レビュー
Radeon R9 380搭載のゲーマー向けグラフィックスカード,そのポテンシャルは?
MSI R9 380 GAMING 4G
「Radeon R9 380」(以下,R9 380)搭載カードを主役として検証するのは今回が初めて――いわゆる一斉検証系記事で対象として取り上げたことは何度かある――だが,そのポテンシャルはいかほどか。テストにより明らかにしてみよう。
R9 285のリフレッシュとなる「Antigua PRO」を採用
GPUクーラーは定評あるTwin Frozr V
R9 380 GPU。パッケージ上の刻印は「215-0877000」だった |
R9 380 GAMING 4Gに採用されていたメモリチップは、「Elpida」刻印入りの「W4032BABG-60-F」(6Gbps品)。チップの仕様からすると,5700MHz相当というGPUの仕様に対し,若干のマージンがある計算だ |
R9 380は「Tonga」(トンガ)コアのリフレッシュとなる「Antigua」(アンティグア)コアを採用したGPUの下位モデルで,AMD内における呼び名は「Antigua PRO」。演算ユニット数が28基,シェーダプロセッサ数が1792基で,メモリインタフェースが256bitといった基本スペックは,Tonga世代の「Radeon R9 285」(以下,R9 285)と完全に同じだ。異なるのは,GPUコアのブースト最大クロックが918MHzから970MHzへ,メモリクロックが5500MHz相当から5700MHz相当へ,それぞれ引き上げられていることだけである。R9 380は,事実上のR9 285リブランドモデルという理解でいい。
そんなR9 380を搭載するR9 380 GAMING 4Gは,MSI独自のユーティリティソフト「Gaming APP」により,3つの動作クロックモードを設定できるようになっている。その名称と具体的なクロック設定は以下のとおりだ。
- OCモード:GPUコアクロック1000MHz,メモリクロック5800MHz相当
- ゲーミングモード:GPUコアクロック980MHz,メモリクロック5700MHz相当
- サイレントモード:GPUコアクロック970MHz,メモリクロック5700MHz相当
ただ,テスト開始時に最新だったバージョン5.0.0.29のGaming APPを導入して実行すると,OCモードとサイレントモードでアイドル時にコアクロックとメモリクロックが低下しない状態に陥った。しかも,Gaming APPを終了しても,OSを再起動するまで動作クロックが高いままになってしまうのである。
MSIにこの現象について確認したところ,「OCモードでアイドル時に動作クロックが低下しないのは仕様」との回答が得られた。ただし,ユーザーから動作クロックの低下を望む声が大きいため,バージョン5.0.0.30でアイドル時にもクロックが下がるよう,処理系を変更したそうだ。
OCモードはともかく,サイレントモードでもアイドル時の動作クロックが低下しないのは明らかに問題であって,早期の改善を期待したいところだ。
R9 380 GAMING 4Gの基板長は実測約249mm(※突起部除く)。ただし,GPUクーラー「Twin Frozr V」がカードの後方に同20mm弱はみ出ているため,カード長は同267mmとなる。
アイドル時にファンの回転を停止させる流行りの機能も「Zero Frozr」として搭載している。
そのヒートシンクを取り外すことで,基板を詳しく見ることができるが,電源部はどうやら7+1+1フェーズ構成のようだ。部品にはMSIが「Military Class」と呼ぶ,米国防総省の定める軍用規格「MIL-STD-810G」に準拠したという高耐久のものを採用しているのがポイントとなる。
R9 380X&GTX 960との比較を実施
テストにFar Cry PrimalとFallout 4を追加
テストのセットアップに入ろう。
今回,比較対象には,R9 380の上位モデルである「Radeon R9 380X」(以下,R9 380X)と,価格帯的にR9 380の対抗馬と述べておおむね差し支えない「GeForce GTX 960」(以下,GTX 960)を用意した。ただ,今回入手したR9 380XおよびGTX 960カードはいずれもメーカーレベルのクロックアップモデルとなるため,今回はMSI製オーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.2.0)で,リファレンスレベルにまで動作クロックを引き下げて使用している点をあらかじめお断りしておきたい。
テストに用いたグラフィックスドライバは,Radeonの2製品が「Radeon Software Crimson Editon 16.4.1 Hotfix」,GeForceが「GeForce 364.72 Driver」。いずれもテスト開始時点の最新版だ。それ以外のテスト環境は表のとおりとなる。
テスト方法だが,「3DMark」と「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)は,4Gamerのベンチマークレギュレーション17.0準拠。今回はそれに加えて,レギュレーション18世代を先取りする形で「Far Cry Primal」と「Fallout 4」のテストを追加することにした。
Far Cry Primalのテストにあたっては,ゲーム側に用意されたベンチマーク機能を利用。グラフィックス設定は,描画負荷が低めの「ノーマル」と,最も高い「最高」を選択している。ベンチマークモードにスコアのブレがほとんどないことから,スコアは,テスト条件ごとに1回のみ実行し,その結果を採用する。
対するFallout 4では,武装ヘリ「ベルチバード」に乗るシーンで,1分間の平均フレームレートを「Fraps」(Version 3.5.99)で取得することになる。グラフィックス設定は「中」と「ウルトラ」の2パターンだ。
なお,テスト解像度は,R9 380というGPUの立ち位置を鑑み,1920
クロックアップの効果はさほど大きくない
性能はほぼ順当にGTX 960超え
テスト結果を順に見ていきたい。
グラフ1は3DMark(Version 2.0.1979)の結果となる。4月25日時点の3DMark最新版はバージョン2.0.2067だが(関連記事),1つ古いのは純粋に,テスト開始タイミングの都合だ。
さて,そのスコアだが,R9 380 GAMING 4Gの標準設定となるゲーミングモードを見てみると,対R9 380Xでは約96%,対GTX 960では107〜110%程度というスコアを示している。一方,OCモード,サイレントモードはいずれも,ゲーミングモードと比べて有意なスコア差があるとはいえない。
グラフ2,3はFar Cry Primalの結果だ。Far Cry Primalでは,Gaming APPにある3モードのスコア差が3DMarkよりもさらに縮まっており,ほとんど横並びである。描画負荷が高い状況だと,Gaming APP側のクロックアップ設定程度では,焼け石に水ということなのだろう。
ただ,競合製品との比較だと,256bitメモリインタフェースを持つR9 380 GAMING 4Gは,同128bitのGTX 960に対して3〜13%程度高いスコアを示しており,メモリ周りの高い基礎スペックが持つメリットを遺憾なく発揮できてもいる。
Fallout 4の結果がグラフ4,5だが,一言でまとめると,そのスコア傾向はFar Cry Primalと似た印象だ。Gaming APPにある3モードを切り替えても得られるフレームレートに大した違いはなく,デフォルトのゲーミングモードで動作するR9 380 GAMING 4Gは,対R9 380Xで96〜98%程度,対GTX 960で102〜112%程度のスコアを示した。
第2世代MaxwellベースのGeForceが優勢となるFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチの結果がグラフ6,7だが,果たしてR9 380 GAMING 4Gは,GTX 960の後塵を拝した。ただそれでも,「最高品質」の解像度1920
動作モードによる消費電力の違いもわずか
Twin Frozr Vの冷却性能と静音性はさすがに高い
テストにあたっては,ゲーム用途を想定して,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ8のとおり。本稿の序盤で紹介したとおり,おそらくGaming APPの問題で,R9 380 GAMING 4GはOCおよびサイレントモードによって,アイドル時の消費電力が下がらない。なので,デフォルト設定となるゲーミングモードでのスコアを見ていくことになるが,3Dアプリケーション実行時における3モードの消費電力差は最大でも5Wなので,性能と同じく,消費電力面でも,3モードの違いは無視していいだろう。
GTX 960と比べると28〜45W程度高いが,これはもう,現行世代のRadeonが抱える宿命のようなものである。
続いてGPUの温度からTwin Frozr Vの冷却能力を推し測っておこう。今回は「GPU-Z」(Version 0.8.7)を用い,3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」としつつ,アイドル時ともども,GPU温度をスコアとして取得することにした。
テスト時の室温は24℃で,システムはケースに組み込まない,いわゆるバラックの状態に置いてテストを行っているが,その結果がグラフ9だ。カードごとに温度センサーの位置は異なり,もちろん搭載されるクーラーも異なるため,横並びの比較に意味がないことは注意してほしいが,R9 380 GAMING 4Gのゲーミングモードは,アイドル時にファンの回転が止まることもあって,GPU温度は50℃と,かなり高めに出た。
ただ,一方の高負荷時は63℃で,十分に低いといえるレベルにある。冷却性能が際立つとまでは言えないものの,申し分のない性能はあると評していいように思う。
そんなTwin Frozr Vの動作音も気になるところだ。ここでは,カードに正対し30cm離れた場所にマイクを設置して,アイドル状態で1分間放置してから,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチを4分間実行したときの動作音を録音したサウンドファイルを以下のとおり用意したので,聞いてみてほしい。
最初の1分間は,ファンの回転が停止しているため,聞こえるのはCPUクーラーなどのそれ以外の環境音だ。そして,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチを実行してから20秒後(ファイル冒頭から80秒後)からファンが回り始めるが,その動作音はかなり静か。FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチが進んでも動作音が大きくなったりしていないので,Twin Frozr Vの静音性は高いと言っていいだろう。
※再生できない場合は,Waveファイルをダウンロードのうえ,手元のメディアプレイヤーで再生してみてください。
Gaming APPを使うメリットは(ほぼ)ないが
3万円前後で買えるカードとしては魅力的
懸念はGaming APPの挙動がおかしいところだが,OCモードとサイレントモードのベンチマークスコアがゲーミングモードのそれとほとんど変わらない以上,ひとまず,Gaming APPは使わないというのは,十分な解決策となる。Gaming APPの追加機能を使いたい場合は,MSIによるGaming APPのアップデートを待つことになるはずである。
R9 380 GAMING 4GをAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
MSIのR9 380 GAMING 4G製品情報ページ
- 関連タイトル:
G Series
- 関連タイトル:
Radeon R9 300
- この記事のURL:
キーワード
Copyright(C)2009-2017 MSI Computer Japan Co., Ltd. All rights reserved.