インタビュー
「Alliance of Valiant Arms」日本代表のDeToNatorと,ボクシング世界チャンピオンの佐藤洋太選手の座談会が実現。世界の頂点を目指す心構えとは
同じく5月3日,日本ではAVAの国際エキシビションマッチが開催され,日本代表クランのDeToNatorが,韓国代表および台湾代表と戦う予定だ。DeToNatorは,2013年2月に行われたAVAの世界大会「Alliance of Valiant Arms International Championship 2013」の決勝戦で,台湾代表に敗れて優勝を逃しているだけに,今回のエキシビションは,そのリベンジマッチともいえる。
左から前川龍斗選手,佐藤洋太選手,Darkよっぴー選手,MaxJAM選手,井上洋一郎氏 |
そんな世界の壁に再チャレンジする戦いを目前に,DeToNatorのクランマスターを務めるMaxJAM選手と,エースのDarkよっぴー選手,そしてAVAの運営プロデューサーである井上洋一郎氏の3名と,佐藤選手との座談会が実現した。ボクシングとFPS──リアルスポーツとeスポーツという違いはあれど,国際試合を勝ち抜き,世界チャンピオンの座を手にするための心構えなどについて,DeToNatorの二人が佐藤選手に教えを請うた座談会の模様をお届けしよう。
なお,座談会に同席した佐藤選手の後輩にあたる前川龍斗選手は,17歳でプロ試験を受けただけでスポーツ誌の紙面を飾るほどの注目株であり,熱心なAVAプレイヤーでもある。
人生を楽しむために始めたことで苦しい思いをするのは本末転倒
Darkよっぴー選手:
DeToNatorのメンバーはアマチュアですが,プロとして活動することを目標としています。佐藤選手もアマチュアの経験があったと思いますが,プロボクサーになって変わったことはありますか。
佐藤洋太選手(以下,佐藤選手):
個人的には「負けたくない」という気持ちが強くなりました。
MaxJAM選手:
おそらくプロになることで周囲の環境が変わって,背負っていくものが増えたと思いますが,どうやってモチベーションを維持したのでしょうか。
佐藤選手:
なるほど。そういう意味では,僕は一般的なボクサーのイメージとは違うかもしれません。僕はボクシングを“面白い遊び”として捉えているんですよ。
MaxJAM選手:
“遊び”ですか。それでも負けたくないという思いは強いですか。
佐藤選手:
ええ。順を追って話しますね。僕が学生時代に部活でアマチュアボクシングをやっていたときは本当に楽しくて,試合には「できれば負けたくない」くらいの感じでのぞんでいました。インターハイに出場したときも,「全国に強い選手がいるんだから,自分が簡単に勝てるわけがないだろう」と思っていたんです。そうしたら意外に勝ち進んでしまって3位になり,大学にも推薦入学できたんです。
井上洋一郎氏(以下,井上氏):
とんとん拍子だったわけですね。
佐藤選手:
それまでの人生で何かを認められたことなんてなかったので,そのときは悪くないなと思いましたが,今考えると,自分の意志というよりも,流れに乗ってボクシングを続けることになっていたんです。そんな感じでしたから,大学もアマチュアボクシングも,入学から半年くらいで辞めてしまいました。
Darkよっぴー選手:
え,そうだったんですか。
佐藤選手:
辞めた大きな理由は,アマチュアのルールやしきたりが僕には合わなかったからです。僕は変則ボクサーと呼ばれるスタイルなんですが,アマチュアだと異端扱いなんですよ。それに,勝ったときでも派手に喜ぶと注意されたり。言ってみれば,“神聖なスポーツ”なんですよね,アマチュアボクシングって。
でもボクシング自体は面白いし,好きでしたから,プロになって自由にやろうと。
MaxJAM選手:
なるほど。では,プロになったときから世界チャンピオンを目指したのでしょうか。
佐藤選手:
もちろんそうですが,最初は“ボクシングとは面白い遊び”というところから入っていますから,何が何でもという感じではなかったですね。「これからはプロだから」という気持ちも,それほど強くなかったんです。
でもデビュー戦で負けたとき,やっぱり悔しかったんですよ。それでストイックに練習を重ねて5連勝したんですが,7戦目でまた負けてしまいました。そこが大きな転機でしたね。
Darkよっぴー選手:
と言いますと?
佐藤選手:
「あれだけ練習したんだから勝ちたい」というような考え方を捨てたんです。もっと柔軟にいこう,部活の頃の楽しくやっている感じでいいやって。そもそも僕は,自分の人生を楽しくするためにボクシングを選んだはずです。そのボクシングのせいで苦しい思いをするのは違うんじゃないかと。
それが僕にはうまくハマッて,「楽しければいいや」と思って続けていたら,そのまま世界チャンピオンになってしまった,というのが本当のところです。……だから周囲から「すごい」と言ってもらえるのは,少し変な気分なんですよね。だって学生が部活でスポーツをやってるようなことって,当たり前ですから。
Darkよっぴー選手:
佐藤選手にとってのボクシングは,そのくらい生活の一部になっているというわけですね。
佐藤選手:
世間には「プロボクサーとはこういうもの」という固定観念があると思うんですが,それが必ずしもボクサー全員に当てはまるわけではありません。僕はチャンピオンになってからも別の仕事を続けていますし。「もっとボクシングに専念したら」とか言われるんですが,練習は基本的に夕方から始めますから,仕事を辞めると空いた時間にやることがなくなっちゃうんですよ。
……まあ,そんなことを言っていたら,変わり者扱いされちゃいましたけど(笑)。ともあれ,プロ意識がプラスに働く人であれば,持てばいい。僕にとってはマイナスにしかならないので,考えないようにしています。
MaxJAM選手:
今までのお話をまとめると,プロとアマチュアの違いとは,各人の考え方一つでいかようにも変わると。
井上氏:
プロアマ問わず,自分独自のスタイルであっても,きちんとやるべきことをやり,チャレンジしていく心構えがあれば成果につながるわけですね。
佐藤選手:
あえてプロとアマチュアの違いを挙げるとすれば,プロはお金をもらって試合をしているわけですから,それなりの内容を見せなければいけません。たとえば僕は2012年の大晦日に試合をしました。大晦日なんてほかにやることがたくさんありますし,家でのんびりしたい人もいるでしょう。それでもわざわざチケットを買って,会場まで観戦しに来る人がいるわけです。そういった人達をきちんと楽しませるというのが,僕にとってのプロ意識ですね。勝ちに徹すると観ていて面白くなくなりますし,でも僕にも負けたくないという気持ちがありますから,何とかいい試合にしようと,そこは毎回努力しています。
友人でありライバルでもある,ジムメイトの存在
Darkよっぴー選手:
お話を聞いていると,佐藤選手は自然にどんどん強くなっていった感じを受けるのですが,乗り越えなければならない壁はなかったのでしょうか。
佐藤選手:
もちろんありました。一時期,自分で伸びしろが感じられなくなって,ほかのジムの選手とスパーリングをやっても,やられっぱなしということがあったんです。そのときあらためて,自分が強くないとダメなんだと認識しました。ボクシングって,自分が弱いとつまらないんですよ。
でもそこで必死に練習して,苦しい思いをすると,今度はボクシング自体を楽しめなくなってしまいます。そうやって悪循環に入ってしまい,そこでまたボクシングを辞めようかとも考えました。
Darkよっぴー選手:
でも,今もこうしてボクシングを続けているわけですよね。悪循環を抜け出すきっかけはなんでしょうか。
佐藤選手:
ジムメイトの存在が大きいですね。辞めようかどうしようか迷っていたときも,何だかんだでジムに来ていましたし。ジムメイトとダラダラ練習していく中で,あるとき「こうやればいいんだ」とパッと閃いたんですよ。そうしたら勝ち方が分かってきて,またボクシングが面白くなりました。だから僕にも,僕なりの壁がありましたね。
MaxJAM選手:
なるほど。実はDeToNatorの選手達は,今,同じような壁にぶつかっています。今後も勝ち続けたいけれども,プロとしてお金を取れるわけではない。それぞれの生活のこともあるし,どこまでAVAに懸けたらいいだろうかと。そういう意味では,チャンピオンとして日々の練習をしつつ,その一方で楽しくやることを忘れない佐藤選手のスタンスは,非常に参考になりますし,何よりグッと来ます。
佐藤選手:
ゲームもボクシングと同じで,自分が強くないと面白くないですよね。全戦全勝でなくとも,ある程度勝てないとつまらない。もし全戦全敗なんてことになったら,僕,二度とそのゲームをやりませんよ(笑)。逆に自分が強すぎて,常に自分が勝つような状態でも面白くない。
井上氏:
実力の拮抗したライバルや目指すべき目標がないと,モチベーションがわかないんですよね。
MaxJAM選手:
そう言えば,先ほどジムメイトの存在に助けられたというお話がありましたが,やはりそれはライバル的な意味なんでしょうか。
佐藤選手:
そういう意味もあります。相手によって「コイツには負けたくない」と思ったり,「コイツはちょっと遊んでやろうと」思ったり。
ここにいる龍斗は,ちょっとライバル的な存在で,正直,マジでやらないと勝てないですね。まだ17歳なんですが,末恐ろしい実力の持ち主なので,今のうちに出る杭を打っておかないと(笑)。
MaxJAM選手:
その気持ちは愛情の表れですよね?
佐藤選手:
いや,敵意ですよ。今のうちに,僕に頭が上がらないよう潰しておこうって(笑)。
ともあれ,そういうヤツがジムにいると,やっぱり面白くなりますよ。僕はほかの選手と違ってあらかじめ予定を決めておかず,その日,ジムに来ている選手とスパーリングをするんですが,龍斗がいたら優先的に相手に選びますね。
MaxJAM選手:
二人のスパーリングは本気ですか。
佐藤選手:
ええ,僕らのスパーリングは試合形式で,きちんと判定もします。4ラウンド形式で,3ラウンド取れば勝ち,2ラウンドずつならドロー。なので僕は最初に2ラウンド取ったら,3ラウンドめは捨てて,4ラウンドめに集中するんです。そうすると龍斗が4ラウンドめも取っちゃったりして,「しくった!」と思うんですが(笑)。そうやって,遊び感覚を取り入れていくと,発見も多いんですよ。
井上氏:
そう言えば前川選手は,AVAでも勝とうと思って,もう1回もう1回と深夜3:00ぐらいまで遊び続けてしまうそうですが。
前川龍斗選手(以下,前川選手):
ええ,そうなんです。ついつい。
井上氏:
今,AVA全体に,前川選手のようなプレイヤーが増えているんですよ。勝ちたいと思っていただけるのは僕らとしてもうれしいのですが,それが生活に支障を来たすようになると少し問題があるとも思っていて。
佐藤選手:
でも僕は,それでいいと思いますよ。普段の生活に支障が出るのは,ゲームのせいではなく,その人が悪いんです。仮にゲームで龍斗の生活が崩れてボクシングがダメになるなら,僕としては願ったり叶ったりですよ(笑)。
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