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[CEDEC+KYUSHU]「FINAL FANTASY XIV」「FINAL FANTASY XVI」のサウンド担当が語る,2タイトルの並行開発で得られた知見と使用されたサウンド技術
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印刷2023/12/27 13:00

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[CEDEC+KYUSHU]「FINAL FANTASY XIV」「FINAL FANTASY XVI」のサウンド担当が語る,2タイトルの並行開発で得られた知見と使用されたサウンド技術

 2023年11月25日に福岡・九州産業大学にて開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2023」で,「2つの地獄は手をつないでやってきた! 〜ファイナルファンタジーXIV / ファイナルファンタジーXVI サウンド開発日誌〜」と題されたセッションが行われた。

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 このセッションでは,スクウェア・エニックス サウンド部 コンポーザー/サウンドディレクターの祖堅正慶氏と,同サウンドデザイナーの絹谷 剛氏が登壇。「FINAL FANTASY XIV」(以下,FFXIV)および「FINAL FANTASY XVI」(以下,FFXVI)に使用されたサウンドテクノロジーや,大規模開発におけるサウンドセクションの役割,並行して開発が進められた2つの大型タイトルに関わることで得た知見などを語った。

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FFXIVとFFXVIとで比較する効果音のデザインと実装


 セッションの前半では,絹谷氏が主にFFXIVとFFXVIの効果音の実装の違いを解説した。
 さて,あらためての説明は不要だと思うが,両タイトルとも大規模タイトル,しかもFFシリーズのナンバリングタイトルである。そんなFFXIVとFFXVIだが,スケジュールの関係上,並行して作業を進めなければならず,ゲーム性にベストマッチするサウンド仕様をそれぞれ設計し,アップデートしていくのはハードな作業の連続だったという。

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 最初に,両タイトルにおけるサウンドデザインのアプローチが示された。FFXVIは,中世ファンタジー風の世界・ヴァリスゼアを舞台に,ダークでシリアスなストーリーが展開されるタイトルであり,また対応プラットフォームの性能の進化もあって,最新作に相応しい写実的な表現が可能となった。そのためサウンドデザインは,現実音を中心に迫力を重視したシネマティックなサウンドをメインに据える形を目指したという。

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 一方FFXIVは,「FFシリーズのテーマパーク」を標榜しており,長い運営期間の中で,これまでのシリーズ作品の要素を取り込んだり,まったく別のタイトルとのコラボレーションを数多く行ったりもしてきている。そうした各タイトルの世界観を再現するべく,サウンドデザインもシリアスなものにはシネマティックな表現を,コミカルなものにはカートゥーン調の表現を心がけるなど,1つ1つのコンテンツにマッチすることを第一に幅広く制作しているとのこと。

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 続いて,両タイトルのサウンドポジションの違いが示された。なお,このセッションで言うサウンドポジションとは,効果音の再生座標の解像度のことである。FFXVIでは,以下のスライドで表示されている黄色い球が,サウンドの再生位置と最大音量を示している。それぞれのサウンドの内容は斬撃や衣擦れといった,キャラクターの動作に紐付く音であり,再生位置がキャラクターの可動部位ごとにバインドされている。

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 一方FFXIVでは,キャラクターの動作に応じてさまざまなサウンドが再生されるが,基本的な再生位置はキャラクターの足元になっている。
 これは,MMORPGのように極めて多くのキャラクターが画面内に同時に表示されるゲームでは,多数のサウンドポジションを継続して取得し続けると多くの処理負荷がかかり,それ以外の要素に影響が出てしまうからとのこと。そこでサウンドの再生座標の追従を可能な限りシンプルな作りにして,サウンドの再生数の増加や,マルチプレイのタイトルらしいにぎやかなサウンド体験の処理に回しているそうだ。

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 また現在のサウンドポジションには「高さ」の概念が存在するが,FFXIVリリース時には想定していなかったという。
 たとえばFFXVIの場合,巨大なモンスターが振り上げた触手の先にサウンドが追従し,再生位置が見た目に応じた高さになる。これをイマーシブオーディオのような,プレイヤーを360度取り囲むような立体音響環境で再生すると,実際に頭上から音が聞こえるというサウンド体験を得られるというわけである。

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 一方FFXIVは,ゲームがリリースされた2013年当時は,ようやくサラウンドスピーカーシステムが入手しやすくなってきた頃であり,音源の高さの違いを実際に音の違いとして認識できる環境を整えているプレイヤーはまだ少なかった。
 しかし現在では,イマーシブオーディオ環境を整えるのはそんなに難しくはない。そうした状況に直面して初めて,絹谷氏らは簡素化していたサウンドポジションの高さについて悩むことになったという。これについては,アンビソニックス(イマーシブオーディオへのフォーマットの1つ)化する際に高さの情報の扱いを補正したり,そもそもの実装のやり方をアップデートしたりと,今なおいろいろな対応を行っているとのこと。

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 次に,サウンドの距離減衰について解説がなされた。FFXVIでは,サウンドの距離減衰の仕組みとして,音源が遠ざかるにつれて音量が小さくなるとともに,徐々にくぐもっていくという機能を採用しているとのこと。

キャラクターが滝から離れるほど水音が小さくなり,同時にくぐもっていく
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具体的には,サウンドの聴取位置と音源との距離に応じて音量を左のグラフのように指数カーブで,ローパスフィルターのターゲット周波数を右のグラフのようにリニアに減衰させていくことで実現しているという
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サウンドの距離減衰のイメージ図
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 一方FFXIVは,内製のサウンドドライバの世代の都合で,音量だけの減衰のみの実装となっていたとのこと。ただサウンドデザイナーとしては,より自然な表現を目指し,サウンドデータの作り方には工夫を凝らして実装していたと絹谷氏は語る。
 たとえば滝の効果音は,近くで聞こえる明瞭な音の成分と,遠くで聞こえるくぐもった成分の2つの効果音に分割したという。それぞれの再生位置は同じだが,ローパスフィルターをかけた側の効果音の可聴範囲を広く取ることで,距離によってサウンドの明瞭度が変わるような効果を実現した。なおこの手法は,チェックボックス1つで同様の効果を引き出せるようになった現在でも,細かなニュアンスを表現するために活用しているそうだ。

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 サウンド聴取位置については,FFXIVでは当初,カメラ位置とするスタンダードな実装にしていたとのこと。しかしあるとき,プレイヤーから「自分のキャラクターの足音を一番ハッキリ聞きたいのに,近くのキャラクターの足音のほうが大きく聞こえてしまうのをなんとかできないか」という指摘を受けたそうだ。
 指摘された現象がなぜ起きたかというと,FFXIVはカメラの距離を最大20メートル程度までとかなり広く任意で引くことが可能で,かつマルチプレイのゲームであることが影響していた。つまり,自分のキャラクターよりもほかのキャラクターのほうがカメラの近くに入ると,結果としてそちらの音が大きく聞こえるわけだ。

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 各効果音の音量は音源の聴取位置との距離によって決定されるため,実装としては正しい結果ではあるのだが,プレイヤーの体験を第一とするならば,何とか対応できないかと考えた結果が,「サウンド聴取位置設定機能」の実装である。
 この機能では,サウンドの聴取位置をカメラ位置から分離し,自分のキャラクターとカメラ間の直線上でプレイヤーの任意の位置に置くことができる。そうやって,聴取位置の選択をプレイヤーの選択肢の1つとすることで,プレイヤーのさまざまなニーズに応えることができるようになったと,絹谷氏は語った。

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 その一方で,FFXIVのサウンド聴取位置設定機能により,新たに生じた課題もあった。それは,音量聴取位置を自分のキャラクター寄りにした場合に,カメラとキャラクターの間にあるサウンドが,見た目には前方にあるにもかかわらず,音がサランドスピーカーのリアチャンネルから再生されてしまうというものだ。

 そこでFFXVIのサウンド聴取位置設定機能では,FFXIVのそれと異なり,音源との距離を測る基準となる座標のみを分離して,新たに音量聴取位置としてキャラクター位置に定義したという。
 これにより,音量は効果音とキャラクターとの距離によって,定位はカメラに対する効果音の向きによってそれぞれ決定されるようになった。上記のような,キャラクターとカメラとの間に効果音が発生するようなケースでも,自分のキャラクター周囲の効果音をより迫力ある音量で再生しつつ,音源の方向はカメラから見たままに再生されるようになったというわけである。

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 絹谷氏によると,こうした自分のキャラクターの動作に紐付くサウンドをしっかりプレイヤーにフィードバックして,より没入感や爽快感を感じるサウンド体験を提供する試みは,さらなるアップデートを目指しているとのこと。
 ただ,残念ながらFFXIVでは聴取位置を分離するFFXVI同様のアプローチは実現できず,またマルチプレイのゲームということから,ほかのキャラクターが重なる場面はどうしても避けられないため,再生音がゴチャゴチャしてしまうという問題があるという。

2021年のアップデートにて,自分のキャラクターの効果音と,ほかのキャラクターの効果音とで可聴範囲を変えることにより,差別化を図ったという事例も示された
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 セッション前半の終盤には,リバーブ(残響)システムの解説がなされた。FFXVIでは,動的リバーブの「REREREシステム」を採用したとのこと。これはキャラクターの頭部から複数のレイを飛ばして周辺の空間の情報をリアルタイムに取得(レイキャスト)し,シーンにマッチしたリバーブ表現を生成するというもの。

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 マップ上の建物や地面などの各オブジェクトに設定されたコリジョン(衝突判定)が,レイで形成された球に衝突すると,その球はリアルタイムにリサイズされていく。そのリサイズされた空間の情報が,リバーブエフェクトのパラメータにリアルタイムに反映されることで,リバーブが常に変化していくという。

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 そうしたレイキャストによって得られる情報は,レイの線分の長さと,衝突した先のコリジョンに埋め込まれているマテリアル情報とのこと。REREREシステムでは,その2つの情報から4つパラメータを導き出し,リバーブエフェクトに渡すことで,シーンにマッチしたリバーブ表現を作り出しているそうだ。

 1つめのパラメータは「空間の反射率」だ。飛ばしたレイが,衝突した先のコリジョンが持つマテリアルに設定された0〜1の反射値を検出するわけだが,それらの値の平均値が空間の反射率となる。金属など音がよく反響しそうなマテリアルほど高い反射値を持っており,空間の反射率が高いほど高質な音がよく響くイメージとのこと。この値は主にリバーブのEQ(イコライザー)補正などに利用される。

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 2つめのパラメータは「空間の広さ」で,広さを求めるレイは水平より上方向に飛ぶもののみを使用している。これは,ほとんどのロケーションに地面が存在するため,より変化の生まれやすいレイのみを計算の対象としたからである。このパラメータでは,飛ばしたレイの長さの平均値を空間の広さとしており,1に近いほど広い空間にいるイメージの設計になっている。この値は,リバーブのリリースタイムなどに活用しているそうだ。

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 3つめのパラメータは「空間の開放度」で,キャラクターの近くの障害物の量や距離を測る意図で設けたとのこと。空間の広さと同様に,計算に使用しているのは水平より上方向のレイのみである。このパラメータは,最初に開放度計算のための距離を指定し,レイキャストして指定距離よりも短いレイのみから算出した平均値だ。空間の開放度が高いほど近くに音を反射する物体が多く存在するイメージで,リバーブの初期反射の強さや密度に影響する。

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 最後のパラメータは「空間の開放率」だ。上記の空間の開放度とネーミングが似ているが別物である。このパラメータは,その空間がどれだけ開けた場所であるかを表すもので,全方向にレイを飛ばし,指定した値を超えるレイの本数がすべてのレイの本数の何%を占めているかを指す。
 多くのマップで指定値を50にしているが,それは「その方向に空が見えている,広い空間が開けている」という意味とのこと。実際にそこまで大きくない空間でも,空が見える穴が多くあったりすると,その空間のリバーブレベルが大きく下がるという効果を意図してこのパラメータを用意したそうだ。

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レイキャストで得た空間情報を4つのパラメータに紐付けて,リアルタイムで変化させる
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空間情報の変化に応じて,カーブを用いてエフェクトパラメータの増減を細かく設定している

 絹谷氏によると,リバーブの調整にはとにかく多くの空間情報の収集とデパックプレイが必要だったという。手順としては,まずマップを巡って各種ロケーションにおける空間の情報をひたすら収集。このとき同時にロケーションごとの「こういう空間では,こんなリバーブで聞こえると気持ちいい」というような,理想のリバーブをリバーブエフェクト上であらかじめシミュレーションしておく。その理想のリバーブに,実際のリバーブが一致するよう繰り返し調整していったそうだ。

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実際のリバーブ
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理想のリバーブ
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前者が後者と一致するよう繰り返し調整を重ねる

 以上のようにREREREシステムを導入したことにより,FFXVIではリバーブのレイアウトコストの大幅な削減と,マップの変化に合わせたインタラクティブでかつシームレスな連続的なリバーブ変化を実現することができたと,絹谷氏は話していた。

 続けてFFXIVのリバーブシステムも紹介された。FFXIVでは,マップに配置したリバーブボックスへキャラクターが侵入することにより,リバーブが判定される。

洞窟の背景オブジェクトを取り除き,上から見下ろすと複数のリバーブボックスが折り重なるように配置されている
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 それぞれのリバーブボックスに設定されたリバーブ値に少しずつ変化がつけてあり,キャラクターが奥に進むほど,徐々にリバーブが強くかかるような仕組みになっている。それは,圧倒的に処理負荷が軽く,また意図しないリバーブのかかりなども少なかったり,見た目でミスに気づけたりと堅牢な作りとなった。
 FFXVIと比較すると,段階的な変化でシームレスとは呼べないが,FFXIVがさまざまなプラットフォームで展開していることや,アップデートによりデバッグ対象のマップが増え続けていくタイトルであることを考慮すると,地味ではあるが,より現実的な実装と言えるわけだ。

 セッション前半の最後,絹谷氏は一口にナンバリングタイトルと言っても,それぞれに異なる課題があり,アプローチのしかたが大きく異なることにあらためて言及。2つの大規模タイトルに並行して携わってきたこの数年間の振り返ると,ワークフローの効率化やサウンドデザイナーのチャレンジに柔軟に対応してくれる優秀なプログラマー陣の存在であったり,そして何より諦めずに改善を重ねる姿勢が重要だったという。今後も内製サウンドの強みを生かした,パワフルで柔軟なサウンド開発を目指したいと意気込みを語っていた。


FFXIVとFFXVIのサウンドを並行して制作した結果,待っていたのは……


 セッションの後半では,祖堅氏が2つの大規模タイトル開発に並行して携わることの大変さや,大規模開発におけるサウンドセクションの役割などについて解説した。

 最初に示されたのは,2022年1月からFFXVIがリリースされた2023年6月22日までの,祖堅氏らのスケジュールだ。まずFFXIVは運営型のタイトルであるため,そのサウンド制作は2022年9月以外毎月埋まっている。またそうやって制作した多数の楽曲を音源化してリリース,さらには多角的にプレイヤーの満足度を上げるべく,アレンジアルバムなども制作している。この時点でスケジュールには空きがなくなってしまうのだが,並行してライブやオーケストラコンサートの準備も進めることとなり,さらに過密になっていく。

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 そのうえでFFXVI本編のサウンド制作をしなければならなかったのだが,リリースが近づくにつれてPVの制作が増え,そのサウンドも作ることとなる。続々とタスクが増えていく過程は,「まさに地獄だった」そうだ。

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 そんな地獄を乗り越えるべく,祖堅氏が取った行動は「自分のタスクをとにかく減らすこと」だったという。具体的には,両タイトルに並行して取り組むにあたり,何を守るか,何を諦めるかの取捨選択を行った。
 守ったことは,まず「ゲーム体験に紐づくサウンド」や「プレイヤーの心を揺さぶるサウンド」を作ることで,これは自身やチームのメンバーが全員ゲーマーであり,自分達の作るゲームが,少なくともゲームとして面白いかどうかをすごく大事にしているからとのこと。またFFシリーズのナンバリングタイトルとして,クオリティを担保したいとも考えたそうだ。

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 一方,諦めたこととしては,「両タイトルのサウンドディレクション」が挙げられた。具体的には,FFXIVのサウンドディレクションは続けるが,サウンドデザインにリードデザイナーを配置し,FFXVIはサウンドディレクターを登用し,制作進行をすべて任せた。さらにそれだけでは足りず,全体的な人員増強を行ったそうだ。
 結果として,サウンド部としてはかつてない人数が両タイトルに携わることとなったが,地獄は解決せず,むしろ全員が地獄を見る羽目に陥ったという。

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 この事例により,祖堅氏が得た知見は以下のスライドのとおり。

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 以降のセッションでは,祖堅氏が昨今の楽曲制作に対して抱いている所見などが示された。最初のお題はインタラクティブミュージックで,あらためて説明すると,ゲームプレイやゲーム内の状況に応じて,楽曲が動的に変化していくという仕組みである。
 この仕組みによってインタラクティブ度が上がると,ゲーム体験へのマッチング度は上がり,ゲームプレイが楽しくなるというメリットが生ずる。またインタラクティブ度が上がると,サウンドデザイナーの自己満足度も上がるので,祖堅氏は「結構大事なモチベーション」と話していた。

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 半面デメリットもあり,インタラクティブ度が上がると,楽曲のインパクトが若干下がる。祖堅氏によると楽曲にもよるため,すべてにあてはまるわけではないそうだが,メロディーや計算された展開がプレイヤーの動的なタイムラインに依存するため,楽曲自体のインパクトが薄れる傾向にあるという。
 また没入感に関しては,楽曲の種類や完成度に依存するため,あまり関係ないとのことだった。

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 大きなデメリットとしては,インタラクティブ度と反比例して制作コストが大幅に上がることが挙げられた。リソース量の増加,プログラマーとのやり取り,どのタイミングで切り替える仕組みを持ってくればいいのかといった多数の実装コストが発生するため,合計すると膨大な制作コストになるというわけだ。
 祖堅氏は,インタラクティブ度を増すことによって得られることと失われることが明確に出てくるとし,「インタラクティブサウンドやインタラクティブミュージックを導入すればいい結果が出ると思われがちだが,やりすぎには注意」との見解を示した。

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 そうしたインタラクティブミュージックの導入も含めて,サウンドのゴールをどこに設定すればいいのかと言うと,祖堅氏はクオリティだとする。
 それでは,何をすればサウンドのクオリティが上がるのか。それは祖堅氏いわく,「ゲーム体験を向上させるサウンドを作る」ことだという。たとえば「オーケストラのレコーディングがしたい」「新しい技術を採用したい」といったことは,本来積極的にやっていいことではあるが,それが本当にゲーム体験の向上──すなわち,ゲームが面白くなることにつながるかどうかは,今一度考えなければならないと,祖堅氏は話していた。

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 以上を踏まえたうえで,昨今のゲームコンポーザーに求められるスキルも以下のスライドのとおり示された。とくに最近は,インタラクティブミュージックを作るにあたり,効果的な楽曲が作れるか否かが求められる傾向にあるとのこと。変拍子だったりテンポが変わりまくったりする楽曲はインタラクティブ化しにくいため,どう処理するか,いかにゲーム体験を高めるような構成にするかといった,ゴールを見据えた制作ができるスキルがゲームコンポーザーに求められるという。

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 最後に祖堅氏は,全体のまとめとして「ゲームプレイで得られるプレイ感情の分析力──つまり,ゲームプレイをすることによってどう感動を得るかを,ゲームプレイを通して取捨選択し,『このゲームだったら,こういう体験を,こういう感情を表してあげよう』という分析力と制作能力が必要になってくる」と語り,セッションを締めた。

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