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[インタビュー]私が決めるのはゲームの根幹部分の“フレームワーク”で,中身はプロデューサー達が頑張ります―――開発費100億円でも,ユーザーテストが一番信頼できると語るNEXON Games
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印刷2024/10/09 09:00

インタビュー

[インタビュー]私が決めるのはゲームの根幹部分の“フレームワーク”で,中身はプロデューサー達が頑張ります―――開発費100億円でも,ユーザーテストが一番信頼できると語るNEXON Games

NEXON Games代表取締役 / NEXON Korea Vice President of Development 
パク・ヨンヒョン氏
画像集 No.002のサムネイル画像 / [インタビュー]私が決めるのはゲームの根幹部分の“フレームワーク”で,中身はプロデューサー達が頑張ります―――開発費100億円でも,ユーザーテストが一番信頼できると語るNEXON Games

4Gamer:
 これから重要な会議だという,こんな忙しいタイミングにありがとうございます。会場は大体回りました?

パク氏:
 ええ,大体は。

4Gamer:
 何か気になるのありましたか?

パク氏:
 うーん,そんなには……?

4Gamer:
 手厳しい(笑)。でも今年は,中国とか韓国の人すごく多いですよ。両国とも業界の動きが激しくなってるのかなあ,とか。

パク氏:
 その2国は,最近すごくアクションゲームが多いですよね。ただ私が見ている限り,昨年末から今年の中旬くらいにかけて,“大作”と呼べるものは既にその多くが発売済みのような状況で,大物レベルの話でいうならば,来年末まではあまり出ないんじゃないかなぁというのが個人的観測です。

4Gamer:
 なるほど,そういう視点なんですね。
 そういう,アクションゲームを作っている会社さんもそうですが,今回のTGSでの私のミーティングって,そのほとんどがそこそこの規模の会社の社長さんでして,このあたりの規模だと,昔パクさんがそうだったように,クリエイターと社長を兼務することが多いじゃないですか。それで,みんな同じようなことで悩んでるんだなぁ,って改めて思いました。

パク氏:
 そうですね。私も以前同じような立場だったので分かりますが,今がちょうどいいタイミングだなと思って勝負に出たけど,いざ作り上げて公開するときには市場がすでにパツパツで,ちょっとキツイな……という状態に。たぶん,みんなそういうことを感じていると思います。

4Gamer:
 記事みたいにすぐ出せるものじゃないですしね……。
 あとたぶんですけど,会社を経営していくうえでの数字の部分と,物事をクリエイトしていくうえでの制作の部分で,おそらくここは利害が一致しないことが多いんじゃないかと思うんです。社長であろうとするとクリエイトできないし,クリエイターであろうとすると社長ができない,みたいな。

画像集 No.003のサムネイル画像 / [インタビュー]私が決めるのはゲームの根幹部分の“フレームワーク”で,中身はプロデューサー達が頑張ります―――開発費100億円でも,ユーザーテストが一番信頼できると語るNEXON Games
パク氏:
 まあ,確かにそういうことはありますよね。
 いまの話とも繋がると思うんですけど,いまは市場環境が厳しいので,社長としてやるべきことが以前よりも増えてきているんです。クリエイターと社長を兼任している立場としては,社長としてもっと力を入れてがんばろうとしても,誰かに任せられることでもないので急にやることが増えてきて,その増えたことが簡単かというと……そんなに簡単なことでもないわけですよ。

4Gamer:
 すごくよく分かります。

パク氏:
 そしてご存知のように,ゲームのほうは意外とタイミングも重要で……「運」というかなんというか。でも運もゲームの出来の一部なので,そのまま受け入れるしかありません。受け入れないというわけにはいかないですし。

4Gamer:
 そうやってパクさんも,いままで取捨選択をしてきたわけですよね,ここに至るまで。
 前回お話した時も,本当は4Xゲームが作りたいって言ってましたし(笑)。「経営者としてゲームを作る」みたいな観点で今日はお話してみたいな,というのが僕の今の心持ちです。

※4Xゲーム:eXplore(探索),eXpand(拡張),eXploit(開発),eXterminate(壊滅)の4つの特徴を備えたストラテジーゲームをこう呼ぶ。DOS時代の超名作「Master of Orion」が,最初にその言葉が使われた作品で,誰もが知る有名どころとして「Civilizationシリーズ」や「Colonizationシリーズ」,MoOの変形版の「Master of Magic」などがある(MicroProseの作品とシド・マイヤーばかりだ)

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 パク・ヨンヒョンという名前を聞いて「あぁあの人!」と思い付く人は,そう多くないだろうが,「リネII」や「ブルアカ」,「TERA」などを作った,韓国トップレベルのゲーム開発者だ。滅多に表舞台に現れない人だが,今回時間をもらうことができたので,その様子をお伝えしよう。

[2023/12/29 12:00]

パク氏:
 ふふふ。「The First Descendant」PC / PlayStation 5 / Xbox Series X|S / PlayStation 4 / Xbox One)も無事リリースできたので,全然いいですよ(笑)。

4Gamer:
 あぁその感じ,肩の荷が下りたみたいな。ほっとしてます?

パク氏:
 はい,そうです。外からは分かりませんが,あれは内部的にすごく多くのリソースが使われていたタイトルですから,うまくいかなかったらどうしよう……というストレスが結構強かったです。幸いにも,思ったよりもスムーズに市場に入り込めたのでホッとしてます。
 もちろん今は今で,今後の運営対応についてなど課題もたくさんありますが,市場自体には綺麗に入り込めましたし,ゲーム自体もPvEゲームなので,ユーザーさんにさえ入ってもらえれば,ここからは努力で解決できる問題だと思います。初めての試みとしてはうまくできたかな……という気持ちです。


4Gamer:
 去年11月のG-STARでお会いしたときは,一番ストレスが高かった時でしたね。すみません……。

パク氏:
 (強く頷きながら)はい,そうですね(笑)。

4Gamer:
 しかしこれだけ大きい会社の社長となりましたけど,大きい会社の莫大なリソースを投下したプロジェクトであっても,小さいインディタイトルであっても,成功するか失敗するかってはすごくいろんな要素で決まるわけじゃないですか。さっきパクさんが言ってたように,「運」も無視できませんし。

パク氏:
 はい。

4Gamer:
 昔のように,スタークリエイターがすべてを決断して……みたいな作り方はいまはあんまりしないわけですが,じゃあ例えばNEXON Gamesで何かを作るときって,百選錬磨の経験を積んだ社長であるパクさんの「好み」であったり「主張」であったり「思想」であったり,そういうものって反映されてるんでしょうか。
 反映されているにせよしないにせよ,方向性を最後に決めるのは誰なんでしょう? ……って聞き始めてから思ったんですが,「社長としてゲームを作ること」と「個人としてゲームを作ること」の,どっちの方が答えやすいですか?

パク氏:
 あぁそこは割とシンプルで,私は最初にプログラマーとしてゲーム業界に入ったので,コンテンツの中身を埋めるというより,外の世話をするほうが向いていましたね。自分の関心もそこにフォーカスされているし,「社長として」のほうで答えようかなと思います。

4Gamer:
 了解です。じゃあそっちで話を進めますね。
 ……しかしいま聞いて思ったんですが,パクさんと初めて会ったのは「リネージュ2」の時じゃないですか。そこからのお付き合いですが,実はパクさんがどうやってゲーム業界に入ったのか,ちゃんと聞いたことがないんですよね。まずそこからお話してもらえたりします?

パク氏:
 大学の時は,ずっとマイクロマウスを作ってたんですよ。

※コンピュータを搭載する自立型ロボットで迷路を探索し,ゴールまでに達する最短時間を競う競技

4Gamer:
 あぁ……なんかすごく楽しそうです。

パク氏:
 はい(笑)。まぁそういうことをやっていた関係でIT業界に就職して,そこに3年半ほどいました。それで1996年頃かな,友達とゲーム会社を作って,「マジック:ザ・ギャザリング」みたいなカードゲームをネットワークで遊べるものを作りました。全然ダメでしたけどね(笑)。

4Gamer:
 1996年! 初代Diabloの年ですね。僕が夜な夜なbattle.netに潜ってゲームに明け暮れていたころ,パクさんはすでにタイトルを作ってたんですね……。

リネ2のときのパクさん……若い!(関連記事
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パク氏:
 NCSOFTに入った友達が一人いたんですが,その友達の紹介でNCSOFTに入りました。そこでリネージュ2のプログラムチーム長としての経歴をはじめました。
 そしてローンチして6か月ぐらいで「リネージュ2」の総責任者にもなりましたね。
 その後Bluehole Studioを起こして,そこでTERAを作ってました。僕は,このタイトルは新たなゲーム市場を開いた,とても意味があるタイトルだと思ってます。
 そして,そこから出て作ったのが,今の会社の前身のNAT Gamesです。NAT Games作ったのはいつだったかな……ええと……2013年ですね。

※KRAFTONの前身となるスタジオでもある(KRAFTON

4Gamer:
 NAT GamesがNEXON Gamesと合流したのっていつでしたっけ?

パク氏:
 というか,NEXONと合流してその後NEXON Gamesが出来たんですよね。ええと……正式にNEXON Gamesが出来たのは2022年です。うん,思ったより最近ですね(笑)。

4Gamer:
 ホントに(笑)。

パク氏:
 ええと,ちょっとちゃんと時系列にしてみましょう。
・NAT Gamesの設立が2013年5月
・NEXONの傘下に入って子会社になったのは2018年5月
・NEXON GTとNAT Gamesが合併してNEXON Gamesが出来たのが,2022年3月

という感じですね。

関連記事:ネクソングループ、モバイル向け大型RPG『HIT』の開発会社NAT Gamesと戦略的パートナーシップを締結(2016)

外部サイト:ネクソングループ、人気作『HIT』、『OVERHIT』を手掛ける韓国NAT Gamesを連結子会社化(2018)

関連記事:ネクソン,開発スタジオNAT GAMESおよびNEXON GTが合併へ(2021)


4Gamer:
 ありがとうございます。


「フレームワーク」を作って管理することの重要性


4Gamer:
 パクさんの経歴の中で「リネージュ2」は別として,「TERA」とその次の,NAT Gamesで作った「HIT」とか,そのあたりだと,パクさんはどういう立ち位置で開発に参加してたんですか? 自ら企画したもの……ではない?

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パク氏:
 その2つを例にすると,自分が直接企画はしませんでしたけど,プロデュースはしました。

4Gamer:
 PD?

パク氏:
 日本風に言うと……ディレクターなのかPDなのか。どっちだろう。肩書きと名称は一緒でも,韓国と日本で役割の中身がちょっと違いますから。

4Gamer:
 それもそうですね。
 じゃあその時の話でいいんですが,新しいプロジェクトって,どうやって立ち上がってくるんですか? 誰かが「やりたい!」って言い出して企画書の形になるのか,それとも会社の方向を決めているパクさんみたいな人が「次はFPSで行こう」って言って,それを受けて誰かが作るのか。

パク氏:
 後者ですね。

4Gamer:
 おお,そっちなんですね。ちょっと楽しそうな話になりそうです。

パク氏:
 市場の状況を見て,社内のパイプラインやキャパシティを含めて考えて,どの時点で何をするのかを考えます。このタイミングならこういうことができるかな,とそんな感じで。

4Gamer:
 それってすごく重要な役割を,一番最初から担っているわけですよね。

パク氏:
 自分なりに,自分のロールも大事だと思っているんですが,それに対して逆にこれは守ろうということもありまして「ゲームコンテンツの中に入り込まない」ということです。

4Gamer:
 ゲームの中身にはタッチしないということですか?

パク氏:
 そうです。クリエイターが作りたい部分に関しては,あまりタッチしないです。その線を守るのが,私は結構重要だと思います。

4Gamer:
 なるほど。じゃあ例えば……例えば「ブルーアーカイブ」にしましょう,日本で有名だし。
 「ブルーアーカイブ」みたいなタイトルを作ろうって言い出したのはパクさん?

パク氏:
 (日本語で)そうです。

4Gamer:
 その次の,例えば世界観とか,キャラクターの設定とか,そのあたりになったらもうタッチしないんですか? それともそのあたりまでは決めるんでしょうか。

パク氏:
 そういう意味では,自分からはいろいろと言いました。
 アニメ調のキャラクターゲームだから,まず先に日本で出しましょうとか,制服を着るキャラクターがいるとして,制服を着せたらあとで融通が利かなくなるんじゃないかとか。アレンジしづらいですよね。

もう夏は終わっちゃったけど「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」iOS / Android
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4Gamer:
 なるほど,なんか分かってきました。

パク氏:
 そういうところまでは,私はフィードバックをします。でももちろん,どんなキャラクターで,どんな性格で,どんなストーリーが進んでいるのか……など,そういうことには私はタッチしません。

4Gamer:
 そのフィードバックのやり取りは,結構多いんですか?

パク氏:
 開発前から開発初期の段階は非常に多いです。初期段階が過ぎると,当然,密度が低くなりますが。

4Gamer:
 なるほど。じゃあ世界観とかキャラ設定とかそういう話ではなくて「フレームワーク」を決めるんですね。

パク氏:
 はい,そうですね。

4Gamer:
 フレームワークを決めた後は,プロデューサーなりデザイナーなりが頑張る。そこには基本的には口出ししない。

パク氏:
 はい。

4Gamer:
 絶対しないんですか?

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パク氏:
 絶対は……ないですね。

4Gamer:
 そういう時って,どういうタイミングで,どんなときに口を出すんですか?

パク氏:
 開発とはずっとコミュニケーションを取りつつ,話を聞いていて,このままだと問題になりそうだと思ったときに口を出します。

4Gamer:
 そしてそれは「ゲームの内容」の話ではない。

パク氏:
 そうです。ディテールを見てコンテンツとして面白くないとかそういう話ではなく,フレームワークをベースにして,あとでローンチする際に問題になりそうとか,ちょっと解決が難しい問題に発展しそうとか,そういうことに気付いたときにフィードバックしますね。

4Gamer:
 じゃあ逆に言うと,パクさんが揺らいだらゲームが揺らぐわけですね。パクさんの決めたフレームワークがちょっと曲がったら,ゲームそのものが曲がっちゃうというか。

パク氏:
 まったくそのとおりなので,出来る限り揺らがないように努力しています。フレームワークが最初から最後まで何回も変更となったりすると,ゲームの開発過程だったり内容だったりに大きく影響しますので,できるだけ変えないようにします。

4Gamer:
 でも,例えば同じ「ブルーアーカイブ」の例で言うと,ああいうゲームを作ろう!ってパクさんが言って,言ってから完成するまで時間があるわけですよね。「ブルーアーカイブ」で何年ぐらいですか?

パク氏:
 大体3年半ぐらい。

4Gamer:
 つまり,3年半後のことを想定して,フレームワークを作らなきゃいけないわけじゃないですか。

パク氏:
 そうです。

4Gamer:
 それ,すごく難しくないですか?

パク氏:
 もちろん難しいですよ。でも何か新しい情報のアップデートがあるときに,そのたびに対応するようにしてしまったら,今のように開発の規模が大きくなった状況では,対応したところで全体状況から見るとプラスよりマイナスになるケースのほうが多いと思っています。

4Gamer:
 途中で「これはもう絶対ダメだな」って思うこともあると思うんですね。ないですか? 市場が変わりすぎちゃって,もうこの作品はout of dateだろう,みたいな。

画像集 No.008のサムネイル画像 / [インタビュー]私が決めるのはゲームの根幹部分の“フレームワーク”で,中身はプロデューサー達が頑張ります―――開発費100億円でも,ユーザーテストが一番信頼できると語るNEXON Games
パク氏:
 これはちょっと個人的な意見ですが,ゲーム業界には,きちんと出来上がってこれくらいの成果が出るだろうと思ったものが,もっと上手く結果になったり,または思ったほどは売れなかったり,そういうことはあると思うんです。
 でも,ゼロか百かじゃないけど,売れるかまったく売れないか,のようなドラスティックな差異は出ないと思っています。

4Gamer:
 結果ではなく,作っている途中で「もうこれは時代遅れかも」と思うことは?

パク氏:
 ゲームに“時代遅れ”はないと思いますよ。
 もちろん,開発開始から結果が出るまで時間がかかりますので,時代遅れになりうるという見方は理解します。そして,成果が予想より下回ることもあるかと思います。
 でもちゃんとしたもの作れば,まったく売れないということはないと思います。そもそもそういう意味では,我々は開発期間も遅れないようにとても気を付けていますし。

4Gamer:
 でも世の中には,たぶん途中で作り直したり,根底から変えたりして,どんどん発売時期が伸びていくゲームがあるわけじゃないですか。パクさんは,それをやらない?

パク氏:
 ええ。基本的に私はそういうことをやらないです。なぜなら私の観点では,何かを変えると,プラスよりもマイナスが大きく見えるので。

4Gamer:
 そこも含めて,社長としての責任を負っているわけですね。

パク氏:
 (重々しく頷く)そうです。


ゲームだけでなく,開発チームそのものも「フレームワーク」から決めていく


4Gamer:
 こういうのは会社によって違うと思うんですが,例えばNEXON Gamesの場合だと,ゲームができるまで,ざっくり何プロセスぐらいあるんですか?

パク氏:
 うーん,基本的には,最初にチームビルディングをして初期プロトタイピングを行います。
 そのプロトタイピングがもし良ければ,ゲームのコア部分が面白いかどうかを確認するFGTを行います。そしてもしこれが問題なさそうなら,実際に作り始めます。そしてクローズベータ,オープンベータをして,最後にポリッシングしてリリース,かな。
 何プロセスかで言うと……初期チームビルディングとプロトタイピング,FGT,開発,そしてポリッシング。ざっくり4段階程度ですかね。

※フォーカスグループテスト(Focus Group Test)のこと。少数の選ばれしユーザーでテストを行ってフィードバックを得ること。ゲームへの没入度や内容,バランスなどのデータを収集するわけだが,ユーザーのフィードバックの力量にも左右されるのでなかなか難しい。

4Gamer:
 チームビルディングとプロト制作をほぼ一緒に動かすんですね。

パク氏:
 ええ,そうです。いろんなジャンルのゲームを開発するわけですが,どのようなものを作るかによって,異なる分野の人材が必要とされますので,それらを一緒に効率よく動かすのが重要です。

4Gamer:
 ビルディングは立候補ですか? それともパクさんが,お前ここ,お前はここ,って。

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パク氏:
 意外とここは泥臭くて,この人とこの人が一緒に働いたときにうまくいくかな? みたいなことを考えながらやります。まずそもそも能力面で合格しているか,そしてほかのメンバーの弱点を補完してくれるか,などのマッチングをテストします。実際には合わないかもしれないので。

4Gamer:
 そこは,いい意味で人間臭いんですね。

パク氏:
 人は得手不得手があるので,どのジャンルのゲームを作るかを決めてから,そのジャンルに対応する人材をまず入れます。そして,この人はここがちょっと足りないな,それを補完できる人を入れようとか,この人とこの人は相性がいいかも,とか,そういう風にしてちょっとずつテストするわけです。

4Gamer:
 なんか,すごく大変そうです。

パク氏:
 コアメンバーの相性が良ければ,そこに相性が合うような,または能力的に相棒になれるような人達を集めて,初期のメンバーをそんな風にして作ります。
 もちろん人間のことなので,いろんな関係だったり問題だったり,予想もしなかったことがあったりするわけで,そういうときにはまた修正します。

4Gamer:
 なんかアレですね。マジック(マジック:ザ・ギャザリング)のデッキ組んでるみたいですね。

パク氏:
 そうですね(笑)。

4Gamer:
 ……でも確か今って1300人ぐらいいますよね?

パク氏:
 1400人です。

4Gamer:
 100人増えてた!

パク氏:
 さっきのフレームワークの話と一緒で,フレームワークに当たる人達を決めて,その人達に合うような,相棒となれるような人を決めます。その人達がまた,自分と一緒に作業できて,相棒となれる方々を決めるという。

4Gamer:
 なるほど。ある意味,非常に効率的ですね。

パク氏:
 効率的というか,自分がそこまで几帳面ではないので……(笑)。
 まぁでも補足をするならば,そういうことを任せることによって,彼らも成長するわけですから。

4Gamer:
 それはそうなんですけど,任せたら成長すると分かっていても,任せるのが怖い場面ってあるじゃないですか。

パク氏:
 まあ……いろいろありますね,はい。

4Gamer:
 そういうとき,どうやって自分の中でケリをつけているんですか?

パク氏:
 そういうときは「オマエはそんなことを完璧にできるほど几帳面じゃないだろう?」と自分に言い聞かせて,ここまでだと決めますね。

4Gamer:
 うーなるほど。それが結構難しいんですよね……。


最初はMMORPGプロジェクトだった「The First Descendant」


4Gamer:
 ちょっと話を戻しますが,チームビルディングの前段階でもたぶんいくつかのアクションがあると思うんです。前段階の企画を走らせることを決めるとき「これでいこう」って決めるまでは,どういうプロセスがあるんですか?

パク氏:
 私は「何をしよう」までは決めますが,その後の具体化は完全に任せています。

4Gamer:
 あぁいえ,パクさんが「じゃあFPSで行こう」と言ったとして,次のプロジェクトで作るFPSを,作る人とそれを決める人は誰なんでしょうか? 聞き方を変えると,「The First Descendant」は,あれを作ることを誰がどうやって決めたんですか?

画像集 No.010のサムネイル画像 / [インタビュー]私が決めるのはゲームの根幹部分の“フレームワーク”で,中身はプロデューサー達が頑張ります―――開発費100億円でも,ユーザーテストが一番信頼できると語るNEXON Games
パク氏:
 分かりやすいし全部覚えてるので「The First Descendant」で話しますね。
 あれはイ・ホンジュンPDがどこかで発表したことがあって資料もありますが,当時はNEXON Koreaに「グローバルで通用するMMORPGを作ってください」と言われたのです。

4Gamer:
 え,あれ最初はMMORPGプロジェクトだったんですか。

パク氏:
 そうなんです。それで,私が知っている人たちの中で,海外でMMORPGの開発経験があって,最も知識があるイさんを誘って,入社してくれました。
 それで,どういったものにしようかという話をしたんですが,彼の話によると,海外で通用するMMORPGはコストを大変多く見込まないといけなくて,今のこの会社規模ではとても難しいと言われました。

4Ganer:
 なるほど。でもそれがどうやってシューティングに?

パク氏:
 NEXON Koreaが我々に要望したのは「海外で通用するMMORPG」だけど,MMOというジャンルにこだわっているというよりも,海外で通用する,というほうが大事なんじゃないかなと着目をして,それで出来た案が,いまのルートシューターです。
 彼と一緒にこれを検討して,これならいけそうだとなって「じゃあこれで」と進めました。

4Gamer:
 まあでもやはり,下から上がってくる企画を最終的にパクさんがGOを出してるわけですね。
 しかし……NEXON Koreaもなかなかすごいです。こっちはどうですか? って言ったらそうだね,と。

パク氏:
 (日本語で)いやまあ,紆余曲折(笑)。
 もちろん僕も,彼らの要望に対して違うものを持っていくときに心配はあったけれど,NEXON Koreaとは常に「こういうアイデアとかどうですかね」と意見を交換しているので,無事に今の結果になったんだと思います。

4Gamer:
 前回のインタビューのときも思いましたけど,NEXON Koreaは規模の割に柔軟性高いですよね。

パク氏:
 ふふふ,そうですね。
 いつもあれこれ相談し合っているので,話が通じやすいというのもあります。

4Gamer:
 あれほどの規模の会社なので,融通が効かないとか,上から何かが“神託”として降ってくるようなイメージがちょっとあって。

パク氏:
 こういう風にプロジェクトを進めたいときは,NEXON Koreaの社長と副社長がレビューをして決めてます。


どこまで計算しても,確度の高い数字なんて出ない


4Gamer:
 しかしここまではずっと概念的な話をしてきましたが,現実にタイトルを決めるときには,数字が重要なわけじゃないですか。そういう部分についてはどういう議論がなされるんですか?

画像集 No.011のサムネイル画像 / [インタビュー]私が決めるのはゲームの根幹部分の“フレームワーク”で,中身はプロデューサー達が頑張ります―――開発費100億円でも,ユーザーテストが一番信頼できると語るNEXON Games
パク氏:
 MMORPGであれば,作るときにどれくらいいきそうなのか,大体の想像がつきます。しかし「ブルーアーカイブ」や「The First Descendant」のようなゲームを作るときは,自社でも私個人も,このようなゲームを作ってマーケットに出した経験がないし,韓国内でもこういうゲームが作られたことがほとんどありません。

4Gamer:
 前例がない,と。

パク氏:
 私たちもリサーチをしましたが,海外のどの会社がこれだけ売った,というデータはあります。でもそれはとてもラフなデータでしかなくて,内部データがないじゃないですか。だから正直なところ,これがどれだけ売れるかは分からないんです。
 ただの結果でしかない市場データはあるけれど,我々がもしゲームを出したら,これぐらいのプレイヤーを獲得できて,これぐらいの売り上げが出るというような詳しい数字までは分からないです。この状態で「出したらヒットしますよ」とか言ったら,それは嘘つきに近いかなと。

4Gamer:
 つまり,分からない状態で走るんですね。

パク氏:
 はい(笑)。

4Gamer:
 日本にもありますけど,それが分からないと走らない会社はたくさん見たことあります。でもその「分からないけど走る」っていうのは,聞くだけならカッコいいですが,なかなか難しいですよね。

パク氏:
 ゲームを作ったらこれくらい儲かるという収益のことは,分からないかもしれません。でも,こういうゲームを作れば喜んでくれるユーザーがいるというのは,感覚的に分かります。開発途中でもテストをして,そこからユーザーのフィードバックをもらっているわけです。

4Gamer:
 でもそれは繰り返しですけど「数字」ではないですよね。

パク氏:
 そうですね。彼らがどれぐらいダウンロードしてくれて,ログインしてくれて,課金してくれるというのは分からないですけど,「これはぜひまたやりたいです」とかそういう感想はいただくわけです。ユーザーがプレイしてくれるかも,ということは分かります。それを信じて,私たちは走っているわけです。

4Gamer:
 でもかなりの開発コストがかかるわけですよね。

パク氏:
 最近は開発コストがどんどん上がる傾向があるので,1000億ウォン(約110億円)に近いのもありますね。

4Gamer:
 そうですよね……。それだけの,1000億ウォンに近い開発案件を,なんて言うか,ユーザーテストで,これは大丈夫そうっていうだけで,いけるものなんですか?

パク氏:
 (日本語で)まあ,他に方法がないですから!

4Gamer:
 いやあ……すごいです。
 それはNEXON Gamesの企業文化であり,もしかしたらNEXON Koreaの文化でもあるのかな。それを許すということは,たぶんそういうことですよね。

パク氏:
 NEXON Gamesの代表として言いますと,はいそうです。私がこうやってやっているのが正しいでしょうし,そして言った通り結果を出しています。NEXON Koreaも,私がやっていることについてOKを出してくれています。

4Gamer:
 言うは易し,行うは難し,だと思うんです。

パク氏:
 でもこの部分だけで言うならば,私がやっていることは韓国ではそこまで特殊ではないと思いますよ。ほかの大手メーカーも,こんな感じでやってますから。

4Gamer:
 そうだったんですね。

パク氏:
 こういう方法でベッティングすること自体は,韓国ではそこまでイレギュラーではありません。まぁ真価のほどは分かりませんが,私としてはこうしたいので,やってるだけです。

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上層部に「このゲームはこれくらいの数字が出せますよ」と言うのは通用しないと思います


4Gamer:
 ではもうちょっと話を進めるんですが,タイトルを大きなIPにしようとする動きが韓国はそこまで多くなさそう……? な感じがしてるんですが,例えばパクさんのとこだとブルアカとか,もっと大きなIPにしようとか,そういう方向には進まないのでしょうか。

パク氏:
 ブルーアーカイブは幸いにも市場に応援していただいたタイトルなので,私たちもその方向にトライはしています。
 しかし,おっしゃる通りで韓国は「IPを作ろう」という方向に進んではいますが,それをどうやって作るのか,その方向にいる人たちが何も持っていないのです。

4Gamer:
 それはどういう意味です?

パク氏:
 そもそも韓国は,新規IPを立ち上げて育成して,いろんな横展開をするということに関して,全般的にそれほどの経験値がない状況なわけです。なので,何をやろうとしても「それは初めてやりますね」とか「これは初トライですよ」みたいなことになってて,要はインフラがそこまで整っていないわけです。
 IPを立ち上げるには,もう少し時間がかかると思います。もちろんやりたいですし,やってはいるんですけどね。

4Gamer:
 なるほど,インフラが弱くて受け取れないということですか。

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パク氏:
 簡単な例でグッズを一つ作ることを考えても,日本はたとえばアクリルスタンドを作りたいというときに,それを製造する会社や,連絡すべき会社がはっきりしていますよねきっと。そのあとの工程や,やるべきことがすべてプロセス化されていて,物事がスムーズに進められます。
 しかし韓国では,どこの会社に連絡をして,誰と話せばいいのかという,そういうところからの話になります。その後に続く連絡もまったく同じで,これを1つ1つクリアして進めなければなりません。こうしたことで,大変な時間がかかるようになっています。

4Gamer:
 あぁ「インフラが整っていない」というのはそういうことだったんですね。

パク氏:
 韓国ではポップアップストアなんかもそこまで数は多くないですし,ブルアカでやりましたけど,韓国で何かをやろうとすると,ほぼ我々が初ですね。

4Gamer:
 んーということは,やはり話が戻っちゃいますけど「数字」が重要になってくると思うんです。
 やり方はそんな特殊ではないとパクさんは言ってましたけど,でも最終的に数字の設定はしますよね?

パク氏:
 そうですね。
 例えばブルアカだと,日本のマーケットでは,皆さんがプレイしているような二次元ゲームがたくさんあります。ルートシューターのジャンルでは,海外ではプレイしているユーザーがたくさんいるわけです。
 なので,海外のユーザーや海外のマーケットを,数字として参考にはします。ただ,その数字の正確さだったりは怪しいですし,内部データを発表するわけはありません。なので,その数字の信頼性とか,そのまま信じていいのかとか,そういうところまで確証が持てないですよね。

4Gamer:
 うーん……言い方がちょっと難しいんですけど,数字はオマケ? いいタイトルを作って,ユーザーに評価された結果のオマケでしかない。オマケというか「副産物」かな。

パク氏:
 オマケはちょっと……。ユーザーの生の声は確実なものなので,数字はその評価に対しての,相対的かつ不確かなものです。

4Gamer:
 でもプロジェクトのどこかの段階で数字の設定をしますよね。

パク氏:
 一応は(笑)。でも目標は目標です。
 新規ジャンルのゲームを作っているので,いくら計算を繰り返したところで,それが本当に当てはまるかどうかは確かではないですよね。つまり,どれくらい儲かるかという計算もできないわけです。

4Gamer:
 数字の設定はするけど……するけど,そんなに深く捉えない? いや難しいな。

パク氏:
 (日本語で)するにはします。でもそれは確実な数字じゃないです。

4Gamer:
 まぁここをこれ以上突っ込んでも,ただの会社のプロセスの話なのでいいとして,でもやっぱりすごいと思います。
 表にはそんなに出てこないですが,やはり数字ありきでゲームが作られていくことも多々あるわけで,100万本売るにはどのジャンルのどういうものを作ればいいか,世界で売るにはどの要素を入れればいいか,などの逆算から始まっていったりするので。

パク氏:
 例えば今の“世界で売る”っていう話であればAAAとかが該当すると思うんですけど,AAAを作る開発費は,昔なんかとは比較にならず,今となってはもうケタが違いすぎます。

4Gamer:
 確かにそうですね。ちょっと前まで,AAAって50〜60億円くらいだった気がします……。

パク氏:
 数字から逆算して作る方式も,以前の制作費が少なかった時代であれば,それでもよかったと思います。そのようなスタイルでプロジェクトを始めるのはいいかもしれませんが,開発費が少しずつ高くなってきている状況では,いざリリースするときに,そこまでの“誤差”が積もり積もって突然全体が崩れやすくなります。
 その基準で考えると,ユーザーフィードバックを中心にすることが,現状ではもっとも頼れる基準だと思います。

4Gamer:
 なるほど。一周回った感じがありますね。

パク氏:
 上層部に「このゲームはユーザーに受けますよ!」と自信を持って話せば通じるとは思いますが,「これくらいの数字を出せますよ」というのは通用しないと思います。なぜなら,その売り上げの数字はいろんな状況によって変わるものだからです。
 昔の開発費が少なかったころは,予想と違って稼げないゲームもあったけど,当時は基本的にコストが少なく,損失が出たところでそんなに多くはありません。

4Gamer:
 ほかで当てれば挽回できましたしね。

パク氏:
 ええ。でも今は費用が大きくなっているから,逆に予算をきっちり決めて,数字を基準にして動くのは良い結果を生まないんじゃないかと思います。ユーザーのフィードバックを当てにしておけば,売れる/もっと売れる,とかそういう程度の違いはあるかもしれませんが,まったく売れずに開発費用がパーになることはないと思いますよ。

4Gamer:
 パクさんがもっとも重要視しているのは,ユーザーのフィードバックであると。

パク氏:
 はい。

4Gamer:
 それって,パクさんがゲーム開発者として経歴をスタートした時から同じなんですか?

パク氏:
 最初は……どういう感じでしたかね。作ることすらとても大変だったので,ここまではできなかったと思いますよ(笑)。途中で経験が溜まって,そのあたりで。

4Gamer:
 ターニングポイントはどのへんでした?

画像集 No.014のサムネイル画像 / [インタビュー]私が決めるのはゲームの根幹部分の“フレームワーク”で,中身はプロデューサー達が頑張ります―――開発費100億円でも,ユーザーテストが一番信頼できると語るNEXON Games
パク氏:
 ゲームがうまくいかなかったときですね(笑)。

4Gamer:
 「面白いゲーム」を作ることだけに集中してるんですね。今も昔も。

パク氏:
 ご存じのように,これが社長の立場になると「面白いゲーム」と「市場に通用するゲーム」は完全には一致しないです。しかし全体的に,大きな観点から見ると,ずっとそこを見てますね。

4Gamer:
 なるほど。NEXON Gamesが大きくなるのも分かります。

パク氏:
 それはそれで頭を悩ませることも多いですが(笑)。

4Gamer:
 というか,昨年11月に会ったときから100人くらい増えてましたし!
 とりあえず「The First Descendant」がうまくいってそうで何よりです。次の大きなタイトルで,また新しいものを見せてください。

パク氏:
 次は……なんだろう? 「Project DW」か「Project DX」かな。

※「Project DW」は,アラド戦記IPを使った新規プロジェクト。「Project DX」は,MMORPG「デュランゴ(Durango)」のIPを使った新作

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[2024/04/17 09:00]

4Gamer:
 おお,どっちも期待のやつですね。
 ではそれらが始まるまで,しばらくは胃が痛くなることなく休息してください(笑)。今日はありがとうございました!

パク氏:
 ありがとうございます。

――――2024年9月27日
  • 関連タイトル:

    The First Descendant

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