業界動向
Access Accepted第804回:「Microsoft Flight Simulator 2024」の取材で,本物のジェット機を操縦した件
Xbox Game Studiosが年内にリリース予定の「Microsoft Flight Simulator 2024」のイベントがアリゾナ州で開催された。その取材レポートは3本に分けて掲載済みだが,イベントではゲームには直接関係ない催しもあったので,その内容を紹介する。
グランドキャニオンで行われたメディアイベント
当連載でも何度か書いたことがあるが,E3のような多くのメディアが集まる大型イベントは,新作を試遊出展する場として敬遠され始めている。その大きな理由としては,大作や期待作が何本も同時にアナウンスされると,露出量に差がついてしまい,公平に消費者のもとに情報が伝わらないことがあるからだ。そのため,新型コロウイルス感染症が流行する前から,大手ゲームパブリッシャは新作ゲーム単体,もしくはラインナップを紹介する独自イベントの開催を増やしている。今回の「Microsoft Flight Simulator 2024」発表会も,そうしたイベントの1つだ。
期間は4日間あり,各日の参加者は25人程度と少数だったため,開発者ともかなり近い距離で交流できた。アメリカで長らく暮らす筆者にとってもグランドキャニオンに来るのは15年ぶりほどのこと。家族同伴で来ている人もいたようで,筆者を含めた多くのジャーナリストにとって,晩夏のちょっとした旅行といった感じの取材となった。
筆者の場合,今回は大阪の実家にいたので,大阪からロサンゼルスに向かい,そこからアリゾナ州の州都であるフェニックス,そしてフラッグスタッフという町の空港へ行き,80分ほどタクシーで移動してツサヤンに到着。ツサヤンは,炭鉱夫たちが不法に切り開いた入植地らしいが,現在は北に12kmほど行ったところにあるグランドキャニオン国立公園の玄関口として,夏場の観光客を迎えるホテルやリゾート施設で賑わっている。土産物屋などに混ざって,マクドナルドやスターバックス,グランドキャニオンのドキュメンタリー映画を専門とするIMAXシアターなどもあるが,人口は550人ほどとのことだった。
グランドキャニオンの渓谷に行ってみた
長旅の疲れを癒やす意味もあったのか,1日のイベントに対して2日間の休憩日があったので,筆者はMicrosoft Flight Simulator 2024で描かれるグランドキャニオンの実地調査をしてみることを思いついた。掲載済みの取材記事を読んだ人は分かるだろうが,Microsoft Flight Simulator 2024は,Bing MapでMicrosoftが収集している8ペタバイトという膨大な衛星画像や地理データを利用し,クラウドサーバーやAI,リアルタイムの気象データをフルに駆使することで,地球を丸ごと“デジタルツイン”化した本格化したシミュレーションゲームだ。
しかも,前作にはなかった“空のお仕事”に挑戦できるキャリアモードがあり,人員輸送から航空広告業,農地調査から探索&救助,物資輸送やスカイダイビングのサポートまで,さまざまなミッションがフィーチャーされている。
リアリティを追求しているMicrosoft Flight Simulator 2024だからこそ,救助ヘリを要請しなければならないNPCたちの状況や気持ちを理解しておくことも,ゲームジャーナリストとして必要だろう。「ライターは足で記事を書く」は,まだWeb検索が一般的でなかった筆者が若い頃に,誰かから耳にした言葉だが,実際に体験したうえで記事を書けば,内容に深みも出てくるはずだ。
ともあれ,夏休み期間が終わっていたためにツサヤンとグランドキャニオン国立公園をつなぐ連絡バスは運行しておらず,ホテルにあった電動バイクをレンタルした。時速35kmを出せる優れもので,林間に整備された舗装道路を進んでいけば,1人35ドルという公園入場料も免除される。
グランドキャニオンについて筆者が選んだのは,「最も早く下まで行ける」という“サウス・カイバブ・トレイル”(South Kaibab Trail)で,渓谷内の崖を刻むようにスイッチしながら下りていき,5kmほど先にある“スケルトン・ポイント”(Skeleton Point)を目指した。ふと思いついてトレッキングを始めたように書いたが,吸収性の良いパフォーマンスシャツ,ハイキングシューズ,カラになれば巻いて軽量化できるシリコン製の水筒やお気に入りのトレッキングポールまでを持参したフル装備での参加だ。
渓谷のトレッキングが興味深いのは,「登ってから下る」のが普通である登山とは異なり,「下りてから登る」という逆パターンになっていることだろう。そのため,自分を過信してどんどんと下ってしまい,帰ってくる前に疲れて動けなくなってしまう,スニーカー履きのお気軽観光客たちがあとを絶たないのだという。しかも,高地砂漠なので水場はなく,脱水症状を起こしてしまうことだってあるそうだ。このトレイルだけでも年間で250人ほどが救助されているらしい。
スケルトン・ポイントは600mほど下ったところなので,行きは600ml,帰りはその倍と想定し,合計約2lの水を担いでトレッキングを開始した。途中にあるウーアーポイント(Ooh-Aah Point/1.5km地点)で平服の観光客たちは引き返し,バイオトイレのあるシダーリッジ(Cider Ridge)でバックパッカーたちが帰っていくといった感じで,スケルトン・ポイント以降は中級者向けに感じる。なにせ,休憩に適した日陰になるような場所がないので,さらに下って岩陰を探さなければならない。
ちなみに,スケルトン・ポイントは渓谷の上側と最下のコロラド川の中間地点となるが,その物騒な名称の由来は,過去に炭鉱夫姿の白骨が見つかったからだという。すれ違う人に何度が忠告されていたが,ここまで来ると気温も急に上昇し,上は26度の爽やかな日差しだったのが,スケルトン・ポイントでは33度にまで達していた。ロバに水を積んだレンジャーが1日2往復しているそうで,崖から滑り落ちない限りは救助ヘリのお世話になることもなさそうだが,Microsoft Flight Simulator 2024では,迂闊な観光客たちを救出するミッションが発生してもおかしくない。
ハンヴィーに乗って,さらにプライベートジェット機も操縦
さて,「グランドキャニオンの渓谷を自分の足で歩いた」という充実感と共に就寝し,次の日のイベントのために呼び出しを受けたのは朝の6:30のことだった。今度は,ジープ風のオープンカーに改造されたハンヴィーに搭乗し,同業者たちとグランドキャニオン国立公園の周遊から始まる観光となった。ハンヴィー (HMMWV)は,AMゼネラルが製造するアメリカ陸軍向けの汎用四輪駆動車で,それを払い下げて観光向けの小型バスとして利用しているようだ。
標高が高いだけに朝は8度と冷え込んでいたが,風光明媚なスポットを巡って再び旅行気分を満喫。Microsoft Flight Simulator 2024とはほぼ関係がないとはいえ,「ゲームのグラフィックスと現実の差がそれほどないのかも」などと妄想しながらの観光はなかなかに楽しいものだった。ただし,この取材時は南カリフォルニアで大規模な山火事が発生しており,その煙がグランドキャニオンにまで流れ込んでいたので,ゲームのほうが見晴らしがよかったかもしれない。
その後はプレゼンテーションを受け,昼食を取り,ゲームをプレイして開発者たちにインタビューした。そのあたりの詳細は3つに分けた取材レポートを読んでほしい。11月19日の正式リリースを前に,テクノロジーやゲームプレイについて,かなり詳しい部分まで明らかにされたのではないだろうか。
「Microsoft Flight Simulator 2024」では300万種ものユニークミッションが自動生成される!
「Microsoft Flight Simulator 2024」のメディア向けイベントにて,自分の分身となるパイロットを自作し,輸送や救助などさまざまな“空のお仕事”を体験できるキャリアモードの詳細が公開された。世界中に散らばる4万を超える空港を拠点にして,自動生成される300万種ものミッションを楽しめるという。
[インタビュー]「Microsoft Flight Simulator 2024」はサードパーティやMOD開発者と共に巨大なエコシステムを構築。ヨーグ・ニューマン氏に話を聞いた
Xbox Game Studiosがメディアイベントを開催し,フライトシム最新作「Microsoft Flight Simulator 2024」の詳細をアナウンスした。精密化やシミュレーションがさらに進んだ本作だが,スタンドアローンとしてリリースされる理由や,ライブサービスについて,ヨーグ・ニューマン氏に話を聞いてきた。
地面が精密化し,後方乱気流も再現された「Microsoft Flight Simulator 2024」。さらなる進化を遂げた脅威のテクノロジーを解説
Xbox Game Studiosが年内にもリリース予定の「Microsoft Flight Simulator 2024」(PC / Xbox Series X|S)の最新情報を,一部メディアに向けて公開するイベントが,2024年9月12日にアリゾナ州で開催された。本稿ではその中から,本作のバックボーンとなったテクノロジー解説の部分をピックアップして紹介する。
そんな和やかな雰囲気のイベントだったが,筆者は密かに緊張していた。実は抽選に当たり,小型のプライベートジェットに搭乗することになっていたのだ。月に2回ほどの出張が続く筆者は飛行機に慣れているが,小型ジェットに乗ったことはない。しかも「当選おめでとう,操縦もするんだよ」と耳打ちされ,緊張が高まった。
地元の空港に用意されていたのは,シーラス・エアクラフトの「Vision SF50 G2+」。通称“ビジョン・ジェット”と呼ばれる単発低翼の超軽量ジェット機で,全長9.42m,全幅11.79mで,最大巡行距離は1275海里(約2300km)に達し,座席はサイド・バイ・サイドのコックピット2名分に加え,後部に5名分あり,内部は高級SUVを連想させる作りだ。
同乗者は,フライト実習経験のあるXbox Game Studioのエンジニア,カナダから参加した若いジャーナリスト,そしてエアバスのライセンスを持つドイツの航空機系YouTuberという面々。インストラクターは,バスケットボールチームのコーチから転職したという,ラスベガスを拠点にするシーラス・エアクラフトのセールスマネージャーだ。
どうやってパイロット席から後部座席に移動するのかといった説明を離陸前に受けたが,その時にインストラクターが「じゃあ,経験のある君(エンジニア)が離陸で,君(YouTuber)が着陸,残りの2人(筆者とカナダ人)は途中で交代しよう」などと言う。確かにインストラクターによる実習という形でのフライト体験とはいえ,離陸と着陸まで,初めての4人でやるとは……。
緊急事態時は,座席ルーフにある赤いボタンを押せば,最寄りの空港まで自動で飛んでくれるし,もし飛行不能になればノーズ部分に格納されたパラシュートが開き,搭乗者の背中からゆっくりと地上に降ろしてくれるという。ジョイスティックのような操縦桿が左に付いていたのが右利きの筆者には奇妙な感覚だったが,インストラクターの右にも同じジョイスティックがあったので,間違った操作でも手直ししてくれそうな気配だった。
こうして2番手でコクピットに座った筆者だが,その役目はグランドキャニオンの東側にあるズーニー・ポイント(Zuni Point)を通過し,さらに東に旋回するというもの。1万3000ft (約4000m)の上空を飛んでいたが,その日は風も強く,渓谷上では上昇気流も感じられたので,「揺れますね」と呟くと,さらに1000ft(約300m)だけ機体を上げるよう命じられた。だが,同乗者たちに恐怖を感じさせることもなく,10分ほどの担当時間はすんなりと終わった。ランウェイに降り立った同乗者たちは一応にテンションが高く,筆者も「ジェット機を飛ばした経験がある」という自負とともに,Microsoft Flight Simulator 2024ではFlightFXというMODメーカーがリリースしている「Vision SF50 G2」を愛機にしようと心に決めたのだった。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
※9月30日は筆者取材のため,休載となります。次回の掲載は10月7日を予定しています。
- 関連タイトル:
Microsoft Flight Simulator 2024
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