれど,生きている間は決して変わらないものもある。そうした不変のものが,揺れる心を支えてくれることはあるだろうと思う。
そして,アドニスの気持ちを思うあまりに冗談の引っ込みがつかなくなり悩むなずなに対しては,大神晃牙が「言ってしまったことよりもこれからだ」と,ぶっきらぼうながらも励ましの言葉を口にする。そして彼らは協力しあって,「月の兎」を再現しようと奮闘するのだ。
この“兎バンジー”はとてもコミカルで楽しいシークエンスだが,こうやって見返してみると,みんなが相手の気持ちを思いやり,助けようとしているいい話だなと思う。本ストーリーは,秋の満月の光のように優しい想いのやりとりから生まれた,愉快な騒動とじんわりと心に残るあたたかさが印象的な物語だった。
ストーリーピックアップ
「陽炎◆夏の名残とホットリミット」
開催期間:2020年9月15日〜9月24日(Basic)2020年9月15日〜9月23日(Music)
――あらすじ――
【MDM】での騒動のあと,順調とはいえない状況のCrazy:B。そこで天城燐音は,夢ノ咲学院がある地域の夏祭りへのイベント出演の話をメンバーに持ちかける。出演者を決めるコンペには,昨年のイベントに出演した流星隊の新メンバーたちも出席していたが,プロデューサーにもつながりを作りたいと考える燐音は,ある作戦に打って出る。<全17話/シナリオ:日日日>
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チェックしておくべきストーリー
【陽炎◆夏の名残とホットリミット】でフィーチャーされるのはCrazy:Bだ。彼らは新章から登場した新ユニットのため,「!」の過去ストーリーはおさらいをしなくても良さそうだが,新章におけるいくつかの話はおさえておきたい。以下で紹介していこう。
【メインストーリー(新章)】
Crazy:Bを語るにあたり,まずおさえたいのはなんといってもメインストーリーだ。Crazy:Bはこの話の中で非常に重要な役割……というだけでなく,話の中心であるALKALOIDと対をなすもう1つの(あるいは裏の)主役ユニットだったと言っていいかもしれない。メインストーリーでのCrazy:Bは,天城燐音が中心となって既存ユニットに戦いを挑み,大きな騒動を起こした。ある立場から見れば,Crazy:Bの行動が多くの人の心を傷つけたことは到底擁護できるものではない。だが,起きた出来事を別の視点から見て,燐音がなぜこのような行動に出たのか,ほかのメンバーは何を思い,どう動いたのかを知ると,彼らの見方が大きく変わるのではないかと思う。新章のメインストーリーは,Crazy:Bの始まりの物語として決して欠くことはできないものだ(とくに第五章は必読中の必読)。
【スカウト!ハニービー】
【陽炎◆夏の名残とホットリミット】に出てくる桜河こはくの「思考を止めるな,自分で考えろっちことやよな。わかってるで」というモノローグは,【スカウト!ハニービー】で燐音がこはくにかけた言葉からくるものだ。以前の記事でも触れたが,Crazy:Bは燐音が21歳,椎名ニキが18歳,HiMERUが17歳,こはくが15歳(すべて7月1日時点)となっており,ほかのユニットに比べて年の差が大きく,【ハニービー】では,それぞれのメンバーの立ち位置や関係性が垣間見えて非常に面白い。また,後述する【新参!目覚めの暗夜行路】から始まったユニットDouble Faceでの経験も含め,こはくはこのころよりもすでにかなり成長しているようにも感じられる。
【召しませ/ナイトクラブ】
【陽炎◆夏の名残とホットリミット】でも何度か出てくる「Beehive」という場所は,【召しませ/ナイトクラブ】が初出だ。この話はまさに「メインストーリーで大暴れしたCrazy:Bのその後」の物語で,メインストーリーでの“悪役”が,その後どう生きているのかを知ることができる。燐音は「大きな流れに取りこぼされてしまった人々」のためにこの場所を作ったが,それは反逆のためや復讐を目的にするものではなく,ただ特定の人々に「救い」と「居場所」を与えるためだったと筆者は解釈している。なお,Beehiveとは“蜂の巣”という意味である。
また,【ホットリミット】で燐音が2winkについて「他人の介入を許さずに『自分の文脈』を構築してってる大事な時期」と語っているが,その流れも【ナイトクラブ】で描かれている。
上記のほか,こはくが所属する“裏”のユニットDouble Faceについては,【新参!目覚めの暗夜行路】を,【ホットリミット】終盤に出てくる「音楽特区」の詳細については【温故知新/継承の御前試合】をおすすめしておきたい(解説はこちら)。
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Happy Elementsのアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」のストーリーを紹介する連載企画第8回では,「スカウト!ドールハウス」「温故知新/継承の御前試合」「スカウト!デッドエンドランド」「新参!目覚めの暗夜行路」の4本を取りあげる。
Crazy:Bというユニット
ここでは,これまでのストーリーで判明している,Crazy:Bメンバーの人物像などについて補足する。
天城燐音
故郷における次代の“君主”になることが決まっていた天城燐音は,あるときから感じていた周囲との価値観の差異から反発し,都会へ飛び出していく。そしてある日,食べるものも行くあてもなくなってしまった燐音を椎名ニキが“拾う”。その後の燐音はアイドルを目指し,正統派のアイドルとして売り出されたこともあるものの,さまざまな事情により夢半ばでその道を諦めることになった。ALKALOIDの天城一彩は実の弟で,一彩は燐音を故郷に連れ戻すために都会へ出てきた。
桜河こはく
桜河こはくはKnightsの朱桜 司の実家である朱桜家の分家出身である。彼は司のお目付け役として実家から限定的に解放され,ESにやってきたという経緯がある。彼が「座敷牢」と呼ぶ実家では着物で過ごしていたり,ネットが唯一の外界とのパイプであったりなど,やや特殊かつ制限された生活を送っていたことが推測される。現在はCrazy:Bのほか,MaMの三毛縞 斑とともにDouble Faceというユニットを組んでいる。
HiMERU
メインストーリーの序盤,Valkyrieの斎宮 宗が影片みかに「Crazy:Bというユニット,とくに芸名のアイドルに気をつけろ」と告げる。現在の「あんスタ!!」に登場するアイドルで本名以外で活動しているのがHiMERUである(本名はメインストーリーで判明している)。彼は自分を「HiMERU」と呼び,時折「俺」と言う場合もあるが,その理由はいまのところ不明だ。なお今作にて彼が言う「自分は損しかしないのに他人に尽くしつづけた,あの『聖人』野郎」とは,ALKALOIDの風早 巽のことである。彼ら2人は“全盛期”がほぼ同じ時期だったらしい。
椎名ニキ
椎名ニキの父親については,メインストーリーで「Crazy:Bについて情報を得た」と言う天祥院英智の口から語られている。ニキの父はかつて「美形すぎる料理人」としてTVでも引っ張りだこだったらしい。しかし,ある“問題”を起こし,テレビ局から追放処分を受けていたという。今作でニキが「父が周りに迷惑をかけた」と話しているのは,このことを指していると思われる。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
Crazy:Bにとって初めての新曲付き箱イベである。ここでは話のメインとなる天城燐音と椎名ニキを中心に語っていきたい。
燐音は言葉や行動が過激な傾向にあるが,ここまでのいろいろな話を読んでいると,1つの視点からだけでは,彼の真意を知ることはつくづく難しいと思う。例えば本ストーリーで,燐音はプロデューサーに向かって土下座をしながら「写真を撮っておけば,話を断られたときに『プロデューサーが新人アイドルに土下座を強要』という情報を流せる」と,脅迫ともとれる発言をする。だがモノローグを聞いて初めて,プロデューサーがほかのアイドルに釈明する材料を与えるのが目的だったことが分かるのだ。荒唐無稽に見えて,アイドル活動における彼の行動には必ず「理由」があり,常にリスクヘッジまで行っている。ことアイドル活動に関しては,今の彼は博打をせず極めて真摯に向き合っているように感じられる。
燐音が「わかりづれェんだよ,てめェは」と言うように,ニキも本音をあまり見せないタイプだ。食欲などの生命に関わるところはともかく,人間ならではの感情面が傍からは少々読み取りにくい。彼は生きていける最低限の条件が確保されればほかはすべて後回しなところがあるように見える。とはいえ父のように周りに迷惑をかけるくらいなら,あっさりと自分が犠牲になることを選びそうでもある。こうしたニキの在り方を,燐音は「呪い」だという。ニキ自身は,自分に価値があって,誰かがニキのことを自分の命と同じかそれ以上に大事に思っている事実が腹に落ちていないのである。
けれど筆者は,燐音自身もニキと同じように「呪い」がかかっていたのではないかと考えている。燐音は小さいころからずっと君主になるための教育を受け,「正しいこと」を教えられてきたという。故郷では自分が正しいか正しくないかを決めるのではなく,正しさとはすでに「ある」もので,その道を外れることが正しくないとされていた。メインストーリーを読むとよく分かるのだが,燐音は彼自身の想いも,考えも,弟への愛情までも否定され続け,誰も「燐音が正しい」とは言ってくれなかったのだ。生きていることすら間違っていたのではないかと思うまでにいたった彼にとって,それは呪い以外のなんだというのだろう。それはどれだけの枷となって彼を縛り,苦しませ続けていたのだろうか。
呼吸すらできなくなりそうだった燐音を文字どおり救ってくれたニキが,燐音にとってどれだけ大切で感謝すべき存在であるかは想像に難くない。その後の燐音はアイドルとして一度失敗し,この世界でも「否定」される。そうして最後にひと暴れしてから故郷に帰ろうとした燐音だったが,同じ巣箱にいた仲間――HiMERUと桜河こはくに「なに勝手に帰ろうとしとんねん」とばかりに頭をはたかれてようやく気付くのだ。自分もまた,誰かに強く必要とされていたことに。
いつか燐音に「助けてくれた代償に望みを言え」と聞かれてニキが答えた「お腹いっぱいになりたい」という答えは,比喩ではなく本当の意味で腹を満たすことだったのだろう。でも,【ホットリミット】のラストでニキが再び口にした言葉は,自分が誰かに必要とされていることが腹に落ち,愛で心が満たされたという表現だと捉えて間違いはないだろう。このときの4人は,全員が揃って“満腹”になれたのではないだろうか。
本ストーリーの序盤,こはくが「たまに涼しい日もあるけど,油断して空調も効かせずに過ごしてると,気づくと蒸し焼きにされて汗びっちょりになる」と,永遠に終わらないように思われる“夏”について語る。これはまるで,Crazy:Bというユニットを表したかのような言葉だ。度を越した暑さはしんどいけれど,眩しすぎる太陽の下,それに負けないくらいに輝く彼らの笑顔が見られるなら,夏が続くのだって悪くない。彼らと同じように,きっと多くの人がこの夏を忘れないだろう……そんな風に感じたストーリーだった。
ストーリーピックアップ
「スカウト!ジンロウ」
開催期間:2020年9月29日〜10月14日――あらすじ――
ある日,サークル「あそび部」を中心としたメンバーが人狼ゲームに興じる。その後,夜食をとりにキッチンへ向かった漣 ジュン,巴 日和,逆先夏目は,鳴上 嵐と神妙な面持ちで話をする春川 宙に気付く。次第に宙が自分を避けるようになったことに気づいた夏目は,ジュンと日和に相談を持ちかける。<全8話/シナリオ:西岡麻衣子(Happy Elements株式会社)>
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人狼ゲームとは?
本ストーリーの冒頭で登場する「人狼」は,特別な道具を用意しなくても遊べる多人数参加型の推理ゲームである。このゲームを簡単に説明すると「人の姿を模した狼(人狼)陣営と村人陣営の戦い」だ。最初に各プレイヤーに役職が与えられるが,この時点で誰が人狼かを知っているのはGM(ゲームマスター)と人狼本人のみ。ゲームは昼と夜のターン制となっており,昼は全員で話し合って誰か1人を“吊る”ことができ,夜は人狼が村人サイドの誰か1人を襲撃できる。人狼が全員吊られれば村人陣営の勝利で,村人と人狼の数が同じになれば人狼陣営の勝利だ。人狼と村人のほかにも,本ストーリーに登場した「占い師」(夜に1人を選んで占い,人狼かどうかを調べられる)や「霊媒師」(昼に吊られたプレイヤーが,人狼だったかを調べられる)など,派生ルールがいろいろある。
サークル「あそび部」
サークル「あそび部」のメンバーは,天城燐音,漣 ジュン,春川 宙,葵 ゆうた,仙石 忍で構成されている。アイドルストーリーを除くと,あそび部のメンバーが集う様子が描かれるのは本ストーリーが初である。なお,HiMERUのフィーチャースカウトストーリー「過去、現在、そして――」では,燐音が「この間,星奏館の共有ルームで人狼をやっていたのに混ぜてもらったが面白かった」と言い,さらにそのあとには「『あそび部』のやつらが友達や仲間を連れてきてくれて人狼ゲームが大盛り上がりだった」と話しており,何度も人狼を遊んでいた様子がうかがえる。
逆先夏目による天祥院英智の「老害(ロートル)」呼び
本ストーリーで夏目が英智を「老害(ロートル)」と呼ぶが,これの初出は「!」の【追憶*集いし三人の魔法使い】である。「ロートル」とは,もとは中国の「老頭児」という言葉からきており,日本では昭和中期ごろまで「(否定的な意味を含ませた)老人,年寄り」といった皮肉めいた俗語として使われていた。「老害」もそうだが,本人を前にして言うのはかなり攻撃的な態度だと言える。
ブラッディ・メアリと星奏館の動物たち
以前にも解説しているが,ブラッディ・メアリはもともと捨て犬で,巴 日和と漣 ジュンが玲明学園の寮に住んでいたときに拾って飼い始めた犬である。ブラッディ・メアリは,日和が星奏館へ引っ越す際に連れてきたらしいことが【スカウト!ケモノサバイバル】で明らかとなった。ちなみに星奏館はペット可らしく,大神晃牙のレオンや明星スバルの大吉も星奏館内で飼われている。また,寮に連れてきているかは不明だが,本ストーリーに登場する鳴上 嵐は「にゃんこ」という名前の猫を飼っている。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
この話の初っ端から,逆先夏目は巴 日和に対して「こんなやつ」呼ばわりをする。ずいぶん当たりが強いな……と思ったのだが,よく考えたらこの2人,かつての“天祥院英智による革命”における,討伐された側(五奇人側)と革命した側(旧fine)なのだった。ちなみに両者は「!」の【駆け引き◆ワンダーゲーム】でも顔を合わせたことがあるが,そのときの夏目も露骨な塩対応であった(漣 ジュンが「そんなに元fineというだけで憎いものなのか」と尋ねたところ,夏目は「君が佐賀美 陣を憎むのと同じかそれ以上」と答えている)。
少々“上から”なところはあるものの,基本的に争いを好まず,いつでも誰にでも明るく振る舞う日和と,敵と味方を比較的はっきりと区別するタイプに見える夏目は,こうしてみるとかなり対照的な存在と言えるかもしれない。
本ストーリーでは,みんなで人狼ゲームに興じたあと,日和が「ゲームは楽しかったが,あまり気分が良くなかった」と言う。それは人狼ゲームが持つ「相手が嘘をついているかもしれないと,人を疑うことを前提に進めていく」というそもそものルールが彼にとっては相容れないものだったからだ。
当然ながら,夏目はこの意見を「ただのゲームと現実を混同するなんてナンセンス」と否定する。そんな夏目は,春川 宙が普段とは違うよそよそしい態度を見せたとき,彼にとって大切な存在である宙を「疑いたくない」と思い悩む。夏目は「ゲームと現実は別」と言っていたとおり,現実ではむやみに他人を疑うような人ではないのだ。このことを考えたとき,筆者のなかで思い出されることがあった。それは,彼が私たちの前に現れた「!」の【追憶*集いし三人の魔法使い】で,天祥院英智に対してこんな言葉をかけた場面だ。
夏目や夏目の大切な人たちを深く傷つけることになってしまった英智に向かって言ったこのセリフに,筆者は彼の,普段は見えにくい場所に隠している“他者への慈愛や優しさ”が垣間見えたように感じた。もしかしたらこの人は,器用に立ち回っているように見えて,自分のことに関してはほんの少し不器用なのかもしれないと。
だからこそ,Switchにとって新たに大切な物語の1つとなった【踏み出す行き先/ネクストドア】で,青葉つむぎに「愛している」と気持ちを伝えられたのは大きな進化だったと思う。そしてあのとき,3人で「一緒に幸せになろう」と誓いあったことを,今作で宙に「信じている」とまっすぐに言えたところに,彼のさらなる成長が見えたように感じられた。
ストーリーピックアップ
「銀幕死闘の/桃源郷偶像拳」
開催期間:2020年9月30日〜10月9日(Basic)2020年9月30日〜10月8日(Music)
――あらすじ――
スターメイカープロダクションが新たに映画会社を興し,fineとTrickstarが出演している映画「桃源郷偶像拳」を撮影することになった。オーディションにより,主役は遊木 真,準主役は伏見弓弦に決まる。しかし撮影はなかなかスムーズに進まず,メンバーはそれぞれ思い悩む。そんななか,撮影現場に姫宮桃李の持ち物を盗む不審者が現れ……。<全22話/シナリオ:日日日>
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みんな大好きミズハノメ先生
映画「桃源郷偶像拳」の脚本を読んだ天祥院英智が話題に出した「ミズハノメ」は,ご存じの人も多いと思うが,紅月の蓮巳敬人のペンネームである。彼はイラストだけでなくお話作りの才能にも長けているようで,かつては漫画家を目指していたこともあったらしい(「!」の【スカウト!ティーパーティー】など)。いまはミズハノメとしての同人活動はしていない……と思うが,本ストーリーなどによれば,サークル「劇団ドラマティカ」の脚本を担当することになっているようだ。非常に楽しみである。
Trickstarの“前科”
遊木 真曰く「世間的にいえば“やらかし”」だという,【スタフェス】と【BIGBANG】。Trickstarは「!」のメインストーリー第一部における革命に始まり,ことあるごとに予想外の行動をして周囲を驚かせてきた。
ちなみに【スタフェス】のやらかしとは,春の革命(【DDD】)で勝利し,年末の一大イベント【SS】への出場権を獲得したものの,クリスマスの【スタフェス】で優勝したユニットが【SS】の出場権を得るようにと,せっかく得た権利を一度返上したことを指す(「!」の【ノエル*天使たちのスターライトフェスティバル】より)。また,今年度はじめの【新星団★輝きのBIGBANG!】では,ユニットとしてESの紹介番組を任されたにもかかわらず,結局はその予算を使って【BIGBANG】という新しい形式のライブ企画を敢行したという経緯がある。
fineの過去と現在
これまでに何度も語っているように,fineも重い歴史をたどってきたユニットの1つだ。かつては天祥院英智が起こした革命の象徴たるユニットで,当時のメンバー構成は英智のほか青葉つむぎ(現Switch),乱 凪砂と巴 日和(共に現Eden)の4人だったが,その後メンバーを変え,現在の構成となっている。
今はメンバー同士のつながりがかなり安定しているユニットと言えるが,今年度に入り,ESを統括する立場となってこれまで以上に多忙な英智がやや心配なところ。春先の【春雷*謳歌のテンペスト】では,そんな英智を休ませ,仲間同士で過ごすための「英智デー」を設けることになったいきさつが語られている。
「桃源郷偶像拳」のメインキャストについて
今回はfineとTrickstarにフィーチャーしたストーリーだが,なかでも伏見弓弦と姫宮桃李,遊木 真と氷鷹北斗という(メタ的に言えば高レアの)メンバーが中心となっている。以下で彼らについて補足しよう。
伏見弓弦
伏見弓弦と姫宮桃李の関係は,かなり幼少期のころからのものらしい。本ストーリーでは,桃李が弓弦について「何かの時期に『訓練』のために預けられて,戻ってきたらあんな感じにロボっぽくなっていた」と語るが,これは姫宮家が所有する軍事施設に預けられていたことを指す。弓弦の極めて高い身体能力や“殺気”は,ここで鍛えられたものなのだろう。弓弦の“戦闘員”としての顔が見られるストーリーは以前の記事で紹介しているのでぜひご参考に。ということで彼の好きな“お掃除姿”を見られるものとして,「!」の【スカウト!プール開き】と【誉れの旗*栄冠のフラワーフェス】をおすすめしておきたい。
姫宮桃李
姫宮桃李は天祥院英智に憧れて夢ノ咲学院へ入学し,厳しい試験を経てfineへ加入するにいたった。とはいえ,圧倒的なカリスマ性を持つ英智や元五奇人の日々樹 渉,何事も器用にこなす弓弦に囲まれ,劣等感にさいなまれることも多かったようだ。彼が懸命に努力して成長しようとする様子は前年度の1年間をとおして語られ,英智たちが卒業するころには実に大きな進化を見せてくれた(とくに印象的なのは「!」の【羽ばたき!雛鳥と皇帝の凱旋】や【ノエル*天使たちのスターライトフェスティバル】など)。とはいえ,英智たちもまだ子供であって,成長を終えたわけではない。桃李の努力はこれからもまだ続くということだろう。
遊木 真
かつては売れっ子キッズモデルだったが,心を殺して仕事をしていくうちにカメラが怖くなり,モデル業から離れてアイドルに転身したのが遊木 真だ。前年度の彼はよく自らを「Trickstarの中では落ちこぼれ」と言い,必死についていかなければ仲間に置いていかれると自身を卑下していた。とはいえ,やるべきことが定まってからの集中力の高さは際立っており,朔間 零も「五奇人に匹敵するほどの天禀」と語っていたことがある(「!」 【輝石☆前哨戦のサマーライブ】より)。また作中でも語られているが,氷鷹北斗とは以前に中華料理屋のアルバイトで2winkの葵 ひなたとともにカンフー衣装を着たことがある。この話は「!」の【スカウト!カンフー】にて確認できる。
氷鷹北斗
そういえば新章になってから氷鷹北斗の「おばあちゃん話」がそんなにないな,と思っていたが,本ストーリーではそのおばあちゃんガチ勢っぷりをあらためて見せつけてくれた。彼がおばあちゃん子であるのは,現役アイドルの父(氷鷹誠矢)と現役の大女優の母が多忙で不在がちだったため,幼少期はおばあちゃんの家に預けられていたからのようだ。またこのストーリーでは,夢ノ咲学院演劇部絡みの話も多く登場するが,日々樹 渉が他人になりすます話は「!」の氷鷹北斗キャラクターストーリー「即興劇」,演劇部の稽古で即興劇をするのは氷鷹北斗キャラクターストーリー「響き愛」などをおすすめしておきたい。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
ESビッグ3の1つに数えられるユニットfineと,【SS】の覇者たるTrickstarの合同イベントである。この2つのユニットの関係は,「あんスタ!!」という物語の始まり――“最初の春”の革命,「!」のメインストーリー第一部から始まった。彼らにとってはあれから1年ほどしか経っていないわけだが,彼らを見守る私たちが過ごした実際の時間としては,メインストーリー第一部の公開から今年でもう5年になる。あの1年間はこれ以上ないほど濃い時間だったし,始まりのころを思うと「ずいぶん遠くまできたなぁ」という感じもする。
今回【桃源郷偶像拳】を読んでいて面白いと感じた点がある。それは,いくつかのシーンにおいて「!」のメインストーリー第一部のハイライト,【DDD】での対決が思い出されたことだ。【DDD】では,遊木 真と姫宮桃李,衣更真緒と日々樹 渉,氷鷹北斗と伏見弓弦,明星スバルと天祥院英智が1対1でぶつかり合う場面があった。そして今作でも,この組み合わせで印象的な会話が交わされていたのだ。
こうして見てみると,彼らが1年をとおして得た経験から,お互いを良きライバルであり良き仲間として深く尊敬しあい,認めあっていることが伝わるように思う。
筆者はこの【桃源郷偶像拳】を,彼らのこうした関係性の変化とともに,メインとなる4人を中心とした「それぞれの『劣等感』や『欠点』をまた1つ乗り越える」=ブレイクスルーを見せる物語だと解釈した。メインキャラクターではないが,今回は真緒がそれをよく表す言葉を聞かせてくれる(さすが「ブレイクスルー」の人)。
真緒は自分やほかのみんなが抱える劣等感について,「そういう気持ちはあっさり消えないし,それも自分の一部だから,それをひとつひとつ噛み締めて自分の栄養にする。でも,つらい過去は消化や昇華に時間がかかるから,きちんと向き合って咀嚼してそれも含めて自分自身なんだと,時間をかけて自分のものにしていくしかないんだと思う」と語るのだ。
周りからしたら見苦しいかもしれない,でも急いで食べても消化はできない,だから焦らず見守ってほしいと真緒は言う。ここはぜひ物語のなかで,実際の彼の言葉を聞いてほしい。きっと心に響く人は多いだろう。
キッズモデルだった過去と,いつまでも消えない「落ちこぼれ」という気持ちを抱え続けていた真。“会社”で身につけた血なまぐさい技能とおぞましい経験を思い返す弓弦。小さなころからずっと「天才」と比べられ続けてきた北斗。fineに入ったときから実力不足を痛感し続けている桃李。それらもまた,彼らの一部だ。彼らだけではない,英智も渉もスバルにも,この物語を読んでいる人にもおそらく昇華したい何かがあるはずだ。そして,それを乗り越える鍵は必ずどこかにある。時間はかかったとしても前を向いてさえいれば,つらい経験や気持ちはいつか絶対に,自分の糧とすることができるだろう。美味しい桃まんじゅうのように。
ちなみに今回のイベントストーリーは,新章となって初の「アイドルたちのライブで終わらない」物語だ。これからは,ESが目指す「本物のアイドル」が得るべき経験や要素が,ステージ以外にも広がっていくのかもしれない。彼らのさまざまな表情や活躍が見られることが,ますます楽しみになった。
第12回記事もお楽しみに!
■たまお(ライター)■
エンタメ系フリーライター。音楽・ゲーム業界などでの社会人生活を経て,作品やキャラの素晴らしさを文章で伝えるためにライターへ転向。現在4Gamerにて「あんさんぶるスターズ!!」のストーリー解説記事を連載中。このほか追いかけ中のタイトルは「アルゴナビス」「スタマイ」「ツイステ」「ヒプマイ」「パラライ」「刀剣乱舞」「A3!」「まほやく」「ブラスタ」など。
◆Twitter(@tamao_writer)
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