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印刷2009/09/27 04:59

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[TGS 2009]Epic Gamesが語る「ゲーム開発,四つの秘訣」。特別講演「『Gears of War』フランチャイズを世界の舞台へ」レポート

画像集#026のサムネイル/[TGS 2009]Epic Gamesが語る「ゲーム開発,四つの秘訣」。特別講演「『Gears of War』フランチャイズを世界の舞台へ」レポート
 幕張メッセに隣接する国際会議場で,東京ゲームショウ2009と同時開催されている「TGSフォーラム2009」。その特別招待セッションとして,北米のデベロッパであるEpic Gamesの社長,Dr.Michael Capps(マイケル・キャップス)氏の講演が,9月25日に行われた。
 「『Gears of War』フランチャイズを世界の舞台へ」という,ピンときづらいタイトルの付けられたその講演。中身は「Epic Gamesのゲーム作法」といった印象で,「Gears of War」PC / Xbox 360)と「Gears of War 2」がいかにして作られたかを通じて,Epic Gamesの考える「面白いゲームの作り方」を語るというものだった。
 いきなり余談だが,Michael氏はハネムーンの最中で,その途中で日本を訪れたとのこと。初めての東京ゲームショウへの参加で,しかもこうやって講演もできることになり,とても興奮しているという。なんとなく,うらやましい。

画像集#042のサムネイル/[TGS 2009]Epic Gamesが語る「ゲーム開発,四つの秘訣」。特別講演「『Gears of War』フランチャイズを世界の舞台へ」レポート

Epic GamesとUnreal EngineとCapps氏の歴史


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 さて,Epic Gamesといえば,Gears of WarシリーズやUnreal/Unreal Tournamentシリーズでよく知られている。最新作は2009年にXbox Live Arcadeで配信が開始された「Shadow Complex」で,これは「任天堂の『メトロイド』や,コナミの『悪魔城ドラキュラ』へのオマージュ」(Capps氏)だそうだ。
 そして,このShadow Complexでも採用されている,Epic Gamesの“看板タイトル”が,1996年にライセンス提供を開始したゲームエンジン,「Unreal Engine」である。
 マルチプラットフォームにいち早く対応した最新版「Unreal Engine 3」は,数多くのゲームに採用され,現在,ほぼ一人勝ち状態。日本のタイトルでも実績を増やしつつあるのは,ご存じのとおりだろう。

画像集#035のサムネイル/[TGS 2009]Epic Gamesが語る「ゲーム開発,四つの秘訣」。特別講演「『Gears of War』フランチャイズを世界の舞台へ」レポート 画像集#036のサムネイル/[TGS 2009]Epic Gamesが語る「ゲーム開発,四つの秘訣」。特別講演「『Gears of War』フランチャイズを世界の舞台へ」レポート

 ちなみに,Unreal Engineの開発が始まった1994年当時は,世界各地にいた7人の有志が連絡を取り合って制作していたという。1996年に初めて集まり,彼らは一緒に仕事を始めたのだそうで,Unreal Engineを使った代表作,「Unreal」がリリースされたのは,それから2年後,1998年のことになる。

 Capps氏がEpic Gamesに参加したのは2002年。その頃,従業員は20名しかいなかったが,現在では400名以上の社員が全世界に展開している。本拠地であるノースカロライナ州Raleighには117人の従業員がおり,スタジオは北米西部に点在するほか,ワルシャワと上海にも存在。ゲームエンジンのサポートチームは韓国のソウルにもオフィスを置いている。また,現在のところ詳細は決まっていないものの,ゲームデベロッパのサポートを行う事務所を日本にも開設する予定があるという。

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画像集#045のサムネイル/[TGS 2009]Epic Gamesが語る「ゲーム開発,四つの秘訣」。特別講演「『Gears of War』フランチャイズを世界の舞台へ」レポート
 「Timの家でラーメンをすすりながらゲームを作っていた頃を考えると,よくぞここまで来たものだと思います」とCapps氏は述懐する。
 「Tim」とは,Epic Gamesの設立者で,天才的なプログラマーであるTim Sweeney(ティム・スゥイーニー)氏のこと。彼以外にも,設立者の一人で,歯に衣着せぬ発言で知られるMark Rein(マーク・レイン)氏や,若きヒーロー,Cliff Bleszinski(クリフ・ブレジンスキー)氏など,個性的なスターが揃っていることでも同社は知られている。

 Epic Gamesに入る前,Capps氏は合衆国海軍大学院(Naval Postgraduate School)で教鞭を執っており,その後,陸軍が新兵リクルートのために制作を決めた秘密プロジェクト,「America's Army」の開発に携わってきた。そういえば,最新版となる「America's Army 3」にはUnreal Engine 3が使われている。というか,America's Armyって,陸軍の秘密プロジェクトだったのね。

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Epic Gamesが成功した理由


 さて,Epic Gamesの成功と急速な成長の背後には,数々の挑戦を乗り越えた過去があり,それは次のようなものだったとキャップ氏は続ける。

  • The Insufficient Pop-Tarts Problem
  • Game developers want to play games
  • Competing with ourselves
  • Shaking the Jell-O

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 終わり。……ではさっぱり分からないと思うので,それぞれについて簡単に説明していこう。


■The Insufficient Pop-Tarts Problem

(ポップターツの品揃えが悪い件)


 Pop-Tartsとは,Kellogg's(ケロッグ)が販売している食品で,朝食やおやつによく食べられるもの。カロリーメイトとか,SOYJOYみたいなイメージだ。フレーバーはイチゴやシナモン,チョコから,中には“ハローキティ味”(本当はミャウベリー味)なんてのもあるそうだが,それはともかく,Epic Gamesの従業員はしょっちゅう,会社のキッチンにおいてあるPop-Tartsの品揃えが悪いと文句を言うそうだ。はて?

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 ここでCapps氏は,「従業員は“ボランティア”として扱うべきだ」と主張する。彼の下にいる社員はみんな優秀で,どこのメーカーへ行っても通用する。しかも,Epic Gamesはトップデベロッパと見なされており,数多くの会社が彼らの技術を使っているため,何も不足はない。
 しかしそれはあまりよくない状況でもある。“ボランティアとして働く”彼らのモチベーションを維持するためには,何かが――それも量ではなく質的に,不足していたほうが良いというのだ。

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 というわけでCapps氏は「楽しい非効率性」(Enjoyable Insufficients)の提供を訴える。それは,必ずしもゲームの制作に関することばかりではなく,例えばPop-Tartsの品揃えで議論するのでもかまわないし,適当にWebサイトを閲覧するのでもかまわない。あるいは適当な「リサーチプロジェクト」をやってもらうのもいいだろう。このとき,プログラマーだから,デザイナーだからといった縄張りがあってはダメで,またうまくいかないからと文句を言ってもいけない。
 そんなやりかたが,結局はゲームやエンジンの分野でいい結果を生み出した事例がいくつもあると,キャップス氏は語る。

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■Game developers want to play games

(開発者はゲームが好き)


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 ゲームを作るに当たって,50ページもあるような企画書を書きたい開発者はいないし,たとえ書いたところで,そんなもの誰も読まない。「細かすぎると誰も読まないし,シンプルすぎるとわけが分からない。まあ,Chris(※たぶんChris Taylor氏のこと)ならうまく書くかもしれませんが」(Capps氏)。
 つまり,さっさとプロトタイプを作ろうという話だ。
 とはいえ,プログラマーはたいていやたらと忙しく,なかなかプロトタイプ作りには付き合ってくれない。そんなときのために,Unreal Engineには,「Kismet」と呼ばれる小さなエディタが用意されており,それを使えば,簡単にプロトタイプが作れるようになっているという。

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 実際,Gears of War 2の制作に当たってはKismetが大活躍したそうだ。
 「オブジェクトの陰に隠れる『カバーアクション』がGears of Warのセールスポイントだったが,今度はオブジェクトの上に乗れたら面白いかもしれない」……というわけでさっそくKismetで作ってみたが,やってみると,あまりいいアイデアではないことがはっきりした。「オブジェクトがじゃまで,向こうがよく見えない」という点がゲームに緊張感を与えているのに,上に乗れるようにすると見晴らしがよすぎてつまらなかったのである。
 「よいゲーム開発者はみんなゲームが好きです。そして,たいてい実際のゲームを見て考えます。いち早くプロトタイプを作り,面白いところを見つけだすことが重要なのです」(Capps氏)。

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■Competing with ourselves

(ライバルは自分達)


 またGears of War 2の話だが,30以上の賞を受け,大ヒットしたタイトルの続編を作るのは難しいことだ。ファンやメディアだけでなく,開発チーム内部からも期待の声が上がってくる。
 しかし,時間はあまりない。Gears of Warには5〜6年かかっているが,今度は2年以内に作り上げなければならないのだ。

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 そこでCapps氏らが採用したのが,「New,Better,More」プロセス。これはまず,チームから出たアイデアを武器やクリーチャーなど16のカテゴリに分類し,それをCapps氏やプロデューサーが「本当に新しいもの(New)」「磨けばよくなるもの(Better)」「もっと強調するに値するもの(More)」として選び出すというものだ。

 ちょっと途中をはしょっちゃうけど,その結果「Crowd System」などの新フィーチャーが採用され,結果としてGears of War 2は前作と同じほどの高い評価を受けたという。

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■Shaking the Jell-O

(ゼリーを揺らす)


 ここで,Epic Gamesの社員の働きぶりを紹介しよう。
 基本的に労働時間は8時間だ。コアタイム制が導入されており,午後1時30分から5時まではオフィスにいなくてはならない。また,午前2時以降に会社にいてはいけないというルールもあるが,この最後の規則はあまり評判がよくない。というのも「もっと働きたいんだオレは」という意識が強いからだ。

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 全員が自分の仕事に対して自信を持っており,それゆえ,何日か徹夜すればどんなことでも可能になると思ってしまう。だが,それは危険なことだキャップス氏は言う。「我々はスーパーヒーローではありません。したがって,ゲーム作りは短距離競走ではなく,マラソンなのだというメンタルセットを徹底すべきです」

 Game Developers Conferenceなどでよく出てくる単語として「Crunch Time」(クランチタイム,瀬戸際)がある。これはゲーム制作の過程では避けられないものと考えられており,“全員が死にもの狂いになって働く時期”を意味している。こういう修羅場を何度もくぐってくると,前述の「何日か徹夜すれば〜」という気持ちに陥りやすいが,これは自信過剰というものだというのが,Capps氏の考えである。

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 Crunch Timeをなるべく減らすためには,早い時期に,残すフィーチャーと捨てるフィーチャーを決定しなくてはならない。「2インチ高くジャンプできるようにするだけだからいいだろう」とその場では思っても,開発の後半になれば,それがゲーム全体に大きな影響を与えることが少なくなく,そういう例は枚挙に暇(いとま)がないという。
 変更を加えれば,その部分だけでなく全体をテストし直さなければならないし,バグの発生を引き起こすかもしれないのだ。

 「ゼリーを揺らす」というのは,「出来上がったものに変更を加えること」を意味する。つまり,Capps氏の主張は「ゼリーを揺らすな」ということで,できあがったものに軽い気持ちで変更を加えても,それが結果として大きな揺れにつながることがある。それを避けるために,捨てるものと残すものを早い段階で決める必要があるということだ。

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 講演は,おおむね以上のような内容だ。さらに「Gears of War 2日本語版の発売が1年以上遅れてしまったのは,レーティングの問題があったからだ」というような話も続いたりするが,今回は割愛する。

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 Capps氏も認めるように,こうしたゲーム制作手法や考え方は,Epic Gamesのような「比較的少数の,非常に優秀な人々」に対して適応できるものである。これと対極にあるのが,例えばUbisoft Entertainemtの「Assassin's Creed II」PC / PlayStation 3 / Xbox 360)で,何百人もの膨大な数のスタッフが,割り振られた持ち場を徹底的に作り込むというアプローチが採られている(とCapps氏は言っていた)。

 Epic Gamesの秘密が余すところなく語られた本講演。ゲーム開発者ならぬ我々は「なるほど」という感じで聞くしかないが,彼らのゲームをプレイするとき,ちょっと思い出してみるのも面白いかもしれない。
 それにしても,Gears of War 2に続く新作の話が出てこないEpic Games。そろそろ,という感じがするが,どうなんですかね。

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