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[インタビュー]制作中の新作はおよそ15本。「結局は,楽しいゲームを作って,それをちゃんと提供しなければなりません」―――ネクソンの新代表が語る,ネクソンというゲーム会社のありかた
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印刷2024/12/04 08:00

インタビュー

[インタビュー]制作中の新作はおよそ15本。「結局は,楽しいゲームを作って,それをちゃんと提供しなければなりません」―――ネクソンの新代表が語る,ネクソンというゲーム会社のありかた

 Googleで「NEXON」(ネクソン)と調べると,サービスサイト(公式ポータルサイト)が表示されると思うが,そこには「オンラインゲームはネクソン」と書いてある。

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“最も長くサービスされているオンラインゲーム”としてギネス登録された「風の王国」(関連記事
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 そのキャッチコピーは伊達ではなく,ネクソンが作った「風の王国」は,世界最古のグラフィックMMORPGの一つと称される作品だ。
 なんと1996年4月に正式サービスが開始されており,「ウルティマオンライン」(1997年9月)より古いのはもちろんとして,筆者が初めて遊んだ欧米最古のMMORPG「Meridian 59」(1996年9月)より,初代の「Diablo」(1996年12月)よりも古い。
 「タクティカルコマンダー」「テイルズウィーバー」「メイプルストーリー」「マビノギ」「アラド戦記」「カートライダー」「エランシア」「コルムオンライン」「君主online」「アスガルド」……PCでオンラインゲームを遊んできた人であれば,おそらく1本くらいはネクソンのタイトルを遊んだことがあるだろう。

 単に歴史があって大きいメーカーなのかと思いきや,最近でも「ブルーアーカイブ」はもちろん,「デイブ・ザ・ダイバー」「HIT:The World」「The First Descendant」など,タイトル規模の大小を問わずスマッシュヒットとなっている名の知れたタイトルは多い。
 客観的に見て,世界トップクラスの「ゲーム会社」であることは間違いなく,いまもなおその進化を続けている。

 2023年のG-STAR(韓国最大のゲームショウ)には不参加だったネクソンだが,2024年は超巨大なブースを作り,自らの30周年を同時に祝うという盛大なイベントを開催していた。そう,ネクソンは30周年なのだ。
 G-STARでのネクソンについてはいくつか記事にしているので,ぜひご覧いただきたい(探してみたら,いくつかどころじゃなくてかなり本数があった)。


 そんな30周年という節目のためか,それとも就任からまだ間もないタイミングのせいか,短い時間とはいえ,G-STAR会場でネクソンの社長にインタビューする機会をもらうことができた。
 現ネクソン社長Lee Junghun(イ・ジョンホン)氏は,なんと新卒入社の“叩き上げネクソン人”だ。大きい会社だと「外部からお金計算が得意な人を探して迎え入れる」というパターンもよく聞かれるが,9000人を超える規模の会社なのに,一介の平社員から社長にまで登り詰めることができるネクソンという会社は,結構珍しい。
 開発叩き上げということで,たぶん普通の社長インタビューとはちょっと違ったことが聞けそうなので,そのあたりを重点的にお話を聞いてみよう。

※余談だが,ちょっとオンラインゲームに詳しい人だと「ネクソン」という会社は韓国の会社だと思っていると思うが(いや間違ってはいないが),実は日本が本社だ。なのでゲーム業界の人は,どっちのことか混乱しないように「ネクソンコリア」「ネクソンジャパン」と分けて明言することが多い。まあ分けても分けなくても,たまにどっちの話だか分からなくなるのだが。


 ところでネクソンという会社は,普通に見ているとあまり気付かないかもしれないが,「とにかく挑戦をやめない」会社だ。

 前述のように,大変長い間運営しているオンラインゲームを多く持っているわけだが,それに飽き足らず,次から次へと新しい挑戦をする。
 昨今の「デイブ・ザ・ダイバー」というインディー系大ヒット作はもちろんだが,インタビュー中にも触れている「IPの縦展開」などは,もうずいぶん以前からネクソンは何度も何度もやっている。
 だからこそ,結果的にはうまくいかなかったものも多いのだが(メイプルストーリーポケットとかメイプルストーリー2とか),その経験が生かされてまた次のチャレンジへとつながっていく。

 次の手を,また次の手を,どんどんつないでいく。このチャレンジマインドは,日本の会社には,いや世界のゲーム会社の中にもあまり見かけないものなので,社長が替わってそれがどうなっていくのか,とても楽しみだ。

ネクソン代表取締役社長 Lee Junghun(イ・ジョンホン)氏
「社長だぜ!」という空気感は感じないが,物静かながらも確固たる強い意志と明確な方向性が伺える,なんというか真のラスボス的な人だった。伝統的に「割と濃い人」が社長になるイメージがあるネクソンだが,今回はちょっと毛色を変えて開発出身社長の王道路線だ。このあとどう変わっていくのか楽しみだ
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4Gamer:
 本日はお時間取っていただきありがとうございます。
 ちょうど先ほど,Public Relations VPのKim Yongdae(キム・ヨンデ)さんと別件でお会いしてたんですが,長いお付き合いだと言うので,あなたのことを「どんな人ですか?」と聞いたら「人生であんなに頭のいい人には会ったことありません」って言ってましたよ。

ネクソン代表取締役社長 Lee Junghun(イ・ジョンホン)氏:(以下,Lee氏)
 いやいや……それは褒めすぎです(笑)。

4Gamer:
 でもお二人ともずいぶん長いことネクソンにいると聞きました。新卒でネクソンに入社したとか。

Lee氏:
 そうですね。初めて就職した会社がネクソンです。ネクソンのゲームが大好きだったので必ず入りたいと思ってたんですが,幸い機会に恵まれて,開発として入社することになりました。

4Gamer:
 それは何年ぐらいのことですか?

Lee氏:
 2003年ですね。

直近ではアニメ「葬送のフリーレン」とのコラボイベントがあったりして,まだまだ健在(関連記事
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4Gamer:
 ネクソンの2003年というと……マビノギのあたり?

Lee氏:
 そうですね,その頃です。入社してすぐにマビノギがローンチされたのを覚えています。

4Gamer:
 いやしかし,そこからずっと同じ会社にいるわけですよね。ゲーム業界の人で一つのところにずっといる人は珍しいような。
 ……でも確かに考えてみたら,韓国ゲーム業界で「元ネクソン」はあまり多く聞かない気がしますね。

Lee氏:
 そうですか?(笑) でも確かに私だけではなく,現在Nexon Koreaで代表を務めるカン・デヒョンなども同じです。

4Gamer:
 それにしたって,新卒の社員が社長にまで登り詰めたわけですが,当時の自分は,今こうなることを想像できてました?

Lee氏:
 いや,まったくできてませんでした。なにせ私が入った頃は,全社員合わせても200人以下の会社でしたし。

4Gamer:
 ちなみに今は?

Lee氏:
 今は9000人以上ですから,時の流れを感じますね。

4Gamer:
 9000人には遥か遠く及びませんが,私も小さな会社の社長なので興味本位で聞いてみたいのですが,今まで「こんな会社辞めてやる!」って思ったことはないんですか?

Lee氏:
 今のところないですよ(笑)。

4Gamer:
 ネクソンいい会社ですね……。

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Lee氏:
 (笑) いや本当に,人生の半分以上をネクソンで過ごしてます。

4Gamer:
 その半分以上の人生で,一番印象に残っている仕事ってなんですか?

Lee氏:
 一番印象に……そうですね,入社した当時の話なんですが,ネクソンの社員はとても好奇心が強いなと思ったことがあります。

4Gamer:
 好奇心,ですか。

Lee氏:
 ビジネス上の話です。
 売上が好調なときであっても質問をしあって疑問を解消して,不調なときにも質問をし続けるという風潮がありました。当時は200人以下でしたけど,一般の社員からリーダーまで,全員が質問をやめないんです。疑問があったらすぐに解消する。これがとても印象深かったことですね。
 しかしそれは,今も変わっていないと思います。私達は,質問にいい答えを返せる人よりも,鋭い質問を投げられる人を評価しています。

4Gamer:
 なるほど。「印象深い出来事が,今のLeeさんに何か影響を与えていますか?」と聞こうと思ってたんですが,印象深い出来事は会社のカラーだったんですね。

Lee氏:
 ええ。20年以上韓国ゲーム業界にいますが,ここまで風通しのいい会社はあまりないと思いますよ。

4Gamer:
 Leeさんはそんな珍しい会社を引き継ぐことになるわけですけど,この20年間ゲーム業界を見てきて,ここ最近はどのような変化を感じてますか?

Lee氏:
 あまりにも数多くの変化があって,ここで語るにはとても時間が足りないので,最近一番強く変化を感じていることを挙げますね。
 私のゲーム人生は,子どもの頃にファミコンの日本のゲームから始まったんですけど,その昔は,ユーザーがゲームを供給する側に合わせて,受動的にプレイする傾向があったように感じます。
 一方で今は,ユーザーの反応が昔より強くなりました。ですから,ユーザーのフィードバックをちゃんと受け止められない会社,ゲームに反映できない会社というものは,生き残れない時代になったのだなぁと思います。

4Gamer:
 我々も「風の王国」時代からネクソンを見てますし,ネクソンがオンラインゲームにすごく長けた会社であることは存じています。
 まぁこれはオンラインゲームに限った話ではないんですが,ゲーム開発はユーザーの意見を聞きすぎてもダメだと思うんです。僕もそうですが,ユーザーが考えているのは基本的に自分のメリットだけであって,全体の調和ではないですから。
 とはいえ,ユーザーの意見をちゃんと受け止めるべきだというのも分かります。そのあたりのバランスはどのようにして取るんですか?

Lee氏:
 バランスというものは,ゲームを運営する会社が,ユーザーの声を通してどれだけ多くの“データベース”を確保しているかで変わってくるものだと思っています。

4Gamer:
 データベースというのは何を指してます?

定期的にユーザーの意見を収集するのも,長寿の秘訣だろうか。こうして見ると「メイプルストーリー」のプレイヤーの6割近くは6〜10年の古参で,なかなか興味深い(関連サイト
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Lee氏:
 ちょっと概念的なものですね。大事なのは,ゲームを楽しむユーザーの一人一人と通じ合うことなんです。
 特定の傾向を持っているユーザーの意見ばかりを集中して聞くのではなく,多くのユーザーの意見に耳を傾けることで,バランスのいい意思決定を下すことができるのではないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。声の大きい一部のユーザーの声ばかりを拾うわけではない,と。

Lee氏:
 そうですね。私がネクソンに入社した頃,先ほど名前の出た「風の王国」の開発メンバーでしたが,そのときは月額1万ウォン(約1000円)で誰でもゲームを楽しめました。

4Gamer:
 月額固定課金,懐かしいです。

Lee氏:
 あの時代,ネクソンはまだFree to playを取り入れていませんでしたが,当時からユーザーの意見をデータ化する取り組みを行っていました。
 そのときは,掲示板などユーザーコミュニティの書き込みを見て傾向を把握しようとしていましたが,それはもちろん多数の意見というわけではないので,もっと多くのデータを見ていく必要がありました。
 ユーザー全体の意見を得るために,ネクソンがデータ分析に注力していくことになった理由がこれです。

4Gamer:
 その場合の「データ」というのは,例えばプレイ時間であったり課金額であったり,ゲームでスタックする場所であったり,そうしたデータなんかも含まれますよね?

Lee氏:
 もちろんです。しかし例えばオンラインRPGの場合は,プレイ時間などももちろん大事なのですが,最も重要なのはユーザー同士の関係性を作ることだと思います。
 ゲームの中には,人に影響を与えるユーザー,友達が多いユーザー,人の輪の中心にいて人を巻き込んでくれるようなユーザーなどがいます。
 ユーザー同士の関係性を1つずつ追跡して見ていくと,そうした人物たちにたどり着くことが多いです。会社としては,そうしたユーザーに快適なプレイを提供することもまた,重要になるかなと思います。

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4Gamer:
 この規模の会社の社長ともなると,基本的には数字の話をしてくれることが多いですが,さすがに開発から上がってきてるのでちょっと違いますね(笑)。
 しかしそれにしてもネクソンは,あまり自分たちでは強くアピールしませんが,メイプルストーリーやマビノギ,カートライダー,アラド戦記……長期運営されているタイトルがかなり多いですよね。
 それは今聞いたように,ユーザーのフィードバックを吸い上げて,きちんと反映して,よりよい循環を回していくからなんですかね?

Lee氏:
 そうですね。
 でもそれだけじゃなくて,メイプルストーリーの得意なこと,アラド戦記の得意なことがあると思うんですけど,互いで培ったノウハウは共有されなければなりません。
 ユーザーの動向やゲームの指標をトラッキングすること,これは会社内部で共有できる仕組みになっているので,どのゲームでも公平に情報を利用できます。外部の系列会社がネクソンにパブリッシングだけ頼む場合も,もちろんこのシステムにアクセスできます。

4Gamer:
 外部からも使えるの結構いいですね。

Lee氏:
 しかしもちろん,こうしたデータを閲覧できるから,ユーザーの動向をずっと見ているからといって,すべてのゲームが成功するわけではありません。結局は,楽しいゲーム,楽しいコンテンツを作って,それをちゃんと提供しなければなりません。
 この2つをバランスよく進めることが,ゲームの成功に必要なことだと思います。

4Gamer:
 最後は基本の話に戻りました(笑)。
 しかし先日の成長戦略会議の資料をひととおり拝見しましたが,2023年の売上実績は4230億円で,これを2027年に7500億円にするという数字が提示されてました。この数字だけ見ると,割と突拍子もない目標値だと思うのですが,この成長の原動力は何を想定されているんですか。

Lee氏:
 ほかのゲーム会社も同じ戦略だと思うんですけど,メイプルストーリーやアラド戦記といったIPが,ネクソングループ全体の売上の50%以上を占めている状態です。今のこの状態からIPの生態系を構築していければ,もっと売上規模を拡張できるのではないかと思います。

4Gamer:
 そこは理解できます。

Lee氏:
 例えばアラド戦記はもともとPCだけでしたが,今年中国でモバイル版をリリースして,中国モバイル市場で過去最高と言えるような数字をあげることができました。

4Gamer:
 とてつもないレベルの売上あげてましたよね。

先月お披露目された,「アラド戦記」ベースの新作APRGDungeon&Fighter: Arad
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Lee氏:
 また,今ネクソンはIPのポートフォリオをたくさん持っていますが,新たなIPを毎年1つずつ作り出していく計画をしています。
 こうした横展開の戦略と垂直戦略を両立してバランスよく進めることができれば,2027年の目標達成も可能だと思ってますよ。

4Gamer:
 横軸(新規IPの創出)は理解しやすいですが,縦軸(IPの展開)は結構難しいのでは。世界中の各社がそれに挑戦していますが,なかなかうまくいかないことも多いわけで。そこで成功するためのキーファクターはなんだとお考えですか?

Lee氏:
 縦軸というのは,例えばアラド戦記をベースとした新しいゲーム,新しい地域,プラットフォームの拡張といったもので,IPのポートフォリオにおいて多角的に活用する戦略をとっていくと理解していただければと思います。もちろん新作も含めての話です。
 そのうえでアラド戦記の事例を挙げると,PCでサービスしていたタイトルですが,これをモバイルに移植して発売しました。これが,既存のIPの新しいプラットフォームの拡張です。

4Gamer:
 今回のG-STARにもありますが,TGSでもお披露目していた「The First Berserker: Khazan」PC / PS5 / Xbox Series X|S)については,パッケージゲームとして発売されますよね。

Lee氏:
 ええ。では,Khazanはなぜパッケージゲームになったのか。
 アラド戦記は世界で累計ユーザーが8億5000万以上いるんですが,その認知度はアジア圏に集中しています。このIPを,日本や欧米含む世界でもっと拡大していきたいと思っています。
 このためパッケージゲームが最適な戦略だと考えて採用したんですが,大事なことは,決して1つのタイトルの成果にこだわりすぎないことだと思います。Khazanは,世界で認知度を高めるための架け橋なんです。

4Gamer:
 それは,一つ一つの挑戦の細かい結果を,ことさらにクローズアップして気にするわけではないということですか?

NEXONブースは,ブースに入れないばかりか通路すら完全にふさぐ大混雑ぶり
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Lee氏:
 そうとも言えます。
 今回G-STARで出展しているProject OVERKILLは,Khazanのあとでローンチされます。Khazanによって,世界の多くのユーザーにIPを知ってもらって,その認知度をベースにOVERKILLが出ることになりますので,より大きな効果を得られるのではないかと考えます。

しかもブース自体が大変に巨大。TGSで最も大きなブースの軽く3倍くらいある。ブースの一番端から広角で撮っても,全体がまったく入らない
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4Gamer:
 なるほど。挑戦そのものの全体像が重要であると。

Lee氏:
 そして最後に垂直戦略として,ハイパーローカライゼーションについてお話しします。
 これは一言で言えば,グローバルワンビルド(クライアントファイルが全世界共通)の逆バージョンです。地域ごとに全部分離させて,サーバーも分離して,現地ごとに開発チームを作って,ハイパーローカライズをしていくというものです。

4Gamer:
 それ……1周して戻ってきた感じですか? かつて多くのオンラインゲームがそのやり方でしたが,しばらくしてグローバルワンビルドになって,また戻ってきたんですね。
 その手法はコストも時間もかなりかかるわけですが,それでも戻したほうがよいという判断なんでしょうか。

Lee氏:
 とても鋭い質問です……そこは本当に悩みました。
 コストの問題で,すべてのタイトルでこの戦略をとることは難しいです。これは経営者としての目線ですが,その地域で投資した際に,収益がちゃんと出ているかについて,事前に分析が必要だと思います。
 選別的にすすめていくしかないと思うんですけど,例えばメイプルストーリーではこの戦略を取り入れて1年半ぐらい見守りました。投資に比べて,その成果は倍以上のものでした。もちろん,全体のIPにこれを拡張することはできなくても,一度成功事例を確認できた以上,これからもハイパーローカライズを強化していきたいと考えています。

4Gamer:
 なるほど。しかしIPの展開にしてもハイパーローカライゼーションにしても,同じIPで作り方を変えることが重要だと思うんです。例えばパッケージゲームなら,1つの完結した作品としてきちんと作り込まなければいけないし,オンラインゲームならコミュニティを重視しなければいけない,とか。
 それぞれまるっきり作り方が変わりますよね。ネクソンという会社は,そこは全方位に問題なくいけるものなんですか。

Lee氏:
 正直に言いますと,ネクソンはオンラインゲームを長く運営してきた会社なので,パッケージゲームを一定期間の中で最適な条件で作ることには詳しくありません。そのため,日本のゲーム会社の事例をすごく研究して,学んでいます。
 しかし,しっかりと投資を進めていけば,力量はついてくるものだと思います。それさえつけてしまえば,オンラインゲームのノウハウと融合させて,ハイブリッドな形で新しいものを作ることができるのではないかと長期的な観点では思っています。

4Gamer:
 韓国は歴史上,コンソールゲームをきちんと作ったことがほとんどないので,開発者も経験がないはずです。そんな状況下でそちらへシフトしていくのは,相当大変なことではないかと思っているのですが。

Lee氏:
 とても大変です。尊敬する日本のゲーム開発者がたくさんいらっしゃいますけど,日本のパッケージゲームが持っている完成度,ストーリーや演出,クオリティ……学ぶところがたくさんあって,勉強しているところです。

4Gamer:
 ストーリーテリングやナラティブに関わる部分は,いまはまだコンソールゲーム独特のものなので,おそらくそこが韓国の開発者にとって一番大変だろうなと思っています。

Lee氏:
 おっしゃるとおりです。

4Gamer:
 韓国のゲーム業界全体が,今割とストーリーテリングの方向に向かっているような気がしています。スマホというレッドオーシャンにみんな疲れていて,コンソールゲームでちゃんとしたタイトルを作って,一つのIPとして作り上げて,そこからビジネスを展開していこう,という方向にシフトしているんじゃないかなと。

Lee氏:
 なるほど。しかしネクソンとしては,コンソールプラットフォームに完璧なシフトを求めているわけではありません。一言で言えば,完成させたパッケージゲームをオンラインゲームやモバイルに移植する方法はないかを工夫しています。

4Gamer:
 そっちのアプローチは,確かにまだあまり聞きませんね。

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Lee氏:
 パッケージゲームは世界的に相当な市場規模を持っていると思いますが,ではこの市場にどう参入するかが問題です。
 ネクソンがこの部分でほかのゲームと競合して勝つには差別化が必要だと思うんですが,そういう意味では,ネクソンが持っている元の力と融合させて,ハイブリッドという方向で参入してはどうだろうかと。
 もちろん当面の状況としては,完成度の高いコンソールゲームを作るのは難しいことだと思いますが,私達がもともと得意なことと,パッケージゲームを作りながら学んだことを融合していけるんじゃないかと。

4Gamer:
 コンソールゲームのいいところをモバイルやオンラインゲームなどにうまく取り込めたら,欧米エリアなどにもスマホゲームを広げやすいですよねきっと。

Lee氏:
 はい,そうです。今ネクソンが目指している方向はまさにそういうものです。日本の会社からはたくさん学ぶところがあるので,今後ともぜひ勉強させてください。

4Gamer:
 ネクソンも海外売上が97%ぐらいを占めてるので,それをさらに広げるためにコンソールノウハウを得ようというのは,すごくよい手段だと思います。そういうことを含めつつ,今後グローバルの成長を目指していくにあたって,M&Aというのはどれぐらいの比重を占めてますか?

Lee氏:
 もちろん大事な軸としていろいろ取り組んでいます。1つの会社の力で生き残れる時代ではありませんから,IPにおいてのコラボレーションだったり,シナジー効果を出せるような会社とのパートナーシップを構築することが重要だと思っています。

4Gamer:
 M&Aとはちょっと違うんですが,最近の話ではMINTROCKETの動きが,なんだかとてもネクソンらしいなと思ってまして。

Lee氏:
 どのあたりでそう思いました?

4Gamer:
 Leeさんが社長になったのでもしかしたら変わるかもしれませんが,ネクソンぐらいの大きな会社になったら,決断のプロセスがすごく重いと思うんですよね。とても時間がかかる。おそらくそれを避けるための策の一つがMINTROCKETだと思うんですけど,ああいうものを今後も増やしていくんでしょうか。

Lee氏:
 それもありますが,どちらかというと……垂直戦略として,王道のタイトルを作る開発チームは,兆ウォンレベルの膨大なフランチャイズを率いています。船に例えるなら,航空母艦のようなものです。ただひたすらに,大きいのです。

4Gamer:
 小回りも効かなそうです。

Lee氏:
 はい。こればかりになってしまうと,会社としては進むのが遅くなりすぎてしまいます。MINTROCKETは海賊船のように,意思決定のすべての権限を与えて,好きにしていいのです。彼らに自由に動いてもらえるように作りました。

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4Gamer:
 「好きにしていい」とはおっしゃいますが,どこまで独立性があるんですか?

Lee氏:
 Nexon Koreaが持つリソース,例えば先程お話したデータなどは自由に使うことができますし,ゲームに関しては自分たちが作りたいものを自由に作ってください,としています。しかし,何かを作ろうと思ったら,私に報告はしてくれます。

4Gamer:
 違うメディアのインタビューで「MINTROCKETで作ったものを他社でパブリッシングできる」という発言を見たんですが,それ本当ですか? そこまで独立性があるのかと,かなりびっくりしました。

Lee氏:
 よく読んでますね(笑),その通りです。
 MINTROCKETの名前は,最初は法人名として作ったものではなく,斬新なゲームをサービスするサブブランドの名前でした。ネクソンより合ったパブリッシングができる会社があれば,お任せすることは十分ありえると思います。「ブルーアーカイブ」と(日本の)Yostarのような関係ですね。

4Gamer:
 でもそれ,日本のユーザーはブルーアーカイブをYostarのものだと思っている人もいる気がします。

Lee氏:
 多くの方に愛されていれば十分です。

4Gamer:
 しかし,本当にかなりの独立した権限があるんですね。先ほど海賊船に例えていたのは,半分冗談だけど半分本気なんだろうなというのが,よく分かります。
 兆ウォンというレベルの予算があるすごく巨大なタイトルがあり,MINTROCKETのような時代に沿って小回りの効くタイトルを作る会社があり……これらは,グループ内部で作るタイトルの割合はどれくらいあるんですか? 内製だけでなく,外部の開発会社も使ってハンドリングしているのかどうかがちょっと気になりました。

Lee氏:
 もちろん,外部も含めてハンドリングする必要があると思います。ちなみに内部で手掛けている新作についてお話しますと,アーリーの段階も含めて約15本ほどあります。

4Gamer:
 15本! それは……すごいですね。結構ありますねえ。
 本当はそれらを1個1個聞いておきたいところなんですが,もうお時間もないようですので最後に,日本のユーザーに知らせたいアピールポイントはありますか?

Lee氏:
 そうですね……日本のメイプルストーリーは,去年からハイパーローカライゼーション戦略にもとづいてアップデートを続けている状況です。これについて,ぜひ皆さんのご関心を向けていただければと思います。ハイパーローカライゼーションに関しては,ほかのタイトルでも進めていきたいと考えていますので,よろしくお願いします。
 また,2025年にローンチされる「Khazan」「ARC Raiders」PC / PS5 / Xbox Series X|S)はパッケージゲームでして,日本のユーザーにも満足していただけるよう展開していきますので,そちらもご注目ください。
 一人のゲーマーとして,業界人として,任天堂やKONAMI,スクウェア・エニックス……日本のゲーム会社にすごく憧れていますし,この立場になった今はなおさら,いろいろと学んでいかなければと思っています。日本の会社と長期的な協業もしていきたいという思いがありますので,そちらも合わせてよろしくお願いいたします。

4Gamer:
 さらりと,日本のゲーム会社との協業について触れましたね。
 ありがとうございました。どこかと協業することを楽しみにしています。

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――――2024年11月15日
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