インタビュー
[TGS 2016]「日本のゲーマーにお詫びしたい」。国内市場で再出発したSteelSeriesのCEOに現状とこれからを聞く
SteelSeriesといえば,2015年に製品の国内流通が一度完全に止まるなど(関連記事),大いに混乱を来していたわけだが,最近になって「元の鞘」に戻り,以前の販売代理店であるゲートが再び販売代理店として活動し始めたことで,こうやって再びブース展開もできるようになったということなのだろう。
「デンマークの会社」から「米国の会社」にクラスチェンジしたSteelSeries
4Gamer:
たぶん,お会いするのは1年半ぶりくらいだと思いますが,お元気でしたか。
Ehtisham Rabbani氏:
おかげさまで,忙しい日々を過ごしています。
まずは,この1年半くらい,SteelSeriesが世界市場でどういう動きをしてきたのかを伺いたいのですが,おそらく最大のトピックは,本社の移転だと思います。SteelSeriesといえばデンマークというイメージも強いのですが,なぜ本社をシカゴへ移したのでしょうか。
Ehtisham Rabbani氏:
おっしゃるとおり,SteelSeriesはデンマークで始まった会社です。デザインや文化といった部分でどこまでもデンマークらしくありたいと思いますし,それらを維持できるのがベストですが,ただ,e-Sportsのコミュニティ――それらは多くが北米を拠点としています――に近づきたいと思ったのです。ほかにもいくつか理由はありますが,シカゴに大きなオフィスを構えて本社とした,最大の理由はそれです。
4Gamer:
e-Sportsコミュニティに近づきたかった理由というのは?
Ehtisham Rabbani氏:
3つあります。1つは,ゲーマー向けデバイスの開発や,それにあたっての意見交換のために,プレイヤーと開発者が直接会うための場所を作りたい(,そのためにはコミュニティからの物理的な距離が近いほうがいい)というのがあります。
最近は,「いまこれが流行っているから,それをそのままコピーして採用しよう」というブランドがあまりにも多いのですが,SteelSeriesは,決してそういうことはありません。そしてその(ポリシーを今後も貫く)ためには,コミュニティとの対話が必要なのです。
4Gamer:
ええと,つまり開発部門を(旧本社のある)コペンハーゲンからシカゴに移したということでしょうか。以前のSteelSeriesだと,ハードウェア開発はコペンハーゲンにあって,シカゴはソフトウェア開発の拠点でしたよね。
Ehtisham Rabbani氏:
現在は,製品デザインをコペンハーゲン,研究開発とマーケティングはシカゴ,製造を仕切るのは台湾という分担になっています。
4Gamer:
デンマークらしいデザインは残しつつ,ということですか。そしてシカゴの新本社では人材を新たに,かつ大量に確保したと。
Ehtisham Rabbani氏:
そのとおり,シカゴではかなりの数の人的リソースを追加しています。現在の私達は,シカゴとコペンハーゲン,台湾が一体となって製品展開をしているわけです。
4Gamer:
話を遮ってしまいました。2つめの理由を聞かせてください。
Ehtisham Rabbani氏:
2つめは,ゲーマーのライフスタイルに寄与することです。
4Gamer:
e-Sportsコミュニティとライフスタイルにはどういう関連があるのでしょうか。
SteelSeriesにとって「よい製品」であることが常に第1目標ですが,第2目標は,ゲーマーのライフスタイルに寄与することなんですよ。
というのも,多くの(ゲーマー向け製品)ブランドは,ゲーマーをGeek(ギーク)かNerd(ナード)として扱っています(※)。しかし私達SteelSeriesは,ゲーマーというのを,スマートで,また,最新のスタイルに敏感な存在だと考えています。
※「社交的かどうかはともかく,いずれにせよオタクとして扱っている」くらいの意味。
4Gamer:
なるほど,性能と同じくらい見た目にもこだわる。だからこそコミュニティの近くにいるということですか。
Ehtisham Rabbani氏:
そういうことです。
そして3つめの理由ですが,これはe-Sportsの存在そのものですね。「新しいスポーツ」を信じる人達のため,私達は2001年から途切れることなくe-Sportsに関わってきました。だからこそ,e-Sportsコミュニティの最も近いところにいたいというわけです。
4Gamer:
Winterfoxは特殊な事例だと思いますが,SteelSeriesはほかにも多くのゲームチームやストリーマーと協力関係にありますよね。彼ら彼女らは,どういうタイミングでSteelSeriesが開発中の製品に対して意見を言うことになるのでしょうか。
あらゆる局面で,ですね。私達は全世界15のプロゲームチーム,100人前後のTwitchおよびYouTubeのストリーマーとつながっていて,さまざまなタイミングで彼らと話し,フィードバックをもらっています。まず,開発の初期段階でいただいた意見を基に開発を進め,プロトタイプができあがったらまた意見をもらうといった形です。
新しくなった製品ラインナップの意味
4Gamer:
この1年半の間に起こったもう1つの大きなできごととしては,製品ラインナップの整理があります。「製品名+型番」という形になったわけですが,まずは変更の経緯を聞かせてください。
変更した理由は,製品名をシンプルにして,ラインナップを分かりやすくしたかったというものです。従来,私達はマウスだけで5つも6つも製品名を持っていました。ただ,これではどれが高級で,どれがミドルクラスなのかといった部分が分かりにくかったですよね。それで変更したというわけです。
4Gamer:
ああ,それで「Kana」や「Kinzu」の後継っぽい製品にも「Rival」の名が与えられたんですね。製品名自体を絞ったということですか。
Ehtisham Rabbani氏:
ゲーマー向け周辺機器では,非常におかしなネーミングがなされている例が多々ありますよね? そういう製品名を,いまの若いユーザーは「区別しづらい」と考えているという調査結果が出ているんです。
であれば,それを続けるというのはよくないでしょう。
4Gamer:
つまり,「あるコンセプトに基づいて開発した製品」にファミリー名としての製品名を与えて,そこに,Good(=エントリー),Better(=ミドルクラス),Best(=ハイエンド)区分としての数字を加えるということですね。
Ehtisham Rabbani氏:
まさしくそのとおりです。たとえばRivalで言うなら,100がエントリーで300がミドルクラス,700がハイエンドといった感じです。ぱっと見て,ヒエラルキーが分かるようになっています。
4Gamer:
この3桁型番ですが,十の位と一の位に意味はあるんですか?
Ehtisham Rabbani氏:
そもそも,3桁と決まっているわけではなかったりします(笑)。製品によって,1桁になることもあるでしょうし,2桁になることもあると思います。ただ,数字の大きさで数字がGood,Better,Bestを示すという点では共通です。
4Gamer:
ちょっと待ってください。ということは今後,Rival 300の後継製品が“Rival 3”になったりする可能性があると?
Ehtisham Rabbani氏:
いえ,そういうことではありません。Rivalは今後も3桁です。仮に1桁を採用してしまったりすると,(市場に)大きな混乱をもたらすでしょうからね。(ほかの製品では2桁や1桁を使う可能性があるということです。)
4Gamer:
となると,次の製品は“Rival 301”とか“Rival 310”とかになる感じでしょうか。
そうですね。仮に「Rival 700」の後継が出るとすれば,それは“Rival 720”とか,そんな型番になるでしょう。「700系だ」ということが分かる型番になるわけです。
4Gamer:
製品に関して言えば,最近のSteelSeriesは,先ほどもちょっと話題に挙がりましたが,TwitchやYouTubeのストリーマーと協力していますよね。ただ,彼ら彼女らに向けた製品というのはありません。今後,出す計画はあるのでしょうか。
Ehtisham Rabbani氏:
もちろんです。ストリーマーと協業して,まさに彼らのための製品を開発しているところです。「何を」とは言えませんが(笑)。
4Gamer:
もう1つ伺いたいのは,VR(Virtual Reality,仮想現実)やAR(Augmented Reality,拡張現実)の分野です。今年の東京ゲームショウではVRが1つの大きな勢力にもなっていますが,この市場に向けた,何かしらの計画というのはあったりしますか。
Ehtisham Rabbani氏:
そうですね,まず,「Stratus XL」は,VRゲーム用にナンバーワンのゲームパッドだと思いますよ(笑)。
4Gamer:
(笑)。
Ehtisham Rabbani氏:
ご質問にお答えすると,新製品を開発しています。いずれご覧に入れられるでしょう。
4Gamer:
おお。もちろんSteelSeriesですから,ヘッドマウントディスプレイではなく,入力デバイスということになりますよね。いつ頃出てくると思っておけばいいでしょうか。
Ehtisham Rabbani氏:
あるものは比較的近い将来に,あるものはある程度先の話になるでしょう。VRは,一時の流行ではありません。中長期的に取り組むべきジャンルであって,それゆえに私達は,複数の製品を,異なるタイミングで投入する計画を立てています。
4Gamer:
それはそれは。期待しています。
Ehtisham Rabbani氏:
(それに関して1つ付け加えると)SteelSeriesは「ゲームの会社」です。ですので,ゲーム以外のことに手を出すことはありませんが,ただ,ゲームの世界の中で皆さんが求めるものがあれば,(ヘッドセットとキーボード,マウスという主力製品以外でも)製品化の対象にしていきます。
最近で言えば,「Nimbus」と「Stratus」,つまりゲームパッドは,私達のビジネスにおいて,最も急激に成長したカテゴリーの1つだったりしますね。
製品については,1つ,個人的に気になる質問もさせてください。ズバリ,「QS1」スイッチはどうなるのでしょう? 「Apex M800」以降,いっこうに採用製品のラインナップが増えないのですが。
Ehtisham Rabbani氏:
私達のキースイッチ戦略は,「ゲーマーが,さまざまな押下感を求めるので,それに応え,さまざまなスイッチを用意する」というものです。いまご指摘いただいたのはQS1ですが,弊社オリジナルのスイッチということでしたら,「Apex M400」で採用する「QX1」(QX1 Linear Mechanical Gaming Switch)もありますし,伝統的なCherry MXを採用する製品もあります。
SteelSeriesはさまざまな押下感のスイッチでキーボードを展開しているのだとご理解ください。
日本市場でSteelSeriesが混乱を来した件について,CEOが語る
4Gamer:
さて,これは聞かねばならないことですが,この1年半のうち,数か月にわたって,店頭にSteelSeries製品が何も置いていないという,破滅的な状況にありました。「スティールシリーズジャパン」が立ち上がる周辺で,何か問題があったことは明らかです。
今回,こうして東京ゲームショウ2016へブース出展している以上,問題は解決したと思いますが,何がどのように解決したのでしょうか。
Ehtisham Rabbani氏:
その質問にお答えする前にお伝えしておくと,世界で3番めに大きなゲーム市場である日本は,とても重要なマーケットです。それははっきりさせてください。
4Gamer:
はい。
Ehtisham Rabbani氏:
ご存じのとおり,4〜5年前まで,日本におけるSteelSeriesの市場シェアは微々たるものでした。それをなんとかしようと,2〜3年ほど前に戦略を転換し,「すべての量販店と主要なオンラインショップで販売を行う」という目標を立てたのです。
そして,その目標を実現するためには,新たな物流システムやサプライチェーンの構築を行う必要がありました。それはときに,新たなパートナーを探したり,新たに契約したりする必要にもつながります。
4Gamer:
つまり,その過程で,パートナー探しや契約関連でトラブルがあったということですか。去年の夏くらい,まさにスティールシリーズジャパンが立ち上がる前後の話でしたよね。
Ehtisham Rabbani氏:
いい質問です。
最初に,この件で迷惑をかけた日本のゲーマーと,日本側の関係者にお詫びしたいです。日本の皆さんには悪いことをしてしまいましたが,(最終的に)私達は(目標を達成するための)よいチームを得て,よいものをお届けできるようになりました。これが回答です。
4Gamer:
結果として,SteelSeriesの販売代理店は,サポートに定評のあるゲートさんにほぼ戻り,そして,そもそもSteelSeriesの日本法人ではなかったスティールシリーズジャパン(関連記事)は,晴れてSteelSeries「直轄」となって,本社の指名する日本側の代表も誕生したことを,私達は取材を通じて掴んでいます。
日本のゲーマーは,これですべてが解決したと思って,本当にいいのでしょうか?
Ehtisham Rabbani氏:
はい,そのとおりです。本当にそのとおりです。
4Gamer:
その一言を,この1年近く待っていました。今後の復活に,大いに期待しています。
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