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[CEDEC 2014]社会においてゲームはいかなる役割を担っているのか? セガネットワークスの里見治紀氏が語る
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印刷2014/09/04 21:32

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[CEDEC 2014]社会においてゲームはいかなる役割を担っているのか? セガネットワークスの里見治紀氏が語る

 CEDEC 2014の2日め,会場のメインホールでセガネットワークス代表取締役社長 里見治紀氏による,「ゲームが果たすべき役割」と題された講演が行われた。里見氏は,「ゲーム」というもの,「ゲームを作るということ」に対して,どのような意義を見いだしているのだろうか。

感動体験を与えるものとしてのゲーム


セガネットワークス 代表取締役CEO 里見治紀氏
画像集#001のサムネイル/[CEDEC 2014]社会においてゲームはいかなる役割を担っているのか? セガネットワークスの里見治紀氏が語る
 里見氏は「初CEDECでいきなり『ゲームが果たすべき役割』というテーマですが,このようなクサイ話をする人は少ないと言われました」と話し,会場を沸かせながら「ゲームとは何か」という点を論じた。

 当たり前だが,ゲームにはさまざまな種類がある。セガであれば,アーケードゲームやコンシューマゲーム,モバイルゲームはもちろん,果ては「トイレッツ」というトイレに組み込まれるゲームまで作ってきた。つまりはセガは便器までもゲームプラットフォームにしてきたということだ。
 そんなセガだからこそ,「ゲームのプラットフォームにはいろいろある」という言葉は説得力を持つ。

 ただし,プラットフォームによってUI(User Interface)やUX(User Experience)は違っても,ゲームには共通するものがある。それこそが「感動体験」だ,と里見氏は語った。つまり,ゲームとは「感動体験をもたらすもの」なのだ。

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ゲームを作るモチベーション


 この定義を踏まえ,里見氏は「自分達は何屋か」という点に踏み込む。

 一番簡単な回答は,「ゲーム屋」である。ではゲーム屋というのは何をするのかと言えば,里見氏の定義に従えば当然,「プレイヤーに感動体験を提供していくこと」となる。「ディストリビューションやプラットフォームが変わっても,このことは変わらない」と里見氏は語った。

 人によってゲーム業界に進む理由はまちまちだ。だが業界に入った人の多くは,子供のころにゲームに熱中し,友人達と腕前を競った思い出を持っているのではないだろうか。あるいはゲームに熱中しすぎて,親にゲームを没収されたり,怒鳴られたりしたこともあるだろう。また業界に入ってからも,業界内外の人とゲームについて熱く語り合った経験があるだろう。

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 里見氏は,「いま自分達がゲームを提供する側となったのは,かつて自分が得てきたそういう思いを,ほかの人にも届けたいからではないか?」と問いかけた。

 ゲームを作るというのは大変な仕事だ。そんななかでモチベーションにつながるものを問われれば,「関わったゲームがヒットして,どんどん売れていく」ことや,「金銭的に高い報酬が得られる」こと,あるいは「アワードなどを得て表彰される」といった回答が出てくるだろう。

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 だが実際は,たとえば「街を歩いていて,自分の関わったゲームが熱心にプレイされているのを見たり,そのゲームについて熱心に話されたりしているのを聞いたりする」ことだったり,「身近な人が自分の関わったゲームを楽しんでくれている」ことがモチベーションにつながることが多い。

 このように,ファンがゲームを楽しんでいるところを,自分の目で見ること,感じることが,日々のハードワークを頑張っていける最大の理由なのだと里見氏は語り,「自分達が作る側になったいま,このことを大事にし,伝えていくべきだ」と呼びかけた。

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人と人の絆を深めるツールとして


 一方,「ゲームの存在意義」ということになると,ここにはいろいろ難しい問題がある。

 そもそも,ゲームは生活必需品ではない。衣食住に比べ,明らかに優先順位が低い。またゲームは,必ずしも良い影響だけをもたらすものではない。ゲームに対する「依存」現象が報告されることもあるし,海外には長時間ゲームをプレイし続けた挙句に突然死してしまったプレイヤーの事例もある。ゲームにみんなが熱中するあまり,生産性に悪影響があると判断したある国の政府が,深夜のゲームプレイを規制したという事例もある。

 日本においても,未成年者への高額課金,コンプガチャやRMTなど,これまでにさまざまな問題が指摘されてきた。
 もちろん日本では,これらゲームにまつわる問題に対して,真摯な取り組みがなされている。里見氏はこのことを評価しつつも,「問題を隠蔽するのではなく,明らかにして,その対策をきちんと行っていることをアピールしていくべきだ」と語った。

画像集#006のサムネイル/[CEDEC 2014]社会においてゲームはいかなる役割を担っているのか? セガネットワークスの里見治紀氏が語る

 続いて里見氏は,東日本大震災のとき,ゲームは必要なのか,という議論がセガの社内で出たというエピソードを語った。セガが提供するゲームは電気がなくては遊べないし,ゲームセンターにしても電気がなくては営業できない。そもそも節電の必要性が高まっているなか,ゲームセンターを営業していて良いのか,ゲームを作っている場合なのか……こういった意見は,セガの内部からも出てきたという。

 里見氏はこれに対し,「ゲームが被災者を直接救済できるわけでも,救えるわけでもない」とする。一方で,震災後にはエンターテイメントへの需要が高まったというデータもあり,「ゲームを提供することで,心を癒やしたり,気晴らしを提供できたりする。心を痛めた人に,そういったものを提供できる」と指摘する。
 このようにゲームは,人々に豊かな日常を提供できるし,人はゲームを通じて家族や友人との絆を深めることもできるのだ。

 オンラインゲームにしても,かつてはバーチャルグラフ(オンラインでのみつながる友人)が中心だったが,今では現実の友人と時間を決めてゲームに一緒にログインするといった,リアルグラフをバックボーンとした遊ばれ方も大きなトレンドとなっている。
 同様に,言語という一定の障害はあるにしても,ゲームを通じて共通した体験を得ることで,国境を越えた関係を得ることもできる。
 このように,ゲームは人と人の絆を深めるツールとしても機能する,と里見氏は語った。

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 また,最近ではCSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)という言葉が語られるようになっている。いわゆる「企業の社会的責任」というものだが,これについて里見氏は「その本質は,世の中に,日々行っている本業の存在意義を認めてもらうことではないか」と指摘する。
 無論,これは寄付やボランティア活動を否定するというものではない。氏は,企業が利益を出して社会を回し,雇用を創出し,納税するという基本的な貢献はもちろんとして,なによりその業務が存在意義を認められて社会から求められること,これがCSRの重要なポイントだと言うのだ。


二歩先に行き過ぎない


 さて,ここで里見氏は一つのグラフを提示した。

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 横軸が時間軸/テクノロジーの発展,縦軸が満足性能となる。このグラフにおいて,コアユーザーと一般ユーザーの求めるハードの性能が徐々に右肩に上がっていくなかで,提供するものが中央の黄色い円形のゾーンに入ることを里見氏は重要視する。
 「かつてセガは,一歩先ではなく,二歩から三歩先に進んでいた」と氏は語る。「だが,いまのお客が何を求めているかを,ちゃんと見なくてはならない」とした。同時に氏は,満足性能の低い領域にも目を向けるべきである,と指摘する。

 というのも,例えばフィーチャーフォンにゲームがリリースされ始めたころ,セガの内部では「こんなものはゲームではない」と言われ,なかなか見向きされなかった。だがフィーチャーフォンのゲームはその後,市場として急成長していく。
 スマートフォンについても,同じことが言える。スマートフォンが普及を始めようとしていたころ,開発者は「こんな小さな画面でゲームを作りたくない」と言っていた。だがスマートフォンは急激に性能を向上させ,ゲームのプラットフォームとしても成長している。

 その上で,新しいプラットフォームに対応していくことも,直近の課題となると氏は語る。Oculus Riftなどのヘッドマウントディスプレイや,クラウドゲーミングといった技術は,これからのゲームを大きく変化させる可能性を持っているし,一部はすでにゲームに取り入れられつつあるからだ。

 とはいえ,ここにおいても変わらないのは「感動体験」である。新しいプラットフォームでも,この「感動体験」をユーザーに与えるべく,チャレンジすることが里見氏が掲げる目標だという。

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 続いて里見氏は,スマートフォン時代になって,ゲーム業界に参入してくる企業の数は増加傾向にあり,そういう意味では,ゲームデベロッパにとってライバルが増え続ける厳しい時代とも言えると話す。だが,「ライバルが増えると言うが,本当に戦うべき相手は誰なのか」と問いかけた。

 「敵を知り,己を知れば,百戦危うからず」とは孫氏の兵法であり,実際のところ,敵を知るのはとても重要なことだし,必要なことだ。だが「我々は殴り合いの喧嘩をしているわけではないし,戦争をしているわけでもない」と里見氏は語る。

 ではどこで戦っているかといえば,マーケットにおいて,より良いゲームを作ることで,お客の満足や関心を得ようとして戦っているのだ。この戦いは,誰かと戦うというよりも,自分自身,ないし自分の所属する会社やチームとの,内なる戦いであると氏は指摘した。マーケットでライバルと戦い,勝ち残っていくというのは,自分を変えていくことなのだ。

 また,現在の日本では,ゲームはプレイヤーの可処分所得の奪い合いというよりも,時間の奪い合いになっている。この状況に至った理由として,里見氏は携帯電話が新しい遊び方を提供したことを挙げる。
 これまでは映画にしても,コンシューマゲームにしても,一定の時間をかけてじっくりと楽しむものだった。だがモバイル端末は,隙間時間に対してゲームを提供する。そうなると,ここで問われるのは「どういうときにプレイヤーの時間を借りてゲームを遊んでもらうのか」ということになる。

 里見氏は最後に,「企業の枠をこえ,切磋琢磨して魅力あるゲームを提供し続けることこそが,我々に求められています。そして社会から必要とされ,尊敬される業界になっていくことが,ゲーム業界に関わるみんなが目指すべき目標であると思います。それが,ゲーム業界全体の価値や存在意義をより高めていくことにつながるのではないでしょうか」と語り,講演の結びとした。
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