プレイレポート
[プレイレポ]シニカルでシュールな鳥と動物たちの法廷ADV「鳥類弁護士の事件簿」隼の弁護士が事件の真相に迫る
19世紀のフランス・パリが舞台の本作は,ノートルダム寺院やルーブル宮殿,コンシェルジュリーなど,実在の場所が次々登場。弁護士である主人公の“ジェイジェイ・ファルコン”と,助手の“スパロウソン”が,さまざまな依頼を受けてパリ中を駆け巡り,裁判で依頼人の無罪を勝ち取るために奮闘する。
「逆転裁判」(洋題:Ace Attorney)を思わせる作品だが,本作の主人公はなんと隼。助手は雀で,ほかのキャラクターも,猫やカエルなどの動物なのである。
アートは,19世紀の風刺画家であるJ・J・グランヴィルによるもの。ロマン派を代表する作曲家,カミーユ・サン=サーンスの楽曲と相まって,美しくも不思議な世界観が創り出されている。
無実の罪で起訴されたフランス国民を助けるため,熱い法廷バトルを繰り広げる本作の魅力をお届けしよう。
テンポの良い展開
そこに絶えず挿入される鳥ギャグの数々
本作の物語は,隼の弁護士ジェイジェイ・ファルコンのもとに,ひとつの依頼が舞い込むところから始まる。依頼主は,アントニャン・モフロワという猫の紳士だ。娘のフェリシエンヌが,殺“獣”事件の容疑者として捕らえられているため,無実の罪から娘を救ってほしいという。
ファルコンとスパロウソンはまず,フェリシエンヌが収容されているコンシェルジュリーに出向き,話を聞いてみることになる。
いかにもツンとしたお嬢様という感じのフェリシエンヌ。一見たいした動機もなさそうな彼女に,なぜ殺獣の容疑がかかっているのか。まずは彼女から話を聞き出さないと |
フェリシエンヌとの会話から,彼女に容疑がかかった理由がなんとなく見えてくる。しかし事件の全貌は未だ見えてこず,なぜ被害者は殺されなければならなかったのかと理由も分からないため,さらに調べを進めていくことになる。
登場人物との会話には,頻繁に選択肢が出てくる。それまでの話の流れや会話の内容を考えて,言うべきこと,取るべき行動を決める必要があるのだ。
また調査内容は,人物への聞き込みだけではない。事件が起こった場所や,関係者との会話などで浮かび上がってきた場所に直接出向き,証拠品を集めることも大事なのである。
マップに時計のシンボルマークが付いている場所を訪れると,ゲーム内で1日が経過する。裁判の期日は決まっているため,残りの日数を考えて行く場所を選定することも重要になってくる。
マップ上に表示される「!!」マークの場所を訪れると,特別なシネマティックシーンが見られる。視聴したことによって日数が進むことはないので,後回しにせず見ておきたい |
的を射た選択肢を選べず会話が終了してしまった場合や,証拠のある場所を訪れることがないまま日数が経過してしまった場合,大事な証拠や事実を知ることがないまま法廷パートに進んでしまうことになる。しらみつぶしに会話の選択肢を選んで解を得る,ということはできないので,操作は慎重に進める必要がある。
主人公は弁護士であるため,強制的に調査をする権限がない。できることも常識的な範囲内に限られるが,弱腰でいるばかりでは調査が進まない場合もある。
証拠を求め,ときには他人の敷地への不法侵入も辞さないなど,強気な作戦が功を奏すこともある(かもしれない)。思わぬ行動がヒントの獲得につながったりするので,状況に合わせて賄賂を贈ったり,尋問したりと,知恵を絞り,頭を柔らかくして謎に挑んでいくといい。
話を聞きたい人(獣)物のアトリエへ到着したが,留守のようだ |
「侵入してもいいんじゃないか?」。常識的に考えれば,良いわけはないのだが……どうしたものか |
現場は,いくつかのエリアに分かれていることも |
現場検証モードでは,左スティックでポインターを動かし,任意の場所を調べられる。怪しい場所があればくまなく探し,証拠を掴んでいく。
調査は基本的に,助手のスパロウソンと一緒に行う。スパロウソンは軽率で考えなしの雀に見えるが,妙にカンが鋭かったり,偶然有用な証拠品を見つけてくれたりすることも。また,主人公と助手の掛け合いはとぼけた味があるので,会話を追うだけでも非常に面白い。
次々と登場人(獣)物が現れると混乱してしまう。スパロウソンが作ってくれる「どうぶつ顔図鑑」で,彼らがどのように事件と関わっているかを確認しよう |
今までに出てきた人(獣)物たちの概要がまとまっている。今まで推理したことをまとめるときにも有用だ |
はじめは少ない手がかりのみの状態で始まる調査パートだが,難解な操作は必要ない。調査の進行により行ける場所も限られるので,無駄な場所で時間を潰す事も少なく,テンポよく進められる。
ただし,闇雲に調査をしていると裁判に役立つ成果が充分に得られないまま法廷に挑むことになるので,ほどほどに緊張感をもって調査を行う必要があるのだ。
なお,軽快なゲームの流れにひと味添える役割をしているのが,鳥ならではといえるギャグの数々だろう。この世界の鳥たちは(主にスパロウソンが),人を馬鹿にするときに「鳥頭」と言うのだ(自分も完全なる鳥のはずだが……)。
それだけにとどまらず,「鳥」ネタの冗談は会話のあちこちに登場し,その引き出しの多さに感心してしまう。日本語訳の際,かなり苦心した点ではないだろうかと思う。
短いメッセージ……19世紀のつぶやきは伝書鳩で行われる!? |
法廷パートで証言の矛盾を突き
依頼者の無罪を勝ち取ろう
ひと通り証拠を集め調査パートを終えると,いよいよ法廷パートに突入する。ここでは事件に関しての証言がなされ,要点がテキストにまとめられる。そのなかから気になる点,矛盾点を見つけ指摘していく。
今回の検事,ラビントン。あまり有能そうには見えない…… |
判事のマキシム。渋い |
証人のヴォラーティ。余計な話が長すぎるが,どこか憎めない |
まとめられたヴォラーティの証言内容。「その手は血濡れだった」という証言が怪しい…… |
証言に疑わしい点があれば指摘する。その理由と証拠を添えることも忘れずに |
指摘が的外れだと傍聴席からはブーイングが起こるが,説得力のある発言ができれば,陪審員も判事も納得してくれる。調査と同様に,あてずっぽうすぎたり証拠が不十分だったりすると,弁護側は不利な状況に陥ってしまうので,事前に調査パートで確固たる証拠を手に入れておくことが大事なのだ。数回のリトライでも核心に迫る内容の指摘ができなければ,質問や指摘のチャンスが打ち切られてしまう。
ジェイジェイ・ファルコンの指摘にコメントする,いろいろな動物の陪審員たち |
証拠品一覧から適したものを選ぶ |
なんとか無罪を勝ち取ることができた。依頼人の娘,元・容疑者のフェリシエンヌも喜んでいる |
ここで少し,「弁護士の仕事」とはどういったものなのかを考えてみたい。「基本的人権を擁護し,社会正義を実現すること」が弁護士という職業としての基本的姿勢であることには間違いない。そして,このような裁判では,容疑者の代理人となって法廷に立ち,公正な裁判のために弁護を行う。
だが,弁護士は“全ての真実を解き明かし,悪を懲らしめる正義のヒーロー”というわけではなく,あくまで「弁護人」という立場で事件に関わる職業のひとつなのだ。
ゲームのプレイを進めていると,もしかすると真実とは違った方向に裁判の結果を導いてしまうことや,裁判の結果からは思ってもみなかった方向に話が進んでいくことがあるかもしれない。
だが,そういった場合でも物語は続いていく。裁判のあとに,真犯人の高笑いを聞き悔いたところで,弁護士にはもはやどうにもできないのだ。コミカルな雰囲気のなか,ふと訪れるシビアな現実にゾッとする瞬間でもある。
本作は,1回のプレイで,ストーリーのすべてを知ることはできないだろう。何回かプレイを繰り返し,前とは別の選択をすることで,ほかの側面からも事件が見えてくる。そして,より真実に近づいていく。
ゲームは各日の始まりにオートセーブされるが,各章ごとに複数のポイントからリトライができるので,ほかのルートへの分岐も最短距離で行える。
エンディングルートは3つ用意されており,それぞれ異なる結末だ。ぜひ全てを見て,物語の全貌を知ってほしい。
J・J・グランヴィル氏のアートと,作曲家カミーユ・サン=サーンス氏の楽曲,そして皮肉とギャグが散りばめられたコミカルなセリフなどにより,独特な雰囲気を持つ「鳥類弁護士の事件簿」。その味わい深い世界は,高い翻訳のクオリティのおかげで,安心してプレイできる。鳥たちが活躍するパリの雰囲気に浸りつつ,謎多き事件の行方を楽しんでみてはいかがだろうか。
「鳥類弁護士の事件簿」公式サイト
- 関連タイトル:
鳥類弁護士の事件簿
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