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[TGS 2009]折り紙殺人鬼を追え! PS3専用サイコ・サスペンス,「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」とはこんなゲームだ
「ファーレンハイト」のスタッフが贈る
最新サイコ・サスペンス「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」
フランスのデベロッパ,Quantic DreamがPlayStation 3(以下,PS3)向けタイトルとして制作中のサイコ・サスペンス,「HEAVY RAIN」について紹介する。といっても,「はて,それは?」という人もいるはずだ。そこのあなたのことですよ。というわけで,まずはバックグラウンドから紹介しよう。
HEAVY RAINの初登場は2006年のE3で,「キャラクターテクノロジーのデモ」という形で「The Casting」と名付けられたムービーが公開された。それが例の“泣きながら銃を向ける女性”で,個人的には,ゲームのキャラクターもやがてこれが普通になるのか,と非常に感心したものの,PS3専用タイトルということもあり。PCゲーム情報サイト(当時)の4Gamerではあまり積極的には紹介してこなかった。
幸か不幸か,ゲームの情報公開もあまり進んでいなかった様子で,なかなか秘密っぽい雰囲気で制作が続けられてきた本作。ところが,4Gamerがコンシューマ機の情報を取り扱うようになって以来初めての取材となる,E3 2009で「突然」という感じでプレイアブル展示が行われ,以降,周辺の動きが急に慌ただしくなってきたのだ。「狙ってたな!」という気さえするが,ほぼ100%偶然だ。
東京ゲームショウ 2009(以下,TGS 2009)の開幕を翌々日に控えた9月22日,ソニー・コンピュータエンタテインメントはそんな本作のメディア向け説明会を行った。TGS 2009に展示されるバージョンを使い,本作のエグゼクティブプロデューサーを務めるGuillaume de Fondaumiere氏がフランスから来日,ゲームの詳しい説明をしてくれるというもので,本作に関して日本でこういうことが行われるのは,筆者の記憶する限り初めて。日本語版のタイトルも「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」に決まった。
ちなみに,例によってNDA(情報公開規制)が設定されており,その解除がTGS 2009が始まる本日9月24日だったのだ。
したがって,TGS 2009にお出かけの予定のある人はここで軽く予習していただくと嬉しい。そうすれば,SCEのブースでHEAVY RAINを見かけてもいろんな意味で安心だ。さらに記事の最後に「TGS 2009お得情報」を加えたので,そちらもお読み逃しなく。
連続誘拐殺人犯「折り紙殺人鬼」をめぐる4人の男女
2007年に開催されたGame Developers Conferenceで,業界の大御所の一人,ウォーレン・スペクター氏がこのインタフェースを絶賛していた(関連記事)ことが個人的に記憶に残っているが,本作でも基本的にその特徴的なスタイルが踏襲されている。
2009年9月10日に掲載した記事にもあるように,物語は,4人のキャラクターの視点で進んでいく。事故で長男を失い,その失意から立ち直れないまま妻にも去られ,次男のショーンと二人で鬱屈した日々を送る元建築家のイーサン。後述する「折り紙殺人鬼」(Origami Killer)の被害者の一人から捜査を依頼された元警官で,現在は私立探偵のシェルビー。不眠症に悩まされながら,ひょんなことから事件に巻き込まれていく写真家のマディソン。そして,FBIのプロファイラとして地元警察の捜査に加わるジェイデンの4人のキャラクターを交互に操作してゲームを進めていくのだ。
イーサン |
マディソン |
ジェイデン |
シェルビー |
物語の中心となる連続殺人犯は上述のように「折り紙殺人鬼」で,これは被害者の死体の傍らに必ず「折り紙」を置いていくところから付けられたあだ名。彼はまた誘拐した子供をなぜかきっかり四日後に溺死させ,死体を荒れ野に捨てていく。そして,そんな謎めいた殺人鬼の毒牙にかかって誘拐されたのが,イーサンの息子ショーンだった。期限は四日間。その間に折り紙殺人鬼の正体を暴き,ショーンを助けられなければ,イーサンはおそらく二度と立ち直れないほどの喪失感を味わうことになるだろう。
「これは,過酷な状況に置かれた,しかし普通の人々の物語なのです」とGuillaume氏は言う。「愛する人を失いそうになったとき,人はどこまでのことが出来るのかという普遍的なテーマを扱っているのです」。
Guillaume氏は加えて,「HEAVY RAINはさまざまな感情体験を提供する,非常にエモーショナルな作品である」と強調した。つまり,連続殺人事件というセンセーショナルなモチーフを扱ってはいるが,実は登場するキャラクターそのものを描くことに主眼が置かれているということだ。「人間を描く」のは,小説や映画ではごく普通のテーマだが,ゲームという複雑なメディアを使って,大人のユーザーの心にちゃんと“響く”ようなエモーショナルな作品が可能かどうかの挑戦でもあるという。感情表現を含めた高度なキャラクターグラフィックスや,長い時間をかけたというモーションキャプチャー,そして,1年近くかかったという声優選びなどはすべて,その試みを実現するためだ。
まあこのあたりのことは,実際に通してプレイしてみないとなんともいえないとは思うが,そのためFahrenheitにあったスーパーナチュラルな要素やゴア表現はまったくないとのこと。サイコ・サスペンスをテーマにしたアドベンチャーゲームながら,普通のアプローチとは一味も二味も異なっている。
さて,実際のプレイでは,二つのシーンが紹介された。6月4日に掲載したE3レポートにもあるように,インタフェースの基本はFahrenheitのそれを進めた「クイックタイム・イベントシステム」であり,何かをするとき,あるいは何かが出来るときにはそれが表示され,それをシンプルに実行したり,あるいはいくつかの選択肢の中から選んでいったりすることになる。と言っても分かりにくいと思うので,具体的に見ていこう。
まずはTGSでプレイできるチャプター,「強盗」。元刑事シェルビーが登場するもので,彼が折り紙殺人鬼の被害者の父親ハッサンに会いに彼の経営する商店に出かけるシーンだ。「何を話したところで息子は戻ってこない」と証言を拒否するハッサン。なかば諦めて,喘息の薬(彼は喘息持ちで,雨の日はとくにひどくなるのだ)を買おうと店の奥に向かうシェルビーだが,そこへ銃を持った強盗が飛び込んでくる。さあ,どうする?
Guillaume氏はまず,「店に置いてある酒瓶を武器に,忍び寄って殴り倒す」という攻撃的な行動パターンでデモをして見せてくれた。こっそり強盗に迫っていく途中,あやうく物音を立てそうになってしまうなど,息詰まるシーン付きだ。
それとは別に,「説得」する方向で行動することもできる。両手を挙げて強盗に近付き,「子供もいるんだろ? 今夜のことは誰にも言わないから,考え直せ」と強盗に話しかけるのだ。酸いも甘いもかみ分けたような中年男の話しぶりには説得力があるが,ここで会話の選択を誤ると,むかついた強盗がシェルビーを撃つ場合もあり,殺されはしないが,このときに傷を負って後々のゲームに影響を与えたりする。また,負った傷はゲームをとおして残る。もちろん,ハッサンが撃ち殺されるという最悪の場合もあり得る。
といった具合に,基本となるストーリーは作品性を逸脱しない程度に制御されているものの,それぞれの問題を解決する道は無数に存在するというゲームデザインになっているのだ。アドベンチャーゲームにつきもののパズルはないが,こうした行動を選ぶこと自体が一つのパズルとして存在するとGuillaume氏は言う。
ちなみに,4人のキャラクターの誰かが死んだとしても,ゲームは続いていき,例え全員死んでしまっても,通常の意味でのゲームオーバーとは異なり,「殺人鬼は逃げおおせた」というストーリーでゲームは完結する。したがって,リプレイバリューは非常に高いが,「作るほうは頭がおかしくなるほど大変だった」(Guillaume氏)とのこと。そりゃそうだろうなあ。
Quantic Dreamが目指す「エモーショナルなゲーム」とは
また,TGSで展示されるチャプターではないが,かなり冒頭のシーンを紹介しながら,各チャプターごとにまったく異なる体験,操作感を持ったゲームであることも教えてくれた。イーサンとショーンが学校から帰った家で午後を過ごす場面だ。ショーンもまた子供ながらに兄を失ったトラウマを負っており,親子関係もなんとなくギクシャクしている。
ショーンはすぐにテレビを見始めるが,それを止めさせて宿題をさせてもいいし,彼に話しかけてお腹がすいているようだったらスナックを与えてもオッケー。ゲーム内の時間は自動的に流れていくので,なんだったらショーンのことなど放っておいて「だめなパパ」になっても構わない。
「プレイヤーの決断には必ず結果が伴います」とGuillaume氏はいう。このシーンであれば,ショーンがくしゃみをする。それを気にしてカゼ薬を飲ませてやれば翌朝ショーンは元気だが,そうしないと翌日は完全に風邪をひいてしまうかもしれない。
いずれにせよ,こうした日常の細かいディテールの積み重ねが,ゲームにリアリティを与えているのは間違いない。
自分がイーサンだったらと考えながらプレイし,かれらの日常生活を追体験し,同時に自ら演じ,作り上げながらキャラクターについてより深く知っていける。自分の部屋に戻り,製図台の上に載った,まだ幸せだった頃のやりかけの仕事を眺めるイーサン。ふとビデオをつけると,そこに妻と長男の姿が映し出され,それを眺めているうちに,こらえきれず嗚咽を漏らす。といった一連の流れのうちに,プレイヤーは彼の耐え難い孤独感に次第に共感を覚えていくはずだ。
そういえばFahrenheitにおいても,なんでもないシーンをいくつも積み重ねて主人公ルーカス・ケインの痛々しい孤独感を浮き彫りにさせており,そういうことをやらせると彼らは本当にうまいと思う。
TGS 2009で「HEAVY RAIN -心が軋むとき-」を体験しよう
それ以外にも多数のユニークなフィーチャーを持った「HEAVY RAIN -心が軋むとき-」。現在のところ発売日の正式発表はないものの,もう3年ぐらい待ったのだから,あと数か月の話だったらたいしたことはない(←強がり)。
Guillaume氏によると,発売前のデモ版の構想もあるそうだが,本作は各場面の雰囲気が非常に異なり,一つのシーンで「これがHEAVY RAINか」と思われてしまうのもまた不本意ということで,考え中でもある。
というわけで,最後にTGS 2009ユーザーデイの情報を一つ。TGS 2009におけるソニー・コンピュータエンタテインメントのブースでは,E3 2009,Gamescomに引き続いてHEAVY RAIN -心が軋むとき-がプレイアブルで展示されている。プレイできるのは,上記シェルビーのシーンと,「聞き込みに行った廃屋でジェイデンがピンチに陥いる」というアクション満載のシーン「マッドジャック」の二つだ。どちらもそれぞれチェックポイントからスタートするTGS 2009向けの特別仕様なので,ストーリー展開の振幅をいろいろ見てみるのもいいかもしれない。
個人的にはE3 2009で見た「マディソンがクラブ“ブルーラクーン”のオーナーの気をひくためあの手この手」なんかも色っぽくていいんじゃないかしらと思うのだが,それはない。
また,一般公開日の26日,27日に本作をプレイしてくれた来場者には,もれなく――とはいえ,数に限りはあるが――ゲームにちなんだ“折り紙”が渡されるとのこと。「なーんだ,折り紙か」と思ってはいけない。折り紙を開くとそこには公式サイトにある隠しコンテンツを開くヒントが記載されているということだ。うーん,手の込んだことを。
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(C)2010 Quantic Dream/Sony Computer Entertainment Europe. Published by Sony Computer Entertainment Inc. Developed by Quantic Dream.