インタビュー
平成のカルト格闘ゲーム「ワールドヒーローズ」のコミック第1巻が本日発売。漫画作者であり,元ADKスタッフの横尾公敏氏インタビューをお届け
当時の“ダサかっこよさ”を正面から描く,コミック版「ワールドヒーローズ」
ここからは,コミック版「ワールドヒーローズ」についてお聞きしたいのですが,そもそものお話で,まず漫画家になった経緯をお聞きしてもいいでしょうか。
横尾氏:
ADKを退社してからは,フリーのデザイナーをやっていました。いろいろなゲーム会社からデザインの仕事をもらって,キャラクターや世界観をデザインするんです。漫画やアニメ原作のゲームなら,原作のテイストに合わせたオリジナルキャラクターを作ったり,そのドットを描いたりという感じです。
そうしているうちにデザイナーの仕事を振ってくれていた編プロに入りまして。漫画家になったのは,そこを辞めてからですね。
4Gamer:
どうして辞められたんです?
横尾氏:
ゲーム会社にせよ編プロにせよ,ある程度の年齢になったら部下がついて,仕事の中心がスケジュール管理になっちゃうじゃないですか。というか,たいていの職業はそうだと思うんですけど。
4Gamer:
それがイヤだったと。それで漫画家に?
横尾氏:
子供の頃は職人になりたいと思っていたくらいで,そういう職人的な仕事に憧れがあったんだと思います。その理想に一番近いのが,今の漫画家という職業なのかもしれません。自分に全部責任があって,1人ですべてやらなきゃいけないので。
4Gamer:
アシスタントを使うやり方もあると思うのですが,横尾さんの場合はすべて1人で作業されるんですね。
横尾氏:
今は全部1人で描いています。昔と違ってデジタルがあるので,ある程度はできちゃいますね。
4Gamer:
ご自身のTiwtterで「7話の原稿が終わったので,9話のネームに取り掛かる」というツイートを出されていましたよね。ネームの進行がかなり先行しているように感じましたが,何か理由があるのでしょうか。
ワールドヒーローズ7話の原稿が終わったので、9話のネームをやりながら、SNKチェックを通った8話の作画準備中〜!7話はブロッケン戦を描きまくりました。
— 横尾公敏 (@yokookimitosi) June 8, 2019
Webで1話とワーヒー話が読める!
■ワールドヒーローズ第1話https://t.co/zdpcDex2XE pic.twitter.com/9KSKOgFClm
横尾氏:
今回はオリジナルとは違ってコミカライズなので,SNKさんのチェックを通す必要があります。だから早めの進行になっているんです。
4Gamer:
ああ,ADKの版権って,今はSNKに引き継がれているのでしたね。チェックでは,どういう部分に指摘が入るのでしょうか。
横尾氏:
キャラクターデザインの多くは,そもそも自分が考えたものなので,そこへの注文はあまりないです。ただ,かつての設定に変更を加える場合には,必ず確認してもらう必要があります。
4Gamer:
変更ですか。
横尾氏:
「ワールドヒーローズ」シリーズはなにぶん昔のゲームなので,設定に雑なところが多いんですよ(笑)。中には破綻しているところもあって,整合性を取るために担当と話し合い,修正や変更を申し出ることがあるんです。それをSNKさんに提出し,問題ないか確認を取る感じです。
4Gamer:
設定が雑って(笑)。
横尾氏:
例えばブロッケンって,設定上は第一次世界大戦期のキャラクターなんですが,しゃべっているのが第二次世界大戦のことだったりする(笑)。チンギスハーンがモデルのJ.カーンは,ゲーム内では若作りですが,セリフはおじいちゃんのようです。漫画では,ゲームと元ネタの間ぐらいの年齢をイメージして描いています。
4Gamer:
当時は,いい意味でおおらかでしたね。「ワールドヒーローズ」は,体力ゲージの下にキャラのセリフが表示されたりと,キャラクターの個性が強調される演出も多かったと思います。
横尾氏:
当時のキャラクター設定は,ディレクターと広報さんががんばって考えていました。海外展開も視野に入れていたので,当初“ジンギスカーン”だった名前を急遽J・カーンに変更したり。あえて元ネタとは時代をズラしたキャラクターもありました。当時はそういった努力がプラスに働いていましたが,いざコミカライズするとなると,そういうところが逆にノイズになってしまうんです。
4Gamer:
これは月刊ヒーローズの担当さんにお聞きしたいのですが,そもそもなぜ「ワールドヒーローズ」をコミカライズしようと思ったんですか?
月刊ヒーローズ担当 T氏:
僕も横尾さんにお会いして初めて「ワールドヒーローズ」のスタッフだったことを知ったんですが,それがきっかけでしたね。自分が中学生の時にヤリ込んでいたゲームだったので,そんなの聞いたら,もうやるしかないと(笑)。
4Gamer:
ずいぶん即決なんですね(笑)。
T氏:
ゲームなどの原作を作っていた人が漫画を描くって,そうそうあることじゃないんです。安彦良和先生の「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」じゃないですけど,それを「ワールドヒーローズ」でできたらこんなに素晴らしいことはないと思ったんです。漫画の中で,ブラウン博士が「自分が見たいワールドヒーローズを自分で作り出す」と言ってますが,まさにそれ。現実では,自分達でそれをやってみようと思いました。
4Gamer:
ブラウン博士はゲームでも設定上は重要なキャラですが,あまり目立つポジションではありませんでした。漫画では,そういった部分をあえて膨らませているんですね。
横尾氏:
ほかのキャラはすでに色が付いちゃってますからね。そこへ行くと,色が付いておらず,かつ設定的にも鍵を握るブラウン博士はイジりがいがあるキャラクターです。物語を動かすキャラとしても,適任だと思います。
4Gamer:
原作はいい意味で頭の悪い,突き抜けた雰囲気が魅力だったと思うのですが,コミック版はわりとシリアスでダークな雰囲気です。横尾さんの画風もあると思いますが,なぜこの路線にされたんでしょうか。
横尾氏:
「ワールドヒーローズ」って,実はこれまでに3回コミカライズされているんですよ。最初は雑君保プ先生がコミックゲーメストで描いた漫画なんですが,これはシリアスとギャグが入り混じった,混沌とした作風でした。その後の2作品も真面目とコメディが入り混じったものだったので,自分は別の切り口で描きたい。担当さんに最初にそう相談したんです。
4Gamer:
なるほど。
横尾氏:
漫画は基本大真面目にやって,笑いの部分はゲームに触ってもらったときに,感じてもらえればいいかなと。幸い,今はPlayStation 4やNintendo Switchで「ワールドヒーローズ」シリーズのダウンロード版が入手できるわけですし。
4Gamer:
確かにそうですね。いや,最初に拝見したときに,想像していたよりも劇画調でビックリしたんです。ゲームでいうと,「ワールドヒーローズ」というより「痛快GANGAN行進曲」でした。
横尾氏:
そうですかね? まあ確かに,せっかく自分に話が来たんだから,劇画調のほうがいいとは思いました。打ち合わせにはもう少しアメコミに寄せた絵も用意して行ったんですが,最終的には劇画調に落ち着いた感じです。
4Gamer:
いやいや,劇画調のブロッケンがめちゃくちゃカッコいいんです。パロディ的な要素を抜いたらこうなるのかって驚きましたよ。
横尾氏:
ありがとうございます。ブロッケンに限らず,どのキャラクターにもカッコいい見せ場を用意するのは,意識的にやっています。ブロッケンは核となる設定がもともとシリアス寄りだったんですね。なので,漫画ではそれを強調するようにしています。ゲームの彼を知っている人には,そのギャップを楽しんでもらえればと。
4Gamer:
マッドマンの登場が楽しみですね。
横尾氏:
マッドマンも,真面目に動かしたらゲームとはかなりギャップが生まれそうな予感がします。漫画を読んだ人が,ゲームをやりたくなるようなバトルを描いていきたいですね。
4Gamer:
ところで,主人公であるハンゾウが戦う英雄の順番には,何か法則があるんでしょうか。1話がハンゾウ対フウマになるのはともかく,2話がラスプーチン,3〜4話でJ.カーン,マッスルパワーというのが分からなくて。いや素人考えで恐縮ですが,ジャンヌあたりの女性キャラを早めに出した方がキャッチーなのにと思えてしまいます。
横尾氏:
ハンゾウが戦う順番は,当時のゲーメストやほかのゲーム雑誌のランキング(ダイアグラム)で「弱いとされていた」順になっているんです。もちろんそれだけなく,プレイヤー人気の高さどは考慮してはいますが。この二つの要素から考えると,フウマの次はラスプーチンかなと。
4Gamer:
なんと,まさかのダイアグラムですか(笑)。
横尾氏:
ジャンヌはほら,シリーズを通してけっこう強かったじゃないですか。CPU戦でもムカつくぐらい強くて(笑)。だから5話まで取っておいて,1巻の最後に収録される形にしました。ドラゴンも戦ってるとイライラしてくる相手だったので,漫画内のランキングでも上位に位置しています。ただ,ジャンヌの後に出てくるブロッケンが強いかというと……これはそうでもないんですよね。あくまで傾向の一つだとお考えいただければと。
4Gamer:
では,「2」のキャラクターの登場はまだまだ先になるんでしょうか。
横尾氏:
彼らは,トーナメントが始まってからの登場になる予定です。1巻収録分で初代キャラの格付けをやって,「2」や「JET」のキャラが参戦するタイミングでトーナメント――世界英雄武闘大会がスタートする……といった世界観です。
4Gamer:
なるほど。まさにこれから,ということですね
横尾氏:
はい。ちなみにゼウスが英雄達のランキングや大会を主催しているという設定は,この漫画が「2」や「JET」もひっくるめた世界であることを伝える意味もあったんです。「パーフェクト」だけはゲームのカラーやシステムが違うので,設定からは外させてもらっています。
4Gamer:
漫画にはハンゾウやジャンヌを始め,ご自身のデザインではないキャラクターも登場するわけですが,そこで描きやすさが変わったりはするのでしょうか。
横尾氏:
それはとくに感じません。デザインについても,最初はもっと現代風に,いろいろ装飾を加えようかという話もあったんですが,やっぱり昔のデザインのまま,ゲームに忠実なデザインにしています。やっぱり“ダサかっこいい”のが「ワールドヒーローズ」の魅力だと思うので。
4Gamer:
「ワールドヒーローズ」のキャラってものすごく個性が強いのに,デザイン的には割とスッキリしていますね。J.カーンとかジャンヌの鎧もシンプルですし。
横尾氏:
先行するコミカライズでは,デザインが変更されているものもあったんです。ですが今回はそういうのは無しにして,オリジナルのダサさが際立つようにしました(笑)。このダサさが一周回ってカッコよく見えるよう,力を入れて描くようにしています。
ハンゾウの肩パットとか,見れば見るほどスゴいですからね。それが漫画の中だとかっこよく見えてくるわけです。不思議なことに(笑)。
4Gamer:
初代に登場したキャラクターはおおむね登場したかと思いますが,中でもとくによく描けたと思うキャラクター,あるいは苦労した回などがあれば教えていただけますか。
横尾氏:
主人公のハンゾウは,うまく描けたし,苦労もしたキャラですね。
ハンゾウはゲームを作っていたころはあんまり好きじゃなかったんです。プレイするならフウマの方が派手ですし,グラフィックスやデザイン的にも,ハンゾウはあまりイジれなかったので。でも漫画を描いているうちにどんどん好きになって。ドジっ子な感じがかわいい奴じゃないかって気分になりました。そういった可愛いさを感じてもらえるとうれしいです。
4Gamer:
ハンゾウは主人公ですからね。これからも活躍が見られそうで,楽しみです。
横尾氏:
そう,主人公はいいんですよ。それ以外のお気に入りが難しくて……例えばJ.カーンなんかはうまく描けたと思うんですが,そういうキャラクターほど改めて登場させるのが難しい。派手な見せ場はもう描いてしまったので。作者の側からすれば,そうやって派手に散って消えてくれるキャラクターが理想なのかもしれないです。でも,描くと思い入れが出ちゃうんだよなあ……。
4Gamer:
しかし今後トーナメントに突入するとなると,ハンゾウだけでなく,ほかのキャラクター同士の戦いや絡みも描かれるのでは?
横尾氏:
そうですね。トーナメントではいろいろなキャラ同士が戦うようにしたいと思っています。「JET」までに登場した英雄全員に,1回は濃いバトルシーンは必ず用意しますので,楽しみにしていてください。ちょっと顔を見せただけで退場するようなキャラクターはいませんので。
4Gamer:
では逆に,今後登場するキャラクターで早く描きたいと思えるキャラクターはいますか。
横尾氏:
キャプテンキッドやエリックですね。マッドマンはまだ想像しやすいと思うんですが,キャプテンキッドは手からサメが出たり,海賊船が出たりするわけじゃないですか。漫画にしたとき,いったいどんなバカな絵になるのか,今から楽しみです。あと究極奥義も,そのロープはどこから出てきたの? ってなるはずですし(笑)。
4Gamer:
確かに(笑)。漫画の中に登場する技も,ゲームに登場したものばかりですね。
横尾氏:
今回の漫画では,原作に登場した以外の技は極力出さないように心がけています。物語的にどうしても……という場合は別なんですが,今のところ大きくアレンジしたり,逸脱したりはしていないつもりです。できるだけ原作の技をうまく使うようにしているので,そのあたりにも注目してほしいですね。
それと漫画の設定では,ハンゾウ以外のキャラクターは,全員「ワールドヒーローズパーフェクト」までの技がすべて使える,成長しきった状態ということになっています。ハンゾウだけ初代の技しか使えないんですが,話が進むにつれて「2」以降の技を少しずつ覚えていくことになります。
4Gamer:
主人公の成長が描かれるわけですね。ますます楽しみになってきました。最後にまもなく発売される1巻の見どころと,読者に向けたメッセージをいただけますか。
横尾氏:
今作では“奇跡のコミカライズ”というキャッチを色々なところで使っていますが,二十数年前のゲームのコミカライズに関われるなんて,本当に奇跡だと思っています。自分も担当も,最初はまさか企画が通るとは思わず,「ワーヒー25周年に何かができたらいいね」ぐらいの気持ちでいたのが正直なところです。にもかかわらず,いくつもの幸運が重なってここまで来ることができました。企画を通していただけたヒーローズ編集部,許諾を出してくれたSNKには大変感謝しています。格闘ゲームブームの当時を知る方,そしてご新規の方も,ぜひ「ワールドヒーローズ」という世界を楽しんでいただけたら幸いです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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