インタビュー
日本ファルコムのゲーム作りの哲学とは?――近藤季洋氏に聞いた「英雄伝説 零の軌跡」に込めた思い
「英雄伝説 零の軌跡」公式サイト
オーソドックスなRPGのスタイルを踏襲しながらも,システムとシナリオの両面で丁寧に作り込まれているのが大きな特徴だが,後にPSP向けタイトルとしても移植された本作も,口コミベースで徐々に販売本数を伸ばし,今ではシリーズ累計90万本を超えるセールスを記録しているなど,隠れた(?)大ヒット作品としても知られる。
今回4Gamerでは,そんな人気シリーズの最新作「英雄伝説 零の軌跡」にフォーカスし,開発元である日本ファルコムの代表取締役である近藤季洋氏にインタビューを行った。
日本ファルコムといえば,日本のゲーム業界でも最古参に数えられるゲーム会社。その成り立ちは黎明期のゲーム市場にもさかのぼり,「イース」や「ザナドゥ」など,数々の名作を生み出してきたヒットメーカーとしても知られる。
今回のインタビューでは,「零の軌跡」についてはもちろんだが,ファルコムという会社や昨今のゲーム業界についてなど,これ幸いとさまざまな話題を振ってみた。示唆に富んだ話も多く聞けた,近藤氏との会話をお届けしよう。
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今度の職業は警察官。大都会「クロスベル」を軸に描かれる本作のストーリーとは
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
ではまず,本作のコンセプトからお聞かせ願えますか。
そうですね。まず「零」という名前の由来の一つでもあるんですが,なるべくたくさんの人に,新しい人にも英雄伝説を遊んでほしいと思いまして。「空の軌跡」の世界観やシステムをベースにしながらも,まったく新しい人でも楽しめるシナリオ,ゲーム作りを心がけました。
4Gamer:
具体的にはどういうところですか。
近藤氏:
零の軌跡を作るにあたって,まず最初に決めたことの一つが「クロスベル」という都会を舞台にした物語にしようというところでした。前作は,どちらかというと王道といいますか,片田舎から冒険が始まって,徐々に大きな町や王都など,世界が広がっていくような形でしたよね。
4Gamer:
主人公達が「遊撃士」というある種冒険者的な職業なのも,広い世界を冒険するのにふさわしいというか,マッチした設定でした。
近藤氏:
これは前作というか,英雄伝説の初代の頃からそうなんですけど,基本的にRPGっていうと,ゲームの舞台として国なり大陸なりがどーんとあって,主人公はその世界を“ぐるりと回っていく”というのが,ある種の決まり切った文法だったと思うんですよね。物語が進むごとに新しいマップや町なんかが出てくるという。零の軌跡では,そうではない何か新しい感覚のゲームにしたいなという思いがあったんです。
4Gamer:
それは興味深いですね。
近藤氏:
で,いろいろと思案した結果,一つの都市を拠点として,そこから“放射線状”に各地に行ったり来たりするような冒険のスタイルはどうだろう?というアイデアが出てきて。今回はこれでいこう!と決断しました。
4Gamer:
でもそうすると,同じマップを何度も往復して歩いたりすることになりませんか?
近藤氏:
はい。ただ零の軌跡では,核となるストーリー自体もそうなのですが,世界を何度も行き来することで見えてくる物事だったりお話というのを重視していて,そこが大きなウリの一つにもなっているんです。
4Gamer:
行き来することで見えてくる物事,ですか。
例えば,クロスベルの周囲にはいろんな街とか村があるんですけど,主人公達が所属する警察は,とても力の無い組織になってしまっているんですよ。だから序盤では,主人公達がさげすまれるような場面が多くなっています。しかし,シナリオやクエストをちょっとずつ進めていくと,だんだんと町の人の反応が変化していったりだとか,「認められていく過程」みたいな部分は,従来の英雄伝説らしくとても細やかに描かれているんです。
4Gamer:
前作「空の軌跡」では,仲間や町の人との会話パターンの豊富さが大きな魅力となっていましたが,そのあたりがさらにパワーアップしていると考えてよいですか?
近藤氏:
はい。テキストのボリュームでいうと,一章ごとに小説一冊分。ゲーム全体では,小説10冊分を超えるくらいの分量はあると思います。任務に出かけていって戻ったら町の様子が変わっているだとか,町の人と話す順番で言うことが変化するとか,前作と同様にそういった細やかな演出には力を入れています。
4Gamer:
これは前作を遊んでいて素朴な疑問だったんですけど,あの膨大な会話パターンは,制作上ではどうやって管理しているんでしょう?
近藤氏:
いや,特別なことはなにもしてないと思います。普通にフローチャートを書いて,地道に作ってます(笑)。
4Gamer:
なるほど,力技なんですね……。
あと先ほどお話の中でも触れられましたが,零の軌跡では,主人公達が「警察官」という点もポイントですよね。前作の「遊撃士」という設定と比較すると,あんまり“冒険”はしなさそうというか。ストーリーではどういったテーマが主軸に置かれるのでしょうか。
近藤氏:
零の軌跡で「クロスベルという都会を舞台にする」と決めたあと,やっぱり都会を描くんであれば,都会の側……つまり体制側の人間の視点でストーリーが語られていった方が面白いのではないかと考えました。
本作における警察は,先ほどもお話したように,組織としてはかなり弱体化してしまっています。一方で,同じ町の中にある「遊撃士協会」は大きな力を持っていて,町の人は,警察よりもそちらを頼っているような状況なんですよ。
※遊撃士とは,魔獣退治から犯罪防止まで,さまざまなトラブルに立ち向かう戦闘のスペシャリスト。その献身的な活動で,人々から絶大な信頼を勝ち取っている存在だ。特定の国家には属さず,各都市に「遊撃士協会」の支部を設立。そこを拠点としている。
4Gamer:
そうした状況のなかで,主人公達は新米警察として赴任してくるわけですよね。
近藤氏:
ええ。シナリオの詳しいお話はぜひゲームをやっていただければと思うのですが,主人公達は,いわば遊撃士を意識した特殊チームとして,さまざまな任務をこなしていくことになります。
4Gamer:
遊撃士という意味だと,前作で登場したキャラクターなどもやはり登場してくるのでしょうか。
近藤氏:
前作の主人公だった「エステル」と「ヨシュア」をはじめとして,何人かが登場してきます。ただ先ほども説明したように,主人公達は遊撃士をライバル視する立場なので,主人公達の視点から見るエステルとヨシュアは,当初は「先を行かれる」というか,いつも邪魔をする(一足先に事件を解決してしまうなど)存在として描かれています。
4Gamer:
零の軌跡が前作のエンディングから少し経った後ということだと,エステルとヨシュアは,かなり“たくましい姿”で描かれるのでしょうか。
近藤氏:
そうですね。エステルとヨシュアは,すでにさまざまな経験を積んだ人物なので,赴任したての新米警察官でしかない零の軌跡の主人公達から見ると,それこそ一回りも二回りも大きな存在として映ることになります。
戦闘が大幅にテンポアップ!――より洗練されたゲームシステム
ゲームのシステム面では,どのあたりがポイントになりますか?
近藤氏:
もっとも気を配ったのは,やはり戦闘部分ですね。前作のプレイヤーさんから頂いたご意見も,戦闘システムに関することがとても多くて。より楽しんで頂けるように,細やかな改良を施してあります。
4Gamer:
前作の時点でもすでにかなりの完成度だったと記憶していますが,具体的にはどう変わったのでしょう。
近藤氏:
まず,戦闘のテンポが大幅に良くなっています。大雑把な感覚値でいうと,だいたい1.5倍くらいは速くなっていると思います。またメニュー周りや必殺技(Sクラフト)のショートカット操作など,インタフェース面もさらにブラッシュアップしました。
4Gamer:
そういえば,今回は移動マップ上でも“攻撃アクション”を出せるようになっていますよね。
近藤氏:
敵のシンボルを殴りつけると,気絶させたりできますし,その後に戦闘を仕掛ければ,かなり有利な状態で戦いを開始できます。また敵とのレベル差が開いている場合などでは,戦闘シーンに移行することなく,“そのままマップ上の攻撃アクションだけ”で敵を倒せたりもします。
4Gamer:
ええと,それはつまり,イースのようなスクロールアクションゲーム風に,という意味ですか?
近藤氏:
そうです。もちろん,そんなに複雑なものではないんですけどね。ただ,弊社のイースで“敵を倒す爽快感”みたいな感覚があると思うんですけど,あれに近い気持ち良さはあるんじゃないかなと自負しています。
4Gamer:
それはもう,完全に別のゲームじゃないですか。
近藤氏:
先ほど,クロスベルという都市を拠点にマップを放射状に行き来する,という話をしましたけど,例えば,とあるミッションに向かう時は,普通に敵と戦闘しながら進んでいくわけですが,別のミッションで訪れた時には,主人公達が強くなっているので,戦闘パートに移行せずに敵を倒せてしまう……というようなゲームバランスになっているんですよ。
4Gamer:
なるほど。何度もマップを行き来する煩わしさを,そういったシステム面でもフォローしているわけですか。
近藤氏:
自分自身でプレイしていても,「これだったら,あちこち歩かされても苦痛じゃないな」と(笑)。
もちろんそれだけじゃなくて,「バス」などの移動手段で地域をショートカットできるだとか,プレイヤーさんが不満に感じないような配慮はほかにも用意しています。さらには行きと帰りでちょっとした会話の変化があったりだとか,とにかくマップの移動が苦にならない仕掛けはたくさん盛り込ませて頂きました。
4Gamer:
そのあたりの作り込みはさすがですね。
そういえば,以前,ゲーム全体のボリュームは「60時間程度」というお話を伺いましたが,そういった戦闘のスムーズさを加味したうえで,なお60時間ということなのでしょうか。
近藤氏:
そうですね。いわゆるクエストや町の人の会話を“きっちり追わない”という前提でプレイして,60時間くらいになると思います。
4Gamer:
では,クエストや町の人の会話をじっくりと消化しながらだと?
近藤氏:
100時間以上は楽しんでいただけるのではないかと思います。
本作でもやり込み要素は健在。作り込んだクエスト類も見逃すな!
4Gamer:
前作「空の軌跡」では,遊撃士協会で請け負える「ブレイサークエスト」や,「料理」「釣り」など,おまけ要素の充実ぶりも大きな特徴でしたが,今作におけるやりこみ要素はどのような進化を遂げていますか。
まずもっとも大きく変化しているのが,前作における「ブレイサークエスト」の代わりである,「支援要請」と呼ばれる部分ですね。市民からさまざまな依頼が舞い込んでくるというところは「ブレイサークエスト」と同じなんですけど,支援要請では,「警察官ならでは」の内容のものが多い点が一つの特徴になっています。
4Gamer:
警察官ならでは?
近藤氏:
例えば,駐車違反を取り締まるイベントだとか,列車の臨検を行うだとか。あるいはストーカーを捕まえるとかも(笑)。
4Gamer:
おお,確かにそれっぽい(笑)。
近藤氏:
もちろん,中には「猿を捕まえて」のような,いわば市役所の「なんでも課」みたいな依頼もあります。
ただ,今回の支援要請(クエストシステム)の最大の特徴は,なんといってもそうした依頼の一つ一つが「イベントとしてキチンと作り込んである」という点なんですよ。
4Gamer:
それはどういう意味ですか?
近藤氏:
前作だと,「薬草を採ってきて」だとか,割とお使い的なイベントが多かったといいますか。比較的単純な内容のものが多かったんです。だけど今回は,先ほどお話しした列車の臨検なんかもそうですけど,ゲーム内イベントとして「ちゃんと組んである」と言えばいいのかな。支援要請で請け負うクエストは,あくまでオマケの要素ではあるのですが,ゲーム本編のイベントと遜色ないくらい楽しめる内容になっているんですよ。
4Gamer:
……それも地味に凄いような。
近藤氏:
作る側としては大変なんですけどね(苦笑)。
ともあれ,今回はクエスト一つ一つの密度がかなり高いものになっているので,プレイヤーの皆さんにはぜひ全部遊んでほしいですね。なんというか,やらないともったいないくらいの感覚があります(笑)。支援要請は,私自身もテストプレイでかなり楽しめた部分だったので,プレイヤーの皆さんにも喜んでいただけるのではないかと思っています。
4Gamer:
料理や釣りに関してはいかがですか。
近藤氏:
もちろんパワーアップしていますよ。とくに釣りに関しては,今回「段位認定システム」というものを用意していまして。主人公達がクロスベルにある「釣公師団」に入団して,さまざまな釣りクエストをこなしていくことになります。
4Gamer:
前作でも,オマケ要素は報酬が地味に実用的だったりするから,それが欲しくてついつい遊んじゃうんですよね……。
近藤氏:
あと今回は,さらに「実績システム」というものも追加してあります。これは,ゲーム中の行動や選択肢によってポイントが貯まり,そのポイントを使ってさまざまなオマケ要素の解放を行うというものです。例えば,2周目をプレイするときの引き継ぎ要素だとか,イベントシーンがいつでも見れるようになるだとか。
4Gamer:
先ほど「100時間以上遊べる」というお話があったうえで,周回プレイのための要素を充実させているっていうのも凄い話ですよね。
近藤氏:
「空の軌跡」のプレイヤーさんは,割と繰り返し遊んでくれている方が多かったみたいで。弊社に寄せられるアンケートなどでも,周回プレイに関する要望がとても多かったんですよ。ですから,そこはプレイヤーさんのご期待に応えておこうかなと。
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