インタビュー
[インタビュー]「PUBGだけでないKRAFTON」を目指して。「Dark and Darker」から新作RPGまで,KRAFTONがついにグローバル制覇のために動き出す
確かにPUBGは世界でプレイされているタイトルだし,ユーザー数が多いのは分かるのだが,それにしたって規模の大きい会社だし,ほかになんか作ってないのかしら……? と思っていたら,2023年のG-STARで割と大がかりな展示をしていて,運良く会社のNo.2に会う機会を得た。
ほんの短い時間ではあったが,今後のKRAFTONの方向性について聞くことができたので,ここでお伝えしよう。
4Gamer:
本日は,会期中でとても忙しいのにお時間をとってもらってありがとうございます。まず,ご本人がどんな方で何をやっている方なのかを教えてもらえますか。
Rafael Lim氏(以下,Lim氏):
KRAFTONで,パブリッシング事業の総括を担当しているラファエルです。よろしくお願いします。KRAFTONで開発しているタイトルのサービス,そして外部タイトルのパブリッシングサービスの事業を担当していて,そのほかにも,アメリカ,日本,ヨーロッパ,インド,中国などの地域での全体的なサービスおよびマーケティングを担当しています。
4Gamer:
ほとんど全部なのでは……?
Lim氏:
そうですね(笑)。つまり,KRAFTONの全てのプロダクト,そして各地域での事業の担当をしています。開発以外の部分全部,ですね。
4Gamer:
それだけ重責を担ってるということは,ゲーム業界は結構長いんですか?
Lim氏:
はい。2005年,オンラインゲームの初期から,NeoWiz Gamesという韓国のゲーム会社で,パブリッシング事業部に勤務してました。そこで,「スペシャルフォース」や「AVA(Alliance of Valiant Arms)」のようなシューターゲームや,野球ゲームなどを担当していました。
4Gamer:
懐かしいFPSの名前が続々ですね。
Lim氏:
次は2013年から,サムソンのスマートテレビの中で,ゲームストアを作ることになりました。そして2017年からは,かつてシューティングゲームを担当した関係で,PUBG(PUBG:BATTLEGROUNDS)などを担当しています。
ところで私は,2019年まで韓国と日本の事業を担当していましたので,日本の市場が重要なことを理解しています。日本のユーザーと同じ空気を吸って,ゲームを作っていきたいです。KRAFTONが,日本を注目していることについて,このインタビューで改めて強調しておいてください。
4Gamer:
了解です。必ず書いておきます。
ところでLimさんは業界が長い方なのでちょっとお聞きしたいんですが,一昔前のPCオンラインゲームのころと違って,ここ最近は韓国のゲームの日本での存在感がちょっと薄かったんです。その理由は何だと思います?
Lim氏:
PUBGよりちょっと前は,確かに新しいPCゲームの開発が減ってきてました。その原因は,新しいタイトルがモバイルに移行したからです。でもPUBGの,PCやSteamでの成功によって,再びPCゲームへの興味や関心が高くなって最近は戻ってきましたね。当時は「量的に減っていた」という感じです。
4Gamer:
なるほど,そもそも量が少なかったんですね。
Lim氏:
そして2つ目の理由として,グローバルプラットフォームの出現も挙げられると思います。いわゆるSteamですね。
Steamを通して簡単にグローバルサービスができるようになったので,逆に,現地に根付いたプロジェクトが減ってきています。ゲーム自体もグローバルに作られているので,特定の国にフォーカスしたゲームが少なくなっているんです。
4Gamer:
グローバルローンチという意味ではスマホもそうですが,確かにPCはSteamで大きく変わりましたよね。
Lim氏:
さらに日本の話をするならば,アラリオなど,かつての日本の有名PCゲームパブリッシャーが減ってきている中で,日本ユーザーをターゲットにしたゲーム自体が減ってきたからだと思います。
4Gamer:
確かにそうです。
なるほど,日本のパブリッシャーが減ったおかげで接するポイントが少なくなって,存在感がちょっと薄くなっていたということなんですね。
Lim氏:
はい,私個人はそうだと思いますね。
4Gamer:
そんな状況で,韓国発のゲームとしてメガヒットとなったPUBGなんですけど,MMORPGなどと違って,アップデートで大きくゲームの根幹を変えづらいシステムだと思うんです。そんな状態で7年戦ってきて,いまなお人気がある秘訣は,KRAFTON自身では何だと思っていますか?
Lim氏:
確かに新しいマップを追加する以外,MMORPGのように派手なクラスを追加したりするようなアップデートは難しいのですが,計画的にマップの追加をしています。去年はアメリカ風のマップを追加したりしました。同じルールの中で,メカニズムを変えながら新しい楽しさを提供し続けているので,それが人気の要因だと思います。
4Gamer:
制約がある中で,新しい要素を次々に追加するのは,結構大変な作業じゃないですか?
Lim氏:
そこはそのとおりです。しかしユーザーが欲する新しい楽しさを提供することは,ユーザーに対する“約束”だと思いますし,私たちの信念でもあります。そこが,これからの10年も愛され続けるゲームになる要素だと思いますし,そのために努力し続けたいです。
4Gamer:
しかしシューターゲームとしてPUBGはほぼ世界に知れ渡っている状態なわけですが,ゲームというものは国によってカルチャーが違って好みが違って,そこが難しい部分でもあったと思うんです。韓国では売れても日本では売れない,日本では売れたけどアメリカでは売れない……そういう問題がいっぱいあったわけですけど,PUBGはそれをあんまり感じさせないですよね。
Lim氏:
そうかもしれません。
4Gamer:
ということは,今まで皆が考えていたような,地域とか,カルチャーとか,民族とかによるゲームの好みの差というのは,実はなかったりするんですかね。
Lim氏:
普通のゲームでは,同じ国のユーザー同士で遊ぶ「壁」があるんですけど,PUBGはその壁を壊したゲームだと思っています。壁を壊して,新しくて楽しい経験をさせたことで,文化の差を超えられたんだと思います。
ユーザーに新しくて楽しい経験をさせられるゲーム性と,それに伴う面白さがあるのであれば,今おっしゃったような文化の差みたいなものは,意味がないのではないかと思います。
4Gamer:
ゲームそのものがグローバルコンテンツ化している昨今においては,納得のできる見解です。
Lim氏:
とはいえ,すべての人にまったく同じコンテンツを提供するのではなく,その地域にいるユーザーが好きなものをコラボのような形で提供することもありますよ。日本に関係する話で言うならば,PUBGでも「NieR:Automata」のような超有名ゲームのIPをお借りしたりすることがあります。PUBG MOBILEの場合でも,ドラゴンボールやバイオハザードなどとコラボすることで,日本のユーザーが好きなIPを取り入れ,全体的に使えるようになっているのです。
4Gamer:
ということは,グローバルサービスなのに,国ごとにバイナリが違うんですか?
Lim氏:
いえいえ,同じです。例えば「ドラゴンボール」のコラボが導入されると,日本のユーザーだけでなく全世界のユーザーが楽しめるコンテンツとして同時に導入されます。
4Gamer:
なるほど。グローバル絡みの質問をしたのは,今回の出展を見た感じ,KRAFTONがついに勝負に出るのかな……? という印象を持ったからです。語弊を承知で言うと,「PUBGのKRAFTON」からの脱却といいますか。
この後,おそらくグローバル展開するサービスをいろんなタイトルで狙っていくにあたって,どういう風にタイトル開発とパブリッシングを進めていく予定ですか?
Lim氏:
「Dark and Darker」(のモバイル版)はご覧になっていただけました?
4Gamer:
ええ,プレイさせてもらいました。打撃感とかまだちょっと弱くて荒削りですが,面白さのエッセンスは体験できました。
Lim氏:
ありがとうございます。ご存じだとは思いますが,PC版の「Dark and Darker」は,特に北米を中心に人気を集めたタイトルです。Extraction RPGというジャンルのゲームがどんどん出ている状況なので,逆にこのタイプのゲームの可能性,Dark and Darkerというゲームの可能性,グローバルの可能性,モバイルの可能性……を感じたので,IPを利用したモバイルバージョンを準備しているわけです。
4Gamer:
あぁなるほど。移植版とかではなく,IPの名前と雰囲気を利用した別なものなんですね。
Lim氏:
そうです。PUBGが出た当時,例えば「荒野行動」なんかがそうですが※,似たゲームがたくさん出ましたよね。「Dark and Darker」も,同じように似たゲームがたくさん出ているだろうし,これからも出てくると思います。
なので先にこのIPを活用して,オリジナリティのあるゲームを開発してお見せしようと思っています。
※かつて「荒野行動がPUBGを模倣している」として,知的財産権の侵害についてKRAFTONが裁判を起こし,その結果和解したのだが,そのときに締結された条項をNetEaseが遵守していないとのことで,再度KRAFTONが裁判を起こした。ちょうどこの記事が載る直前(2023年11月30日)に,再び「和解」で決着が付いた模様(→こちら)
4Gamer:
そのお話からすると,Dark and Darkerはグローバルサービスですよね。
[G-STAR 2023]ダンジョンでファンタジーなバトロワを。PUBGで知られるKRAFTONの新作「Dark and Darker Mobile」試遊レポート
韓国のゲームイベント,G-STAR 2023で,「PUBG」で知られるKRAFTONが2024年のリリースを予定している新作「Dark and Darker Mobile」を試遊してきたので,そのプレイ感をお伝えしよう。本作は,ダンジョンクローラーとアクションRPG,そしてバトルロイヤルを組み合わせたタイトルだ。
Lim氏:
ええ。グローバルユーザーが一緒に楽しめるよう,グローバル展開を考えています。PC版はアメリカと日本,ヨーロッパのユーザーが多いので,逆に「Dark and Darker Mobile」のPC展開も考えています。
4Gamer:
なるほど。逆輸入というかなんというか。
しかしDark and Darker Mobileは,ちょっとステロタイプではありますが,中世ヨーロッパのファンタジー風の世界観がすんなりと理解しやすいですし,コアゲーマーが喜ぶだろうと容易に想像できます。
Lim氏:
そうですね。ロー・ファンタジーと呼ばれる世界観ですが,あの雰囲気とコンセプトは維持していきます。あの世界観こそが,ダンジョン内の緊張感や葛藤などを,よく演出できていると思っているので。
4Gamer:
これ聞いてみたかったんですが,そういうのとはまたちょっと違う感じの,カジュアルなコンセプトのゲームをグローバルに発表する計画はありますか? KRAFTONといえばコアゲームのイメージなので。
Lim氏:
今のところその計画はないです。
確かに今のラインナップを見ると,どれもハードコアで重いかもしれませんが,KRAFTONの方向性は,オリジナリティがあるクリエイティブです。似たようなゲームを復活させるのではなく,新しい楽しさを与えるゲームであれば,ジャンルに関係なく作りますし,そういう意味では,今後はカジュアルなラインナップも弊社のゲームポートフォリオの中に含まれる可能性はあると思っています
4Gamer:
違うジャンルなんかも可能性はありますか? KRAFTONといえばシューティングとか対戦とか,そういうイメージです。
Lim氏:
RPGも考えていますよ。「涙を飲む鳥」という,有名な韓国ファンタジー小説を原作としたRPGを考えています。
新作ゲーム「涙を飲む鳥」のビジュアルコンセプトトレイラーを公開。Kagan DracaがNhaga偵察隊を殺戮する場面を再現
KRAFTONは,先日に発表した韓国のファンタジー小説「涙を飲む鳥」を題材にした新作ゲームのビジュアルコンセプトトレイラーを公開した。トレイラーでは,本作のキャラクターや世界観が紹介されており,小説の主要人物であるKagan Dracaが,Nhaga偵察隊を殺戮する場面が再現されている。
4Gamer:
そういえばありましたね! KRAFTONのRPGはちょっとやってみたいです。
しかし,そうやっていろんなタイトルラインナップが増えていって,かつ会社にお金がプールされている状況なわけですが,パブリッシングには手をつけないんですか?
Lim氏:
よい視点です(笑)。
まず目標となっているのは,グローバルでトップTierにいる開発会社になることです。それは確かなことですそしてその過程で,投資も拡張してファーストパーティーとしてのラインナップを増やすこと,そしてパブリッシャーとして提供できるタイトルを発掘することなどを行って,最終的にはグローバルでトップの位置にいるパブリッシャーになることを目指しています
4Gamer:
やはりそうなりますよね。
Lim氏:
ですので今,同じ目標を目指して歩んでいけるパートナーを探しています。例えばアメリカとか日本のスタジオなんか,すごくいいですね。
4Gamer:
いましがたちょっと触れてましたけど,投資も増やしていく感じなんですか? あと投資つながりで言うと,韓国ではファンドとかでなくて,メーカーがメーカーに投資しますよね。あれはある意味素敵だなと思ってます。
Lim氏:
韓国ではファンドがあまり開発されていないですからね。
4Gamer:
でも日本ドメスティックな話をすると,メーカーがメーカーに大がかりな投資をすることはそこまで多くないので,かなり興味深く見ています。
Lim氏:
なぜだかそういう風になってるんですよね。開発力を強化するために開発会社を買収することはよくあります。
例えば我々でいうなら,最初はBluehole StudioがGinno Gamesを買いました。そのGinnoが,のちのPUBG Studioになり,BlueholeがKRAFTONになっています。
その後,グローバルにゲームを提供するために新しい組織を作ったり,“グローバルパブリッシャー”になるために,そのような投資を日々続けています。
[G-STAR 2023]現実そっくりな世界の神として人間観察。フォトリアルなライフシム「inZOI」の試遊レポートをお届け
韓国のゲームイベントG-STAR 2023にて,KRAFTONが2024年下半期にリリースを予定しているPC向けライフシミュレーション「inZOI」を試遊してきたので,そのプレイ感をお伝えしよう。ソウルとそっくりな街で,現実の人間さながらの行動をするアバターたちの観察を楽しめた。
4Gamer:
確かに今は,開発会社としての機能だけで生き残っていくのはかなり厳しい時代ではありますよね。
Lim氏:
確かに以前とは変わってきてますね。今では,皆に認めてもらえる新しいゲーム自体を作るのが大変難しいので,そういったM&Aなどを通して,既存のIPを使用できる方法を探しているのです。
また,新しいIPを開発するのもとても難しくなりました。ですので,既存のゲームタイトルのモバイルバージョンの開発やリメイクなどをするために,買収とか合併をするわけです。
4Gamer:
しかし,そういう余力が出てきたことが象徴的ですが,上場した時の数字であったり,最近の大がかりな組織再編や決算の数値を見ても,もう会社としては盤石の体制だと思います。これはもうしばらく安泰だろうな,と。
その上で,今後10年,20年と,どのようなゲーム会社を目指していくのか,もし語れることがあればお聞きしたいです。
Lim氏:
はい。2年前の上場の時点と,上場後から今までの過程が,KRAFTONの大きな変化のタイミングだと考えています。上場の時点では,PUBG STUDIOSとBluehole Studioを合わせた開発会社のイメージが強く,実際に開発を最も重視している会社でした。
でも今は開発会社としての変化を目指して,2024年までそれに必要な力をつけるための準備をしています。3,4年後に何かタイトルがローンチされるころには,ラインナップが増えると思いますよ。ぜひご期待ください。
――2023年11月16日
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