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[GDC 2010]「ゲーム作り」なんて発想はもう古い!? Zyngaの提唱する「メトリック・マインドセット」は,これまでのゲーム開発を真っ向から否定
4Gamerを愛読しているようなゲーマーでも,彼の名前には聞き覚えがないかもしれないが,Electronic Artsロサンゼルス支部のExecutive Producerとして,長らく「Command&Conquer」シリーズなどを手掛けてきたベテラン開発者だ。一年半ほど前にZyngaに移籍し,2008年秋の「Mafia Wars」,さらには“人類史上最も多くの人が同時に遊んでいる”と言われる,あの「FarmVille」の開発に携わった。
Facebookゲーム界最初の敏腕プロデューサーとなったスカッグス氏は,レクチャー早々に「メトリック・マインドセット」(Metric Mindset)という言葉を持ち出した。その意味が具体的に説明されることはなかったが,直訳すると「メートル法の心持ち」といったところ。日本の人にはピンとこないかもしれないが,アメリカではインチ法が用いられているので,あえて意訳するならば「発想の転換」とか「違った角度からの考察」といった感じになると思われる。
氏はレクチャーの中で,別の言葉でソーシャルゲーム制作手法を説明しており,そのときに使った言葉が「Data Driven Approach」(データ主体のアプローチ)である。
インターネットが行き渡りつつあるこの時代には,ゲームにアクセスしてくるプレイヤーからもさまざまなデータや,そこから導き出される行動パターンなどが採取できる。それをゲームデザインに活用すべきだ,ということである。つまり,もうちょっと乱暴に言うならば「ゲームを完成させることなくローンチして,その後の修正方向はプレイヤーのデータに合わせていく」のである。
「ゲームデザイナーたちは良く言います。前に手掛けた作品ではこういうやり方がうまくいったとか,時間をかけてこういう作り方にすればファンは喜ぶはずだ,とか。でも,時代は変わったんです。この数値見てくれよとか,このデータが入手できたから改善できるな,とか話し合うのが,いまどきのやり方です。これは,オンライン認証化されたパッケージゲームにも有効な考え方のはずです」
スカッグス氏の言葉をやや過剰気味に噛み砕くと,「あるデザイナーの独りよがりなゲームデザインというコンセプトそのものが,プレイヤーから直接データを入手できる時代にそぐわない。数値がゲームをデザインしてくれる」ということだ。
筆者はゲームを作る側ではないし,消費者の一人として,結果的に面白いゲームが世に出てくれれば良い。ただ,方向性や効率はともかく,こういった形でゲーム開発者の「職人気質」を否定していくゲームデザインのあり方が,本当に正しいゲームデザインの進歩なのかという点には疑問を抱かざるを得ない。
ゲーマーだって,「このゲームを作った人は,我々にどんなストーリーを語ろうとしているんだろう」とか,「こんな遊ばせ方するなんて,変わってるけど面白いなあ」という感想を抱くことはある。そういった作り手のこだわりは,なにもゲームだけの話でなく,映画や音楽,果てはハサミなどの日用品や野菜にだって感じられるものだ。データに依存したゲームで遊ばせられるというのは,まるで100円ショップの下着をはかされるような落ち着きのなさを感じる。
スカッグス氏の講義だけではなく,今年のGDCのレクチャーには,これまでの「ゲーム職人たちの集まり」といった雰囲気とは全く異なるものが増えている。ゲーム業界は,どこに向かっているのだろうかと,大いに考えさせられるレクチャーであった。
- 関連タイトル:
FarmVill
- 関連タイトル:
Mafia Wars
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Copyright (C) 2010 Zynga Game Network Inc.. All rights reserved.
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