インタビュー
なぜいまマゾゲーなの? ゲーマーの間で評判の“即死ゲー”「Demon's Souls」(デモンズソウル)開発者インタビュー
ゲーム的な記号性とリアルさの落としどころ
4Gamer:
先ほど操作性には拘ったというお話がありましたが,国産ゲームらしいアクション性の高さも本作の大きな特徴ですよね。モーションも武器ごとに違ったりだとか。このあたりもやっぱりかなり拘った部分なのですか?
宮崎氏:
そうですね。私は以前からじりじりと間合いを取り合うような“剣戟のゲーム”を作りたかったんですが,本作ではそうした自分の作りたかったものを盛り込ませていただきました。
梶井氏:
盾で攻撃をガキーンと防ぐ感覚など,そういう手応えがあるゲームが作りたかったということですね。
4Gamer:
なるほど。
とはいえ,拘り……と言ってしまうとちょっと違和感があります。「PS3を使って古典的なRPGを作る」にあたって,武器でそれぞれモーションが違うなどというのは,私のなかではごく自然な発想でした。「そりゃ剣と斧では動きが違うでしょう」ということが当然な感覚でした。
4Gamer:
でも,海外のRPG……例えば「The Elder Scrolls IV: オブリビオン」あたりでは,そういうアクション性を高めようという発想自体があまりないように見受けられるんですよね。
宮崎氏:
そうですね。オブリビオンに限っていえば,主観視点と三人称視点という差はあるかと思っています。主観視点のゲームだと,剣などを使ったアクション性という意味では追求しにくい面があると思います。
ただ海外産の(オブリビオン的な)RPG全般の話をすると,どちらかというと,設計思想が実際に旅や冒険をするような「体験」を作ろうとしている感覚があるのではないでしょうか。その一方,我々はあくまで「ゲーム」を作っているというつもりです。もちろん,どちらが正解という訳ではありません。
これは善し悪しの問題ではなく,あくまで方向性の違いなんだと思っています。オブリビオンのアプローチは衝撃的でしたし,私自身,いちプレイヤーとして堪能させて頂いた作品です。
4Gamer:
それは,ゲーム化するときに「要素を抽象化して顕著にする」といった,ゲームデザイン論的な話ですか?
宮崎氏:
そうです。Demon's Soulsに関していえば,「ゲーム的な記号性」といった部分は,意識して作ってあります。
4Gamer:
具体的にはどのあたりですか?
宮崎氏:
武器のモーションの違いなどは,その最たる例です。剣と斧では振り方が違うとか,槍は盾を構えながら攻撃できるとか,スケルトンは斬撃系よりも打撃系の武器が有効,といった部分です。武器によって戦い方が明確に変わるようにしました。
4Gamer:
なるほど。
宮崎氏:
「体験型」のゲームなどですと,根っこのところがシミュレータ的な方向性ですので,そうしたゲーム的な「抽象化」「記号化」はあまりしていないのだと思います。あくまでリアルさ重視の作り方をしている印象です。
Demon's Soulsという作品は,弱い攻撃は盾で防げますが,敵が振りかぶって強い攻撃をしてきたら盾が弾かれてしまうなど,そういう“ゲーム的な分かりやすさ”を重視しています。
4Gamer:
格闘ゲームでいうところの上段,中段,下段みたいなシステムですね。
宮崎氏:
だからといってあまりにゲームゲームしすぎても,それはそれで面白くないので,リアルさとゲーム的な記号性の落としどころというのは,常に考えていた部分です。
例えば,先ほど「槍は盾を構えながら攻撃できる」という話をしましたけれど,これは現実的に考えると,「別に剣でも盾を構えながら振れるよね」ということになりかねません(笑)。
4Gamer:
言われてみれば,確かに(笑)。
宮崎氏:
ただそこは,プレイヤーが人間の感覚として違和感のないレベル(非リアルさの)があると思っていて,そこを押さえながらゲーム的な記号性を持たせるというのは,本作を通してずっと念頭に置いていたところです。
4Gamer:
なかなか興味深い話ですね。
非同期的な面白さを追求した独特のオンライン要素
そういえば,Demon's Soulsを遊んでいて「これは面白い仕組みだな」と思ったのが,本作のオンライン部分のシステムでした。ほかのプレイヤーの死に様が見られる「血痕」システム(リプレイ機能の一種)や,ダンジョンの中に簡易的なメッセージを残せる機能などは,既存のオンラインゲームでは見られない斬新な仕組みですよね。個人的には,本作は最先端のオンラインゲームという見方さえできるな,と感じたのですが。
宮崎氏:
ありがとうございます。
一番最初に「Demon's Soulsを作るうえでの柱があった」という話をしたと思いますが,実は古典的なRPGを再現しようというほかに,もう一つの企画の柱がありました。それが「オンラインを使った新しい面白さ」を提供しようというものです。ですから,本作が実はオンラインゲームじゃないかという指摘は,そのとおりだと思います。
4Gamer:
ただ,オンラインゲームというと,チャットがあってコミュニケーションしながらみんなで楽しむ,みたいなイメージが強いじゃないですか。とくに企画当時であれば,そうした「これがオンラインゲームだ」みたいな感覚は,今よりも強かったと思います。
でも本作では,そういったコミュニケーション要素をばっさり切り捨ててありますよね。また血痕システムにしても,RPGというジャンルで“ゲームのリプレイデータ”を取り入れたタイトルって,実は初めてなんじゃないかなと思うんです。ほかにあるのかもしれないけど,少なくともほとんど見かけない。
宮崎氏:
ゲーム制作者としての観点からいうと,やはりネットワークはとても面白いツールだと思います。私もいくつか著名なオンラインゲームを遊びましたが,そこには独特の面白さがありましたから。
ただ一方で,既存のオンラインゲームではコミュニケーションの負荷が高く,それが障壁になって楽しめない部分があるとも考えていました。一言でいってしまえば「面倒くさい」という話です。またそうした負荷があるが故に,どうしてもニッチなものになってしまっている。
4Gamer:
そうですね。
宮崎氏:
ですから,そうした面倒な部分を取り除いてあげれば面白い物が作れるんじゃないか,もっと気軽に楽しんでもらえるんじゃないかという思いがありました。
梶井氏:
オンライン要素に関しては,ほとんどの仕様が最初から企画書にもありました。
4Gamer:
とはいえ,チャットだとか“オンラインゲームならではの要素”を排除してしまって,「それって本当に面白いの?」みたいな反論はなかったんですか?
ニコニコ動画のようなサービスが広く知られるようになって,「非同期的なコミュニケーション」の面白さといった話も,具体的に思い描けるようになってきたと思いますが,企画当時ともなると……。YouTubeもまだ立ち上がったばかりだとか,そういう時代ですよね。
宮崎氏:
そうですね。企画の立ち上がりは2004年くらいだったと思いますが,非常に概念的な話なので,凄く分かり難いアイディアだったのは間違いなかったと思います。SCEさんには,「今までのオンラインプレイが電話だとすれば,私達がやりたいのはメールなんです」というような説明をしました。直接話すよりもメールでやりとりしたほうが,コミュニケーションの負荷は少ないということです。そういうところを目指していました。
4Gamer:
なるほど。電話とメールのたとえは分かりやすいですね。
宮崎氏:
しかし,当時それを実際に体験してもらうことはできませんし,本当に楽しいのかって言われると,これがなかなか言い返せなかったんです。「普通にマルチプレイで良いじゃないか」と,大抵はそう考えてしまいますし。
4Gamer:
当時の状況なら,確かにそう考えてしまうかも。
宮崎氏:
ただ「それだとコミュニケーションの負荷が高いんです。そうじゃなくても楽しいことはできるんです」というのが,Demon's Soulsの目指すところでしたので,それをSCEさんに理解してもらえたのは凄く嬉しかったですね。このあたりは,私よりもむしろ梶井さんのほうが苦労されていた(SCE内で企画を通すための説得で)と思いますが。
また実際問題として,幻影(同じ時間帯に遊んでいるほかのプレイヤーの姿が一瞬見えるシステム)や血痕といったオンラインのシステムが,本当に面白い要素として機能するかどうかというのは,開発中ではなかなか体感できないこともあり……。正直,いろいろと心配ではありました。
4Gamer:
でもゲーム中の様子を見る限りだと,血痕やメッセージといった各種オンラインシステムは,かなり上手く機能しているように見えますよね。
宮崎氏:
そうですね。血痕とメッセージに関して言えば,ほぼ想定どおりに機能したシステムだと思います。私自身も家でDemon's Soulsを遊んだりしているのですが,思いどおりの場所に血痕があったりすると,嬉しくて仕方がないですね。「うんうん,そこは死んじゃうよねぇ」と死んだプレイヤーに共感してしまいます(笑)。
一同:
(爆笑)
そんなこと言っていいの(苦笑)?
4Gamer:
まぁでも,トカゲ(メタルスライムのような,ボーナス的なモンスター)を追いかけていって,足を踏み外して崖から落ちてしまうところとか,ドラゴンが待ち構えているんだけど先に宝が見える場所など,「これは明らかに開発者がプレイヤーを殺そうとしてるよな」って場所は結構ありますよね(笑)。
宮崎氏:
ええ。これは冒険している感覚を演出するという意味も込めての仕様なんですけど,ゲームバランス自体も,結構この血痕やメッセージを前提にした作りになっています。理不尽な……というとちょっと語弊がありますが,いくつかの唐突な罠などは,血痕やメッセージの“ありがたさ”を演出する仕掛けでもあります。「ああ,血痕がなければ,自分もこの罠でやられていたな」といった感覚を持たせたいと思っていました。
4Gamer:
たくさん血痕がある場所なんかは,とりあえず警戒しますもんね。「ここには何かがあるぞ!」って。プレイ自体が自然な形でコミュニケーションになっていく……面白いシステムだと思います。
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(C)Sony Computer Entertainment Inc.
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