インタビュー
[インタビュー]ついにeスポーツ業界に「選手会」が成立。ストリートファイターの選手5名が先鋒となって,選手のためのより良い環境を模索していく
プロ野球は言わずもがな,プロサッカーやプロテニス,バスケットボールやアイスホッケー,モーターボートやジムカーナ,馬術に至るまで,およそ「スポーツ」と呼ばれるものには,すべからく「選手会」が存在する。
選手会とはプロスポーツの選手によって組織されている団体を指すもので,チャリティ活動を行ったり,一種の労働組合として選手の地位向上を計ったりする。
例えばゴルフの選手会なら,トーナメントを管理運営している日本ゴルフツアー機構との間のパイプ役となるのも重要な役割で,そういう活動を積み重ねながら,選手の環境改善に貢献して,業界全体を盛り上げているわけだ。
読者の皆さんはお気づきのことと思うが,これだけ世間が「新しいスポーツ」だと騒いでいるeスポーツには,選手会が存在しなかった。eスポーツを長く見守っているRedBullであっても,6年ほど前には「いまはまだ時期尚早」との見解を示している。
eSportsに選手会は必要なのか??(RedBull)
しかし競技も選手も,そして“スポーツとしての扱い”も,いまだやや曖昧でぼんやりしているeスポーツは,ジャンルを問わず認知は上がり,プレイヤー数やチーム数,大会数が増加している。今こそ選手会があるべきなのではないだろうか。
……という話を,少し前にTOPANGAの豊田風佑氏と話していたのだが,先日その豊田氏から「選手会作りました」という,シンプルな連絡がきた。それは早速話を聞いてみなくてはなるまいと思って場をセッティングしてみたのが,この座談会だ。豊田氏一人で来るのかと思ったら,設立メンバー全員を引き連れての豪華座談会だ。
メンバーこそ豪華だが,まだストリートファイターリーグを中心とした選手会だし,本当に立ち上がったばかりだという。しかしすでにカプコンやJeSUともミーティングの場を持っており,詳細までは聞けなかったが影響力を持ち始めているようだ。
今後彼らがどこに向かうのかも含めて,いろいろ聞いてみよう。
4Gamer:
本日はお集まりいただきありがとうございます。
というか,こんなに来るとは思ってなかったです……。
豊田風佑氏:(以下,豊田氏)
すみません(笑)。どうせなら全員いたほうがいいかと思いまして。
4Gamer:
「選手会作ったのでちょっと語らせてください」みたいな連絡だったので「ぜひぜひ」って軽い気持ちで承諾したんですが,こんな豪華メンバーの大人数で来るとは思ってなかったです。
選手会の役割的には,いわゆる普通に想像する“選手会”と同じだと思ってていいんですかね?
ネモ選手:
我々が疑問に思っていることを,我々がまず話し合って,そのなかで出た意見を聞きに行く……みたいな感じでしょうか。対話の場を作りにいくところから始めている感じです。
4Gamer:
一番直近では何をしましたか。
ネモ選手:
JeSUさんと話をして,次にカプコンさんと話して……。詳細は言えませんが,来年のリーグに関して,改善してほしい部分を伝えました。伝えることで,リーグを良くして,競技全体の地位向上も図っていきたいですし。
4Gamer:
つまり,JeSUと選手達との間に,いままでは交流はなかったということですか。
ネモ選手:
そこはないに等しかったですね。
4Gamer:
なるほど。であれば,選手会は絶対にあったほうがいいですねえ。
ももち選手:
個人で話をしようとしても,なかなか取り合ってもらえないことも多かったですし。それを選手の総意ですという形でぶつければ,JeSUさんやカプコンさんも動いてくれるんじゃないかと。
4Gamer:
そうですよね。しかもこの豪華メンバーで……。今は全部で何人くらいですか?
ネモ選手:
今はここにいるメンバーです。
4Gamer:
ホントに全員来てくれたんですね(笑)。
ときど選手:
そうです(笑)。本当に始まったばかりなんですが,SFL(ストリートファイターリーグ)で困ることが多かったので,その関係者が集まった感じです。
今eスポーツで食べていけてるプレイヤーでも,個人個人で見れば困っていることって結構多いと思います。そんな状況でも,国内や世界の強豪達と戦っていかないとならないわけで,もっと状況をよくしていくためには,団体で行動していくことが必要だと感じています。
4Gamer:
プロスポーツにおいても副業としてやってるプロ選手の方も多いわけで,そう考えるとここにいる人達は,“選手”としてはピュアなのかもしれません。なので逆に,選手会がないことがずっと気になってて,豊田さんにも「作りなよー作りなよー」とずいぶん煽ったりして。
ももち選手:
なるほど。そういう話で言うならば,少なくともeスポーツにおいては,専業ではなくて兼業のプレイヤーがスケジューリングで困ることが多い気がします。なので,そこは緩和できないかとメーカーさんにお願いしたり。
4Gamer:
確かに,社会人の兼業プロ選手は「平日の昼間に予選やりますよ」と言われてもちょっと困っちゃいますよね。
ももち選手:
ええ。ここにいる我々は専業なのであまり困ることはないんですけど,ほかの選手から話を聞いた時には,そういった話が出てくることもあります。でも,兼業プロの個人がメーカーに話をするのは,勇気もいるし難しいことです。
そこに選手会があることで,相談できるようになるし,メーカーにも話をしやすくなります。
4Gamer:
ここにいるメンバーの意見を述べるだけなく,選手全体の代弁者でもあると。
ももち選手:
そうですね。ほかの選手の意見を吸い上げて伝えていくことも重要な役割だと思います。
4Gamer:
とてもいいことですよね。というか今までなかったのか,という。
ときど選手:
そこはキチンとやっていかないと。我々だけが得をするというのもよろしくないですし,そもそもそれじゃあ周りからの協力も得られなくなってしまいます。弱い立場の人たちが集まって,バトルできるようにするというのが目的ですから。
4Gamer:
さっきのスケジュールの話なんかもそうですよね。
ときど選手:
まぁその話で言うと,そもそも,もっとはやく伝えてほしいと思いますけどね。
4Gamer:
どんなタイミングで知らされるんですか?
ネモ選手:
どのタイミング……というのはちょっとご勘弁いただきたいんですが,リーグ全体にある程度のスケジュール感はあります。
例えば2022年であれば,9月から12月まで予選,12月末にプレイオフ,年が明けて1月にグランドファイナル,2月中旬にワールドチャンピオンシップ……とか。
それだけの長丁場を,兼業の人はどうやってスケジュール調整すればいいのかという問題は常につきまといます。なので,もっと早く固められないのか,とか。
4Gamer:
どこか1日あければいいとかそういうレベルの話じゃないですしね。
ネモ選手:
ええ。詳細日程を把握した状態なら仕事の都合もある程度は付けやすいので,そのあたりはなるべく早めに教えていただきたいと思います。
ももち選手:
なにより,そういう状況であっても兼業選手は無理をしてしまうんです。数少ないチャンスをつかもうとするわけなので。
4Gamer:
それで無理して会社にいづらくなっても本末転倒です。
ときど選手:
体を壊したりすることもありますし。
まぁ肉体まで……という人は少ないかもしれませんが,メンタルをすり減らしてやってる人も多いです。そのあたりのケアも,今後していけたらいいなと思いますね。
ネモ選手:
去年なんかだと,リーグ以外にもキャラバンイベント(=ファン交流イベント)があったんですよ。
イベントに参加して,熊本に行って,帰ってきてリーグに参加して……という過密スケジュールで,選手が体調を崩してしまうこともありました。もう少しゆとりをもったスケジュールを組んでほしいなと。
4Gamer:
もちろん組む側も悪気はないでしょうから,おそらく気が付いていないだけかなぁ,と。
ネモ選手:
とりあえずスケジュールをはめ込んで……という状況になっているんだと思われます。
ときど選手:
まぁ選手側も要望として伝えるのが大切ですよね。変えられる部分と変えられない部分があると思いますし。選手側はこういった要望を持っているという意思を明確にするのは,お互いの歩み寄りのなかで大切なのかな,と。
4Gamer:
そういった歩み寄りのミーティングの場は,定期的にセットされてるんですか? 定例会なのか,何かあるときに召集されるのか。
ネモ選手:
何かあるときにいったん我々で集まって,それから意見を言いに行く……という方法が,今はお互いにとっていいのではと考えてます。まずは無理をしない範囲で着実にやっていくといいますか。
4Gamer:
揉めたいとか燃やしたいとかそういう意図があるわけじゃないですしね。
ももち選手:
そうですね(笑)。
選手会が動かなくていい状況というのが,何も問題がない状態なので,それが一番の理想。
4Gamer:
突き詰めていけば,選手会が解散するのが一番いい……のかな?
ときど選手:
いや,解散まではさすがに(笑)。あるけど動かない,というのがベストですね。
ももち選手:
なにかあったときにそういった場があるのは大切ですし。動かないにしても,作ったことにまずは意味があります。
4Gamer:
確かに選手会が忙しいのも問題ですし……。
ときど選手:
インタビューしてる4Gamerさんも,もしかしたらこの瞬間はお忘れかもしれませんが,実は我々も選手なんですよ(笑)。なので,とくに今はSFLの真っただ中で,この状態はあまりよろしい状態ではないなと。
ガチくん選手:
しようがないんですけどね。我々が動かないといけない問題ではあるので。
ネモ選手:
今回に関しては,来年のリーグが決まってしまうくらいのタイミングでしたけど,これまでは選手が意見を言える場はなかったわけです。まずそこに入っていかないと,単に言われたルールに従うだけの状態になってしまうわけで。
それはやっぱりまずいよねということになって,リーグ中であってもやらないといけないだろうと思って,動いてる感じです。1回こういうことができれば,話し合いの場はこのあとも作れますし。なので次回以降のSFLは,もうちょっと改善できるんじゃないかと思ってます。
4Gamer:
選手が意見を言う……という話で言うならば,SFLでドラフト指定されて周りのみんなからも祝福されてるような状況で「このチームには入りません」とは言えなかったりしますよね。
で,一部のチームではそれを逆手にとって,奴隷契約みたいな内容の契約を結ぼうとしていたり……とかそういう話も聞いたりしますけど。
豊田氏:
いや……もしそれが本当だとしたら,そういうのも,仕組みとかやり方を変えられますよね。
そのあたりを変えてくださいというのは,選手側からの意見としては普通かなと。
4Gamer:
一応の確認なんですけど,向こうに悪意はないんですよね……?
ときど選手:
さすがにないと思いますよ(笑)。伝えることで改善してくれれば嬉しいです。
4Gamer:
まぁ悪意がないほうがタチが悪かったりしますけど……。
豊田氏:
まぁそこは(笑)。向こうの本意なのかどうかは問題ではなく,問題点を挙げて,その解決策を提案する形で持っていきたいですね。基本的には「こうすれば選手はみんな嬉しいです」ということを持っていってます。
4Gamer:
TGSのときにも何かそれっぽいことを言った気がしますが,今までの日本のeスポーツって,上の層の人だけが妙な盛り上がりかたをしてたと思うんです。支える選手がいないとどうしようもないのに,そこを置き去りにしていろんな話が進んでいたわけです。
選手会みたいなものが動き出すと,少しずつよくなりそうだなと思ってちょっと安心しますね。
[TGS2022]JeSU主催のeスポーツセッション「Future of esports」聴講レポート。eスポーツへの投資や展望が語られた
TGS 2022の2日目,日本のeスポーツ市場の成長をテーマとするセッション「Future of esports」が開催された。経済産業省の上田泰成氏やプロeスポーツプレイヤーのネモ氏が登壇し,今後の課題やeスポーツの可能性が語られた同セッションの聴講レポートをお届けする。
豊田氏:
そう言っていただけると。
4Gamer:
……というかですね,選手のいろいろなことを決めるのが,選手の立場の人がいないJeSUという業界団体であるというのは,やはりいびつだしおかしいと思いますよ。あるべき論の話をするならば。
ネモ選手:
おっしゃるとおりで,いろいろな環境が整っていないのはそのとおりです。興行が成り立たせるために,メーカーのIPを使って企業がお金を出して,リーグが開催できているわけです。そこには選手がいて,選手にファンが付いてくる。
選手がいなくなるとファンも消えていくわけで,そうなると興行として成り立たなくなります。
4Gamer:
まったくそのとおりですね。
ネモ選手:
そういう意味でも,選手がリーグに参戦して競技をしていくうえで,後悔しないような環境を作っていく必要があります。そこが大事だと思っているので,こうやって集まって意見を出していこうかと。
ももち選手:
でも個人的な見解ですが,やっぱり僕らはメーカーさんに生かされているという部分はあります。そういった意味では,弱い立場なんじゃないかなぁと。
4Gamer:
それは……考えすぎでは?
ももち選手:
いや,僕個人だとそう思ってしまうんですね。悪い言い方をすれば,選手の“替え”はいくらでもきくわけです。その人が辞めても,代わりの選手は出てくるわけで。となると,メーカーに強く言うのはあまりいいことにならないのかな,と思ってしまうわけです。
4Gamer:
おっしゃってることの意味は分かります。
例えば我々もゲームメディアなので,メーカーに生かされているわけです。ゲームメーカーの作る新作がないと,基本的に仕事がないようなものですから。だからといってメーカーに気を遣いすぎるのも違うと思うし,媚びるのはもっと違いますよね。
でも,難しい立場なのは分かります。
ももち選手:
そこをうまく代弁するのが,選手会の役割になるのかなと思ってます。
4Gamer:
会として力を持てば交渉の窓口になるし,対等な場に立てるし。そもそもこれまではテーブルに座れていなかったわけで,それが座れるようになっただけで大きな進歩だと思います。
ももち選手:
そうですね。1人の選手がスケジュール変更をお願いしても,出なくていいですよと一蹴されて終わりだと思うんですよ。でも選手会でみんなの意見として発信すれば,受け手側の印象も大きく変わります。
ときど選手:
せめて事前に教えてください,とは言えると思います。
業界を盛り上げるという意味では,メーカーもメディアも選手も皆同じところを向いているはず
4Gamer:
ところで選手会の会則みたいなものはあるんでしょうか。
豊田氏:
いずれ一般社団法人にして……とかは考えているんですけど,さっきネモ選手が言ってたように,SFLの来季構想が決まってしまいそうなタイミングだったので,まず(選手会を)作って話をしないと全部が決まってしまって変えられない状況でした。
そんな感じで駆け足でここまできたので,まだそういうのは作ってないですね。
4Gamer:
まぁ焦るものでもないですね。
豊田氏:
あと,今の選手会はストリートファイターV限定でプレイヤーが集まっているわけです。このやり方で,JeSUさんやメーカーと話ができて良好な関係が築けるのであれば,ほかのタイトルでも選手会を作って動かせるのではないかとも思っています。
4Gamer:
FPSとかMOBAとか?
豊田氏:
そう。今の選手会は1つの枝みたいなものなので,枝からスタートして,それが集まって木になる……という流れでもいいんじゃないかなとか。
4Gamer:
なるほど。ほかのタイトルでも,もしかしたらそこまで大きく状況は変わらないかもしれないので,ここが先駆者となってやるのは大きな意味がありますね。
豊田氏:
eスポーツの産業は,メーカー,選手,メディアの3つがないとうまく成り立たないと思うんです。JeSUさんはメーカーとメディアが集って構成されてますけど,先ほどの話のように,そこに選手を入れないというのもおかしいだろうと考えてるので。
4Gamer:
選手側の代弁者もJeSUにいるべきだとは思います。
豊田氏:
選手達が自発的に何かを提言するということは,業界にとってもいいことだと思うので。
4Gamer:
それをあまり良く思わない人もいるかもしれませんよ?
豊田氏:
まぁもしかしたら(笑)。でも業界を盛り上げるという意味では,向かっていく場所は同じのはずです。話してみると,納得してもらえることも多いですし。
4Gamer:
まぁそういうものですよね。
例えが全然違うジャンルなんですが,犬猫の保護団体もたくさんあるんですが,相互にあんまり仲が良くないんですよね。最終的な目標はたぶん皆さん同じはずなのに,よく分からないところで「考えが合わない」とか「やり方に同意しかねる」とか。
ゲーム業界も,いまでも多分にムラ社会的な部分が多いので,そういう傾向が強い気がしてます。
豊田氏:
オープンなようで結構クローズドなんですよね。なもんで,eスポーツのような新しいムーブメントがくると,そのクローズドな部分がネックになっていてなかなかうまく動けなかったり。
でも何かきっかけがあればちゃんと変わっていくと思うし,“あちら側”にいる業界の人たちも悪意はないでしょうし。単によく分かっていないだけ,みたいなところもあるのかなと。
ときど選手:
なのでお互いに対話する機会があれば,目的が同じなのであればいい方向に修正できるんじゃないかと思うんですよ。
4Gamer:
立ち上がってまだ間もない若いジャンルでまだ土台ができていないのに,その上にいろんなものを無闇に乗っけてる感はありますよね。その最たるものがオリンピックなのかもしれませんが。
そういうレイヤーの人達と,とりあえずお金儲けしたいといういつもの人達と,真摯に競技をしたい人達と楽しくやりたい人達で,レイヤーがあまりにもバラバラなんですよeスポーツって。
豊田氏:
なるほど。
4Gamer:
なのでちゃんと意見交換しないと,うまくまとまらない気がしています。
まぁあとさっきの話ですが,ももちさんが「選手は替えが利く」って言ってましたけど,僕個人はタイトルこそ替えが利くと思ってます。例えばストリートファイターがダメなら,GUILTY GEARでも鉄拳でもKOFでも,グラブルヴァーサスでもいいじゃないですか。実はこれ,EVO Japanの1回目を開催したときにも出た議論ですけど。
ときど選手:
タイトルの替えが効くというのは,ちょっと自分にはない視点でなるほどと思いました。
4Gamer:
野球がダメならラグビーでいいじゃん,とはならないですしね,スポーツは。なのでeスポーツに関しては,まず選手が優先であるべきじゃないかなと個人的には思っています。だから,こういう部分(選手会)から動いているのはすごくいいことだなと思いました。
豊田氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
まぁ「選手会作りました」っていう一行だけの連絡でしたけど(笑)。
ネモ選手:
でも確かに僕らはいろんなタイトルを触ってきましたし。
ときど選手:
そうだけど,eスポーツという世界で例えばストリートファイターじゃなくて別のタイトルに移りますというのは,確かに想像してなかったかもしれない。
4Gamer:
タイトルこそ替えが効くと思うんですよね。
選手の強さやカリスマ性,真面目さとか面白さ,性格,しゃべり……。選手の個性こそ替えが効かないものではないかと。まぁだからってタイトルを替えたいかというと,そうじゃないでしょうけど。
ネモ選手:
ええ(笑)。僕らも「ほかのタイトルにいきますよ」ということはしたくないです。もっとストリートファイターの業界を良くしていくために,選手会を作ってキチンと意見を伝えて,お互いがよくなっていきましょうと。
まあでも,意見を伝えても「無理」と言われたら,ほかのタイトルに移ることもあるかもしれないですが。
4Gamer:
業界全体をマクロに見れば,別にタイトルはなんであっても「一般の人が観て面白い」のが一番いいと思うんですよね。盛り上がるものであればなんでも。個人的には格ゲーとか落ちモノなんかが「誰が観ても勝ち負けが分かりやすい」という意味でイチ押しです(笑)。
eスポーツを盛り上げるという話になって,絶対に必要なのは国の協力なんです
4Gamer:
ところで選手会ですが,今後規模は大きくしていくんですか?
豊田氏:
ストリートファイターであれば,今のメンバーで十分です。今後実際にほかのゲームでも「ちょっと困っている」みたいな話があれば,互助会のようにみんなが集まってきたりして,大きな木に勝手になっていくのかなぁ,と。
4Gamer:
eスポーツにどこまで本気なのか分かりませんが,国からの補助がほしいところですね。
豊田氏:
選手会だけの話だったら,スポンサー自体は取れなくはない気がします。
4Gamer:
なるほど。個人ではなくて「選手会」でスポンサーを募るのはいいかもしれない。
豊田氏:
あとこれは個人的な見解なんですが,国から補助どうこうと言う話であれば,現状ではストリートファイターリーグのような規模の大きい大会を,周りを巻き込んでやっていくことが重要だと考えてます。
でも現実問題としてこの規模ともなると,メーカーがお金を出しても費用対効果が見合わないんですよね。なのでここまで大きなものは,カプコンさん以外やっていないじゃないですか。
4Gamer:
うんまぁそうですね。まぁそもそも「すでに売ってるゲームの大会」って,ビジネス的にはあんまりおいしくないですから,カプコンってすごいと思いますよホント。
豊田氏:
eスポーツを産業として盛り上げるというのは,経産省とJeSUさんが話ができている状況なので,eスポーツを盛り上げるために少なくとも大きいイベントは必要で,その大きいイベントを開催するために国からの補助金を引っ張ってくることを,がんばってやってくれる……というのが業界の発展につながっていくんだろうなぁと。
4Gamer:
がんばるのはJeSUですよね。
豊田氏:
そうですね(笑)。やってくださいという話もしましたし。
4Gamer:
J-POPとK-POPの話なんかもそうですし,ゲーム業界界隈だと韓国のオンラインゲームなんかもそうですが,結局は国がどこまで本腰入れてくれるかどうかというのは結構大きいと思うんですよね。
豊田氏:
現状では国が「eスポーツに注目している」状態ではあると思います。でもこのタイミングでうまく活用しないと,ブームが一過性で終わってしまう。今のうちにどうにかしないといけない。
4Gamer:
ドライに言うならまず必要なものはお金ですよね。お金がないと結局は何もできない。そういう部分こそが“国の仕事”じゃないのかなと思ってしまうんですが。
豊田氏:
国は興味を持っている状況なので,うまいこと進めてほしいですよね。
4Gamer:
ロビー活動なんかも含めてもうちょっと,ね。ってJeSUにそんなになんでもかんでもかぶせてもアレですが。
豊田氏:
今eスポーツを盛り上げるとなって,絶対に必要なのは国の協力なんですよ。今後は国の協力がないとどうにもならないというのを理解した以上,経産省だったり国とのやりとりをJeSUさんがしているのだから,それはぜひとももっとがんばってほしいです。
4Gamer:
がんばって,ぜひとも結果も業界にフィードバックしてほしいですね。
自分たちが何も言えずに,選手として後悔が残ってしまわないように,意見を伝えていきたい
ネモ選手:
JeSUさんつながりの話で言うならば,ライセンスを発行して,プロゲーマーにしてくれますよね。
自分たちくらいの世代だと,ある程度“理解”できているんですが,もっと若い世代だとライセンス発行大会で優勝して,プロライセンスを獲得すると,夢を見てしまうと思うんですよ。でも結局そのライセンスをもらったからといって何が変わるだけでもなくて,そういう状況がちょっとよくないなと感じています。
4Gamer:
夢を見せた責任は誰かが取ってもいいかな,とは思いますね。プロ認定するのはまぁいいんですが,それだけで食っていけるわけじゃないですし,業界の中もそこまで整ってないですから。
ネモ選手:
セカンドキャリア問題も出てきますし,そのあたりの環境も整えてくれないと,もうちょっと先になった時にいろんな人が「やっぱりこれじゃ食えないじゃん」という状況になってしまう。そういうところは早めに伝えていく必要があるな,とも感じてます。
4Gamer:
やはりそのあたりはまだ整っていないんですね。
豊田氏:
プロゲーマーが引退してからやることって,今はなにもない状態なんですよね。個々で見れば,メーカーに行ったりライターをしたり,そういうのはあると思うんですが。
4Gamer:
業界としてのキャリアパスみたいなものを用意する……のは,やっぱりJeSUが重要な気がしますね。
豊田氏:
なので選手の立場も入ってほしいんですよね。自分事だし。
ももち選手:
当然我々にも分からないことはたくさんあるので,そこをすり合わせて対話をすれば,お互いに理解が深まっていくでしょうし。
ときど選手:
すでに話をする場は作れましたし,それだけでも大きく進んだ部分があったと思います。カプコンさんからも非常に早い返答がありましたし。
豊田氏:
こっちとしては「え,こんなに対応してもらえるの?」という感覚でした。選手会を作ってよかったなと素直に思います。
4Gamer:
例えばちょっと前なら,カプコンプロツアーの大会が世界中で開催されていて,選手側の負担が大きかったりもしましたよね。その当時にカプコンに対して,選手サイドからなんらかのアプローチをしたことはなかったんですか?
ときど選手:
自分個人としてはやってないですね。そういうルールなんだと理解して参加していました。
4Gamer:
改善してほしい部分はあったんですよね。
ももち選手:
もちろんありました。個人個人で内容もレベルも違ったと思うんですが,しんどいな,こうなったらいいなというのはありました。でも当時はそういうものだと分かったうえで参加していて,それについていけなかったらプロじゃないよね,みたいな考えがあったことは否定しません。
4Gamer:
プロとしての矜持みたいな?
ももち選手:
ええ。あと,カプコンカップに出られなかったらプロとしての価値が下がってしまう……という危機感を持ってそれぞれの選手が参加していたと思います。だから改善してほしいと思うよりも,ただ必死にやっていただけですね。
4Gamer:
なるほど。
ではちょっと視点を変えて,現在のSFLにしてもカプコンプロツアーにしても,カプコンが「今年で終了です! 来年のプロシーンはありません!」と言ったら,直近ではプロとしての活動が事実上できなくなるわけですよね。選手会としては,未来の話もしていく感じですか?
ときど選手:
確かに選手の立場としても聞きたいですね。仕事としてこの競技に全リソースを賭けていいのか。
ももち選手:
極論ですが,突然終了してもしようがない部分はあると思っています。ただ,そうならないために我々ができることがあるとも考えてます。
例えばSFLも,スケジュールやギャラの問題でスタープレイヤーが出ませんっていう話になるとSFLの価値が下がるし,人気がなくなることで終わってしまうかもしれない。そうならないために,この選手会が動いているわけです。担保してもらわないと困るというよりも,そうならないために動いているというイメージですかね。
ときど選手:
カプコンさんの都合で終わるというのは,視点としてはなかったんですが,確かに聞きたいことではありますね。
ガチくん選手:
確かに今でもそうなんですが,SFLがずっとあるものだと思ってしまっているかもしれません。ストVからスト6に変わってもあるわけで。
ネモ選手:
そういう問題も含めて,自分たちが意見を言えずに終わった時に,選手として後悔が残ってしまうので,後悔しないためにも意見を伝えていきたいですね。
4Gamer:
選手会は,最終的に選手の利益を代表する組織なわけですからね。
ゲーム業界には古くから「やりがい搾取」があるわけですが,eスポーツ界隈にも若干そういう空気があるなと思ってます。
ももち選手:
確かに同じことが言える気がします。
4Gamer:
あとプロとの距離が近いのもややこしいところですよね。「自分にもできるかも」と思ってしまうあたり,YouTuberとかに近いかもしれません。ちょっとがんばれば自分にもできるんじゃないかって。
ももち選手:
なるほど。
4Gamer:
そういう部分はもうちょっと距離があってもいいと思ってますし,ちゃんとした教育もあるべきですよね。そこで生きていくための心得,みたいな。
ときど選手:
だから会則も作る必要がありますね。規則に則ってしっかり活動しているというのをアピールするのは,必要なことです。
4Gamer:
確かに。そういう心得がないと,ポッと出てきた人が炎上してしまったりするわけで。足かせやストッパーがないと,結局は周りからもよく思われなくなりますしね。
ももち選手:
そういう話だと,自分の視点で言うならここにいるカワノ選手は若手ですが,ずいぶん成長したなぁと思っています。ひと昔前であればこの場にいなかったと思いますけど,今は選手会のメンバーにいてもまったく違和感がないし異論もない。
立場が人を作るじゃないですけど,自分が見られている立場であり,業界を引っ張っていくという自覚が本人にも出てきているのではないかと。
4Gamer:
そういうことが今後大事になっていきますよね。見られるというのは,思っているより大変なことだと思いますし。
ときど選手:
という話を聞いて,カワノ選手のご意見は? まだ一度も話をしてないから振ってみたり。
カワノ選手:
いや……みなさん話がうまくてなかなか入りにくかったというか(笑)。
カプコンプロツアーの過密スケジュールの話がありましたが,当時の自分からすると海外大会に出るのは難しく,活躍できる場がほとんどなかったんです。スト6になって同じようなことになると,業界全体の衰退にもつながるので,若手代表として意見を集めて伝えていきたいですね。
ガチくん選手:
ほかのジャンルのeスポーツの話を聞くと,FPSは人気もあってお金も回っているイメージがあるんですけど,大型大会で結果を残せないと活動してない(=大会に出ていない)期間も長いそうで,そうなると,ただただチームが選手に給料を払っているだけの状態が続いていたりもするようです。
そういう話を聞くと,ぼくらはリーグがあって,大会があって,恵まれているほうだと感じます。それをさらにいい環境にしていきたいと考えてます。
ときど選手:
プロの経験も長いしね。溜め込んだ知識もあるから,意見を交換して作っていきたい。
やることがないのが一番の理想。何か問題が起こったときに,何もできないということが問題なわけで,そこを排除したい
4Gamer:
ちなみに,選手会の会長ってもう決まってるんですか?
ネモ選手:
今はひとまず作ったという段階なので,まだ決まっていません。ただ,一般社団法人のような形でやっていくのであれば,代表を立てる必要はありますよね。
4Gamer:
では今後公式サイトを作ったり,そこで活動報告をしたり,そういうことは?
ネモ選手:
まずは簡単なものから始めようと考えていて,ひとまずGoogleフォームなどでライセンス持ちの選手から意見を集めて,時期を決めてカプコンに伝えることをしようと考えています。
4Gamer:
あぁ……「ライセンス持ち」というのはいいボーダーラインな気がします。キリないですもんね。
ときど選手:
ええ。プレイヤー全体からだとどうしても際限がないので……。やれることは限られているので,できる範囲で活動していきたいなと。
ネモ選手:
意見が来たからといって全部を伝えられるわけでもないですし,そのなかで重要なものを伝えていきたいですね。
4Gamer:
じゃあ活動報告なんかも定期的に。
ときど選手:
一般社団法人にする時点で,しっかりしないといけないですよね。
豊田氏:
ほかの選手会とかだと「意見書を提出しにいきました」などは報告してますね。我々もそういう感じにして,内容までは開示しない予定です。
4Gamer:
社団法人化するにはいろいろと整えないといけないですねえ。
豊田氏:
基本的には,先ほども話しましたが自分たちから動くのではなく「今あるものをよりよくしていく」のが方針です。何かをやらなきゃいけないと考えると,逆になんのためにあるのか分からなくなってしまいますし。
ももち選手が言っていたように,やることがないのが一番の理想です。何か問題が起こったときに何もできなかったのが問題なわけで。
4Gamer:
ともあれ,ようやくできてよかったです。
では時間も押してますし,最後にメンバーの皆さんからコメントをよろしくお願いします。では……左のガチくんから。
ガチくん選手:
ぼくはすごく野球が好きなんですが,プロ野球みたいなリーグになっていくといいなって思います。専業プロとして食べていける人が,どんどん増えていってほしい。
あとももち選手が言うように,選手会は動く必要がない……というのが一番望ましいですよね。僕は30台前半で,メンバーの中でちょうど真ん中あたりの世代になります。同じ世代のプレイヤーの意見を聞いて,結果にコミットしていきたいです。
ときど選手:
これから問題として顕在化しそうなのは,健康面ですよね。根詰めて練習しすぎて体調を崩したり,精神面で追い詰められたり。そういうプレイヤーも実際にいるわけで,個人的には,選手会を使ってそこをなんとか解決していきたいと思っています。
個人の理念として「自分たちが後悔しないようにできるだけ長く活動していく」というのがあります。選手会としてそれをやっていくのが正しいかどうかは分かりませんが,個人的にはそういう部分をケアしていきたいですね。
ネモ選手:
スポンサー契約したけど全然食べていけない,そういうひどい契約をしてしまう若い子も多いと思います。そういう子をあまり増やしたくないですね。
プロとしてやっていこうというのに,それで食べていけるか分からない,そんな内容の契約を結んでしまうと,後悔だけが残ってしまいます。選手として後悔がないような環境を整えていきたいと思ってますし,そういうこともあって選手会を作ったので,ぜひ気軽に相談してほしいです。
ももち選手:
今の話とちょっとカブりますが,なにより業界として今後長く続いてほしいし,そのためには若いプレイヤーに入ってきてほしいです。そしてそのときに,右も左も分からないプレイヤーが不利な契約をさせられるような不利益を被らないようしていきたいですね。
選手を守るのはもちろんですが,プロを目指したくなるような業界になってほしいというところで,自分たちが選手会としてやれることはまだあるはずです。メーカーやJeSUさんと対話をして,みんなで協力して,よりよい環境を作っていければと考えています。
カワノ選手:
なんで一番若手がトリなんですか……。
4Gamer:
たまたま一番右にいたもので(笑)。ではお願いします。
カワノ選手:
今回,カプコンさんとJeSUさんに対してプレイヤー目線で意見を伝えるということで選手会を立ち上げましたが,ぼくがこの5人の中で一番若いので,プレイヤー目線……とくに若手の意見を吸い上げていけたらいいなと思っています。
若い選手が相談しようと思っても,ほかの4人はあまりにも重鎮なのでちょっと話づらい部分もあるだろうと思うので,「カワノくらいならいいか」みたいなカジュアルな感覚で相談してください(笑)。
4Gamer:
ありがとうございました。
あんまり活躍しないほうがいいのは分かってますが,今後の活躍に期待してます!
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