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地面が精密化し,後方乱気流も再現された「Microsoft Flight Simulator 2024」。さらなる進化を遂げた脅威のテクノロジーを解説
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印刷2024/09/19 22:00

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地面が精密化し,後方乱気流も再現された「Microsoft Flight Simulator 2024」。さらなる進化を遂げた脅威のテクノロジーを解説

 Xbox Game Studiosが年内にもリリース予定の「Microsoft Flight Simulator 2024」PC / Xbox Series X|S)の最新情報を,一部メディアに向けて公開するイベントが,2024年9月12日にアリゾナ州で開催された。本稿ではその中から,本作のバックボーンとなったテクノロジー解説の部分をピックアップして紹介する。

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「Microsoft Flight Simulator 2024」公式サイト


 「Microsoft Flight Simulator」と言えば,1985年にリリースされたWindowsよりも長い歴史と伝統を誇る,航空機に特化したシミュレーションゲームシリーズだ。
 2020年にリリースされた前作では,Microsoftが所有するBingマップや,世界各地の機関から入手した衛星データなど,8ペタバイトにもおよぶ情報をもとに,同社が誇るAzureクラウドサーバーを用いたAIによって地球を丸ごと再現し,話題を呼んだ。世界中の町や河川はもちろん,2万4000か所にもおよぶ空港やヘリパッド,気象データから大気の流れや水分量,そこから発生する雲の発生状況まで表現する精密さで,これまで1500万人ものプレイヤーに親しまれている。

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 そして最新作である「Microsoft Flight Simulator 2024」では,“空で働く人たち”にフォーカスすることで,さらに新たな要素が盛り込まれている。人員と物資の運搬,空中消火,捜査と救命,山岳救助支援,農薬散布,航空宣伝,民間航空業務,建設補助活動,大型物資運搬,気象調査,低空飛行活動,VIPチャーター機,スカイダイビング,エアーレースなどなどさまざまなミッションが登場し,プレイヤーはキャリアモードを楽しめる。

 そんな本シリーズのテクノロジー開発を担うAsobo StudioのCEO,Sebastian Wloch(セバスティアン・ロッチ)氏によれば,「2024」が(アップグレードではなく)スタンドアロンでリリースされる理由には,技術的な側面が大きいという。
 確かに前作では,大気やフォトグラメトリ,ベクターデータといったものを,クラウドサーバーからストリーミングすることでクラインアントの軽量化が図られていた。しかし,それでも必須なデータが肥大化してしまったという。そこで「2024」では,さらに航空機や空港,POI(景勝地),メッシュ,そしてテクスチャまでストリーミングさせるアーキテクチャに切り替えたそうだ。

Asobo Studioの創設メンバーの1人であり,CEOのSebastian Wloch氏。「Microsoft Flight Simulator」シリーズの技術部分を一身に担う
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 具体的なシステムは不明であるものの,新作のプレゼンテーションでは地球規模のマップから特定の地域にズームインしていくにつれ,「見えている部分だけをダウンロードしていく」方法で,回線の利用頻度も軽減しているとロッチ氏は話していた。航空機や空港などの精密データもすべてストリーミング化させることで,クライアントのベース容量を前作の130GBから30GBにまで大幅削減することに成功したとのことだった。

機体モデルのサーフェイスエリアをさらに精密に表現したことで,「Airbus Beluga」や「Boeing Chinook」「AutoElvira Optica」のような奇抜な機体のハンドリングにもリアルさが増したという
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こちらは同じ地点を同じ時間と天候で撮影したデモ画像。上が前作で,下が「2024」にあたる。樹木の緻密さ,種類と量,さらに雲の複雑さなどが大幅に強化されている
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エアロダイナミクスの完全なシミュレート


 「Microsoft Flight Simulator」シリーズでは,流体力学を使ってシミュレートされた大気の流れが機体のバランスに影響を与え,それが操作感やゲームプレイに反映されている。そのリアリズムこそがシリーズの真骨頂だが,前作では流体力学に対応するサーフェイス(モデルの表面)システムに限界があり,複葉機やF-18のような複雑な形状の機体は正しくシミュレートできていなかった。
 しかし今作では,マルチコア・プロセッサを最大限に生かしたCFD(Computational Fluid Dynamics/数値流体力学)に対応することで,前作よりも5倍ほど細かなシミュレートが可能となった。エンジンのような複雑な形状のオブジェクトでさえ,細かい大気の動きが再現されるようになり,ヘリコプターから気球まで,どんな機体にも最適化が行えるとのこと。

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 また,このシステムは「後方乱気流」の表現にも活用されている。Wloch氏によれば,機体やエンジンによって生み出された乱気流は,最大6分間は持続するそうだ。さらには地表付近と上空の温度差から生じる上昇気流,低気圧などで発生する鉛直方向の低層ウィンドシアーなども,最大10kmにわたって再現されるとのこと。
 山岳地帯や沿岸部における人命救助などのミッションでは,季節や天候,そしてこうした気流の発生により,その難度がよりリアルに表現されることだろう。

後方乱気流や上昇気流を可視化させた画像がこちら。機体が発生させる乱気流は,前作では航空機の周囲にしか発生ししなかったが,本作では最大6分間にわたり大気に影響を与え続ける
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地面や水面の3D化で,世界はさらにインタラクティブに


 「2024」では地面と水面も3D化される。例えばなだらかな草原が続くアフリカのサバンナ地帯なら,これまで比較的簡単に着陸できたが,今作では地表のアップダウンが細かく再現されるようになり,場所によっては岩が飛び出していたり,直進できないような大きな障害物が点在したりと,一筋縄ではいかなくなった。
 また前述のCFDへの対応により,原っぱの草や滑走路のクラックなどが摩擦を起こし,地上滑走時のスピードや機体のバランスに影響を与えるようになるとのこと。

ワイヤーフレームで地表を見ても,前作との違いは明らかだ。地表のデコボコは,空港以外のロケーションに着陸するとき大きな影響を与える
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 これは水面も同様で,機体に当たった波は摩擦を引き起こし,風速が強ければ波も高くなる。それにより水上機の離陸に必要な滑走距離が変化し,離陸時には波の少ない入り江を選ぶといった対策が必要になってくる。
 さらに大型船が作り出す航跡波が水面着陸に影響をおよぼし,火事や発煙筒から発生するスモークは,ヘリコプターの羽根に巻かれながら拡散していく。このように,CFDによる流体制御は,あらゆるところで目にすることになることだろう。

 もう一つ,「2024」で実現された特殊な表現に,布の動きを再現する「ソフトボディ・シミュレーション」(Soft Body Simulation)というものがある。これは気球のバルーンや宣伝飛行向けのバナー,小さなものではピトー管に付けられた小さな旗が風に揺れる細かい動きをシミュレートするもの。最大6400トライアングルの球体が表現でき,膨張や収縮によって布が風に揺らぎ,変形する様子が再現できるとのことだった。

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ジオメトリは4000倍の細かさに――開発者・Sebastian Wloch氏インタビュー


 最後に,今回のデモを解説してくれたSebastian Wloch氏に個別に話を聞くことができたので,その模様をインタビューの形で紹介し,本稿の締めとしたい。

4Gamer:
 「Microsoft Flight Simulator 2024」がアップグレードではなく,スタンドアロンで販売される理由はなんでしょうか。

Sebastian Wloch氏(以下,Wloch氏):
 アーキテクチャを深層部分から根本的に変更したのが大きな理由です。プレゼンテーションで説明したように,多くの部分をリアルタイムストリーミングにすることで,クライアントのフットプリントを最小限に留めることができるようになりました。
 また前作は我々の予想を超えてはるかに人気が高く,コミュニティがアップロードする数千ものDLCにうまく対応できなくなりつつあります。また「2024」の大きな特徴である月ごとや週ごとのアクティビティをサポートできない問題もありました。

ガラスやアクリル板のスクラッチも,しっかりとレンダリングされている
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4Gamer:
 「2024」では,上空から地表を見たときの解像度が明らかに向上している印象でした。実際のところ,どの程度の精密化が行われたのでしょうか。

Wloch氏:
 ジオメトリは単純に言って4000倍になっています。これはどういうことかというと,前作ではLoD(Level of Detail / 詳細水準)は20レベルでした。つまり1つのテクスチャが1枚の紙だとすると,次のレベルでは4分割され,さらに次のレベルでは16分割されることになります。「2024」のLoDは26レベルになり,64×64(=4096)の限界値まで引き上げたことで,一気に4000倍まで細かくなったのです。

4Gamer:
 それが可能になったのは,Xbox Series Xに採用されているRDNA 2ベースのGPUの力でしょうか。

Wloch氏:
 そうですね。Xbox Series XのGPUは元々パワフルでしたので,最適化するだけで実現できました。テクスチャだけでなくハイトマップ(高さの情報)やカラー(色彩=環境)情報を瞬時に計算し,ストリーミングを用いることなく,ディテールを再現しています。昨晩も新しい最適化の手法を見つけたくらいで,我々のチームは日々,現行世代のGPUを効果的に扱えるようになっているのです。

4Gamer:
 私はアフリカのサバンナや,カナダ北部のツンドラにセスナで着陸するのを楽しんでいるのですが,これからは自分の目で岩場や溝などを確認し,着陸地点を選らばなければならないのでしょうか。

Wloch氏:
 そうなります。私は本作の開発に関わるようになってからパイロットになったクチですが,そのときに目視の大切さを教え込まれました。エンジンが停止し,もう数秒しか時間がないときも,どこに着陸すべきかは自分の目で判断しなくてはならない。燃料がなくなってしまったときや,嵐に巻き込まれて緊急避難しなければならないときも,岩場や溝,樹木やフェンスのような人工物を避けることが,安全な着地に大きく左右するのです。
 農場であっても,小麦やとうもろこし畑を優先し,ぶどうやオレンジなどの果樹園や放牧地は避けなくてはなりません。機体だけでなく人命に関わりますからね。それをゲームでも再現できるようになったのです。

野原に着地した場合には,草の上にしっかりタイヤ痕が残る。このディフォメーション機能は,雪や砂の上でも同様に働くとのこと
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4Gamer:
 2011年末のニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で,離陸直後に墜落した航空機の事故原因が後方乱気流によるものだった記憶しています。「Microsoft Flight Simulator 2024」でも,そうした状況は生まれますか?

Wloch氏:
 はい。後方乱気流による事故は,過去に何度も検証されてきました。後方乱気流をサポートした本作では,こうした事故は十分に起こり得るものです。
 例えば二列の滑走路が平行している大規模な空港では,先に飛び立った航空機が生み出した後方乱気流が,隣の滑走路に影響をおよぼすことでしょう。上空で円を描くように飛行するときにも,自機が生み出した後方乱気流を感じるときがあるので,捜索ミッションなどでは注意する必要があります。複数のジェット機で編隊を組んで飛ぶときなども,よりリアルな操作感になっていると思います。

4Gamer:
 3D化された水面は,ミッションにどんな影響を及ぼしますか。

Wloch氏:
 嵐の日の海上捜索や物資輸送などのミッションは慎重になる必要があります。水面ギリギリを低空飛行していると波の影響を受けかねません。また大型フェリーの通過直後に水上機で着陸する場合なども,航跡波が着水に影響することでしょう。航空機だけでなく,波によって船も揺れますし,コンテナのような物資が風を受け,さらに慣性の効果もかかります。それらを考慮して作業する必要があるわけです。

4Gamer:
 Wlochさんが「2024」で最も誇らしく感じている部分はどこですか。

Wloch氏:
 「2024」は,我々Asobo StudioとXbox Game Studios,そしてさまざまなサードパーティが開発したテクノロジーの結晶です。ですのでそのすべてが誇らしいですが,個人的には地表の細かさですね。
 私はヘリコプターのライセンスを取得したパイロットですが,前作では大自然の中の滑走路のないような場所ばかり選んで離着陸していました。なので都市部だけでなく,地球のあらゆる地点が精密化され,よりインタラクティブで生き生きとした世界になったのが嬉しいですね。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

こちらは前作(上)と「2024」(下)のレイトレーシングを比較した画像。一つひとつのボタンが影を落とし,細かな反射光が周囲に影響しているのが分かる
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「Microsoft Flight Simulator 2024」公式サイト

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