インタビュー
なぜいま「アジアNo.1を決めるCS:GO大会」なのか。eXTREMESLAND 2017の運営会社と冠スポンサーのBenQに意義と目的を聞く
大会が扱うタイトルは「Counter-Strike : Global Offensive」(以下,CS:GO)。日本を含む14の国と地域で行われた予選会を勝ち抜いた合計16チームが集い,賞金総額10万ドル(約1135万円),優勝賞金4万ドル(約454万円)を目指して戦った。
このイベントの主催はeXTREMESLANDで,冠スポンサーはBenQ ZOWIEとなるわけだが,なぜ両社はCS:GOのアジア&オセアニア大会を開催しているのか。また,ほかにも多くの有力タイトルがあるなかで,なぜCS:GOを選んだのか。今回4Gamerでは,主催する中国eXTREMESLANDでプロジェクトマネージャーを務めるFrank Fan(フランク・ファン)氏と,台湾BenQでアジア太平洋地域のビジネスを指揮するJeffrey Liang(ジェフリー・リャン)氏に,それぞれ1対1で話を聞くことができたので,その内容をお届けしたい。
まずはFrank Fan氏からだ。
いまなぜアジア&オセアニア地域を対象とするCS:GO大会なのか
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介をいただけますか。
eXTREMESLANDへ出場していただく海外チームのコーディネートと,eXTREMESLANDプロジェクト全体の管理を行っています。
4Gamer:
eXTREMESLANDというイベントそのものについても簡単に説明してもらえませんか。
Frank Fan氏:
ご存じのとおり,欧米と比べて,アジア&オセアニア地域におけるCS:GOの大会はあまり多くありません。このことは,アジアのCS:GOプレイヤーに大きな機会損失となっています。
プロアマを問わず,CS:GOコミュニティに属するさまざまな人達が楽しめるプラットフォームを提供したいと,私達は昨年,eXTREMESLANDを立ち上げました。
4Gamer:
となると,eXTREMESLANDはアジア&オセアニア地域でCS:GOの大会を運営していくための会社という認識でいいのでしょうか。
おおむね正しいですが,より正確に言うと,アジア&オセアニア地域でトーナメントを行うためのシステムを作り,提供する独立企業ですね。
そこに付け加えると,確かにeXTREMESLANDは私達が運営していますが,予選は私達ではなく,パートナーが運営しています。日本での予選はサードウェーブデジノスが行っていますし(関連記事),たとえばオーストラリアではESL(Electronic Sports League)が予選を担当していたりと,eXTREMESLANDの管理の下で,複数のプロフェッショナルなオーガナイザーが各地の予選トーナメントを行っています。
4Gamer:
eXTREMESLANDというシステム,もしくはそこへ至るトーナメントシステムを開発,提供しているというイメージですか。
それも「おおむね正しい」ですね(笑)。
私達はCS:GOのトップ大会としてeXTREMESLANDを運営しています。それを運営するためのシステムも開発しています。その点ではご指摘のとおりです。
4Gamer:
はい。
Frank Fan氏:
ただ,それだけではありません。中国において私達は,その“下”に,(プロレベルの)都市対抗戦としての「Cities Championship」と,アマチュア大会である「CS:GO Elite」を置いています。さらに,最もエントリークラスとなるところでは,1都市レベル,あるいはさらに小さなネットカフェやゲームカフェレベルの小規模な大会の運営もサポートしていますね。
CS:GOで私達は,プロ向けトップエンドのeXTREMESLANDから一番下までをカバーしていますが,純然たるアマチュア向けの大会としては,「League of Legends」(以下,LoL)や「Dota 2」「Overwatch」「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」(以下,PUBG)といったタイトルも扱っています。
4Gamer:
大会運営のプロフェッショナル,的なイメージなんですね。
ところで,外から見ていてよく分からないのは,冠スポンサーであるBenQ ZOWIE,正確にはBenQとの資本関係です。eXTREMESLANDは,BenQと資本関係があるのですか?
Frank Fan氏:
あるかないかで言えば,ありません。先ほどお話したとおり,eXTREMESLANDは独立した企業です。
ただ,eXTREMESLANDの創設者がCS:GOのコアプレイヤーで,かつBenQ Chinaの元社員ということもあって,BenQ Chinaにはスポンサーとして支援いただいているという経緯はありますね。
4Gamer:
どこまでも純粋に運営会社とスポンサーの関係だと。
Frank Fan氏:
そうですね。去年と今年はBenQ ZOWIEのスポンサードを得ていますが,私達はあくまでも大会の運営者です。今後のeXTREMESLANDで,異なる企業が冠スポンサーになる可能性はもちろんゼロではありませんよ。もっとも,先のことは分かりませんけど(笑)。
4Gamer:
ちなみにeXTREMESLANDにおけるスタッフの規模はどれくらいなのでしょうか。
Frank Fan氏:
100名程度ですね。
eXTREMESLANDに関連して,今回BenQさん主催で,ゲームカフェ「B5 e-Sports Arena」を見学する機会がありました。「大会に対応できる,中国でもトップエンドのゲームカフェ」という触れ込みでしたが,この店舗ではeXTREMESLAND 2017の中国予選決勝も行われたそうですね。
Frank Fan氏:
ええ。
ステージの反対側には,実況用配信ブースが。それを囲むようにチーム用の個室が2つあり,大会ではこちらがセカンダリの競技スペースになるという |
基本的にはe-Sports指向となるB5 e-Sports Arenaだが,店内最も奥には,ガラス張りのグループ向け個室もある。こちらは仲間内で楽しむためのものとのこと |
4Gamer:
このゲームカフェとeXTREMESLANDの間には,どういうつながりがあるのですか?
B5 e-Sports ArenaはBenQ Chinaさんのビジネスです。そもそもBenQ Chinaさんは,ゲームカフェに向けたディスプレイの販売や各種アライアンスの実施を1つのビジネスにしています。B5 e-Sports Arenaは,そのなかでもとくにe-Sportsへ特化した(フラグシップ)店舗という位置づけで,あるオーナーさんと協業して,店内レイアウトをデザインするなど,積極的に関わっておられますね。
ご質問にお答えすると,私達eXTREMESLANDは,B5 e-Sports Arenaで行われる大会に関わることはもちろんありますけれども,ゲームカフェ自体の運営を行ったりはしません。
先ほどお話ししたゲームの都市間対抗戦などでは,B5 e-Sports Arenaだけでなく,他社が運営しているゲームカフェやネットカフェ200〜300店舗と協力して,そこへ私達の大会システムを提案・提供し,さまざまな地域で大会に参加できるようにしています。
4Gamer:
日本での大会においては,eXTREMESLANDが,大会のシステムをサードウェーブデジノスへ提供したと。
そうですね。eXTREMESLAND単独で,アジア&オセアニア地区で各地域へアプローチしていくには限界があります。そこで,「e-Sportsを発展させたい」という,共通の目的を持つ各地域の企業や組織,それこそ日本ではサードウェーブデジノスさんですね(関連記事)。
そういったところと協力して,大会運営のノウハウがないところにはeXTREMESLANDの持つものを提供することで,アジア&オセアニア地域全体におけるe-Sports,そしてCS:GOの盛り上がりにつなげようとしています。
4Gamer:
ノウハウというのは,具体的には?
Frank Fan氏:
トーナメントというプラットフォームを運営するにはツールが必要です。それですね。もちろん,定期的に開催している大小さまざまな大会の運営によって得られた,文字どおりのノウハウもです。
eXTREMESLANDがCS:GOにこだわる理由
4Gamer:
eXTREMESLAND 2017がCS:GOの大会というのは説明いただきましたが,タイトルを1本に絞っているのはどういう事情なのでしょうか。
CS:GOは中国市場でとても人気があると聞いていますが,ならLoLやOverwatch,PUBGの人気がないかと言えば,まったくそんなことはないですよね?
理由は2つあります。
1つは,タイトルの権利を持つ会社ごとに,「ゲーム大会」への温度差があるというところです。CS:GOの権利を持つValveはプレイヤーフレンドリーで,私達のような第3者がCS:GOの大会を開催することが比較的容易なんですね。
一方,OverwatchやPUBGだと,パブリッシャの承認を得にくいのが現状です。PUBGの大会がタイや韓国で承認されるという話は聞いていますが,開催までのハードルはCS:GOと比べてどうしても高くなってしまいます。
もう1つは,アジア&オセアニア地域という枠内において,CS:GOの大会需要こそが最も高いと私達は考えている,というものです。
4Gamer:
1つめの理由については「なるほど」と言うほかありませんが,これは,その承認の問題がクリアになれば,ほかのタイトルもeXTREMESLANDで扱う可能性があるということですか。
Frank Fan氏:
いずれはeXTREMESLANDでほかのタイトルも扱っていきたいとは考えています。ただ,現状では我々のキャパシティの問題もあり,CS:GOに集中していますね。
ほかのタイトルに手を伸ばすより先に,アジア&オセアニア地域のより広い地域でCS:GOの大会を行える環境整備を果たし,欧米に肩を並べられるくらいに成長させたいと考えています。
4Gamer:
そうなると数年先までのロードマップ的なものがあるのではないかと思いますが,いかがでしょう。
Frank Fan氏:
2018年の開催に向けたミーティングはすでに始めています。
また,それとは別に――まだ「どうすればプレイヤーにとってプラスになるか」の検討段階ですが――アジア&オセアニア地域におけるCS:GOプレイヤーの技能レベル底上げに向けた検討も始めていますね。
4Gamer:
大会と言えば,観客が付きものだと思いますが,昨年も今年も,eXTREMESLANDは「チケットを買ってやってくる」観客がゼロですよね? ステージの前にあるのも,参加チームやスポンサー,我々報道関係者向けの席だけでした。
Frank Fan氏:
中国では,非常に多くの人がオンラインのゲーム大会配信を楽しんでいます。eXTREMESLAND 2016の実績で言うと最大値は18万人でした。一方,ご覧になったのでお分かりだと思いますが,今回の会場で観客を入れるとしても,せいぜい200席を確保できればいいくらいです。
となると,どちらにフォーカスすればいいかは自明ですよね。
4Gamer:
日本との規模の違いが衝撃的ですね。
Frank Fan氏:
人口の違いもありますからね。
いずれにせよ,仮に大きな会場を用意したとしても数万人がいいところでしょう。しかも,会場まで見に来くることのできる人の数は限られています。eXTREMESLANDとしては今後も,オンライン配信に注力していく予定です。
冠スポンサーであるBenQに聞くeXTREMESLANDの意義
続いてはBenQのJeffrey Liang氏である。
4Gamer:
2年連続で冠スポンサーとして入ったわけですが,BenQとしてeXTREMESLANDはどのように評価していますか。
その影響力はとても大きいと考えています。日本を含む各地域の予選,そして今回の決勝大会のいずれにおいても「XL2546」を使ってもらっていますが,参加選手からは極めて肯定的な評価をいただけました。(同じ垂直リフレッシュレート240Hz対応モデルながら,独自技術「DyAc」には非対応の従来製品)「XL2540」との違い,DyAcの優位性を体験してもらえる機会を,プロゲーマーに持ってもらえたのはよかったですね。
4Gamer:
BenQは以前から,「240Hz+DyAc」な液晶ディスプレイをCS:GO用として訴求していますよね。
Jeffrey Liang氏:
はい。CS:GOは高い性能のハードウェアを要求するタイトルですが,XL2546を使うことで,トッププレイヤー達に,これまで感じたことのない「映像のスムーズさ」を実感してもらえたというのが,とても大きいです。
XL2546とCS:GOの相性がよいのはとてもよく分かりますが,垂直リフレッシュレート240Hz対応のXL2540はOverwatchとの相性がよいですし,そこまでのスペックが必要ないPUBGのようなタイトルに向けて,144Hz仕様の製品もBenQ ZOWIEは持っていますよね。
大会にスポンサーとして名を連ねるという立場から見て,eXTREMESLANDはCS:GOを突き詰めたほうがいいと思いますか。それとも,さまざまなタイトルを取り上げて,さまざまに製品をアピールしたほうがいいとお考えでしょうか。
ご存じのように,BenQ ZOWIEはFPS,そしてe-Sportsに注力しており,大会を通じて,参加しているプレイヤーに製品のよさを理解してもらえるようサポートしていくというのが私達の基本姿勢です。
ご指摘のとおり,OverwatchやPUBGといったタイトルはe-Sportsとして機能しうると考えていますので,今後,BenQ ZOWIEとしてもサポートしていきたいと思います。ただ,一方で私達は(ZOWIEブランドを買収する前から)Counter-Strikeフランチャイズを長らくサポートしてきた歴史があります。それがeXTREMESLANDと組んだ理由の1つでもありますね。
eXTREMESLANDはCS:GOでの開催を続けていくはずで,そうである以上,私達も引き続きサポートしていくつもりです。
4Gamer:
eXTREMESLANDはeXTREMESLANDとして協力関係を維持しつつ,別のタイトルや別の大会をサポートする可能性があるということですか。
Jeffrey Liang氏:
そうですね。ほかの国では国ごとに,人気のあるタイトルでスポンサーをしています。たとえば韓国ならOverwatch,タイならPUBGといった具合ですね。
4Gamer:
いま韓国の話題が出ましたが,今回のeXTREAMSLANDには韓国の代表が参加していません。外から見ていると,中国と韓国がアジア&オセアニア地域におけるe-Sportsの本場的なイメージがあるので不思議なのですが,何か理由があるのでしょうか。
Jeffrey Liang氏:
答えは簡単で,韓国だとCS:GOの人気があまりないためです。2016年には招待枠として韓国の代表も参加していましたが,予選を行っても参加者の数が見込めないため,今年は招待も予選会も行いませんでした。
この点については私達とeXTREMESLANDとの間で話し合いも持ちましたが,「韓国はもういいだろう」という判断を下したということです。
ただ繰り返しますが,韓国では現在Overwatchの人気が極めて高く,OverwatchはBenQ ZOWIEのビジョンとも合致しているため,そちらでのサポートを行っています。
4Gamer:
さて,2017年のeXTREMELANDSには,中国代表が3チームですが,14の国と地域から合計16チームが参加しました。この規模感について,冠スポンサーとしてはどのような評価をしていますか。
現状としては16チームが最適な数だと考えています。
昨年との比較でお話しすると,昨年は中東だとドバイ(筆者注:アラブ首長国連邦を構成する首長国の1つ)でしか予選会が開かれなかったのですが,今年はドバイだけでなく,イランとレバノン,サウジアラビアの4か国で予選を行うことができました。しかも,4か国の選手だけではなく,クウェートやエジプト,パキスタンの選手も参加しています。その点で,規模は順調に大きくなってきていますね。
4Gamer:
大会としてのeXTREMESLANDが持つ特殊性としては,無観客だというのがありますが,その点についての評価も聞かせてください。
Jeffrey Liang氏:
スポンサーとしては,シーンが盛況であれば,オンライン(の無観客)であろうとオフライン(の観客制)であろうと,問題はありません。来年以降もシーンが盛況であるように努力していきたいと思います。
最後の質問です。BenQ ZOWIEは,その生い立ちから一貫して,プロのための製品ブランドであり続けています。今回のeXTREMESLANDでも,プロゲーマーに製品を触ってもらうためのコーナーを用意し,そこでスタッフが直に使用感を聞いている姿をよく見ました。
一方でBenQ ZOWIEは,それ以外のゲーマーに対するアプローチが,少なくとも十全とは言いがたい印象も受けるのですが,その点はどうお考えですか。
Jeffrey Liang氏:
私達は(BenQ ZOWIEになる前のBenQブランドから数えて)7年間,一貫してプロゲーマーのためのディスプレイを作り続けてきました。「プロゲーマーが実際に使っている」「プロゲームシーンで正式に採用されている」というのが,私達の製品のキーメッセージです。
一方で,実際に製品を販売するレイヤーにおいては,価格帯ごとにさまざまなモデルを用意することで,買いやすくしています。メッセージは明快にプロゲーマー向けですが,マーケティングはプロゲーマー特化ではないのです。プロゲーマーが使っているのと同じ,もしくは近いものを手に入れたいという人達に向けて,私達は今後も活動していきます。
eXTREMESLAND公式Webサイト
BenQ ZOWIE公式Webサイト
(インタビュー&構成:佐々山薫郁,構成協力:BRZRK)
- 関連タイトル:
ZOWIE(旧称:ZOWIE GEAR)
- 関連タイトル:
Counter-Strike: Global Offensive
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