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ZOWIE GEARのCEOに,ブランドの方向性とe-Sportsの定義を聞いてきた
2009年11月6日,4GamerではそんなZOWIEのCEOであるVincent Tang(ヴィンセント・タン)氏に,話を聞くことができた。あまり時間がないこともあって,再会のあいさつもそこそこに,事前に用意した質問(+α)を,一問一答に近い形式でぶつけてみているので,今回はその結果を取り急ぎお伝えしたいと思う。
※予備知識がてらあらかじめお断りしておくと,Tang氏は以前,SteelSeriesでアジア地区のマーケティングを統括していた人物だ。大人の事情とか,あまり過去のことを根掘り葉掘り聞いても面白くないとかいろいろな理由により,「なんで辞めたんですか」といった直接的な質問はしていないが,氏の前職が“SteelSeriesの偉い人”だったことは押さえておいてほしい。インタビューには,一部,その事実を前提に進めている部分がある。
ZOWIEというブランドの方向性を聞く
〜マウスやキーボードも開発中
4Gamer:
ZOWIE GEAR設立の経緯を教えてください。
Vincent Tang氏:
4Gamer:
「ZOWIE」の意味は何ですか。
Vincent Tang氏:
北米(の一部)でスラング的に使われている言葉そのもので,「すごくいい」という意味です(※英和辞典を引くと,感嘆詞的な意味に当たる。それが形容詞として転用されているのだろう)。これと,ほとんどの人にとって,難なく読めるスペルであるというのが,このブランド名を採用した理由だったりします。
4Gamer:
ZOWIE公式Webサイトのイメージ |
Tang氏の関わる会社名やブランド名 |
ZOWIE製マウスパッドの製品ボックスには,「Designed by VT Lab」と書かれている |
Vincent Tang氏:
CO/GENESブランドを展開するBarkleyと,ZOWIEブランドを展開するBriccityの両方を,今は見ています。VT Labは,両社/両ブランドのR&D部門というイメージですね。
4Gamer:
開発に携わっているのは何人なのでしょうか。また,開発チームは,具体的にどんな作業を行っていますか。
Vincent Tang氏:
CO/GENESが2名。ZOWIEは4名プラス,HeatoN,SpawN(※順に,世界的プロゲーマー,Emil “HeatoN” Christenssen氏,Abdisamad “SpawN” Mohamed氏のこと)の二人ですね。
開発スタッフは,いわゆる技術者ではありません。「プロゲーマーの感覚」を,実際に製造を行うOEMベンダー(※ここでOEMはOriginal Equipment Manufacturingの略。依頼を受けて,その仕様に沿った製品を製造すること)に伝えるのが主な仕事になります。
プロゲーマーとOEMベンダーの間を取り持ち,最適なスペックを決める――いわばブリッジのような感覚です。
4名は,一人ずつ,マウスパッド専任,ヘッドセット専任といった形になっています。こういう役割分担は,前職ではできなかったことですね。
4Gamer:
関連した質問ですが,ゲーマー向けのブランドとして,マウスパッド,ヘッドセットと展開してきた理由はなんでしょうか。似たような展開をしていたブランドが,デンマークのほうにあるわけですが。
Vincent Tang氏:
いや,とくに何を優先するか,決めていたわけではありません(笑)。
4名の開発陣で,マウスパッド,ヘッドセット,マウス,キーボードの4製品を並行して開発していて,完成したものから,順番に出していったら,この順番になっているだけです。
4Gamer:
つまり,マウスとキーボードも開発中というわけですね。いつごろ投入する計画なのでしょうか。
Vincent Tang氏:
なんともいえないですね。マウスパッドや(アナログ接続の)ヘッドセットと違い,マウスやキーボードは,PCの環境を考慮して,多くのテストをこなさなければなりません。Windows 7への対応もありますし。
ただ,マウスは,12月に投入すべく,開発を進めていました。若干遅れていますが,今では,2010年の第1四半期には出せるよう,がんばっています。
4Gamer:
少なくともマウスはそれほど遠くないわけですね。話せる範囲でかまいませんので,どんな製品になるのか,ヒントをもらえませんか?
Vincent Tang氏:
重点を置いているのは,耐久性と使いやすさです。開発中のマウスもキーボードも,市場にある製品のなかで機能面の充実という観点では最も弱いかもしれませんが,あるスポーツをするときに,人は機能ではなく,そのスポーツに適しているかどうかでシューズを選びますよね。e-Sports向けのデバイスも同じです。
4Gamer:
Vincent Tang氏:
サイズ的に,ゲーマーだけでなく,デザイナーや,一般PCユーザーにも使ってもらえる,小型のRFシリーズにについては,そのように謳っています(※編集部に戻ってから確認したところ,大判のTFシリーズにも同様の文言が与えられていた点は付記しておきたい)。
4Gamer:
そもそも論として,マウスパッドの製品名は,シンプルすぎて,少々分かりづらく感じます。製品名を構成するアルファベットはそれぞれどういう意味なのですか。
Vincent Tang氏:
頭の「G」は「Gaming」で,「P」は一般PC用途,「N」はノートPC向けという意味になります。
「RF」は「Rough」の意味。やや粗めの(布パッドらしい)サーフェスです。「TF」は「Two Face」――「材質は布だが,プラスチックのようなフィーリング」という,二面性を意味しています。
ZOWIEの考えるe-Sportsの定義
〜e-Sportsとは何なのか
4Gamer:
e-Sportsという存在について,いくつか確認させてください。Vincentさんにとって,e-Sportsとは何なのでしょうか。
Vincent Tang氏:
基本的には,人と人とが競争する,対決するものだと考えています。「ゲーム」は,コンピュータと対戦するもの,というイメージですね。e-Sportsでは,プレイヤーの感情や身体能力を,別の人と競います。
別の視点から見てみると,「ゲーム」では,画質だったり,キャラクターの細やかな動きだったりを追求していきます。「ゲーム」としての「Counter-Strike 1.6」は,どちらも現在の水準を満たしていませんが,しかし人の潜在能力を開花させられる,競争する土台としての意義は大きいのです。
4Gamer:
「人と人とが競い合うこと」がe-Sportsだとした場合,オンラインかオフラインかというのは看過できない要素であると思います。極論すると,同じ環境で競えないオンラインは,e-Sportsではないという認識にもなるかと思いますが。
Vincent Tang氏:
LAN(=オンライン)のほうがより重要です。Pingの違い,環境の違いで勝ち負けが左右されてしまうことがLANにはないので,プロゲーマー同士で競う場合に,公正な環境が成立します。
しかし,オンラインがe-Sportsであるのも,また事実です。
バスケットボールの大会を屋外でやれば,雨風の影響を受けて,選手は実力を発揮できないかもしれません。できることなら,体育館でやりたいわけですが,場所やPingが変わっても,競い合うプレイヤーの情熱は変わりません。
4Gamer:
e-Sportsという言葉の定義は,少なくともアジアではかなり広いものになったという認識をしています。FPSやRTSという枠を超え,格闘,レース,テーブル,さらにはオンラインRPGのクラン戦のようなものでも,国際大会が開かれるようになっている現実がありますが,ZOWIEではどこまでをe-Sportsだと認識していますか。
Vincent Tang氏:
人と人との対決があれば,e-Sportsであると考えています。FPSやRTSである必要は,必ずしもないのです。直接対決するのではなく,個人やチームで何らかの点数獲得を狙う場合でも,そこに人と人の競争があれば,それはe-Sportsであるといえるでしょう。
4Gamer:
ZOWIEとして,それらをどこまでサポートするつもりですか。それこそ「e-Sports向けステアリングコントローラ」を投入する可能性もあったりするのでしょうか。
Vincent Tang氏:
ゲーマー向けデバイスと呼ばれているジャンルは大変広く,我々の規模で,すべての製品を作ることは現実的にまだできません。現時点では,あくまでもプロ向けの製品にフォーカスしています。
また,重要なことは,製品の開発に当たって,「マーケットのニーズ」に応じることを考えてはいない,ということです。HeatoNやSpawNと協力して製品を開発する以上,目指すものはFPS用のデバイスです。市場ではなく,プレイヤーに合わせた製品開発を,適切な人と組んで行っていきます。
この世に,「最高のマウスパッド」のようなシロモノは存在しません。使う人にとって(その時点で)最も好ましいマウスパッドしかない。だから我々は,ただ「HeatoNやSpawNの名前を借りて宣伝している」のではなく,彼らの好みに合わせた製品作りを行っているのです。
同じように,選ぶ側であるユーザーも,自分の好みに合わせて,(各社の製品から)自分に合ったものを選ぶことが重要になります。
開発方針について説明するTang氏 |
SpawNロゴマーク入りのG-TF。縁が縫い合わされている。また,構造上,底面のラバー層にどうしても生じてしまうデコボコをプレイヤーに感じさせないよう,“緩衝材層”をラバー層とサーフェスの間に挟み込んだ3層構造になっているのも特徴だ |
滑りに対する要望は,プロゲーマーである「Players」から,耐久性など,機能面に関する要望は「Users」から,それぞれ聴きながら,開発を行ってるわけです。その意味では,中国のプレイヤーと同じように,日本にいるプレイヤーの意見も聞きたいですね。
4Gamer:
「日本のユーザーから意見を吸い上げる方法」について,具体的な用意はありますか。
Vincent Tang氏:
それを用意するために,販売代理店であるマスタードシードがいるのです。(※同席していたマスタードシードの高橋氏によると,ZOWIE製品専用の意見受付窓口や,フォーラムの運営など,何らかの動きをすべく,現在はアイデアを練っている最中とのこと。ちなみに,氏と個人的につきあいのある,国内トッププレイヤーの意見はちょくちょく聞いているそうだ)。
4Gamer:
今から3年前,別の立場だったVincentさんは,「日本にも間違いなくe-
Sports市場があるはず」と述べていました。3年経って,日本のe-Sports市場が持つ可能性について,あらためて聞いてもいいでしょうか。
Vincent Tang氏:
答えは3年前と変わりません。だからこそ,ZOWIEはここに来ているのです。可能性がなかったら,中国とか,ほかの国にだけフォーカスしていますよ(笑)。
確かに日本のe-Sports市場は,爆発的に大きくなってはいませんが,少しずつ成長してきているという認識です。
4Gamer:
最後に,ZOWIEのユーザー,そしてZOWIEの潜在的なユーザーである4Gamer読者にメッセージをお願いします。
Vincent Tang氏:
先日も日本のゲーマーを見る機会がありました。レベルは高いのですが,チームプレイなどにおいて,決定的に経験が足りません。その意味で,皆さんには,より多くプレイして,経験を積んでほしいと思います。
現在ZOWIEでは,トッププロを日本に呼んで,皆さんと交流してもらおうと考えています。中国では,SpawNとチームを組んだ人達や,そのチームと戦った人達が,SpawNとの交流を経て,レベルがぐんと上がりました。同じように,試合をこなしながら意見を交換すれば,みなさんのレベルはきっと,自然と上がっていくはずです。
……大枠で,ZOWIEというブランドの方向性,そして,Tang氏の考えるe-Sportsというものについて,用意した質問を軸に,追加で聞いた内容をまとめてみた。中国語を母国語とする氏へインタビューするに当たって,今回は中国語の通訳を介しているため,細かなニュアンスを判断できなかった一部発言はカットしていたりもするが,全体の理解としては間違っていないはずである。
いずれにせよ,Tang氏は,3年前と比べて,恐ろしいほどまでに軸がぶれていない。ブランドとして,どこまでの成功を収めるのかは,もう少し製品が出揃ってみるまでは何ともいえないが,e-Sportsという枠組みに参加している人,興味を持っている人,そしてそうでない人にとっても,ZOWIEというブランドは,注目に値すると評していいのではないだろうか。
- 関連タイトル:
ZOWIE(旧称:ZOWIE GEAR)
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