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[GDC 2014]アーティストの意思をすぐに反映できるエンジン「UbiArt Framework」でゲームを制作する“新たなプロセス”を紹介
講演を担当したのは,フランス南部のUbisoft Montpellierでレベルデザイナーを務めるChris McEntee氏。タイトルからも分かるように,Ubisoftの人気シリーズ「Rayman」の制作において,「UbiArt Framework」がどのように使われたかが紹介された。
下のムービーはわりと以前のものだが,今回のレクチャーで流されたものだ。
「UbiArt Framework」は,まるで手描きの絵がそのまま動き出したような2Dゲームを作れるゲームエンジンだ。McEntee氏は,まずムービーを使って「UbiArt Framework」の機能を紹介した。
「Geometory Frieze」はマウスクリック一つで地形を編集する機能で,障害物を作ったり,ジャンプ台を作ったりということが簡単にできる。パイプのようなものの上をキャラクターが移動するときは,「Pipe Frieze」によってパイプの形や向き,長さの調節が可能だ。また,「Bezier Frieze」はオブジェクトをベジエ曲線に沿って柔らかく変形させることができるほか,NPCやオブジェクトが移動する動線としても機能する。
このほかにも,「UbiArt Framework」はオブジェクトにテクスチャを貼りつけたり,キャラクターにボーンを設定してアニメーションさせたりする機能を持っており,さらにゲームでもよく使われるスクリプト言語「Lua」で各シーンを記述することも可能だ。「Sequence Editor」を使えば,カットシーンの制作も容易になっている。
文章だと難しく感じるかもしれないが,会場で流されたムービーでは,簡単に編集した地面にRaymanを走らせて様子を見たり,敵キャラクターの飛行経路を設定したり,巨大オブジェクトにアニメーションをつけたりといった作業が一瞬で完了していた。その工程自体がゲームであるかのような錯覚を覚えるほどだ。
これらの機能を使って,McEntee氏らはプロトタイプを作り,思いついたさまざまなギミックを試していったという。「UbiArt Framework」を使ったプロジェクトの良かった点としては,繰り返し何度でも作り直すことができたこと。小さなチームなので,コミュニケーションが取りやすかったこと。そして,シンプルなワークフローと柔軟なシステムを挙げていた。
一方,反省点としては,デザインドキュメントの欠如を指摘した。「UbiArt Framework」は思いついたことを,即座に次々と試せるため,経過を記録したドキュメントが残りにくい。また,ワークフローについてのコミュニケーションも不足しがちになり,それぞれのスタッフが同じ失敗をしたり,“車輪の再発明”のようなことも起きるというわけだ。さらに,「UbiArt Framework」は非常に便利であるため,それ自体で完結してしまい,エンジンチームに対するフィードバックも欠けていた,とMcEntee氏は述べた。
日本では,「UbiArt Framework」を使ったダウンロード専用タイトル「チャイルド オブ ライト」と「バリアント ハート -ザ グレイト ウォー-」が2014年内にリリースされる予定だ。日本のRPGに影響を受けたという「チャイルド オブ ライト」,そして,第一次世界大戦を舞台にしたアクションアドベンチャー「バリアント ハート -ザ グレイト ウォー-」のいずれも手書き風の個性的なアートワークが特徴で,少数のスタッフによって制作されている。
膨大な予算をかけた超大作を制作する一方で,こうした社内インディーズのような取り組みも行うUbisoft。個人的には,アメリカとは違う,いかにもヨーロッパの企業といった印象を受ける。
レクチャーの締めの言葉として,McEntee氏は「失敗を繰り返すこと」「制約を受け入れること」,そして「無駄にするなら他人のではなく,自分の時間を無駄にすること」という3つの考えを述べた。
限られた予算と人員の中で,トライアル&エラーを繰り返し,面白い作品に仕上げる。そういったことができるのも,「UbiArt Framework」のような便利なツールがあってのことなのだろう。
4Gamer「GDC 2014」特設ページ
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