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歴史のハイライトシーンを楽しむのに最適。「ヨーロッパ・ユニバーサリスIIIナポレオンの野望」のプレイレポートを掲載
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印刷2007/12/28 22:19

プレイレポート

貿易立国プレイを現実的にする,「EU3」の拡張パック

ヨーロッパ・ユニバーサリスIIIナポレオンの野望【完全日本語版】

Text by 徳岡正肇


実はポイントでない,歴史イベント追加


NAPOLEONS AMBITIONの文字がまぶしい,タイトル画面。だがこの拡張パックがとくにナポレオンをフィーチャーした感じはない
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 2008年1月11日に発売予定の「ヨーロッパ・ユニバーサリスIIIナポレオンの野望 完全日本語版」(以下,EU3NA)は,Paradox Interactiveの歴史ストラテジー「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」(以下,EU3)の拡張パックである。単体では動作しないので,プレイにはEU3が必須だ。

 この拡張パックでは,プレイ年限がオリジナル版の1789年から1820年へと延長されると同時に,各種データの追加が行われている。またインタフェースにもさらなる改良が加えられたほかに,EU3では大幅に省略された歴史イベントが多数導入されている。

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「プファルツは活躍できます」とかいう示唆を受けるが,活躍の定義について,だいぶ問い質したいところではある
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革命直後のフランスも選択できる。ナポレオンが台頭してくるまでのゴタゴタは再現されていない模様。ちょっと残念

 一見したところ,EU3NAにおける最大の拡張要素は,史実で発生した事件を再現する歴史イベントの大幅な追加(数百種類)であるように見える。
 だが,歴史イベントの追加は実のところゲームに劇的な変化を与えてはいない。200を超える国家が,3世紀にわたって存在するわけだから,そこにある程度の数のイベントを追加したからといって,ゲームに与える影響は小さい。正直,驚くほど少ない。

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歴史イベントの実例。選択肢も何もなく,一発でこの効果。なかなか派手な話ではあるのだが……。効果もさることながら,ボタンに書かれた言葉が涙を誘う
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イベントのせいでトンデモ歴史が開始されるのは,パラドゲーでは日常茶飯事ではあったが,これはちょっとどうか。ええと,理性崇拝とか,教会財産の没収とかは?


敵であるオーストリアの第7軍には1万3000人の兵士がいるらしい。……プファルツの人口って,2万人くらいなんですが
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 筆者はこれまで,Paradox Interactiveの歴史ストラテジーが持つ“歴史性”を考えるに当たって,無数の歴史イベントの存在を比較的重く見ていたのだが,実は国別AIの存在が負けず劣らず重要である。「ハーツ オブ アイアンII」でいうなら,

ポーランドが侵攻されても,西部国境線をえんえんと守り続けるフランス
よほど決定的な状況にならない限り,連合にも枢軸にも加盟しないスペイン
ドイツに侵攻されないと,やがてドイツに宣戦するソビエト

こういったものが,あの作品の歴史ゲームっぽさをかなりの程度担っていたりもするわけだ。
 実際,歴史イベントは強烈な効果を発揮するとはいえ,あくまで一過性である。それに比べて国別AIは,プレイヤーがゲームをしている間中,そしてその国が存在する限り,プレイに影響を与え続ける。効果と時間を積算すれば,それがゲームの空気を決める割合は決して低くないはずだ。

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30年戦争開始時のプファルツ。軍隊を増強したいが,このままでは1個連隊しか出来ない。兵役人口が1000人ちょっとではそれが限界
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結果として必然の選択が傭兵を雇うこと。左上の窓の中,濃いブルーの軍隊が自前,水色が傭兵。半数が傭兵だが,こんなのは序の口

 だが。EU3NAで歴史イベントは追加されたものの,国別AIは相変わらず存在しない。結果として,EU3NAは思ったよりも「従来のパラドゲー」に近づかなかった。
 これをどう評価するかは,非常に難しいと同時に面白い。実のところ筆者は逆説的に「実にパラドらしい手法」であると捉えている。彼らはEU3を作ったのであって,拡張版EU2を作ったのではない。EU3という新しいアーキテクチャに込められた設計思想は,歴史イベントの追加という,実に「EU2らしく思えるギミック」を付加しても,なお揺るがなかったと見るべきだろう。
 ではその設計思想の意義とはなんなのか。筆者なりにこのゲームを咀嚼して一応の結論を出すのが,この記事の目標だ。


カネのある者はカネを,そうでない者は身柄を


商人の自動派遣システムのおかげで、ヴェネツィアのような交易国家もプレイアブルに。「Autosend Priority」のゲージをクリックすると,自動派遣の優先度を変更できる
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 EU3NAにおける決定的な変化は,むしろインタフェースと情報閲覧性のさらなる改良である。これは断言してもいいだろう。なかでも大きいのは,商業の中心地に商人を派遣するという行為を,自動処理に任せられるようになったことだ。
 商業の中心地を利用した経済活動がもたらす富の大きさからいって,商人を派遣することによる市場独占戦争の意味は非常に大きい。したがって商人の派遣は,プレイのなかで重要な位置を占める。だがプレイヤーにとっての関心事は,

商人を派遣して商業的な闘争に参加するか否か
参加するなら,どの商業の中心地で争うか
そこで負けないため,勝つためにどうしたらよいか

であって,操作ではない。

商業の中心地を管理する画面にも自動派遣ボタンが追加。ここから直接自動派遣の優先度を設定できる。便利だ
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 EU3NAでは,商人を自動で派遣できるようになっただけでなく,「『どの』商業の中心地で争うか」を,かなりきめ細かく設定できるようになった。具体的には「商業の中心地」ごとに商人派遣の優先順位を3段階で設定できる。これによって,商業を核にしたプレイは飛躍的にやりやすくなった。

 細かいことに思えるかもしれないが,商人の派遣はEU3のプレイをしばしば歪める問題でもあった。少なからぬプレイヤーが,商人をいちいち派遣することの面倒くささに,商人をまったく使わないプレイを好む傾向にある。国家指針としての「交易技術」をまったく上げず,行政・生産・軍事技術だけで世界の頂点を目指すこと自体は別におかしくも悪くもないのだが,その手を選ぶ理由が「操作が面倒だから」というのは,ちょっといただけない。

商人の自動派遣は4段階。ゲージをクリックすれば優先度を変更できる
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 商人の派遣が“使える”ようになったことは,果たして何をどれだけ改善するのか。実はこれが,かなり重要である。少なくともヴェネツィアのように,貿易立国で生きるしかない国家についても,プレイする意欲と価値が湧いてくるからだ。商業で国を富ませて,自国の路線を押し通す。Paradox Interactiveの作品をプレイするに当たって大きな楽しみとなる,宗教やら政治信条やら軍事的実力やらの闘争に,きちんと商業国で集中できるようになったのだ。EU3の潜在的な魅力をきちんと引き出すための改善として,その意義は非常に大きい。

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交易品をマップ上に表示したところ。工場建設,割譲地の選定など,これが一望できると便利な局面は多い
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戦争の結果が一覧表として表示されるようになった。地味な機能ではあるが,これもなかなか便利なのだ


歴史ゲームマニアの話題としての実在人物


タレーランは歴史的に見て最高クラスの外交官に設定されている。戦争をたくさんしたいなら,ぜひとも政治顧問に迎えたい
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 EU3NAにおいてはもう一つ,歓迎すべき変更が行われている。それは,リーダー/宮廷顧問が実在人物になったことだ。彼らは歴史的に正しいタイミングで出現する。これが予想外に嬉しい。
 歴史への思い入れは,やはり人物への思い入れに重なる部分がある。時代精神だけをターゲットに「萌える」のは,少なくともエンタテインメントとして容易でない。
 その点,EU3は割と時代精神への理解を求める作品であったと思う。その理想の高さは評価したいところだが,まるでトンチンカンなところでトンチンカンな活躍をする,あるいはまったく活躍できないヴァレンシュタインやグスタフ・アドルフを見るのは,やはりちょっと切ない。

30年戦争時代のスウェーデンを見てみる。王陛下は,政治家としてはともかく,将軍として天下一品の能力をお持ち
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 EU3NAにおいて,ヴァレンシュタインはきちんと神聖ローマ帝国域における屈指の名将だし,グスタフ・アドルフはスウェーデン史に残る名君であることが確定している。そんなに単純なことが重要なものだろうかと自分でいぶかる半面,「いやいや,やはり○○の近接戦指揮能力は5でしょ!」「いや3だね。△△が4であるなら3にするしかない」という談義は,歴史ゲーマー同士の酒飲み話(チャットとBBSを含む)に付き物ではなかろうか。

 そういった特定個人の個性付けがなされていることの意義は,プレイヤー担当国の躍進に貢献することとは限らない。むしろ歴史の持つ無常性を強調する効果を発揮する場合もある。あの名将/名君が最大限の努力をしようとも,最終的な到達点は大きく動かせなかった――“歴史実験”を魅力とするParadox Interactiveの作品においては,けっこう重要な部分ではないだろうか。歴史イベントに鼻面を引き回されないEU3NAを通して,イベントとも人材とも違った必然性で歴史が決まったのかなあという気にさせてくれる。

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宮廷顧問の登用費は,人によって微妙に異なる。年齢と職種を加味しつつ決定されるように思われる
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各種オプションの設定。初期設定では支配者・顧問・司令官とも「ヒストリー」になっていないので注意


近世専用タイムマシンプレイと汎用AI


この手のイベントが,世界の状況を踏まえて自動生成されていくという要素がなくなったわけではない。むしろこちらが,EU3の設計思想を体現するものだ
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 さて,歴史イベントがある程度追加され,歴史上のリーダーや参謀役も登場し,商人の自動派遣が可能になった(いや,ほかにもいろいろあるが)EU3は,最終的にどんな姿を見せてくれるのか?
 EU3NAを何度もプレイする中で,ようやくたどりついた個人的な意見にすぎないが,実はEU3,そして必然的にEU3NAは,意外なことにグランドキャンペーンを通しで遊ぶゲームでは,ないのではないかと思う。
 「15世紀の大航海時代から,フランス革命が起こる18世紀までの300年」を,全期間通してプレイすることはもちろん可能だけれど,その位置付けはどちらかというと「〜こともできる」という程度ではないだろうか? 最長のプレイが「おまけ」にすぎないゲーム,それがEU3/EU3NAである気がしてならない。

 ではいったい,何をどうやって遊ぶのか? EU3には,キャンペーンとシナリオの区別がない。EU3は内部に「史実」のデータを連続的に持っており,好きな年月日をスタート地点としてプレイを開始できる。ゲーム開始画面には「7年戦争」「80年戦争」といった,いかにもシナリオ然とした選択肢があるものの,これはいってみれば本に挟む「しおり」である。事実「EU3」フォルダを開けてみると,この手のデータは,文字どおりサブフォルダ「Bookmark」に入っている。つまり,開発側もそう考えているのは間違いない。
 これによって,プレイヤーは自分の好きな時代の,好きな国家を選択してプレイを開始できる。例えば「いままさにダメになる寸前のハプスブルグ家」とか,「いまからロシア遠征に行かなきゃと思っているナポレオン」とか,そういった歴史の一時点をある程度自由に拾えるということだ。
 このプレイ方針の場合,プレイの主目的はやはり「歴史を体験する」ことになる。そしてEU3というシステムはパラドゲーらしく,その目的には十分に貢献できるコンテンツを持っている。

アメリカ独立戦争時代のフランスは,実のところ選択肢の多い国。時間制限は厳しいが,けっこう暴れられるので楽しい
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 また,ある時代のある国でプレイを始めたからといって,それを最後まで続けなければならない理由はない。30年戦争におけるプファルツが体験したければ,ゲーム開始後30年経ったらそこで終了,で構わないし,実際それで十分に楽しい。そのあとはボヘミアやデンマークでもう一回プレイするもよし,あるいは別の時代に移ってもよいだろう。
 だいたい30〜50年程度であれば,プレイ時間は実時間で2時間ちょっと。じっくりプレイしても4時間程度だろう。ひとつの時代を楽しむために投じる時間としては,いたってリーズナブルだ。
 また,100年間くらいまでであれば,国別AIが存在しないことによる史実追従性(?)の低さが露骨に響いてくることも,それほどない。道具立てはこのゲームのリサーチ方針なりに史実どおりなのであって,それはだいたい100年くらいはもつわけだ。まあ,開始早々にとんでもない事態が発生することもままあるが,それはあり得た展開のうちと思うべきだろう。

タイミングが悪いと,こんな悲惨な状況にも。怒りたくなる気持ちは分からないでもない情勢だが
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 それどころか,こうした“輪切り”プレイを実際にやってみると,国別AIではダメな理由も,ある程度分かってくる。際限なく見いだせる歴史的エポックに,それぞれ合致したAIの行動様式を組み立てようとしたら,それこそきりがない。そして仮に,無数の国別/時代別AIロジックを完成させ,導入したとしたとしても,今度はプレイヤーが先刻承知の手を打つ国ばかりになってしまうのだ。
 時代と地域が選べ,そのうえ展開まできっちりトレースされたとしたら,それは「プレイ」が可能なはずのゲームとして,どうなのだろう? ある時代のある国を,自分的「if」で運営したとしたら,その敵であり味方である国々も,プレイヤー担当国の“見慣れぬ”動きに対して,適切に追従/対抗してくれるべきだ。そして,あらゆる状況に対応できるAIとは,国別/シチュエーション別でなく汎用のものにならざるを得ないのだ。

 かなり強引な歴史イベントや,どう見ても偏ったAIの動きに一喜一憂しつつ,大部の歴史書を読むように長く楽しむのが,前作EU2だった。それに対してEU3/EU3NAには,開始タイミングと短めのプレイにドラマを求められるぶんだけ,むしろ応用力の高い汎用AIのほうが,ゲームとしては似つかわしい……。それが,筆者なりに見いだした,EU3の設計思想が持つ意義なのである。


改良点が後続作への期待感をも高める


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 EU3NAの概要を最初に読んだとき,これはあまりにも骨格むき出し/打ちっぱなしだったEU3に,歴史ゲームとしての装いを付加するものだと思った。だがフタを開けてみると,むしろEU3NAによってEU3の骨格がよく見えるようになっていた。より正確にいえば,EU3NAによってEU3がゲームとして完成したのだ。
 EU3で提示された、「自分の好きな時代を,好きな長さだけ切り取って,多面的に体験する」という遊び方は,確かにいままでの歴史ゲームになかった面白さと興味を提供してくれている。
 EU3/EU3NAにおける新境地は,今後Paradox Interactiveが出してくるであろうEU3エンジン採用ゲームにも,多大な期待を抱かせてくれる。とりあえず,2008年第2四半期予定といわれる「Europa Universalis: Rome」への期待は,ぐっと高まった。
 細かなシステムの改良で広がったプレイ国/プレイスタイルもさることながら,Paradox Interactiveが今後どんな仕掛けを用意してくるかをワクワクしながら想像できるという,よく出来た拡張パック,それがEU3NAなのだ。

今回新たに追加された国策。全体に物騒というか,それってそういうものだっけ? という項目が並んでいる
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