レビュー
希望を持った学生達が殺しあう!? 犯人を探し出すのはキミだ
ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生
「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」は,スパイクから11月25日に発売された,PSP用のアドベンチャーゲーム。相手との対話を通じて,ウソや矛盾を暴くことに主眼が置かれた,「ハイスピード推理アクション」である。
本作の設定は,あまりにも奇抜だ。あらゆる分野における“超高校級”の才能を持つ学生らを集め,世界へ輩出し続ける「希望ヶ峰学園」を舞台に,ストーリーが繰り広げられる。集められた生徒の例を挙げると,超一流のアイドル,高校球児,カリスマモデル,格闘家,ギャンブラー,プログラマー,暴走族,同人作家などの“超高校級”といった具合だ。
主人公の「苗木 誠」は,そんな学園にやってきたごく普通の高校生。膨大な“平均的な学生”の中から選ばれた,「超高校級の幸運」を持った生徒という設定である。
ところが,主人公を含む15名の生徒は,ゲーム開始早々いきなり学園内に閉じ込められてしまう。学園内のあらゆる窓に鉄板がはめられ,出入り口も封鎖され,外の世界から完全に遮断されてしまったのだ。
そんな生徒達の前に突然現れた学園長の“モノクマ”は,にわかに信じがたいルールを押し付けてきた。「もしここから卒業して脱出したければ,ほかの誰かを殺す必要がある」と言うルールがそれだ。しかもただ殺すだけではなく,それを他の生徒に気付かれてはならないというのだ。
生徒達は最初,そんな話はまったく相手にしなかった。だが,閉鎖空間で不安になった心理をモノクマに巧みに煽られ,少しずつ変貌し,超一流の生徒達は一癖も二癖もある殺人鬼に変わっていく。
主人公は,そんな彼らの悪事を一つずつ“論破”していくことになる……というのが,ダンガンロンパの物語である。
日常から非日常へと突き落とされるという意味では,「バトルロワイヤル」「ライアーゲーム」などを彷彿とさせる導入部だが,その不気味さを際立たせているのが,学園長のモノクマである。
生徒達の前にはクマのぬいぐるみの姿で登場するが,その口調は能天気で明るく,それでいて残虐極まりない。特筆すべきは,このモノクマ役を,大山のぶ代さんが演じていること。モノクマを例えるなら,“狂気に堕ちたドラ○もん”そのものである。
犯人は誰だ?! お互い命がけの“学級裁判”
学園内で,殺人をはじめとしたさまざまな事件が起こる。主人公は“捜査パート”で学園内を歩き回って情報を集め,それらを元に“学級裁判”に挑み,真犯人を突き止めていく。こうして,次々と起こる難題をクリアしていくというのが,基本的なゲーム展開だ。
探索パートでは,FPS風のグラフィックスで描かれた学園内を探索していく。各部屋をくまなく調べ,生徒達と会話を繰り広げていくことで,不可解な点がちらほら出てくる。個々の情報ではあまり意味を成さないものの,複数を繋ぎ合せることで,事件解明への糸口が少しずつ見えてくるのだ。このあたりの流れは,まさに良質なアドベンチャーゲームといった趣である。
そうこうして事件解明への道筋がある程度見えると,捜査パートはいったん終了。本作のメインといえる学級裁判パートへと切り替わる。学級裁判にはユニークなシステムがぎっしりと詰まっているので,詳しく見ていこう。
学級裁判は,主人公を含む生徒全員が「身内に潜んだ犯人は誰か?」を,お互いに議論する形で進行する。そして議論の結果,見事に犯人を導き出すことができれば,その生徒はモノクマから恐るべき“おしおき”を受けることになる(要するに殺されてしまうということ)。逆に,導き出した犯人がもし間違っていたら,犯人は悠々と学園から卒業できるだけでなく,ほかの全生徒が代わりに“おしおき”を受けねばならない。
生徒を裏切った犯人が,全力で言い逃れをしようとするのは当たり前である。しかしそれ以外の生徒にとっても,あるときは濡れ衣を弁明し,またあるときは誰の言葉が正しいのかを見極め,命がけで信頼していかねばならない。部外者はただの一人もいないのだ。この設定が,学級裁判パートにたまらない緊迫感をもたらしている。
学級裁判では各生徒が次々と発言し,議論が自動的に進んでいく。このやりとりはフルボイスで数分間繰り広げられ,発言はメッセージとして画面上に表示される。そして主人公が,それらの中にウソや矛盾を感じたら,すかさずツッコミを入れるというわけだ。議論の中に潜むウソや矛盾を見つけ出さない限り,そのパートの議論は繰り返され,タイムリミットを迎えるとゲームオーバーとなる。
秀逸なのは,この際のやりとりを“銃”のイメージに見立てていること。捜査パートで得た有力な情報は“言弾(コトダマ)”と呼ばれ,それをメッセージに向けて発射するのだ。これがタイトル名の「ダンガンロンパ」というわけである。
手持ちの言弾や狙えるメッセージは複数あっても,正しい組み合わせは一つだけ。プレイヤーは議論における矛盾点を慎重に推理せねばならないものの,議論はリアルタイムで進行し,メッセージも常に動いているため,アナログパッドで狙い通りに言弾を発射することもままならない。時間制限もあるため緊張感はバツグンだ。これが,本作を代表するシステム“ノンストップ議論”である。
仲間と共に問題に立ち向かう“連帯感”に注目
学級裁判ではノンストップ議論を中心に展開するが,それ以外にも特徴的なゲームモードがいくつも登場する。例えば,真実の究明のために重要な単語を創り出す際は,画面内に浮かんだ文字を正しい順番で打ち落とす「閃きアナグラム」というゲームモードが始まる。また,探索パートで他生徒との親密度を上げると,学級裁判などの際に有力なスキルを身につけることができる。それによって,例えば言弾をより命中させやすくしたり,発言に失敗できる数(ライフ値のようなもの)を増やしたり,言弾の発射速度が上昇したりするようになるのだ。
犯人を追い詰める際の切り札として,事件の一部始終を“漫画”で解説し,その中の空白のコマをプレイヤーが補っていくという,「クライマックス推理」というゲームモードがある。また,最終的に話が通じなくなった相手に対して展開する「マシンガントークバトル」は,BGMに合わせてテンポ良く言弾を発射していくという内容で,これはリズムゲームそのものだ。
これらの2システムに関しては,アドベンチャーゲームとして見ればかなり珍しいシステムだが,それでいてゲームコンセプトともきっちり噛み合っている。アドベンチャーゲームにありがちな,たとえ回答が分からなくても総当たりで解決,という抜け道ができないのも良い。どうしてもネタバレにつながってしまうので,本稿では詳しい内容をスクリーンショットでお見せできないのが残念だが。
本作のゲームシステムにおける最大の特徴は,ノンストップ議論をはじめとした,学級裁判パートにおけるゲームモードの数々である。しかし個人的に,本作をプレイして何より心に残ったのは,犯人を除いた全生徒によって,建設的に議論を進めていくという連帯感だ。
生徒達は最初から犯人が分かっているのではなく,お互いに悩みながらも一緒になって,この状況に立ち向かっていく。そうして,全員で裏切り者を追い詰めていくというプロセスは,従来の“一対一”で繰り広げられる推理モノのアドベンチャーゲームでは得られない感動があった。
各キャラクターの個性の持たせ方も実にうまい。誰も彼もアクがやたらと強く,一見するとてんでバラバラすぎるのだが,そこは“超一流の高校生”というゲーム設定でうまくまとめられている。
モノクマに関しては別格といえるインパクトがあったが,それ以外の声優に関しても,主人公役の緒方恵美さん(エヴァンゲリオンの碇シンジ役など)をはじめ,実に良い演技で,キャラが立ちまくっている。「とりあえず人気声優に喋らせました」といった安易な起用方法ではなく,一番の見どころである学級裁判パートでは,フルボイスだからこそ,全キャラクターが命を吹き込まれたかのような存在感を発揮している。
シナリオは基本的に一本道だが,最初から最後まで,プレイヤーの予測を上回る展開を見せるだろう。謎解きに関しても,序盤から中盤にかけては主人公がうまく誘導してくれるので,極端につまずくような箇所はないはず。
注意点としては,ポップな絵柄の割に残虐な絵があり,それ以上に精神的に結構くるシーンが多いこと。レーティングは17歳以上が対象の「CDRO:D」となっているので,その点は留意しておこう。
このタイプのアドベンチャーゲームでは,カプコンの「逆転裁判」シリーズが金字塔といえるだろう。そんななかダンガンロンパには,新規IPで同じジャンルを狙いつつも単なるフォロワーではない,意欲的な試みが数多く盛り込まれている。
コミカルかつ現実離れしたシナリオと,緊張感溢れる学級裁判パートがダンガンロンパの魅力だ……と書くと,やはり逆転シリーズに似ているように聞こえるが,本作はアプローチがまるで違っているのだ。ゲーム全編に漂うアクの強いセンスや,各キャラクターにぴったり合った声優陣の起用など,見るべきところが多いタイトルである。
「ダンガンロンパ」は,現在「逆転」シリーズの独壇場といってもいい裁判アドベンチャーに,大きな存在感を示した。アドベンチャー好きには迷わずオススメしたい一本である。
「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」公式サイト
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