インタビュー
にゃるら氏に聞く,「NEEDY GIRL OVERDOSE」に込めたディープな想い。幸せな結末は存在しなくても,あなたの思う幸せはあるかもしれない
本作は,ちょっぴり心の弱い女の子・あめちゃんと同棲しているピ(“彼ピ”や“プロデューサー”などの概念を包括する語。必ずしも男性ではない)となり,あめちゃんを人気配信者とすべく育成していくシミュレーションゲーム。あめちゃんは一見すると控えめな性格に思えるものの,ワガママかつ意地が悪いうえ感情の起伏が激しい女の子で,配信時は衣装やウィッグにより“超絶最かわてんしちゃん”へと変身する。
あめちゃん |
超絶最かわてんしちゃん |
2010年ごろからネットスラングとして用いられ始めた“承認欲求”
今回はにゃるら氏に,本作の制作背景や,作中に織り込まれたさまざまなミームなどについて聞いた。その模様をお届けしよう。
※1 心理学者のマズローが「自己実現理論」で定義した承認欲求は「功名心」や「自尊心」に近いものだが,ネットスラングでは一般的に「他人に認知されたい(無視されたくない)」気持ちや「疎外感のアンチテーゼ」的な意味で使われている。
始まりは1990年代のADVをオマージュしたい気持ちから
4Gamer:
よろしくお願いします。本作でまず目を引くのが,非常に特徴的なヒロインの人物像ですが,ゲーム自体もまず「ヒロインありき」だったのでしょうか。
にゃるら氏:
いえ,違います。ヒロインというか,もっと包括的に「美少女ゲームを作りたい」と思ったところですね。僕はセガサターンやPlayStationの時代の美少女ゲームが好きなんですが……(持参してきたソフトを出す)この頃って「ゲームシステムありき」じゃないですか。
4Gamer:
さっそくですね! ええ,「美少女ゲーム=ビジュアルノベル」という構図になるのは,これらの次の世代ですね。
にゃるら氏:
こういうゲームを作りたいと思っていましたし,ノベルゲームだと競合の作品と比較して売れないことは明白だったので,それ以外の方法で美少女をプレイヤーに見せるにはどうしたらいいかを考えました。ヒロイン像を考えたのは,その後です。
4Gamer:
1994年生まれのにゃるらさんからすれば,ここにある美少女ゲームは物心が付くか付かないかという時代の物ですよね。どのようにしてそういったゲームと出会ったのでしょうか。
にゃるら氏:
そもそも美少女ゲームというものをちゃんと認識したのは,小学4年生か5年生くらいの頃に,友達のお兄ちゃんがセガサターンでプレイしているのを見たときでした。「こういったものが存在する」というのは,雑誌などで何となく知っていたのですが,実際にプレイしているのを見て,すごく楽しそうだと思ったんです。それと,文字をたくさん読むのがカッコいいなと(笑)。
4Gamer:
なるほど。
にゃるら氏:
それで自分もやってみたいと思って。その頃,すでにPS2やドリキャスが出ていたので,PlayStationやセガサターンのゲームって安く買えたんですよ。名作とされているタイトルも,子供のお小遣いでいろいろとプレイできる。それで,PlayStationに移植された「To Heart」(※2)や「One〜輝く季節へ〜」(※3)などを遊んでいました。
※2 1997年にWindows 95/98版,1999年にPlayStation版が発売されたLeafのタイトル。PlayStation版のリリースにあわせてTVアニメや漫画,小説など多岐にわたるメディアミックス展開が行われ,美少女ゲームの代表的な作品として一つの時代を築いた。PC版のタイトルは「To Heart」,PlayStation版のタイトルは「ToHeart」である。
※3 1998年にWindows 95版,1999年にPlayStation版がリリースされた,ネクストン・Tacticsブランドの作品。PC版のタイトルは「One〜輝く季節へ〜」,PlayStation版のタイトルは「輝く季節へ」である。
4Gamer:
ところで,お持ちいただいたソフトは大半がセガサターン用ですね。主題歌「INTERNET OVERDOSE」に“脳天直撃”というセガサターン的なワードがあったり,公開されているヒロインの自撮りCGにドリキャス風ゲームパッドを持ったものがあったりしますが,セガが好きなのでしょうか。
にゃるら氏:
はい。とくにセガサターンは,ギャルゲー用マシンとして非常に思い入れがあります。ギャルゲーはPlayStationよりセガサターンの方が面白かったですし。
4Gamer:
セガサターンはX指定やR指定のタイトルを出せたりもしましたし,表現的な意味では自由度が高く,ソフトのバリエーションも豊富でした。
にゃるら氏:
「慟哭 そして…」とか,キワモノのゲームが多かったですね。
4Gamer:
ただ,お持ちいただいたソフトに育成モノは無いですよね。どうして「NEEDY GIRL OVERDOSE」は育成モノになったのでしょう。
にゃるら氏:
まず重視したのは,1990年代後半の美少女ゲームにあったアングラ感や理不尽さと,ミステリー的な要素でした。それを実現するために少女的な鬱っぽさや“心の闇”みたいなものを考えていったら,結果的に育成ゲームになったんです。
最初に決まったのが,ニューレトロ的なアートワークでやっていくことでした。そのアートから「これを今やるなら,テーマは“配信”だよね」と話が進み,“配信者の美少女”をゲームデザインに落とし込むなら「プリンセスメーカー」みたいなイメージだろうという話になりました。
4Gamer:
ゲームデザインを飾るためにアートワークを作るのではなく,アートワークを成立させるためにゲームデザインを考えていったわけですか。
にゃるら氏:
はい。グラフィックスだけでなく,音楽も「Aiobahn(※4)さんに頼みたい」と最初から決めていましたから。
前々からVaporwave(※5)とかニューレトロとかに興味があったのですが,「スター☆トゥインクルプリキュア」という2019年のプリキュアで,エンディングの演出がVaporwaveっぽくて「可能性があるぞ」と思ったんですよ。Vaporwaveが流行したのは一昔前ですが,まだ見つかっていない魅力があるはずだから,アートワークは絶対にこれで行こうと。
※4 韓国出身のコンポーザー。アンビエントやファンク,チルなどのテイストを取り入れたオンボーカルのエレクトロポップを得意としており,ゲーム実況VTuverチーム「ホロライブゲーマーズ」へのテーマ曲提供などでも知られる。「NEEDY GIRL OVERDOSE」では主題歌を含む楽曲全般を担当。
※5 音楽を中心としたアートのジャンル。音楽的な系譜としては,ローファイやFMサウンドを基調とするSynthwaveから派生したもので,1980年代的なシンセサウンドに加え,サンプリング音源を多用することが特徴。
4Gamer:
私もVaporwaveは好きなのですが,プリキュアにあったことは知りませんでした。
にゃるら氏:
Vaporwaveとプリキュアの組み合わせって,なかなか意外ですよね。YouTubeで配信されているので,ぜひ観てください。
にゃるら氏:
見た目だけでなく,操作感もPC-98時代のゲームをイメージしているので,当時を知る人が懐かしい気持ちになってくれたら嬉しいですね。若い人なら「こんな感じだったんだ」と,新鮮な気持ちで楽しめると思います。それに,ゲーム内でクリックするのって,素直に面白いじゃないですか。
4Gamer:
確かに,昔のゲームにはクリックで動作する隠し要素を探す楽しみがあったりしました。
4Gamer:
レトロ感がフィーチャーされているわけですが,劇中設定として時代背景などはどうなっているのでしょうか。
にゃるら氏:
いちおう現代ということになっていますね。あくまでジョーク的なものですが,Windowsが「XP」などにならず,「95」や「98」といった年号表記のまま「2020」まで推移した世界なんだという設定はあったりします。だからPCの画面がクラシックなのだと(笑)。
4Gamer:
スタッフはにゃるらさんが集めてこられたんですよね。Aiobahnさんだけでなく,キャラクターデザインのお久しぶりさん(※6)も。
※6 イラストレーター。コミック誌の表紙イラストなどを手がけており,ハウツー本への寄稿や,オリジナルイラストを元にしたフィギュア「お久しぶりイラスト『華野しらゆき』」がユニオンクリエイティブから発売されるなど,多方面から注目を集める。「NEEDY GIRL OVERDOSE」ではキャラクターデザインを担当。
個人的に「若手の絵師で一番絵がうまい」と思っているんです。それで「承認欲求女子図鑑 〜SNSで出会ったヤバい女子たち〜」(以下,承認欲求女子図鑑)という本を出したとき,イラストをお願いしたお久しぶりさんですが,今回も声をかけてみました。そしたら普通にOKをもらえたんです。
4Gamer:
ヒロインの外見的なデザインはどのように決めていったのでしょうか。
にゃるら氏:
自分が好きな女の子のイメージと,歌舞伎町の若い子なんかで流行っている地雷系のイメージを組み合わせていった感じですね。あと,超てんちゃんは明るく,あめちゃんに対してギャップがある派手な色合いで,とお願いしました。お久しぶりさんの画力が高いのはもちろんですが,イメージをいい感じに解釈してもらえたので,ああいったキャラクターが出来上がりました。
お久しぶりさんは最近のファッションへの理解がものすごく深いんですよ。今,女性の“自撮り垢”ってものすごく増えていますが,あのコスプレイヤーでもグラドルでもない,女性の世界に向けて女性がセレクトしているような服装や,その地雷感が,うまく再現されていると思います。
4Gamer:
一方で,開発はワイソーシリアスさんでセッティングされたんですよね。PV制作などもでしょうか。
にゃるら氏:
プロデューサーの斉藤さん(ワイソーシリアス代表の斉藤大地氏)が,開発/ディレクション/デザインのとりいさん(※7)を連れてきてくれたんです。PVに関しても,ニコニコで東方などの映像作品を作っている動画クリエイターの人達を紹介してもらいました。
※7 Webコンテンツを中心に企画/デザイン/コーディングを請け負うXemono(くせもの)の代表取締役。同社のキャッチコピーは「新しい最高をつくる お前の案件も最高にする」。
4Gamer:
PVの中でも「INTERNET OVERDOSE」のMVは反響が非常に大きかったですよね。ボーカルがKOTOKOさん(※8)というのも,本作の空気感と非常にマッチしていますし。
※8 数多くのゲームやアニメの楽曲でボーカルを担当してきた,言わずと知れたボーカリスト。I’ve Sound所属時に作詞を手掛けた「さくらんぼキッス〜爆発だも〜ん〜」は,今では一般的となった“電波ソング”の原点的な楽曲のひとつ。
にゃるら氏:
当初は誰に歌ってもらうかが決まらず,「主題歌を作らない」という選択肢もあったんですよ。そんな中で「誰にでも頼めるとしたら,誰に歌ってほしい?」って斉藤さんに聞かれたので,「あらゆるハードルを無視して言えば……KOTOKOさんです!」と。Aiobahnも「KOTOKOさんしかないじゃん!」となりました。レコーディングも立ち会ったんですが,生歌でもすごくうまくて,ビックリしました。
4Gamer:
KOTOKOさんのレコーディングとなると,札幌でしょうか。
にゃるら氏:
いえ。ツアーの真っ最中で,他の用事もあって東京に来られていて,そのタイミングでした。歌だけでなく「声優かな?」と思うほどセリフもうまくて,さすが電波ソングを歌っているだけのことはあるなと思いましたよ。
4Gamer:
ああいった,歌とセリフの中間みたいなラップでもない曲というのは,やっぱり「Change my Style 〜あなた好みの私に〜」などをモチーフにされたのでしょうか。
にゃるら氏:
はい。他には「巫女みこナース・愛のテーマ」にも強い影響を受けています。あの頃の曲が大好きなんです。
4Gamer:
「夏はマシンガン」なんかもそうですが,当時は流行っていましたね。それにしても曲中の転調ぶりがすごい。KOTOKOさんのblogでは「私の歌唱スキルを総動員した感じの楽曲です」と書かれていましたし(笑)。
にゃるら氏:
あと,すごくAiobahnが驚いたことがあって。
4Gamer:
と言うと?
にゃるら氏:
Aiobahnが,「I've Soundのハモは複雑な多重録音をしているんじゃないか」と話していて。歌の中でKOTOKOさんの声がすごく響くので,どういうやり方をしていたのか,聞くように頼まれていたんです。
4Gamer:
確かに,サビでハモが入ったときのブワッと来る感じは特有ですよね。
にゃるら氏:
それで実際KOTOKOさんに聞いてみたら「普通に録ってるだけなんですよね」と言われて。
4Gamer:
えっ?
にゃるら氏:
「私って,重ねると多重録音しているように聞こえる声質らしくて」と。実際,普通にLとRで録った音を重ねてみると,確かに2つじゃなく聞こえるんですよ。
4Gamer:
ちょっと理解の範疇を超えた現象ですね。
にゃるら氏:
でも本当にそうで,狐につままれた気分になりました。Aiobahnも音源を聴いて愕然としていました。
別の機会に,I've Soundの高瀬一矢氏にこの話をうかがったが,「(特殊な加工は)まったくしていません。L/Rで録ってミックスしているだけです。ダブリングは音源の加工でなく別テイクを重ねて作るようにはしていますが,それくらいです」とのこと。
それは顔が良くて倫理観の壊れた女の子とイチャつくために
4Gamer:
先程,アートワークをベースにゲームシステムを考えていったというお話がありましたが,その設計はどのように進めていったのでしょうか。
にゃるら氏:
まずは「育てるには何が必要だろう」というところから考えていきました。そこから「フォロワー数」などのレベル的なステータスが決まり,さらに精神的な部分のステータスとして「好感度」や「ストレス」,「やみ度」を設定しました。あとは値が増減する要素を決めれば,「モンスターファーム」みたいにステータスを管理するゲームとして成立するだろうと。
4Gamer:
大枠の構成に必要な要素から整えていったわけですね。
にゃるら氏:
全体的な設計の部分では,「妹!せいかつ 〜モノクローム〜」という1000円以下のゲームに強く影響を受けています。そのゲームはストーリーを追うのではなく,どれだけ妹と交流できるかを深堀りしていくゲームなんですよ。フルプライスの美少女ゲームはいろんなストーリーを追えることが特徴ですが,ミドルプライス未満のゲームなら1人のヒロインと深く交流できることを突き詰めるべきだと感じましたので,「NEEDY GIRL OVERDOSE」でもヒロインとの共同生活を重視しました。「今日はゲームをする」とか「今日は匿名掲示板で自演する」とか,いろんなイチャつき方ができますよ。
4Gamer:
設定やアートなどに一貫したコンセプトを感じるので,全体的な「こういうゲームにしたい」というビジョンが最初からあったのかなと思っていたのですが,ゲームらしい設計にするためシステムやヒロイン像といったディテールを彫り込んでいった感じですか。
にゃるら氏:
自分としても,遊びや攻略の要素があるPC-98時代の美少女ゲームが大好きですから。
4Gamer:
お持ちいただいたソフトの中に,制作の参考にしたものなどはありますか。
にゃるら氏:
とくに好きな「EVE burst error」と「野々村病院の人々」ですね。両方ともアドベンチャーゲームで,選択肢を選んで話を進めていくんですけど,プレイヤーが驚くような仕掛けがいっぱいあるんですよ。「EVE burst error」では,2人の主人公が交錯しながらシナリオを進めていくとか,犯人の名前をプレイヤーが推理して入力しなければならないとか。そういった面白さも「NEEDY GIRL OVERDOSE」に入れたいと思いました。
にゃるら氏:
あと「さよならを教えて 〜comment te dire adieu〜」(以下,さよならを教えて ※9)みたいな“電波ゲー”(※10)が大好きなんです。そういう狂気的な雰囲気と,今の女の子達がSNSで叫んでいるものって重なるんじゃないかと思っていまして。そういう狂気をうまくゲームシステムに組み込むことができないか……というのは考えました。
※9 2001年3月2日にCRAFTWORKから発売されたビジュアルノベル。教育実習生の主人公が,夢で見た“天使”に似た少女と出会ったことから,秘められた狂気が徐々に紐解かれていく。
※10 2000年前後のアダルトゲームで流行した,狂気性や不条理性の要素が強いサイコホラー系の作品群。“電波”と呼ばれるルーツは,一般的にはleafの「雫」(ないし,そのインスパイア元である大槻ケンヂ氏の小説「新興宗教オモイデ教」)とされる。
4Gamer:
電波ゲームと若い女性って相性が良いそうですね。「さよならを教えて」は私も好きで,昨年開催された20周年記念イベントにも行ったのですが,そこで「若い女性ファンが多い」という話を聞いて驚きました。
にゃるら氏:
そうなんですよ。長岡建蔵さん(※11)のファンは若い女の子が非常に多くて。僕も先日,たまたま「さよならを教えて」イベントのスタッフをしていた女性と会ったんです。その方は18歳の頃に「さよならを教えて」をプレイして,CRAFTWORKのドアを叩きに行って「私をスタッフにしてください!」と言ったそうで。
※11 「さよならを教えて」制作当時はビジュアルアーツ傘下ブランド・CRAFTWORKの主宰で,同作のプロデュース・企画・原画などを担当。近年はデザイナー/イラストレーターとして活動しており,「第57回日本SF大会ジュラコン」オリジナルキャラクターのデザインなどを手がけている。
4Gamer:
旭さん(※12)でしょうか。行動力がすごいですね……。そのような女性向けのアプローチというのも「NEEDY GIRL OVERDOSE」では意識しているのでしょうか。
※12 漫画家。代表作は,新潮社「くらげバンチ」で2017年8月〜2021年5月にかけて連載していた“イケメン殺人鬼たちが織りなすバイオレンスサスペンス”(公式紹介文より)の「殺彼-サツカレ-」。双葉社「月刊アクション」にて「ひぐらしのなく頃に 鬼」を連載予定で,詳細は1月25日に発売の同誌3月号で発表。
にゃるら氏:
はい。そうやって心に深い傷を刻んだりするような作品を僕も作れたら,と思ったんです。エログロが大好きだったりするような若い女性って,感性の鋭さから来る思春期特有のいろんな考えとか複雑な思いとか,そういうのを含めた狂気じみた叫びとかを,電波的なものに乗せて発信したいと思っているはずなので,共感してもらえるところはあると思います。
4Gamer:
そういう傾向の美少女ゲームって2000年頃に流行しましたが,最近はあまりないですよね。
にゃるら氏:
「さよならを教えて」という頂点的な作品が生まれて,“出尽くした”感はありますね。でも,近年も「ドキドキ文芸部!(Doki Doki Literature Club!)」があったりしますので,火は絶えてないですよ。最初に「ドキドキ文芸部!」を遊んだときは英語のままだったので,内容はよく分からなかったんですけど,「とにかく凄いことをやっている」というのは伝わってきました。
4Gamer:
ヒロインについても聞かせてください。にゃるらさんはnoteで「脳内の美少女とイチャつくことはできない。なら、せめて理想の美少女を創造して世にだしてあげたい。そして、僕ではない不特定多数のオタクに愛されて欲しい」(※原文ママ)と書かれていましたね。
にゃるら氏:
自分の脳内に描いた理想像の美少女が現実に存在しないというのは,まず分かっていましたから。ものすごくオタクで,ものすごく可愛くて,ものすごく寄り添ってくれて,寂しいときインターネットをしていれば都合よく現れる,そんな“インターネットエンジェル”を作りたかったんです。インターネットをしている限り,男性も女性も彼女を意識するし,彼女のことが好きになる,そういう存在を。
4Gamer:
「愛される」ということがキャラクター造形のファクターになっているわけですね。
にゃるら氏:
そのために,皆の頭の中にいる“理想のインターネットの女の子”を,できる限り高い解像度で表現できるように頑張りました。
4Gamer:
ヒロインのビジョンは,どのように固めていったのでしょうか。
にゃるら氏:
「ちょっと暗めな女の子が配信するときだけ明るくなる」というイメージは最初からありました。僕は「キラッとプリ☆チャン」(以下,プリチャン)が大好きなんですが,アニメの2期に,まさにそういったキャラクターが出てくるんですよ。普段は前髪で目が隠れていて,ちょっと根暗な女の子なんだけど,配信するときはメチャクチャ明るい女の子になるという。そこからすごくインスピレーションを受けています。それに,キャラクターに2面性を持たせるというのは普通に面白いですし,
4Gamer:
ただ,「プリチャン」からインスパイアされたものをそのまま表現すると,明るい話になりそうですよね。それに対して「NEEDY GIRL OVERDOSE」は……。
にゃるら氏:
ダークな方向に走るのは自分の趣味ですね(笑)。
「プリチャン」の女の子は中学生なのでSNSにのめりこまないと思いますけど,もし深くやっていたら,いろんなことがあると思うんですよ。そういう想像を膨らませてテキストを書いていきました。
4Gamer:
そういうダークな女性をヒロインに据えた……と言うよりか,ダークなところのある女性に惹かれるのは,どういった部分からですか。
にゃるら氏:
僕自身いろいろとやりましたから,精神の弱さとか承認欲求の強さとかに素直に共感するんです。「自分が女性だったらこうなっていただろう」みたいに思えるところもありますし,母親がそういう女性なので,特性を理解することもできる。
あと,SNSに「容姿がすべて」となる世界があることも,僕は悪いと思っていないんですよ。承認欲求が強いからこそ,そこで自分に自信を持つことができて,生きていける女性がいる。「NEEDY GIRL OVERDOSE」では,そういう女の子を描きたいと思いました。
4Gamer:
「NEEDY GIRL OVERDOSE」のテーマは,根底的な部分では前向きなものなんですか?
にゃるら氏:
前向きに育ててSNSで活躍することもできますし,どんどん鬱屈していって退廃的な暮らしを楽しむこともできます。
プレスリリースにも“「ハッピーエンド」がこのゲームにあると思いますか?”とあるのですが,やっぱりインターネットをやり続けることがハッピーエンドとは考えにくい。でもハッピーエンドでないことが必ずしも不幸というわけでもないですから。承認欲求がオーバーフローして奇行に走ったとしても,破滅を迎えたとしても,それが“不幸”だとは限らない。
4Gamer:
つまり,受け取り方はプレイヤーへ委ねる形に。
にゃるら氏:
何が幸福につながって,何が不幸につながるのかは,結局のところ分からないですから。SNSの炎上を逆に利用する方法だってありますし。客観的に幸せそうな人でも,当人的には辛いことがたくさんあったりもします。今回,そういうインターネットでの出来事をそのまま描きたいと思ったんです。それがハッピーかアンハッピーかは,プレイヤー自身に決めてもらえればと。
4Gamer:
その「インターネットでの出来事をそのまま描きたい」という部分では,「承認欲求女子図鑑」で取材された方々を参考にしているそうですね。
にゃるら氏:
はい。「承認欲求女子図鑑」を書いていたとき,「インタビューを受けたい」と自分から言ってくださった女性の方が多かったんですよ。承認欲求が強い方々ですし,人生って凝縮すると基本的に面白い話になりますので,それを語りたいと。そういった人生にプレイヤーが介入して,2人で人生を作っていくというのが「NEEDY GIRL OVERDOSE」です。
4Gamer:
根底的なビジョンは非常に現実的ですよね。その一方で,主題歌の歌詞は「架空の美少女」がテーマとなっていますが。
にゃるら氏:
主題歌は「あめちゃんとピ」をイメージしたものではなくて,「超てんちゃんにガチ恋しているオタクの見た幻覚」をイメージしたものです。勝手に幻覚を見て,勝手に“インターネットエンジェル”って呼んでいるオタクです。
4Gamer:
当人でなく第三者的な視点なんですね。逆説的に捉えれば,本編で“生身の女性”みたいな部分は重視しているわけですか。
にゃるら氏:
そうです。最近,「花束みたいな恋をした」(※13)という映画を観て,メチャクチャ面白かったんですが,それにもすごく影響を受けています。サブカルカップルの話でして,そのパンフレットを読んだら,「監督がカップルのInstagramを何十時間も眺めて,現実を追求した」みたいなことが書かれてあって。僕もそれに近いことをやってきた……まあ,Twitterを10年間やってきたので自動的にそうなっただけなんですけど,「承認欲求女子図鑑」でインタビューした経験も含め,「こういうときは,こういうことを言う」みたいなリアリティを詰め込んでいきました。
※13 東京テアトルおよびリトルモアの配給で2021年1月に公開された映画。サブカルチャーを愛好する男女の恋愛と破局を描く。劇中,押井 守氏(アニメーション/映画監督の押井 守氏が本人役で出演)が登場し,主人公達が仲を深めるきっかけとなる。
4Gamer:
私も観ましたよ「花束みたいな恋をした」。目当てはサブカルカップルというより押井監督だったのですが。
にゃるら氏:
僕も押井監督が目当てでした(笑)。
他にも,例えば……(持参してきた書籍を出す)ゴスロリの女の子の変わった人生を描いた大槻ケンヂさんの「ゴシック&ロリータ幻想劇場」や,海猫沢めろんさんの「左巻キ式ラストリゾート」などは,ヒロインのディテールの部分でいろいろ影響を受けています。
にゃるら氏:
「左巻キ式ラストリゾート」は普通の美少女ゲーム(エムトリックスのブランド・ぴいちぐみから2003年に発売された「ぷに☆ふご〜」)が原作なんですけど,ノベライズにあたって話がシリアスに変えられているんですよ。オタクが大好きな,美少女なのにシリアスで,メタでという話になっていて,しかも海猫沢さんは元デザイナーなので,遊んだタイポグラフィもいっぱい入っているんです。こういう変化球をたくさん入れたいと思いました。
4Gamer:
(「左巻キ式ラストリゾート」を見せてもらい)「虎よ、虎よ!」(※14)を強烈にオタクナイズしたような,圧倒されるレイアウトですね……。
※14 アルフレッド・ベスターが1956年に発表したSF小説。ジョウント効果と呼ばれる現象に基づくテレポーテーション技術が確立された25世紀を舞台に,「巌窟王」をモチーフとした復讐劇が描かれる。タイトルはウィリアム・ブレイクの詩「虎」から引用したもの。
にゃるら氏:
あと「NEEDY GIRL OVERDOSE」では何か行動するたびに「ぽけったー」(Twitter的なもの)のつぶやきが表示されるんですが,それって基本的に面白くないといけないわけです。そこは「任意読本」(※15)で任意ラヂヲの脚本を見ながら,「こうやってギャグを入れるんだな」や「このテンポで喋ると面白いんだな」というのを研究しました。
※15 同人サークル・Triumphal Recordsによる「任意ラヂヲ」の台本やアートワークなどを収録した同人誌。「任意ラヂヲ」は,ls氏が開発したデスクトップアクセサリ「伺か」(当時の名称は「あれ以外の何か with 任意」)を原作とした,ラジオ番組風の二次創作ボイスドラマ。
4Gamer:
任意ラヂヲは私も大好きでした。ああいう小ネタをガンガン突っ込んでくるようなギャグ要素がけっこう入っているのでしょうか。
にゃるら氏:
僕が好きな女性像として“オタクな女の子”があるのですが,それであめちゃんはオタク的なネタをいっぱい言います。そこはクスッと笑ってもらえるんじゃないかなと。
4Gamer:
それもゼロ年代ネタがボロボロ出てくるみたいな?
にゃるら氏:
ゼロ年代というか,サブカル全般です。ネタ的には1990年代,1980年代のものまでありますね。
4Gamer:
かなり幅広いんですね。一例を挙げて頂くことはできますか。
にゃるら氏:
平成ライダーなどの特撮系は多いですし,急に椎名林檎やオーケンを引用したり,サブカル観を語ったりします。あめちゃんだけでなく,匿名掲示板の空気を再現していたり,そういうネタはいっぱい入れています。関係が深まれば一番好きな映画の話をしてくれるんですけど,それが【ネタバレのため伏せるが,2000年ごろの有名なカルト映画】なんですよ。
4Gamer:
「いかにも」って感じですね(笑)。
テキストに練り込まれた"現実”のテイスト
4Gamer:
ゲームプレイ自体についてうかがいたいのですが,ワンプレイに擁する時間はどのくらいでしょうか。
にゃるら氏:
最初にクリアするまでは3時間くらいだと思います。エンディングは10種類以上あるので,コンプリートするなら30時間はかかるかと。
テキストの総量としてはどれくらいなのでしょう。
にゃるら氏:
14万文字以上あると思います。
4Gamer:
一度読んだメッセージのログというか,ライブラリ的な機能はありますか。
にゃるら氏:
ワンプレイの中でバックログ的に遡ることはできますが,ライブラリはないですね。
4Gamer:
SNSと言えば,バズると「書いていないことを読む人」による“クソリプ”が飛んできたりもしますが,ゲーム内でもやっぱりそういうのはあるのでしょうか。
にゃるら氏:
あります。ファンからの応援もあれば,いわゆるクソリプ的なものもある。そういったSNS感はうまく演出できていると思います。
とはいえ,クソリプも捉え方だと思うんですよ。完全に罵倒しているものは誹謗中傷でしかないですが,応援したい気持ちや愛の強さゆえに気持ち悪くなってしまっているクソリプを好意的に捉えるか嫌悪するかは,プレイヤー次第じゃないかと。
4Gamer:
そのテキストもにゃるらさんが書かれているんですよね。自分の中でないまぜになっている,望ましいものと望ましくないものを書き出して……といった感じでしょうか。
にゃるら氏:
そうですね。Twitterで目にしたクソリプから「このおじさん,実際はこういう気持ちで書いているんだろうな……」というのを読み取って,再現しました。プレイして同情が芽生えたら,現実のTwitterでもクソリプへの理解が深まったりするかもしれないですね。
4Gamer:
美少女の育成を通して,おじさんへの思いやりの心を得られる(笑)。
にゃるら氏:
本作の執筆は,インターネットの感情が暴走している部分を一身に浴びるようなものだったので,いろいろと考えさせられましたね。クソリプおじさんも「決して悪い人達でもないし,応援してくれたり,お金を落としてくれたりもするが,明らかに愛が暴走していて迷惑」で,こういう何とも難しい存在にどう向き合っていけばいいのだろうかと(笑)。
4Gamer:
ゲーム中のクソリプひとつをとっても,その裏には多くの複雑な想いが込められているわけですね。
にゃるら氏:
書くにあたって大量の取材をしていますからね!
4Gamer:
所見の時点で「一発ネタだけの出落ち的なゲームにはなるまい」と思ってはいましたが,その印象以上に心血が注がれているというか,生々しい息遣いを感じます。
にゃるら氏:
僕自身,Twitterでフォロワーが増えたことで仕事をもらえるようになった,Twitterしか取り柄のない……と言ったら変かもしれませんが,そういう人間なので,ここで全力を尽くすしかないと思ったんです。
攻略もいいけどロールプレイもね!
4Gamer:
「予想より」と言うとアレですが,かなりボリューミーな内容なんですね。
にゃるら氏:
インディーズゲームなので,もちろん大作感があるわけではないですが,ヒロインの“難しさ”を感じられる内容にはなっています。
最初のプレイでは,普通のゲームには無い「やみ度」などのステータスを調整する方法を覚えて,感情の起伏が激しい女性にどう接すればいいのかを学んでいくと良いと思います。そこがなかなか時間がかかるところです。
4Gamer:
育成であると同時に,「言うことを聞かないNPCをいかに制御するか」という部分もある感じですか。
にゃるら氏:
そういう側面もありますね。基本的には,穏やかな暮らしをしていれば穏やかな子ですから。そこでスパルタ教育をするプレイヤーが悪い……悪くもないかもしれないですけど,フォロワーを増やすためにはそうしなければならない。
4Gamer:
ゲームをゲームとして成立させるには,ヒロインを不安定な状況に置き続けなければならないという。
にゃるら氏:
そういうこともあります。
4Gamer:
そういえば,ヒロインの人物像的には「顔が良いから許されているけど,性格と倫理観がぶっ壊れている」ということだそうですが。
にゃるら氏:
はい。単純に,そういう女の子が好きなので。
4Gamer:
とすると,育成や制御と言いつつ,プレイヤーが振り回されるシーンは多そうですね。
にゃるら氏:
プレイヤーもそうですけど,彼女のファンになったオタク達も振り回されることが多いでしょう。顔が可愛いのでオタク達は許すでしょうし。開発チームでも「許せん……しかし許す!」と言いながら開発していました。
4Gamer:
最後に,これからプレイする人に向けたメッセージをお願いします。
にゃるら氏:
大人の考えとして,「たくさんのエンディングがあるからゲームをいろいろ楽しんでね」といった話はしましたが,その一方で「あまりステータスやゲームシステムにこだわらず,自分の好きなようにプレイしてほしい」とも思っています。「公園に行きたいな」と思ったらゲームの進行的に必要かどうかでなく,あめちゃんと公園に出かけたり,好きな日常を過ごしてもらうのが一番良いんじゃないかと。せっかく顔のいい女の子と同棲しているんですから(笑)。
4Gamer:
攻略プレイとロールプレイは別の面白さがありますからね。
にゃるら氏:
なので,1周目はおおまかにプレイしてみてください。
- 関連タイトル:
NEEDY GIRL OVERDOSE
- この記事のURL:
キーワード
(C)Why so serious, Inc. All Rights reserved.