レビュー
言葉では何も語られない不思議で残酷な物語に,死の世界を垣間見た!?
LIMBO
「LIMBO」は,マイクロソフトから発売された,2D横スクロールのアクションパズルゲームだ。Xbox LIVEアーケード専用のタイトルで,価格は1200マイクロソフトポイント(約1800円)だ。
開発はデンマークの独立系デベロッパ,PLAYDEADが担当。本作が同社の処女作となり,マイクロソフト夏のキャンペーン,「Summer of arcade 2010 夏のイチオシ!」の第一弾タイトルとして配信されている。
主人公は名も無き男の子で,離れ離れになってしまった妹を捜すための旅に出る……という,シンプルなバックストーリーが用意されている。
フィールド内には,男の子の行く手を阻むかのように数多くの危険なトラップが設置されていて,プレイヤーはこの仕掛けの突破に頭をひねっていくことになる。アクションもあるが,チャプターの最後にボスが待ち構えているということはなく(一部チャプターでは巨大な昆虫や蜘蛛などが出る),パズルの部分にかなり重点を置いたゲーム性となっている。
主人公の男の子について,少し説明しよう。彼はヒーローでもなんでもない,ごく普通の少年。そのため足は遅いし,高くジャンプができるわけでもなく,泳げないので一定以上の深さの水溜りに落ちれば溺死してしまう。このように,ゲームの主人公を務めるには,少々頼りない。
そんな彼の身に降りかかるゴア表現はけっこう激しく,例えば巨大なトラバサミに挟まれると体はバラバラになるし,高圧電流に触れると丸焦げに,転がってきた巨大な岩にぶつかると押しつぶされてしまう。基本的に,トラップに引っかかったら即死と考えて間違いない。
真っ赤な血が飛び散るなどの演出はないのに,本作のCEROレーティングはD(17歳以上推奨)に設定されている。ただし「ゴアフィルター」をオンにしてやれば暴力表現はなくなるので,苦手な人は利用するのがよいだろう。
LIMBOを一目見て真っ先に印象に残るのは,白黒のモノトーンで描かれたグラフィックスだろう。このシンプルな色使いが幻想的な世界観の構築に一役買っており,プレイヤーをゲームに引き込む。水墨画のように濃淡が効果的に使われており,とくに森の中で見られる木漏れ日や,一定間隔で通電し光り輝くネオン管など,フィールドの描写はとてもセンスがよく,目を奪われる。HUDが一切なく,画面は非常にこざっぱりとしているのも特徴の一つに挙げられるだろう。
男の子と妹以外に,お邪魔キャラ的な扱いで人間型のキャラが何人か登場するが,彼らを含め誰も声を発することはなく,すべては“動き”で表現される。この作りには無声映画を観ているような印象を受けた。
ゲームは24のチャプターから構成されているが,リザルト画面は用意されておらず,チャプター同士の継ぎ目がないこともユニーク。一般的なアクションゲームは,ステージごとに「クリアタイム」「獲得したスコア」など,いろいろな情報が表示されるものだが,LIMBOにはそういった演出が一切ない。プレイに熱中し,ふと気づいたら数チャプター進んでいたなんてこともあった。なお,一度クリアしたチャプターは,あとからやり直すことも可能だ。
モノトーンで描かれたダークな世界観,しゃべらないキャラクター達,頭を悩ませる数多くの謎解きなど,インパクトのある内容となっている本作。本稿では,その魅力を紹介していこう。
操作方法は単純明快
謎解きはオブジェクトや環境音にも注目
LIMBOの操作は非常にシンプルだ。左スティックで移動,Aボタンでジャンプ,Bボタンでアクションという,3種類の操作でゲームが成り立っている。
この中でとくに重要なのは,Bボタンのアクションだろう。これで木箱や取っ手のついた板を掴んで動かしたり,スイッチを入れて機械を作動させたり,傷んだ木に寄りかかって倒し足場を作ったり,いろいろなことができる。
ロープにぶら下がって体を振り子のように動かすと,勢いが増してより遠くに跳べるし,その後のロープを見てみると,徐々に勢いが落ちていきやがて止ってしまうなど,物理計算もしっかり表現されている。実はこれが謎解きにもしっかり生かされている。
男の子の前にはさまざまなトラップが立ちはだかり,それをどうやって突破するかが,本作の最大の魅力だろう。一例を紹介してみよう。
●仕掛け1
深い水溜りがあり,そこには木箱が浮いている。木箱の上に飛び乗ってジャンプして向こう岸に渡ろうとしても,ジャンプ力が足りず,水中に落ちて溺死してしまう。先に進むにはどうすればいいだろうか?
●仕掛け2
先に進みたいのに巨大な蜘蛛が通せんぼ中。近くの木の枝の上にはトラバサミが置かれているが,ジャンプしても届かない……。どうすれば入手できるだろう?
詳しい解説はネタバレになってしまうので避けるが,男の子の行き先には,こうした謎解きがふんだんに用意されている。男の子には特殊な力があるわけでもなく,原則として,その場にある仕掛けを利用して先に進まなければならない。
序盤はトゲトゲのある穴を飛び越えたり,木箱を動かして足場を作ってみたりと,単純なトラップが多いものの,チャプターを進めていくと,適切な順番でスイッチを作動させたり,高圧電流の流れる金属板の上を突破したりと,仕掛けの難度も上がっていく。
そして,ゲーム中「〜〜を使ってみましょう」といったようなヒントが出ることは一切ない。思いついたことは,とにかく試してみるという試行錯誤のプレイが求められる。
遊んでいて,謎解きに詰まったら周囲を見回してみよう。Bボタンのアクションで干渉できるオブジェクトがあるかもしれないし,迂回路があるかもしれない。トラップの突破にはプレイヤーのひらめきが不可欠で,この答えを自分で導き出せたときの達成感・快感は非常に大きい。
「こうやればいいんだ」と分かったときの感覚は,Valve Softwareの「Portal」や,2008年にXbox LIVE アーケードでリリースされ話題になった「BRAID」などに共通するものだろう。
先にも述べたように,基本的にはミスしたら即死となるが,その代わり何回でもやり直せる。チェックポイントも細かく用意されていて,ロード時間もなく即リトライ可能なのは親切な設計だ。
そして,LIMBOの世界観の完成度を高めるのに貢献しているのが,数々の環境音だ。LIMBOには基本的にBGMがなく,モノトーンの世界に物静かなSEが加わり,少々薄気味悪さを感じるほどだ。男の子が歩いてる音,池に水が流れ込む音など,その場に合った音が鳴り響いている。草地なら土を蹴る軽やかな音が鳴り,金属板の上なら「カツンカツン」と硬い音がする。
また,特定のポイントに来ると音が危険を知らせてくれたり,仕掛けを突破するヒントとして音が機能したりすることもある。一例を挙げてみると,「ギュォォーン」と何か機械が動く音がしたと思ったら,回転する丸い刃が迫ってきたとか,スイッチを入れたら木箱が天井に吸い寄せられ,その数秒後,不気味な効果音が鳴って,木箱が地面に落ちてきたり,といった具合だ。この音が鳴る前に木箱を目的の場所まで動かしてみようとか,そこからまたアイデアが広がっていく。
音で恐怖心を煽ったり,注意を促してみたりと,音響がゲームのムード作りにうまく作用しているのは見事だ。没入感を高めたいなら,ぜひヘッドホンを装着してのプレイをオススメしたい。
ボリュームはそれほどないが
繰り返し遊びたくなる不思議なタイトル
Xbox 360のゲームは,実績の解除も楽しみの一つ。LIMBOには全部で12個の実績が設定されているが,普通にクリアしただけでは,実績は一つくらいしか解除されない。多くの実績は,特定のチャプター内に隠された「卵」を入手することで解除される仕組みだ。あえて逆戻りしてみよう,ちょっと上を見てみようなど,正規ルートから外れてみることで卵が見つかったりする。
卵の隠し場所を見つけるのも大変だが,もっと厳しいのは「5回以上死なずにゲームをクリアする」という実績だろうか。序盤はともかく,とくに終盤はノーミスで突破するのが難しいトラップがいくつもあるので,全実績解除には,それなりの実力が必要になる。
メインのゲームモード以外では,ランキングで自分のスコアがどれくらいの位置にいるかを確認できる。本作のスコアは,チャプターのクリア率,実績の取得率から割り出され,やりこむほど上位に食い込める。競えるのは総合スコアのみで,チャプターごととか,ゲーム全体でのクリアタイムを競ってみるとか,そういった要素はない。おまけみたいな要素だ。
チャプターは全部で24個もあると聞くと,多く感じるかもしれないが,一つのチャプターはどれも数分でクリアできるほど短い。謎解きに詰まらなければ,5時間程度でエンディングまでいけてしまうゲームだ。
全体的にボリュームは少なめだし,実績のやりこみに関しても特定のチャプターをやり直すくらい。謎解きの答えも一つしかないため,一度分かってしまえば,それほど苦労せずに進めてしまう。正直,リプレイアビリティは低いはずである。だが不思議なことに,クリアしても再び遊んでみたくなるという魅力を持っている。何回も見てストーリーや演出が頭に入っている映画を,また見て楽しむ感覚に近い。
それにしても本作は,男の子が妹を捜すための旅に出る……これ以外の設定はとくになく,ゲーム中でも舞台や背景について語られるようなシーンはない。ただしゲームタイトルになっている「LIMBO」という単語を辞書で調べてみると,少し興味深い結果が得られる。ちょっと引用してみよう。
(1) 古聖所:天国と地獄の中間の場所;洗礼を受けられなかった幼児や,キリスト降誕以前に死んだ善人の霊魂がとどまるとされる
(2) 忘却のかなた
(3) (両極端の)中間状態
(4) 拘置所, 刑務所
この世界がどういった場所かは,遊んだ人それぞれが考える部分だろう。筆者は,薄暗い画面,数多くの即死トラップから死後の世界,とくに地獄を連想してしまった。男の子は天国,妹は地獄といった具合に離れ離れになってしまった世界で,それに納得できなかった男の子が妹の元へ行くため,あえて地獄を目指したのでは? と個人的には考えながらプレイしていた。
単語の意味とゲームの世界観を付け合せてみると,開発者が「死後の世界」というものを強く意識しているように想像できるが,いかがだろうか?
モノトーンで描かれた不思議な世界,男の子の無残な死に様,耳に残る数多くの音響効果。この個性あふれるゲームに筆者はすっかり魅了されてしまい,プレイし終えたあとは,美術館で美しい絵画や彫像を見たときのような気分になった。これはゲームというより,体験できるアートと捉えた方が適切かもしれない。これだけ素晴らしい体験が,1200マイクロソフトポイントで手に入るのはお買い得といえる。
Xbox LIVE アーケードのタイトルは,製品版を買う前にデモを遊べるというメリットがある。まずはそれをダウンロードし,この魅力溢れる不思議な世界に触れてみてほしい。きっと何か感じるものがあるはずだ。
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