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Access Accepted第593回:熱狂的ファンからブーイングを受ける「ディアブロ」の新作
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印刷2018/11/12 12:00

業界動向

Access Accepted第593回:熱狂的ファンからブーイングを受ける「ディアブロ」の新作

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第593回:熱狂的ファンからブーイングを受ける「ディアブロ」の新作

 「BlizzCon 2018」でアナウンスされたモバイル専用ゲーム,「ディアブロ イモータル」。PC,またはコンシューマ機向けの「ディアブロ」を期待していた多くのファンにとっては拍子抜けする発表だったようで,それは会場の雰囲気やSNSの書き込みなどかもら明らかだ。Blizzard Entertainmentと開発チームは現在,ファンの大きな批判に晒されている。ファンとの良好な関係を築いていたことで知られる同社に,何が起きたのだろうか。


Blizzardが受けた,かつてない反感


 北米時間の2018年11月2日と3日,カリフォルニア州アナハイムのAnaheim Convention CenterでBlizzard Entertainmentのイベント,「BlizzCon 2018」が開催された。今年で12回目を迎えるBlizzConだが,RTS「Warcraft III」のリマスター版となる「Warcraft III: Reforged」や,「ハースストーン」の新拡張パック「Rastakhan's Rumble」(邦題は「天下一ヴドゥ祭」)が発表されたほか,「オーバーウォッチ」では29人目のヒーロー“アッシュ”が,また「Heroes of the Storm」では初のオリジナルヒーローとなる“オルフェア”が公開されて,ファンは大きく盛り上がった。

 「Overwatch World Cup」では韓国チームが3連勝を成し遂げた一方,韓国選手が連勝していた「StarCraft II World Championship Series」では,開催から7年目にして初めてフィンランドの選手が優勝して喝采を浴びるなど,eスポーツ周辺も相変わらずの盛況ぶりだった。

 毎年,3万5000人ほどの来場者を集めるBlizzConでは,安価とはいえない価格のチケットにもかかわらず,発売されるや否や売れ切れるほどの人気ぶりで,生粋のBlizzard Entertainmentファン達が新たな発表に歓喜するためにやってくる,ギルドの集いのようなイベントだ。

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 ところが今年は,前例のないことが起きた。オープニングセレモニーのトリを務めたのはスマホ専用タイトル「ディアブロ イモータル」だったのだが,発表後のQ&Aセッションで,会場からブーイングがあがってしまったのだ。ちなみに,発表と同時に公開されたシネマチックトレイラーは,本稿執筆時点で383万ビューを獲得しているが,そのうち「高く評価」は2.2万,それに対して「低く評価」は58万と大差をつけている。また,210万ビューのゲームプレイトレイラーでは,「高く評価」が1万5000で,一方の「低く評価」が22万と,さんざんな状況だ。Blizzard Entertainmentの新作発表で,ファンからこれほどのバックラッシュ(反感)を買った作品は,筆者の記憶にはない。

 Blizzard Entertainmentもさすがにこの事態は予想していなかったらしく,同社の創業者の1人であるアレン・アダム(Allen Adham)氏は,海外メディアKotakuのインタビューに答えて,「ある程度は覚悟していたが,これほどとは思わなかった」と述べている。Blizzard Entertainmentにとって大災害とも呼べそうな,前代未聞のBlizzConになってしまったようだ。



「ディアブロ イモータル」の発表は修羅場に


 遡ること8月上旬,Blizzard Entertainmentはコミュニティマネージャーが出演する映像を公開し,「複数のDiabloプロジェクトが進行中です。いくつかは時間がかかります……が,ひょっとしたら年内にも何かをお見せできるかもしれません」と,BlizzCon 2018で何かのアナウンスがあることを示唆した(関連記事)。
 当然ながら,ファン達はシリーズ最新作となる「ディアブロ IV」,または「ディアブロ II」のリメイク版,最悪でも「ディアブロ III」の拡張パックが発表されるだろうと噂し合って楽しんでいた。

ディアブロシリーズの開発チームを率いるワイアット・チャン氏。今回の騒動では批判の矢面に立たされることになったが,後日の海外メディアのインタビューでは,「ファン達のリアクションについては十分に理解している」と述べている
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 それだけに,背後の大型スクリーンに映し出された「ディアブロ」のロゴを背に,開発チームを率いるプリンシパルゲームデザイナーのワイアット・チャン(Wyatt Chang)氏が壇上に立ったとき, 多くのファンが大きな歓声をあげた。

 チャン氏が「世界中の何百万もの人々がディアブロで,デーモンをやっつけるために戦ってきました」と語り始めたとき,多くの来場者はNintendo Switch版「ディアブロ III エターナルコレクション」の成功を自ら讃える言葉だと思ったはずだ。ところがチャン氏は,「現代社会では,モバイルデバイスをとおして家族や友達がつながっています。ですから我々は,スマホをプラットフォームとした,新たなディアブロを作ることにしました。デーモン狩りほど家族を親密にさせるものはないですからね」と続けたとき,ファンの熱気は一気に冷め,会場には静けささえ漂った。YouTubeやTwitchのコメントも,ほとんどが「Noooooooooo!」という叫びにも似た書き込みで埋め尽くされた。

 Q&Aセッションでは,この日のためにディアブロの大きなロゴのついたTシャツを着込んできたファンが「これは,季節外れのエイプリルフールジョークですか?」というストレートな質問をし,さらにその後,チャン氏から本作がPCでは遊べないことが告げられたとき,会場からブーイングがあがったのだ。
 このときのチャン氏の「皆さんだって,スマホくらい持っているでしょ」という,おそらく雰囲気を和らげようとして発せられたコメントさえ,ネット上で悪評を買うことになった。

BlizzCon 2018のオープニングセレモニーはTwitchでも無料公開されたが,「ディアブロ イモータル」に対するファンの書き込みは,驚くほどネガティブなものばかりだった
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 振り返ってみると,「オーバーウォッチ」はPCとコンシューマー機版が同時リリースされており,「ハースストーン」はPC版に続く形でiOS/Android版が公開されている。Blizzard Entertainmentにとって久々の任天堂プラットフォーム参入となるNintendo Switch版「ディアブロ III エターナルコレクション」もまた,ファンから好意的に受け止められていたと思う。

 しかし,多くのディアブロファンにとってのメインプラットフォームはあくまでPCであり,マウスによる直感的な操作による“アクションRPG”というジャンルを確立したシリーズを長く愛してきただけに,PC版が作られる予定のない「ディアブロ」シリーズの最新作に衝撃を受けたのだろう。


ディアブロの開発にあたる「チーム3」


 もっとも,ファンの期待を集めてリリースされた前作「ディアブロ III」も,考えてみれば最初から手放しで評価されたわけではない。サービス開始直後からサーバーが不安定でアクセスできないことが続き,さらにオークションハウスの導入によるマネタイズの失敗や,アートワークが従来作の「ダークゴシック風の暗さ」に欠けていたことなどから,古くからのファンにとっては必ずしも出来の良い作品ではなかった。

 こうしたことに対してオリジナル版「ディアブロ」の開発者だったデイヴィッド・ブレヴィック(David Brevik)氏が苦言を呈したところ,「ディアブロ III」開発チームのコアメンバーがブレヴィック氏の陰口をFacebookで交わし,それが外部に流れてしまうという事件も起きている(関連記事)。

 そのときのチームリーダーで,コメント流出事件の謝罪を行ってファンとの関係修復を図ろうとしたジェイ・ウィルソン(Jay Wilson)氏は結局,2016年6月に退職しており,その後任として選ばれたのがチャン氏だった。チャン氏はBlizzard EntertainmentがBlizzard Northを閉鎖する前の2003年に採用されたベテランゲームデザイナーだが,当初は「World of Warcraft」の開発に携わっており,ディアブロシリーズの経験が深かったわけではないようだ。

中国で開発されているだけに,デーモンやサタンといったシリーズのモチーフが規制されないかという不安は拭えない。関連して,チャン氏が「家族」を強調していたことを気にする人もいる
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 2004年にサービスが開始され,MMORPGの絶対王者に成長した「World of Warcraft」以来,Blizzard Entertainmentの社内組織は大きく変化したと言われている。
 現在,同社には6つの開発チームがあり,内訳は「Heroes of the Storm」を運営するチーム1,「World of Warcraft」を開発するチーム2,「ディアブロ」シリーズを担当するチーム3,「Project Titan」の失敗を経て「オーバーウォッチ」で結果を出したチーム4,チーム2から派生する形で組織された「ハースストーン」のチーム5,そして,ナンバーは与えられていないが,「The Lost Vikings」などの旧作を管理するクラシックゲームスに分かれているという。

 それぞれの人数やチーム間の力関係など,詳しいことは分からないが,「オーバーウォッチ」のディレクターを務めるジェフ・キャプラン(Jeff Kaplan)氏は以前,海外メディアに「Project Titanの失敗で,我々のチームには相当なプレッシャーがあった」と語っており,そこから,開発チームの独立性が高く,お互いに競っているような雰囲気が伝わってくる。
 それだけに,ローンチ直後の「ディアブロ III」がファンから批判されたチーム3にかかっているプレッシャーは,我々が想像する以上だろう。

2016年に筆者がBlizzard Entertainmentを訪問した際の本社。多くのファンが期待する「ディアブロIV」は現在,ここで開発が進められているのだろうか?
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制作を担当するのはサードパーティ


 ただし,「ディアブロ イモータル」はチーム3だけでなく,北米ではそれほど知名度が高くない中国企業のNetEase Gamesとの共同開発である。中国でゲームを展開するためには,中国企業の協力が求められる。NetEase Gamesは,「World of Warcraft」や「オーバーウォッチ」などを中国市場で運営しており,Blizzard Entertainmentとのつきあいは古い。こうしたことを考えれば,自然な流れにも思えるが,それでも「ディアブロ」ほどのIPを外部に委託するのは異例だ。

 Blizzard Entertainmentはイベントで,「ディアブロ イモータル」の操作システムをスマホ向けに調整するという技術面で苦心しつつ制作を進めていると強調していた。しかし,「ディアブロ イモータル」の操作システムが,NetEase GamesのスマホおよびPC向けMMORPG「Crusaders of Light」に非常によく似ていることが,BlizzCon 2018会期中からファンの間で指摘されている。
 NetEase Gamesは2016年に「Endless of Gods」というタイトルをリリースしており,それ以降の同社作品の操作システムはそのときに確立したようだ。NetEase Gamesに近い人物に聞いたところ,こうした操作システムはNetEase Gamesが開発した「Messiahエンジン」に組み込まれており,「ディアブロ イモータル」にも使われている。したがって,とくに「ディアブロ イモータル」のために独自の操作システムを開発しているというわけではないはずだ。

NetEase Gamesが欧米でもリリースしているMMORPG「Crusaders of Light」。最大で40人でプレイ可能なレイドや,5人対5人のPvPが用意されている
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「ディアブロ イモータル」のユーザーインタフェースや操作システムは,上の「Crusade of Light」によく似ているという
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 こうした理由が,「ディアブロ イモータルは中国産スマホゲームのリスキンだ」とするファンのコメントにつながる。リスキンとは“スキン”,つまりテクスチャを張り替えただけのジェネリックな製品という意味だ。Blizzard Entertainmentがディアブロという重要なIPのプロジェクトを,サードパーティに丸投げしているわけではないと信じたいファンも多いはずだが,「ディアブロ イモータル」のビジネスモデルについてBlizzard Entertainmentが何も語っていないことには,一抹の不安を感じる。

 「ディアブロ III」はすでにシーズン15に突入しており,さすがにプレイを継続してもらうことが難しくなってきた。噂では,Blizzard Entertainmentもそれは認識しているものの,新作の企画は何度も書き直され,開発が難航しているという。しかも,古くからのファンからは,「ディアブロIIIではなく,ディアブロ IIのようなゲームにしてほしい」などとさまざまな要求が聞こえてくる。こうしたことに対して答えを出せなかった開発チームが,とりあえずスマホ版を外部委託して,IPの鮮度を保とうとしたとも考えられるだろう。
 実際,「複数のプロジェクトが動いている」ことはすでに発表されているし,今回のイベントでは実は「ディアブロIV」が披露される予定だったとする海外メディアもある。

Blizzard Entertainmentは,以前は問題のあるプロジェクトを完成間近の段階でキャンセルした前例を持つ。サードパーティを巻き込んでいるので簡単にはいかないが,今後,「ディアブロ イモータル」のある程度の方向転換は避けられないかもしれない
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 誤解のないように書いておきたいが,筆者は「ディアブロ イモータル」がつまらないとか,スマホで出すのが良くないなどとは考えていない。なにしろ開発中の作品なので,ゲームとしての評価などはもちろんできないし,一方で「いつでもどこでもディアブロ」は,十分にアリだと思う。今回は,どちらかといえばプロモーションの失敗で,わざわざBlizzCon 2018に足を運んでくるような“熱烈なファン”に対しては,もう少し別な提示の仕方もあったはずだと思うのだ。

 激しく批判しているのが,要するに「声の大きいコアなファン」だという側面もあるのだが,想定外の反応に晒されてしまったBlizzard Entertainment。彼らが常に口にする「ファンの声に耳を傾ける」ことで,この状況を打破し,不信感を払拭できるのだろうか。ディアブロとBlizzard Entertainment,そしてチーム3にとっては,これから大きな正念場を迎えることになりそうだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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    ディアブロ イモータル

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