レビュー
プレイムービーでチェックする,IONプラットフォームの可能性
ZOTAC IONITX-A-U
» AtomベースのPCでボトルネックとなる3Dグラフィックス性能を,大きく改善すると期待される「ION」プラットフォーム。2009年5月中旬に,ZOTAC製Mini-ITXマザーボードの販売が始まったが,IONによって何が変わるのか。今回は,オンラインゲーム4タイトルを使って,動いている様子の直撮りムービーから,IONの可能性を見てみたい。
最近になって,搭載製品の動きは活発化しているが,今回取り上げるのは,5月中旬に店頭販売の始まったZOTAC International(以下,ZOTAC)製Mini-ITXマザーボード,「IONITX」シリーズである。
今回4Gamerでは,ZOTACの販売代理店であるアスクから,シリーズ最上位モデルで,原稿執筆時点では未発売の「IONITX-A-U」(国内製品名:ZOTAC ION N330 dual core)を借りることができたので,本製品を使って,ゲームにおけるIONプラットフォームの可能性を探ってみたい。
ACアダプタ駆動の最上位モデルは無線LAN機能も搭載
メモリスロット2本搭載も拡張カードには非対応
IONITXシリーズは,ざっくり,デュアルコア/シングルコアAtomを搭載し,PCI Express Mini Card仕様のIEEE 802.11 a/g/n無線LANカードが差さっているかいないか,容量90WのACアダプタが付属するかしないかで4モデルに分かれる。今回テストするIONITX-A-Uはこのうち,デュアルコアの「Atom 330/1.60GHz」と無線LANモジュールが標準搭載で,ACアダプタ付属の製品だ。
今回入手したサンプルには欧州仕様のACコネクタケーブルが付属していたが,製品版ではもちろん日本仕様になる見込み |
搭載する無線LANモジュール。最近,各社のノートPCやNetbookで見かけるAzureWare製の「AW-NE771」(AR5891)だ |
また,マザーボード自体はファンレス仕様なのだが,ファンによる冷却が想定されており,製品ボックスには60mm角10mm厚の冷却ファンと,それをヒートシンクに固定するためのネジが付属する。今回のテストに当たっては,この付属ファンを利用しているので,あらかじめお断りしておきたい。
製造プロセスルールは65nm。Streaming Processor数は16基で,IONITXシリーズにおいては,コアクロック450MHz,シェーダクロック1100MHzで動作する。GeForce 9Mシリーズということで,DirectX 10,PureVideo HD,CUDAに対応するのも特徴だ。
ウリのAeroを想定し,Windows Vista環境でテスト
とりあえず「3DMark06はちゃんと動く」レベルに
というわけで,ひとまず「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)を,ベンチマークレギュレーション7.0準拠で実施してみよう。
4Gamerでは2008年7月に,「Atom 230/1.60GHz」オンボードのIntel製マザーボード「D945GCLF」をテストしているが,「Intel 945GC Express」に統合されたグラフィックス機能は,「Game Test」を完走させるのに30分以上かかるなど,「動いている」というのも難しいような状態になっていた。その点,IONプラットフォームは,さすがGeForce 9Mシリーズというか,(フレームレートは見るからに低いものの)DirectX 9世代のテストはすべて問題なく実行できている。そのスコアは1416 3DMarks。テスト環境が異なるため,参考程度に過ぎないことをお断りしつつ,強引に比較すれば,93 3DMarksだったD945GCLFとの差は約15倍だ。
では,実際にゲームをプレイしたらどうなるだろうか? 3DMark06のスコアが1000台という時点で,レギュレーション7.0準拠のテストに堪えられるとは思えないため,今回は,最新世代の3Dゲームと比べると比較的描画負荷が低く,IONプラットフォームでプレイできる可能性が高そうなゲームタイトルで,かつ,3Dオンラインゲームとしては比較的負荷の高そうなもの,
- EverQuest II(以下,EQ2)
- R2 -Reign of Revolution(以下,R2)
- Alliance of Valiant Arms(以下,AVA)
- ファンタジーアース ゼロ以下,FEZ)
で,実際にどこまで動くか,を試すことにした。
「周りに人さえいなければ……」
描画設定を低めにすればプレイ自体は可能
最初に,下のムービーを見てほしい。これは,4タイトルがどの程度快適に動作するのか,実際のプレイシーンをビデオカメラで撮影し,約30秒ずつ切り出して,連結させたものだ。
■EverQuest II
〜人があまりいない街中程度なら,平均的な設定でも問題なし
サービス開始から5年が経過していることもあり,最新世代のミドル〜ハイクラスGPUを搭載したPCなら,グラフィックスオプションを「最大クオリティ」に設定しても,Raid(レイド,オンラインRPGでは,「大規模なパーティ行動」の意)でも不満なくプレイできるが,IONプラットフォームではさすがに無理。「最大クオリティ」設定だと,まったくほかのキャラクターがいない状況でも4〜5fps,少しでもモンスターが画面に登場すると,1〜2fps程度に落ちてしまう。
やや余談気味に続けると,英語版EQ2のリリース当時,「Penitum 4/2.80GHz」と「GeForce 6800 GT」を搭載したPCで遊んでいたのだが,「あのときの重さが戻ってきた」ような体感である。
なお,パフォーマンスを重視する「極大パフォーマンス」に設定してみたところ,グラフィックスディテールは著しく落ちる一方,風に揺れたり,多数の枝が表示されたりと,描画負荷の高い樹木が多く表示される局面でも14fps前後を維持できていた。2アカウントでプレイする人の“2アカめ”なら,十分機能しそうだ。
■R2 -Regine of Revolution
〜「Shader 1.x」設定で,人が少なければプレイ可能
ムービー撮影時の設定 |
ムービー撮影時の設定で撮影したスクリーンショット |
とはいえ,さすがにここまで描画設定が落ちると,画面の見栄えは少々お粗末感が漂い出す。PvPが盛んに行われるようになり,とくに乱戦になると,多人数を表示するためにCPU処理が必要になるので,ゲームを進めていくことを考えると,IONプラットフォーム――というかAtomプロセッサ――はちょっとつらいかもしれない。
■Alliance of Valiant Arms
〜Shader Model 2.0設定で滑らかに動く
AVAは,Unreal Engine 3(以下,UE3)を採用したオンライン専用のFPSだ。最新世代のゲームエンジンとしては軽さに定評のあるUE3を,IONプラットフォームがどうこなせるのかが気になるところだが,結論からいうと,解像度1280×960ドットでゲーム側の「自動設定」に任せたところ,かなり滑らかに動いていた。
ムービー撮影時の設定。自動設定後,「詳細設定」から確認したものだ |
ムービー撮影時の設定で撮影したスクリーンショット |
この要因としては,オンラインRPGと比べると,マップがそれほど大きくないことや,市街戦のため,樹木などといった動的なオブジェクトがないこと,FPSゆえに自キャラが描画されないこと,画面内で同時に表示されるキャラの数が,せいぜい数人に留まることなどが挙げられるだろう。
いずれにせよ。AVAをはじめとしたオンライン専用FPSであれば,IONプラットフォームでも満足にプレイできると述べてよさそうである。ただ,マップデータの展開を行うに当たってAtomではパワー不足なため,ゲーム開始時のロード時間がかかり,ゲームのスタートにやや出遅れる感があったことは指摘しておきたい。
■ファンタジーアース ゼロ
〜人が多い銀行前や戦場で突如として厳しくなる
しかし首都など,人の多い街中では状況が一変する。周囲にキャラクターが20体ほどいる状態だと,一気にフレームレートは一桁台前半に落ち込んだのである。
「ファークリップ」のスライダーを一番下にまで動かしたり,キャラクター名の表示をオフにしたりと,さまざまな手を尽くして,ようやくマトモに動ける10fps程度のフレームレートを獲得したときには,装備中の「ライオンの頭のようなデザインが施されていたアーマー」も,見るも無惨な状態に……。
上のムービーで示したのは,「解像度」を「1024 x 768」,「テクスチャ解像度」を「1/2」,「キャラクター表示」を「普通」,「ファークリップ」をスライダーの左から4分の1程度のところにそれぞれ設定したときのものだが,プレイヤーキャラクターの数がそれほど多くないため,とりあえず動ける,くらいにはなっている(※)。
FEZは,とくにキャラクター表示のCPU負荷が高いため,「キャラクター表示」を「少量」にすれば,フレームレートの改善を図れるのだが,こうすると,大規模戦闘中,突然真横に敵キャラクターが出現したりするので,対人戦ではつらい。どんなにグラフィックス性能が上がっても,CPUがネックになってしまっては,IONにはなすすべがないというわけだ。
※2009年5月25日21:00追記
FEZの「影表示」オプションは,フレームレートを左右する項目だ。そこで,ムービー撮影時と基本的に同じ設定で,「影表示」を,ムービー撮影時の「全員詳細」から,「全員簡易」や「なし」に変更してみたところ,フレームレートが最大で2倍に上がるのを確認できた。
だが,その効果は,「乱戦時,3fpsが6fpsに」といったレベル。確かに影表示の設定を変更すれば,フレームレートは上がるのだが,それ以上にCPUボトルネックのほうが大きい,というわけである。
ちなみに,「影表示」を「なし」にした状態から,「テクスチャ解像度」を「1/4」に落としても,フレームレートは10fpsと,PvPにはつらい数字だったことは付記しておきたい。
カジュアルゲーム,あるいはサブアカウントなら十分使える
問題は間違いなくマザーボードの単価
多くのキャラクターが同時に表示されることの多いMMORPGでは,CPUパワーが不可欠なことを,オンラインゲーマーは体験的にご存じだと思うが,Atomプロセッサでは,どうしてもそのような局面でパワー不足を感じてしまうのだ。
一方,MMORPGでも,PvPやRaidを前提としない“まったりプレイ”をしたりとか,オンライン専用FPSやいわゆるカジュアルタイトルなど,もっとCPU負荷の低い3Dオンラインゲームをプレイしたりするなら,十分に使える。EQ2のようなタイトルでサブアカウントに使ったりするのにも申し分ない。
シングルコアAtom搭載モデルなら2万円台前半から購入できるが,今度はCPUパフォーマンスが低下するおそれが出るという,別の問題があったりするのも考えものだ。
というわけでIONITXは,Atomプロセッサの弱点を踏まえたうえでタイトルを適切に選ぶことができ,グラフィックス設定にある程度の妥協ができ,かつ,価格の高さが気にならない人向け,ということになる。この条件をクリアできるユーザーなら,小型のオンラインゲーム用PCとして,IONプラットフォームを大いに活躍させられるだろう。
- 関連タイトル:
GeForce 9M
- 関連タイトル:
Atom
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