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[インタビュー]レトロゲームの将来はどうなるのか? 価格の高騰に流通量の減少,メディア寿命などの問題について,専門店のBEEPに聞いた
海外観光客向けの秋葉原ツアーにはレトロゲーム取扱店を組み込んだものもあり,店内は国内外からの客でごった返している。
古いゲームが今もなお愛されるのは,ゲーマーにとってうれしいことだが,その一方でさまざまな問題もある。
ブームの影響もあってか価格は高騰し,簡単に手が出せない金額になっているタイトルも珍しくない。基本的に再販というものがないため,流通量は減っていくものであるし,ダウンロード販売の浸透によってパッケージ版ソフト自体の数が少なくなり,それに拍車がかかることが予想される。
CD-ROMの寿命は約30年という説があるが,初めてCD-ROMを採用したゲーム機であるPCエンジン CD-ROM2の発売からは36年,現在もソフトの所有者が多いであろう初代PlayStationの発売からも30年が経過しようとしている。
こういった問題のために,ゲーマーができることは何だろうか? 本稿ではレトロゲームの買取/販売店であるBEEP秋葉原店を経営する三月うさぎの森の丸山 満氏に話を聞いた。
中古ソフトの国外流出は加速している
4Gamer:
よろしくお願いします。このところ,レトロゲームが一般メディアでも取り上げられるなど,人気の高まりを感じることが多いのですが,現場でもそういった熱を感じていますか。
丸山 満氏(以下,丸山氏):
大いに感じています。特に円安が加速してきてからは,本国で買うより安くなるせいか海外の方が多いです。BEEP秋葉原店が日本ツアーのルートに入っているくらいですから。
4Gamer:
レトロゲームという趣味は,海外でもメジャーなものになっているんですね。BEEPを訪れる方の年齢層は,日本と海外の方で違いがありますか。
丸山氏:
海外から来られるのは若い方が多いですね。今は日本のゲームやアニメの文化が広がっているので,それを知った若い方が実物を求めて来店するんじゃないでしょうか。
4Gamer:
レトロゲームを買い求める方には発売当時のプレイヤーが多いと思っていたので意外です。海外から来られた方が好んで買われる機種はありますか。
丸山氏:
海外でも売られていたNES(Nintendo Entertainment System。海外版ファミコン)やSNES(Super Nintendo Entertainment System。海外版スーパーファミコン)がメインで,PCエンジンよりはジェネシス(海外版メガドライブ)といったところでしょうか。
最近はゲームボーイ関連商品が売れることが多くなりました。日本でしか販売されなかったソフトも結構ありますし,他の機種と違ってアダプタなしにそのまま動きますからね。一方,レトロPCゲームは日本独自の文化に近いものがありますから,海外の方がお買い求めになることは少ないです。
4Gamer:
日本語しか表示されないアドベンチャーゲームなどを,海外の方が買っていくことはあるのでしょうか。
丸山氏:
はい,買っていかれます。これは又聞きにはなるんですが,ゲームやアニメを理解するために日本語を勉強される方も多いそうですから。レトロゲームはひらがなやカタカナがメインになっていますし。
4Gamer:
海外の方の購入額は増えていますか。
丸山氏:
確実に増えていますし,起動しないジャンク品のゲームボーイを購入されるなど,使い方も大胆というか。こちらとしては,せっかく買われるのであれば遊んでいただきたいという気持ちはあるのですが。
あとは,ちょっとしたポケモングッズやチラシなども人気です。海外の方からすると,とんでもなく安く買えるという感覚じゃないでしょうか。
4Gamer:
実用だけでなく,日本観光のお土産としての魅力もあるのかもしれませんね。
これまでのお話からも,従来より幅広い層がレトロゲームを求めていることがうかがえます。特に海外の方が購入されているとなると,国内市場の流通量が気になるところですが,実際のところはいかがでしょうか。
丸山氏:
減ってきていると感じます。「10年前ならたくさん流通していたのに,最近は見なくなった」といったものは多々ありますから。ヤフオクやeBayといったサイトに日本の方も出品されているので,特に高額ソフトが海外へ出る動きは加速しています。
ただ,中古品の流通量が減っていくのは,自然なことではあります。クラシックカーにしろ,古着にしろ,時間の経過と共に数が少なくなって,どんどん値段が上がっていきます。状態が良かったり,未開封だったりするものはなおさらです。今は,価格に付加価値という係数が強くかかってくる時代になったとは思いますが。
4Gamer:
近年はレトロゲームのリメイクや,現行機への移植も増えています。ゲームとしての実用面を考えるなら,そういったタイトルが発売されるとオリジナルが値下がりするのではと思うのですが,実際はいかがでしょうか。
丸山氏:
値下がりはしませんし,それを機にむしろ上がる傾向すらあります。たとえば「パノラマコットン」は1994年にメガドライブ用として発売されたソフトで,ここ2年ほどの間に,現行の家庭用ゲーム機への移植版や,メガドライブとその互換機用の“再販版”が発売されましたが,オリジナルのメガドライブ版は以前の3万5000円ほどから,現在では8万5000円に値上がりしています。
「コットン100%」と「パノラマコットン」の各Switch版,PS4版の国内配信が本日スタート。魔法使いの少女が活躍するポップなSTG
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MD/MD互換機用「パノラマコットン」,2024年3月上旬に発売決定。湯呑み付きも登場
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4Gamer:
Switch版は1430円ですから,オリジナルはその約60倍の価格ですね。ただ,レトロゲーマーとしては,オリジナルにその価格がつくのも理解できます。
丸山氏:
まだ家庭用ゲーム機関連は在庫の数も多いのですが,PCゲームやアーケードゲームとなるとそこから桁が減ってしまって,価格の上がり方も大きくなります。手が出しづらくなってしまいますが,市場原理ですので,ご理解いただけるとありがたいです。
4Gamer:
販売価格の決め方に基準のようなものはあるのでしょうか。
丸山氏:
品物の状態によって上下するものですし,明確なものはありません。他店様の価格をWebで確認することもありますが,足並みを揃えて値段を上げようとは考えていません。
4Gamer:
PS3やXbox360も発売から20年ほど経ち,レトロゲームの域に入りつつあります。この世代ではダウンロード販売が本格的にスタートしていますが,パッケージ版ソフトの中古流通量は少なくなっているのでしょうか。
丸山氏:
それまでの世代よりも少なくなったと感じています。コアゲーマー向けのタイトルはそもそもの販売数が少なかったりするので,価格も高くなってきています。
4Gamer:
世代を追うごとにダウンロード販売の比率が上がってるので,中古パッケージ版ソフトの価格も上がっていくという認識でいいでしょうか。
丸山氏:
はい。復刻や再版もなかなかできないので,自ずと価格は上がっていくでしょう。やはり配信への移行が進んでいる音楽業界でも,中古CDの価格は上がっているようですね。
4Gamer:
こうしてパッケージ版ソフトが減っていくと,将来的には「中古でゲームを買う」ということ自体ができなくなるのではないかとも思うのですが。
丸山氏:
そうですね。手が出なくなる方も多くなっていくんじゃないでしょうか。最近はダウンロード販売がある影響で,発売日からそう時間が経たないうちにパッケージ版が売り切れても,追加生産をしないことが多いようですからね。
私としては「新品が一番安いのだから,欲しいものは発売時に買った方がいいよ」と伝えたいですね。
4Gamer:
確かに,新品を押さえるのが一番状態も良いし安いですからね。パッケージソフトの生産数が少なくなるなか,昔のような値崩れもしなくなっていくのかもしれません。
販売店としてはレストアや偽造品対策にも注力
4Gamer:
BEEPに買い取られたゲーム機やパソコン,アーケードゲーム基板は,基本的にそのままの状態で販売されるのでしょうか。
丸山氏:
直せるところは直し,オリジナルの状態に近づけてから,保証を付けて販売しています。たとえばゲームギアも,買い取り時には壊れているものが多いんですが,弊社ではその道のプロがオーバーホールしたあとに販売しています。その分価格が高くはなっていますが。
単にブームが来て相場が高くなってるから,高い値を付けて売っているというわけではないんです。
我々としては,ショーケースに入れる価値のあるものを販売し続けたいんです。中古品だからといってボロボロでいいわけではなく,新品に近いものを当時と同じ感覚で手に取っていただきたいんです。
4Gamer:
確かに,ショーケースに入っているものは美品ですよね。ゲーム機なら,プラスチックの変色が少ないものが陳列されています。
丸山氏:
例えばファミコンの黄ばみは素材のプラスチックに加えられた難燃剤によるものなので,どうしても避けられないものもあります。中古品は経年劣化しているものが多いので,発売当時を知らない人はそちらの色で記憶してしまうかもしれませんよね。
4Gamer:
修理はどんな方が行っているのでしょうか。
丸山氏:
弊社の修理担当はかつてPCの製造に携わり,修理技術に長けている人物です。壊れた状態で売るのは忍びないものがありますし,ちゃんと直してあげたいんです。
4Gamer:
ハードウェアはそういった形で修理が可能ですが,ソフトウェアの記憶メディア,特にCD-ROMやDVD-ROMといったものになると,販売店のほうでできることは少なくなりますよね。CD-ROMの寿命は約30年という説があって,タイトルによってはそれに差し掛かっていますが,持ち込まれたソフトの中に起動しないものが増えている……といった実感はありますか。
丸山氏:
買取の現場に聞いてみても,そういった傾向があるとは感じていないようです。ソフトを売る前にお客様自身が状態をチェックして,ひと目で分かるような劣化があれば,そもそも持ち込まれないはずですので,こちらが感知していないケースももちろんあるとは思いますが。
一方で,SNSやメディアでは劣化したケースが大きく取り上げられ,目立ちがちだとも感じています。全体的な傾向として表れているではなく,それぞれの保管状態によるものが大きいのではないでしょうか。
4Gamer:
確かに,ボロボロになったCD-ROMの写真は衝撃的で,拡散されがちですね。
丸山氏:
弊社で買取をする際は,開封済みのものはしっかりチェックします。ただ,未開封のものについては弊社で封を切るわけにもいかないので,ここはご理解くださいといったところです。
4Gamer:
未開封であることに価値があるわけですからね。記憶メディアといえば,フロッピーディスクやカセットテープにはカビの問題があります。持ち込まれた品にカビが付いていた場合のケアなどはあるのでしょうか。
丸山氏:
買取の段階でチェックを行い,カビが付いていれば相応の買い取り価格になります。弊社から販売する際も,お客様にはカビが付いていることをご了承いただいたうえでということになりますね。
磁気メディアはカビが本当に怖いんです。機器側のヘッドとメディアを接触させて読み込みを行うので,その際にヘッドがカビをなすりつけてしまいます。
その点,CD-ROMなどの光学ディスクは読み込み時に接触がありませんので,私たちとしては,磁気メディアの保存方法のほうが気になるところではあります。
4Gamer:
近年は,ゲームカートリッジの偽造品も増えていると聞きます。BEEPではいかがでしょうか。
丸山氏:
偽造品自体は昔からありますが,最近になって精巧なものが増えてきた印象はあります。ただ,100%完璧な偽造品というものは存在しませんし,買い取り側が知識を持っていれば見抜けるはずです。弊社では鑑定も慎重にしていますし,偽造品の情報も積極的に入手して,日々勉強しています。
4Gamer:
偽造品はどれくらいの頻度で持ち込まれるものなんでしょうか。また,プラットフォームによって数に違いがあったりしますか。
丸山氏:
数としては1週間に1つあるかないか,ぐらいでしょうか。プラットフォームを問わず,価格が高いソフトに多い傾向はあると思います。
4Gamer:
鑑定力を上げるための取り組みはされていますか。
丸山氏:
すべてに共通するルールがあるわけではないので,本物も知ってもらったうえで,「この偽造品にはこういった特徴があった」という実例を社内で共有するしかないのが実情です。マンパワー頼みではありますし,実際見落とすこともあります。そこも共有し,同じようなミスを犯さないようにしています。お客さんを裏切りたくはないですから。
レトロゲームは思い出の発信源
4Gamer:
BEEPは秋葉原と宮前平に実店舗を構えていますが,店舗を持つことのメリットはありますか。
丸山氏:
認知度が上がりました。例えば秋葉原は街並みも様変わりしつつあり,ゲーム専門店どころか物を売る店自体も減ってきていて「秋葉原に来たのに寄るところがない」なんてことにもなりかねません。
そうした中で実店舗を構えたことで,ブランディングになりました。また,弊社ではゲームのパブリッシング事業を行っており,店舗では新品も売っています。お店にはアンテナショップとしての意味もあるんです。
4Gamer:
珍しい品が入ってくると,テンションが上がるようなことはありますか。
丸山氏:
それはもう,本当に上がりますよ。未開封品もうれしいですが,一番は,大事にされていたことが分かるものですね。ゲームソフトであれば,説明書からハガキまで全部取ってあって,大抵取れている箱の“耳”もちゃんとしているものを見ると嬉しくなっちゃいます。あとは,自分が子どもの頃に集めていたものが店に揃ってくるのもうれしいです。
4Gamer:
これからレトロゲーム文化が長く続くように,プレイヤーができることは何でしょうか。
丸山氏:
簡単に言えば,手放すときは捨てたり,ひと山いくらのところで売ったりするのではなく,しっかりとした店で売ってくださいということですね。我々は,これまで大事にされてきた思い出も込みで買い取りをしているつもりです。
4Gamer:
集めていた本人はそのあたりを十分に分かっているかと思いますが,何らかの事情で家族などの近しい人が売るときは,そこがあまり気にされていないような気がしますね。
丸山氏:
私たちも,亡くなられた方のご遺族から買取を依頼していただくことがあります。こちらも心が痛みますが,価値が分かっていないところに売られてしまってコレクションが散逸するのは良くないということで買い取りさせていただいています。
ご相談いただければ簡単な手続でできますので,せっかくのコレクションを無駄にしないためにも,ぜひお願いしたいです。
4Gamer:
保存方法についてはいかがでしょうか。
丸山氏:
湿気と日光を避けるだけで全然違うと思うので,保管場所には気を使っていただきたいです。携帯ゲーム機は,ACアダプタをつなぎっぱなしにするとバッテリーが膨らみますし,乾電池も外していただいたほうがいいです。外見が綺麗なのに,蓋を開けたら白い粉だらけの電池が入っていたりすると,悔しいですね。
あとは,コレクションの保管場所を忘れないことも大事ですね。一人暮らしを始めてしばらく経ってから,実家に残してきた物を整理する必要が出てくると,「適当に捨てといて」と家族に任せがちですが,そのなかに,本人も存在を忘れたゲームのコレクションがあったりするんです。
4Gamer:
狭いアパートにコレクションのすべてを持っていく人は,なかなかいないでしょうしね……。
丸山氏:
それを捨てられてしまったら悲しいじゃないですか。ですので,帰省したときに自分で整理したり,持ち帰ったりしてほしいですね。
4Gamer:
自分のコレクションに責任を持つことが大事ということですね。さきほどからお話をうかがっていて,状態が悪かったり,コレクションが散逸したりといったことに“悔しい”“悲しい”という感想を持たれるのが印象的です。
丸山氏:
高く売れるとか売れないとかじゃなくて,やっぱりゲームは遊んでナンボだと思うので。子ども時代の遊び道具が使えなくなるのは,仲間がいなくなったようで悲しいですから。
4Gamer:
それはゲーマーとしてよく分かります。では時間もないようですので,現在レトロゲームを楽しんでいる人や,これから集めたいと思っている人に向けて,伝えたいことがあればお願いします。
丸山氏:
発売当時を知っている方は,ぜひ一度お店で空気感を味わってほしいですね。若い方は,まず親御さんや年長の方に話を聞いていただければいいんじゃないでしょうか。きっと皆さん楽しそうに話をしてくれると思います。
親子連れの方が来店されることもありますが,それが理想だと我々は考えています。レトロゲームは思い出の発信源で,我々は思い出が詰まった物を売っているということです。
4Gamer:
ありがとうございました。
今回のインタビューで丸山氏が話したように,さまざまなパッケージソフトが減っていくなか,いちゲーマーとしてできるのは,欲しい物はしっかりと確保しておくこと,そしてコレクションを最後まで大事に扱うこと,ということになるだろう。
今は最新のゲームも,やがてはレトロゲームになる。そこまで考えて,扱い方や保管の方法を考えてみるといいのではないだろうか。
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