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Access Accepted第729回:“強奪的課金システム”で批判にさらされる「ディアブロ イモータル」に絡む背景
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印刷2022/07/11 13:00

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Access Accepted第729回:“強奪的課金システム”で批判にさらされる「ディアブロ イモータル」に絡む背景

画像集#008のサムネイル/Access Accepted第729回:“強奪的課金システム”で批判にさらされる「ディアブロ イモータル」に絡む背景

 モバイル向けのFree-to-Playゲームとして開発され,2022年6月1日のローンチから6週間が経過しようとしている「ディアブロ イモータル」だが,そのマイクロトランザクションを柱とする課金システムが,過去にないほど“略奪的”だと批判を浴びている。これまでテスト段階からゲームを盛り上げてきた欧米のインフルエンサーたちが離れている現状をまとめて紹介しておこう。


収益の裏で失墜する「ディアブロ」のイメージ


 Blizzard Entertainmentが2022年6月1日に配信を開始したアクションRPG「ディアブロ イモータル」PC / iOS / Android)。7月7日にはシーズン2もスタート,新たなヘリクアリのレイドボスとなる“震える死のヴィタース”が登場するなど,予告どおり,今後も頻繁にアップデートが行われるようだ。このシーズン2に向けてバトルパスもグレードアップされており,強化版専用の追加報酬が開放される「強化バトルパス」と,強化バトルパスの全報酬に加え,アバターフレームと10ランクブーストが得られる「コレクター版強化バトルパス」という2つの有料コンテンツが用意されている。

 アメリカのモバイルゲーム情報サイト「mobilegamer.biz」が7月4日に掲載した記事(関連リンク)では,統計サイト「Appmagic」の情報から「ディアブロ イモータル」はローンチから1か月で1000万ダウンロードを獲得し,4900万ドル(およそ66億5000万円)の収益があったとされている。
 2012年にリリースされた「Diablo III」の販売数が1000万本に達したのは6週間後とのことなので,「ディアブロ イモータル」はFree-to-Play型のビジネスモデルなので単純な比較はできないが,ダウンロード数だけで見れば,滑り出しは順調だったと言えるだろう。しかし,同じ情報元によるとローンチ後1週間ほどで1日あたりのダウンロード数が急落しており,かなりの部分を事前予約者が占めていたことはうかがえる。

Mobilegamer.bizがAppmagicの情報から作成した統計図によると,「ディアブロ イモータル」の一日あたりのダウンロード数は,ローンチ直後から急落。ただし,収益はそれほど落としていないようなので, “クジラ”たちを含む課金ユーザーを今後もどれだけキープしていけるかにかかっている
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 これまで,IPを自身の手で育ててきたBlizzard Entertainmentにとって,「ディアブロ イモータル」は他社(NetEase)に実質的な開発を委託する初めての試みとなるプロジェクトだった。両社の関係は深く,トーナメントの自前開催という事業へと手を広げるBlizzard Entertainmentにとっては,中国政府との窓口があるNetEaseとの提携は魅力的であり,「Starcraft II」「Battle.net」の中国内での運営を委託している。そういう過去からの流れの中で「ディアブロ イモータル」は開発が進められ,BlizzardとNetEaseの提携10年目にしての最大の成果になるはずのものだったわけだ。

 ところが「ディアブロ イモータル」は,モバイルゲーム市場で絶対的な規模を誇る中国国内でβテストが行われていたにも関わらず,現在になってもそのローンチに向けての目途は立っていない。その理由については明らかになっていないものの,“中国のSNS「微博」(ウェイボー)にBllizardの公式アカウントから行われた書き込みが原因で中国政府にBANされている”といった真偽不明の情報(関連リンク)がコミュニティサイトで飛び交っているという状況だ。

 つまりは,中国市場抜きで4900万ドルという収益があったわけで,そこにBlizzard Entertainment側が満足しているのかどうか筆者にはわからないが,そもそも「ディアブロ イモータル」がマイクロトランザクションに対し比較的寛容なアジア市場を軸にした,モバイルゲーム市場でのブランド浸透を見込んでいたのは間違いない。それだけに,ゲームシステムのグランドデザインそのものが,果たして欧米のディアブロ・ファンたちに受け容れられるのか,コミュニティの間で疑問視する声は少なからず上がっていた。

3500万人の事前登録者のうち,1500万アカウントは中国のものであったとされるが,中国国内でのサービスはまだ始まっていない
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 そして「ディアブロ イモータル」はローンチ直後から批判の嵐に包まれ,メディア及びユーザー評価を算出するメタクリティック(関連リンク)では,同社のゲームタイトルの中でダントツの最低スコアとなる10点中「0.3点」というユーザースコアを記録するなど,Blizzard Entertainmentにとっては好ましくない評価に直面している。その最大の批判理由が,このゲームのマネタイゼーション・スキームが「強奪的(Predatory)」であるからというものだ。


略奪的なマイクロトランザクションと,辟易して離れるインフルエンサー


 こちらも「Reddit」に掲載されて広がった情報(関連リンク)であるが,「ディアブロ イモータル」でキャラクターの能力最大値に達するためには54万ドル(約7300万円)もの投資が必要になるということが,ゲーマーの間で大きな話題になっている。Free-to-Playを名乗るものの,長期的にプレイを継続するための課金は不可欠な要素なのだ。

 本作においては,リアルマネーで購入する以外,ほぼ入手が不可能なレジェンダリー紋石(アイテム)を使ってエルダーリフト(ダンジョン)のクリア報酬をレジェンダリー宝石に確定させたうえで,低確率で抽選される星5のレジェンダリー宝石を運よく引き当てるというシステムが用意されている。さらにそこから余分なレジェンダリー宝石を消費することで,本命のレジェンダリー宝石のランクをアップグレードし,総能力値となるレゾナンスを引き上げていくというのがキャラクター強化の基本だ。宝石の最高ランクは10で,その道のりは険しい。
 「二項分布」を使って計算したユーザーの書き込み(関連リンク)によると,最高ランクの星5レジェンダリー宝石1つを獲得するには,「2450ドルから2万5530ドル」(約33万円から約346万円)分のレジェンダリー紋石を利用しなければならないという。こうして合計6つのギアスロットに組み込んだ本命レジェンダリー宝石を,すべて最高ランクに育てていくことになるが,その近道が大金をはたいてレジェンダリー紋石を入手する行為に直結しているわけだ。

レジェンダリー紋石は,エルダーリフトでのグラインディング時に最大10個まで使用できる。複数使用することでレジェンダリー宝石のドロップ数は増えるが,星5が出る確率が上がるわけではなく,10周分を1周で済ませられるだけだ
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 ローンチ直後から1週間で5万ドルを消費したというストリーマーのJT氏関連リンク)のように,欧米のモバイルゲーム界隈では“クジラ(ホエール)”と呼ばれる大量投資型のプレイヤーがいる。そんなプレイヤーのPvP戦における戦闘能力は圧倒的だという。
 ゲーム実況を見ていると,3000を超えるようなレゾナンスに達しているプレイヤーは,単独で例えば“40勝2敗”のような成績を軽々とたたき出す。もはや個々のキャラクターのスキルや武器能力の組み合わせといったメタゲームや,チームとしての戦術などは関係ないマッチが展開されるのである。
 もちろん大差で負けているのは,Free-to-Play型のユーザーたちだ。プレイガイドサイト「Maxroll」のキーメンバーである“ラックス”ことRaxxanterax氏関連リンク)は,インフルエンサーたちの間では最速とも言えるほどのスピードで,先行プレイヤーが得る経験値が少なくなるシステムのハンデに耐えながらも,レベルもほぼマックスにしていたにも関わらず,資金を投入しないと最大にできないレジェンダリー宝石のせいで割りを食っている。

Diabloファンの間では,(英語サイトであるにもかかわらず)何かとお世話になった人が多いはずの「Maxroll」では,コンテントマネージャーとして活動する,ラックスの愛称で知られるRaxxanterax氏。決別後に,Blizzard Entertainmentからメールを受け取っていたことを明かしている
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 ラックス氏は,「ディアブロ イモータル」のクローズドα時点からテスターとして加わり,能動的にコミュニティに貢献してきたヘビーユーザーの一人だ。Diablo好きが高じて20人ほどの仲間たちと「Maxroll」を運営し,「ディアブロ イモータル」においても最大の情報源の1つとして多くのファンに親しまれ,プリントアウトすると20ページにも達するような同作の問題点を書き上げたレポートを,テスト中からBlizzard Entertainmentに送信していたという能動的なテスターでもあった。
 しかし,6月末にラックス氏は「ディアブロ イモータル」を引退したことを宣言。「略奪的なビジネスモデルに貢献したくない」という仲間たちとの協議の結果として,「Maxroll」から「ディアブロ イモータル」に関する全ての情報を削除してしまった。

 こうしたインフルエンサーたちのイモータル離れはその後も続いており,アメリカのストリーマーのAsmongold氏関連リンク)やドイツのwujiro氏関連リンク),そしてBellular Gaming(関連リンク)名義でゲーム開発も行っているイギリスのゲーム実況者であるマイケル・ベル(Michael Bell)氏も引退してしまった。ニュージーランドを拠点に活動するストリーマーのQuin69氏関連リンク)に至っては,星5のレジェンダリー宝石1つを引き当てるために2万5000 NZドル(約1万5000ドル,210万円)分のレジェンダリー紋石を消費し,ようやく“ランク2”に目覚めさせた宝石を見た直後,中指をカメラに向かって突き立てながら,育ててきたモンクを削除することで,Blizzard Entertainmentに抗議して見せた。


Blizzard CEOは擁護するも今後の道は険しい実情


Blizzard Entertainmentを率いるマイク・イバラ氏。Microsoftを退社後の2019年に採用されたことで,セクハラ問題で揺れた同社幹部の中でも身の潔白さを買われて第3代CEOになったが,さらに古巣の傘下になることを実体験するという,数奇な数年を送っている。果たして,この「ディアブロ イモータル」の状況を改善できるのだろうか
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 当のBlizzard Entertainmentは,こうした「ディアブロ イモータル」の現状や批判について公式の反応をしておらず,どこか“らしくない”沈黙には内部での混乱も見て取れるが,Los Angeles Times誌に同社CEOであるマイク・イバラ(Mike Ybarra)氏へのインタビュー記事(関連リンク)が掲載されており,その中でイバラ氏は,“ユーザーのほぼ半数がDiabloシリーズ未プレイの新規ユーザーである”ことに触れ,「全てのキャンペーンを含む99.5%のコンテンツを無料でプレイできるDiablo体験を,どのように構築するべきか」という観点からマネタイゼーションがデザインされたものであることを強調し,本作について擁護している。

 イバラ氏については,過去の本誌ニュース記事でも紹介しているとおりだが,2019年にプラットフォーム&テクノロジー部門のエグゼクティブ副社長としてBlizzard Entertainmentに参加した“外様”であり,同社のセクハラ問題などを受けて2021年8月にCEOに就任したばかり。それ以前には,20年以上もわたってXbox Game Studiosで活動しており,2022年1月にActivision BlizzardがMicrosoftに買収される際にリーダーの一人として立ち会っているという,偶然に偶然が重なる形で古巣とのコネクションをキープしている。

 イバラ氏の言うように,「ディアブロ イモータル」は課金を行わなくてもシングルプレイヤーキャンペーンなどを楽しむことは可能ではある。しかし,最大100人のプレイヤーが参加するクラン同士が頂点を目指して戦う「闘争の円環」のような,過剰に競争心を煽るエンドコンテンツが用意され,そこにお金がかかることも事実で,長くプレイしていきたいと考える人なら,上記したようにレゾナンスを上げるために課金せざるを得なくなるし,しなければクランから追い出されてしまう可能性だってある。
 少数のクジラたちだけが,回りの小魚を食べるのを楽しむようなゲームだからこそ,そんな状況でコンテンツを作っても面白くないインフルエンサーたちが離れているということだろう。

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 「強奪的」と表現されてしまっている本作のマイクロトランザクションについては,いずれ正式に親会社となるMicrosoftが黙っているとも思えないが,ラックス氏やベル氏が自身のチャンネルで語ったように,課金モデルに絡むゲームシステムの仕様は簡単に変更できるものではない。だからこのゲームの将来に絶望した人が多いのである。また,すでに数百万円という金額を費やしたプレイヤーが一定数存在する以上,安易なサービスのリローンチや中止もできないはずだ。現状,Blizzard Entertainmentの開発チームは,メタクリティックでのユーザースコア「0.3」という現実を,時間をかけてでも軌道修正させていくしか道はない。売り切り型となるはずの「Diablo IV」の方を,期待と不安の中で待ち望むことにするというファンも,今となっては少なくないのだろうが,「ディアブロ イモータル」の運営メンバーの今後の奮闘には注目しておきたいところである。

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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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