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[CEDEC 2019]F1レースだった「アウトラン」,見下ろし型だった「チェイスH.Q.」など,開発資料から見えてくる人気タイトルの意外な姿。 「セガ/タイトー/ナムコ ビデオゲーム黎明期を切り拓いた各社の開発資料展示」レポート
ちなみにCEDECのインタラクティブセッションとは,会場に展示スペースを設けて発表やデモンストレーションを行うという形式で,通常の講演形式ではできない来場者とのコミュニケーションや,新技術の体感が可能になる。
ビデオゲーム史に燦然と輝くナムコ初期の作品。ダンボール箱で約360箱にもなるそれらの開発資料が倉庫に死蔵されており,これを憂えたバンダイナムコ研究所 コーポレート室の兵藤岳史氏がアーカイブ化の取り組みを始めたという内容のセッションだった。
今回のインタラクティブセッションは,こうした取り組みを進めた成果を示すもので,テーマは「レースゲーム」。ナムコだけでなく,セガとタイトーの過去の開発資料がアーカイブ化され,セガの「アウトラン」(1986年),タイトーの「チェイスH.Q.」(1988年),ナムコの「ファイナルラップ」(1987年)という,1980年代後半にゲームセンターでしのぎを削った3タイトルについて,開発資料とインタビューが展示されていた。
「アウトラン」は,真っ赤なスポーツカーを操作して風光明媚なコースを走るゲームだ。助手席には金髪美女が座り,BGMをカーラジオ風のユーザーインタフェースで選択するなど,観光地をドライブしているようなムードを打ち出して,ほかのレースゲームと差別化を図っていた。
しかし,当初の企画は「DEAD HEAT」という“通信筐体を使った,F1カーによる2人対戦型レースゲーム”だったという。半年ほどのブラッシュアップを経て,F1カーはスポーツカーに変更され,筐体の価格的な問題から対戦要素はオミットされ,タイトルは「SPARK RALLY」に変更。その後,欧州へ取材に行った結果,ドライブの要素を強めた「アウトラン」の企画になったという。
したがって,「アウトラン」のセールスポイントである上記の観光ドライブという要素は,企画の最後にやっと出てくるのが興味深いところだ。
プロジェクト進行報告書には進行の遅れや,コナミの「WECル・マン24」(1986年)を見て難度の変更を指示するといった生々しい記述が並んでいる。このあたりは,内部資料ならではの面白さだろう。
「チェイスH.Q.」は,刑事の乗る車を操作して,逃げる犯人の車を捕まえるという,映画を思わせるゲームで,通常のレースゲームでは他車との接触を避けるべきだが,本作ではガンガンぶつけることが推奨されている。
アーケードに投入された我々の知る「チェイスH.Q.」は3Dのレースゲームだが,企画の当初は真上から見下ろす2Dのゲームだったというから驚きだ。もともとの企画は海外からオーダーされた対戦型レースゲームで,1Pのスポーツカーはステアリングで,2Pはバイクのハンドルで操作し,ぶつかった際の耐久力も異なるという,現在の非対称型対戦ゲームを思わせる内容だったという。
ここに,パトカーや白バイが犯人の車を捕まえるというアイデアが加わる。刑事と犯人の車が離れたときは見下ろし型に,近づいたときには3Dに視点が切り替わるシステムが考えられたものの,最終的には3Dに統一され,内容も,自車を犯人の車にぶつける1人プレイ専用のゲームになったのだ。
対戦というキーワードが,2人のプレイヤーによる戦いからCPUが操る敵車との対決に変化したのが面白いところ。白バイとパトカーが犯人の車を捕まえるという映画的なアイデアを取り入れることで,システム的にも筐体的にも分かりやすいものになった。また,自車が「アウトラン」「WECル・マン24」などの競合ゲームを避けるように選定されたことや,「ナンシーから緊急連絡!」という無線連絡の演出が「メタルギア」(1987年)から影響を受けたということなども明らかになっている。
「ファイナルラップ」は,8人のプレイヤーによる通信対戦を実現したレースゲームだ。3Dレースゲームのハシリである「ポールポジション」(1982年)の流れをくんだ,「ポールポジションIII」として企画されたという。
企画の当初から多人数対戦を意識しており,2つのシートが横並びになった独特の筐体も,企画書のスケッチにその姿が伺える。コースとして「東京一周レース」が構想されていたそうだから,実現したら大きな話題を呼んだのではないだろうか。
貴重な開発資料をアーカイブ化するだけでも価値は高いが,「レースゲーム」を軸に,メーカーを横断して当時の様子を俯瞰できるというセッションは非常に興味深く,今後もさまざまなジャンルでこうした研究成果を見たいと感じられた(個人的には,多くのメーカーがしのぎを削ったベルトスクロールアクションや格闘ゲームなどが知りたい)。
今回の展示は,アーカイブの保存というプロジェクトがジャンル横断的な研究へ進んだことを示すものといえそうだ。記事に掲載した資料は,会場に展示されているもののごく一部で,開発者へのインタビュー動画に加えて,開発者が思いを綴った文書,ロケテストのインカム,ゲームタイトルを社内公募した際の回覧用紙など,会場では多くの貴重な資料が見られる。CEDECに参加しているレトロゲーム好きは,ぜひ展示スペースを訪れてほしい。
「CEDEC 2019」公式サイト
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