業界動向
Access Accepted第648回:PC向けの数年先を行くPlayStation 5のSSD
Epic GamesがPlayStation 5の実機を使った「Unreal Engine 5」のデモ映像を公開して以来,「Unreal Engine 5」と同じくらいゲーマーの話題になっているのが,PlayStation 5に搭載されるSSDの速さだ。Epic Gamesのティム・スウィーニー氏をして「PC向けSSDとは数年の開きがある」と言わしめる次世代ぶりを,我々は半年後には体験できることになるはずなのだ。今週は,そんな話題を紹介してみたい。
PlayStation 5は「バランスの良いデバイス」
日本時間の2020年5月14日,Epic Gamesが同社の最新ゲームエンジンとなる「Unreal Engine 5」を発表し,PlayStation 5(以下,PS5)を使った技術デモ映像「Lumen in the Land of Nanite」を公開した。映像は,プリレンダのCG映画のような膨大な数のジオメトリを描画する「Nanite」と,動的グローバルイルミネーションの「Lumen」という2つの新技術にフォーカスした内容になっている。詳しくは「こちら」に掲載した記事をチェックしてほしいが,新時代の映像の一端を見た多くのゲーマーが,近い将来,あのクオリティでゲームがプレイできるのだとワクワクしたのではないだろうか。
「Lumen in the Land of Nanite」は,開催中のデジタルイベント「Summer Game Fest」でも紹介されており,Epic Gamesの設立者でCEOのティム・スウィーニー(Tim Sweeney)氏らに対するインタビュー映像も合わせて公開された。その後,スウィーニー氏は自身のTwitterを更新し,このデモ映像がSony Interactive Entertainmentとの数年にもおよぶ協力の成果であったことや,PS5が「バランスの良いデバイスであることは特筆すべき」など,いくつものツイートを書き込んでいるが,とりわけPS5に実装されているSSDを高く評価するものが多い。
また海外メディアVergeが5月13日付けで掲載したインタビュー記事の中でもスウィーニー氏は,「PS5のストレージアーキテクチャは現在,PC向けに購入できるSSDと比べて何年も先を進んでいます,これは将来,PC向けのストレージデバイスを進化させるのに役立つでしょう」とまで断言しているのだ。
これまでの新型コンシューマ機は,ハイエンドPCに採用されている技術をカスタマイズするという,要はPCの後追いで進化してきたような印象がある(もちろん,例外も少なくない)。だが今回は,コンシューマ機のテクノロジーがPCのずっと先を行っているというのだ。
スウィーニー氏のこうした意見に対して,ヘビーなPCユーザーの中には,PS5が実現する5.5GB/sという帯域幅は,すでにPCで実現していると反論する人もいる。これに対してスウィーニー氏は,Twitterで以下のように発言している。
「システムインテグレーションと,システム全体のパフォーマンスを見なければなりません。PS5の場合,高帯域幅のストレージからビデオメモリにデータを取り込む際,圧縮データを展開する機能と,展開したデータをメモリアドレスに配置する効率が非常に良いのです。ソフトウェアとハードウェアの組み合わせは遅延を最小限に抑え,ゲームが実際に使用できる帯域幅を最大にするため,細かい設計が行われています。
皆さんが示してくれる現状のPCの数値は,ドライブからメモリへの出力を示す理論的なものです。そこからさらにデータ展開やドライバなどを通過し,実際に使えるまでに長くゆっくりとした道をたどるのです。PS5のパスはそれよりも何倍も効率的ですし,それゆえレイテンシも少ないでしょう」
満を持して「Unreal Engine 5」を発表したこともあってか,このように興奮冷めやらぬ様子のスウィーニー氏。PCについては,「Intelが開発中の不揮発性メモリモジュールは非常に楽しみで,将来,PCのデータトランスファーについてのいくつかの問題を解決してくれると期待しています」と述べた上でPS5のストレージ技術はPCのそれに比べて「数年分の技術格差がある」としているのだ。
825GBという容量は十分か?
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)がこのストレージ技術をPS5の強力な武器であると見ているであろうことは,PS5のハードウェアを紹介する映像の配信で,何より先にSSDの説明を行ったことからも想像できる。
詳しくは3月20日に掲載した西川善司氏による技術解説を参照してほしいが,システムアーキテクトを務めるマーク・サーニー(Mark Cerny)氏は,「PS4と比べて,ゲーム体験としての読み込み速度は約100倍向上する」と述べている。
このストレージ技術が,「Lumen in the Land of Nanite」における,1体あたり3300万ポリゴンの銅像を500体並べる(総計約165億ポリゴン)という圧倒的な描画能力を支えているわけだが,このほか,デモ映像のエンディングでキャラクターが高速で飛びまわるシーンに感動したゲーマーも少なくなかったはずだ。
現行のコンシューマ機ならカスミがかかっていることの多い地平線の彼方までがくっきりと見渡せ,高速移動中にオブジェクトや地形が次々にポップアップするということもない。ドローディスタンス(描画距離)が飛躍的に伸びたというか,もはやその定義を無意味なものにしてしまうほど,地形やテクスチャが高速で描かれているのだ。
もっとも,この高性能な次世代ストレージに対する懸念がまったく聞こえてこないわけではない。それが「825GB」と発表されている容量だ。
PS4のオリジナルモデルは500GBのHDDを搭載していたが,「レッド・デッド・リデンプション2」や「FINAL FANTASY VII REMAKE」など,最近は100GBを超える空き容量を求めるタイトルも増えてきた。PC版ではあるが,高解像度のテクスチャパックが含まれた「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア」はシリーズ最高と言われる175GBの空き容量を必要としており,グラフィックスデータの量が飛躍的に高まりそうな次世代コンシューマ機対応タイトルでは,この傾向がさらに加速するだろう。
PS5ではSSDの増設も可能になるが,5.5GB/s以上の帯域幅を持つSSDが安定供給されるまでにはそれなりの時間がかかるかもしれないし,3TBや5TBのSSDともなれば,相当な価格になるとも考えられる。
もちろん,容量に対する高い要求は高解像度時代全般に言えることで,必ずしもPS5に限った話ではないのだが,タイトルをとっかえひっかえプレイしたいヘビーなゲーマーの中には気にしている人もいるようだ。
PS5の対応タイトルについては今のところ,スクウェア・エニックスの「Outriders」やGearbox Publishingの「Godfall」,Ubisoft Entertainmentの「アサシンクリード ヴァルハラ」「ウォッチドッグス レギオン」などが発表されているが,PS5版については当然ながら,高解像度で美しいグラフィックスをアピールポイントの1つにするだろう。
さらに,この秋から冬にかけてエクスクルーシブを含めたローンチタイトルについての詳しい発表も行われ,そのあたりで実機もお披露目されるはずだ。「Lumen in the Land of Nanite」で描かれたようなグラフィックスのゲームが普通になる時代が確実に近づいているのは間違いなく,来るべきその日を楽しみにしていたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- 関連タイトル:
PS5本体
- 関連タイトル:
Unreal Engine
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