[GDC 2025]インディーゲーム開発は,孤独を感じることもあるけど一人じゃない――「You Are Not Alone」セッションをレポート
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アメリカ・サンフランシスコで開催中のゲーム開発者会議「GDC 2025」初日の2025年3月17日,「Independent Games Summit: You Are Not Alone」と題されたインディーゲームの開発に関するマイクロトークセッションが行われた。
このセッションは,ソロの開発者として孤独を感じている人,過去の失敗に悩んでいる人,自分がゲーム業界にふさわしい人間か悩んでいる人に,You Are Not Alone(あなたは一人じゃない)という心の支えになるような発信を届けるものだ。スピーカーとして3人のインディーゲーム開発者が登壇し,各々の視点で失敗した経験や成功体験を話しながら,一般的な成功のイメージとは異なる「自分なりのインディーゲーム開発の成功の形」を伝えた。そんな勇気と安心を与えてくれるセッションのレポートをお届けしよう。
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失敗との向き合い方(Neha Patel氏)
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最初に登壇したのは,「Venba」「Eternights」「Six Ages 2」などの作品に携わるフリーランスの作曲家兼サウンドデザイナー,Neha Patel氏だ。
「感情がごちゃごちゃする中で,効率的に対処するにはどうすればいい?」
テストすべきビルドを確認せずに作業を進めてしまった。ほかのスタッフにコミットしたつもりが,メッセージの投稿を忘れていた。「あと20分だけ」と横になったら,気づけば3時間が経過していた……。
仕事においても,人生においても,こうしたミスは避けられないもの。Neha Patel氏が強調したのは,「技術的なミス」ではなく,「それが起きたときに,感情をどう管理するか」だった。
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「Venba」の開発中,Neha Patel氏はSFS(リポジトリやサーバー)にコードをプッシュした際,大きなミスをしてしまったという。
「すでに動いていたものを壊してしまったかもしれない……」と彼女はパニックに陥り,「10年以上の経験を持つベテランばかりの現場で,大きな迷惑をかけてしまった。これはもうキャリアの終わりだ」とまで考えたが,しかしその日のうちに技術的な問題は解決。この経験を通じて彼女が認識したのは,「失敗そのもの」ではなく「その失敗にどう向き合うか」だった。
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Neha Patel氏は,もともと「人に迷惑をかけたくない」という思いが強く,助けを求めることをためらう傾向があるという。フリーランスという立場もあって「自分一人でなんとかしなければ」という意識が強くなりやすく,チームメンバーと直接顔を合わせる機会が少ないことも,その気持ちを助長させていた。
しかし,失敗は技術的な問題だけでなく,そういった心理的な要因によっても引き起こされる。先ほどの「20分のつもりが3時間も寝てしまった」というエピソードも,実はその日体調が悪かったが,それを認めず無理をしていたのだとか。結果的に予定していた作業は遅れ,「迷惑をかけたくない」という気持ちが,むしろ逆に迷惑をかけることにつながってしまったのだ。
こうした経験を通じて,「失敗は避けられないが,自分を責めすぎず冷静に対処し,思考パターンを振り返って今後に生かすことが大切」と語るNeha Patel氏は,ミスの正直な共有がチーム全体のプラスにつながることや,心理的な壁を感じずに話しやすい関係を築く重要性を強調した。
人によっては話しやすい関係を築くこと自体に心理的なハードルがあるが,何も全員とそうする必要はない。たとえばゲームの話をしたり,猫の写真を共有したりするだけでもいい。少なくともチームの誰かとそのような関係性が築ければ,それだけで心理的な安全性が生まれ,質問や助けを求めやすくなると話した。
Neha Patel氏は「話すことって面白いですよね。今日初めて会った人たちと,こんな話をするのもまた興味深いものです」と締めくくり,次の登壇者であるJulia Minamata氏へとバトンを渡した。
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助けを求め,つながりを築くことの大切さ(Julia Minamata)
Julia Minamata氏はピクセルアーティストとしても活躍するゲームクリエイターだ。氏が手がけた「The Crimson Diamond」はクラシックなビジュアルやゲームスタイルをオマージュしたアドベンチャーゲームで,2024年8月のリリース以来,Steamで非常に好評を維持している。
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このプロジェクトを通じて彼女が気づいたのは,「すべてを一人でやるべきではない」ということだった。
「The Crimson Diamond」の開発当初,彼女はすべてを自分の力で成し遂げたいと考えていた。しかし,最高の作品を作るには他者の助けが不可欠だったのだ。
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そのひとつが音楽だ。一人ですべてを作る開発者に憧れがあり,誰かに頼むつもりはなかったが,自分には音楽は作れないと認め,助けを求めた。そうしてDan Policar氏に依頼すると,氏は1980年代のサウンドを忠実に再現するためにRolandのシンセサイザーを購入し,独学でPro Toolsを習得。自分が思い浮かべていた以上のMIDI音楽を生み出してくれた。
Julia Minamata氏は今も定期的にTwitchでの配信をしているが,この配信というアイデアもDan Policar氏の発案だった。COVID-19のロックダウン中に音楽をシェアする方法を模索していたDan Policar氏の声掛けから,共同の音楽制作やゲーム開発の様子を公開し,ときにゲームプレイ配信を行いながら視聴者と交流。それがTwitchストリーマーとつながるきっかけとなった。
そして,「The Crimson Diamond」のビジュアルやゲームの仕組みがTwitch上のレトロゲーム/ADV好きのコミュニティの関心を引き,ローンチ時には多くのストリーマーが作品を広めてくれた。
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しかし,マーケティングの効果以上に大切だったのは「本当の友人を得られたことだった」とJulia Minamata氏は話す。ゲーム開発において大きな支えとなるIRL friends(In Real Life friends:リアルで会える友だち)ができたことも大きかった。一人で作業するときも,配信をしながら作業することで「私は一人ではない」と感じられたという。
ゲーム開発において,人とのつながりを築き,維持することは非常に重要だ。それは,経済的にも精神的にも,大きな意味を持つ。そのためには発信が大事だ。Julia氏は6年以上にわたり情報発信を継続してきた。毎月のニュースレター,ソーシャルメディアの投稿,そしてTwitch配信。これらを通じて,多くの人々とつながることができた。
なぜ6年以上もマーケティングを続けたのかというと,「そもそも,6年もかかるとは思っていなかったから!」という想定外の開発の長期化が背景にある。しかし,そのおかげで「自分のゲームを楽しんでくれる人々」と出会い,関係を深められた。
Julia氏が強調したのは,「助けを求め,助け合うことこそが,孤独を感じないための最も強力な方法」だということ。自分の作品を発信し,自分自身を表に出すことが大切であり,自分を受け入れてくれたように自分も他者を受け入れる。それができることで,「あなた(自分)は一人じゃない」と実感できる瞬間が訪れるはずだと話した。
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失敗との向き合い方(Neha Patel氏)
最後に登壇したのは,インディーゲームスタジオ「Stumbling Cat」のヘッドであり,「Potions, Curious Tale」の開発者であるRenee Gittins氏。国際ゲーム開発者協会(IGDA)のエグゼクティブ・ディレクターや,さまざまなプロジェクトのアドバイザー,コンサルタントとしても活動している氏が,ゲーム開発とマーケティングのリアルな経験を語った。
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「Potions, Curious Tale」は,もともと彼女がバイオテクノロジー分野での仕事が見つからなかったことをきっかけに,ポートフォリオとして開発を始めたゲームだった。しかし,想定以上に大規模なプロジェクトへと発展し,9年半もの開発期間を要することになった。
ゲーム開発の基本的なアドバイスとして,「スコープを小さくする」「開発サイクルを短くする」「メカニクスをシンプルにする」などが挙げられるが,「Potions, Curious Tale」ではそれがまったく守れなかったという。プロジェクトは完全に脱線し,さまざまな要素を持つ大規模なゲーム開発になってしまった。ゲームプロダクション,マーケティング,さらにはフリーランスのゲームジャーナリストにまで幅広く仕事をしながら開発を継続し,最終的にはフルタイムの仕事を経て,エグゼクティブ・マネジメントの経験まで積んだ。
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この経験から学んだのが,「チームを持つ準備ができているかを認識することが最も重要」だということだ。
プロジェクトのビジョンを明確にし,プロトタイプを作成し,新しいメンバーにも理解しやすく「自分の仕事がプロジェクトに反映される」と実感できる環境を整える。もちろん報酬について事前にしっかり考える。指示を待つのではなく,問題解決に挑戦し,フィードバックを受け入れられる自発的に動ける人の重要性も強調した。スキルはあとから習得できるため,チームワークを重視できる人材は大切だと述べた。
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開発を進めるうえでチームを効果的にマネジメントするには,「なぜそれをやるのか? を明確に伝えること」が重要だという。
細かい指示を出すのではなく,目的とビジョンを共有することで,メンバーの自主性を引き出す。努力を認め,適切なフィードバックを与えることがやる気を維持する。自分自身も批判を受け入れる姿勢を持つ。最も大切なのは「嫌な奴にならないこと」。誰もが意見を言いやすい環境を整え,チームのモチベーションを高めることが,最終的に良いゲームを作ることにつながる。
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ゲーム開発ではマーケティングが成功を左右する。多くのインディー開発者が「SNSで数回ツイートすれば十分」と考えがちだが,それでは足りない。ローンチの6か月~1年前からマーケティングを計画的に行う必要があると,Gittins氏は語った。
彼女自身は普段TikTokを利用しなかったが,マーケティングのために活用。デモ版リリース時には100万回以上再生される投稿も生まれ,最終的に2万3000件以上のウィッシュリスト登録の獲得につながった。
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もちろんすべてがうまくいったわけではない。Steamのアルゴリズムを研究してトップページの「New & Trending」入りを狙ったが,ローンチ当日に11本のゲームがリリースされリストから押し出されてしまった。それによってリリース当初の売上は想定の3分の1程度にとどまった。しかしその失敗を逆手に取り,「ローンチの失敗談」をTikTokで投稿。この投稿がバズり,多くのメディアに取り上げられ,結果として失敗をチャンスに変えられたという。
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成功の裏には,SNSでの誹謗中傷や炎上のリスクもある。国際女性デーに関するTikTok投稿が一部の層の反発を招いて攻撃を受けたときのことをとおして,SNSの危険性とメンタルヘルスの重要性を伝えた。
ゲーム開発においてSNSの影響は計り知れないが,誹謗中傷や荒らしに巻き込まれるリスクも高い。氏の場合,自身がコミュニティマネジメントを担当していたことを反省点として挙げ,可能であればPR会社を雇うべきだったと学んだ。
精神的な負担を軽減するやり方として,SNSの通知を完全にオフにし,「精神的に準備ができたときだけ」ログインすること,荒らしには一切反応せず適切に距離を取ること。そして最後に,「精神的に落ち込んだときに見返して自分が成し遂げたことを思い出し,前向きな気持ちを維持できるもの」として,良いレビューや友人の言葉などポジティブなメッセージをまとめた「Kind Words」というドキュメントを作成することを勧めてセッションを終えた。
多くの困難に直面しながらも,それを学びに変え,最終的に成功へとつなげたこれらの経験談は,インディー開発者はもちろん,多くの働く人たちに刺さるのではないだろうか。
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「GDC 2025」公式サイト
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