インタビュー
鉄拳が目指すアクションゲームの究極とは――本日稼働開始の「鉄拳TAG TOURNAMENT2」。新宿平八こと原田Pが語る格闘ゲーム,その哲学
“鉄拳らしさ”とは何か。格闘ゲーム,その哲学
4Gamer:
巌竜はともかくとして,キャラクター人気も非常に高い鉄拳シリーズですが,原田さんご自身がゲームを作る際は,そういった「キャラクター性」と,対戦ツールとしての「競技性」のどちらを重視していますか。
ああ,そこはすごく難しいテーマなんですよね。対戦ツールとして考えている人達――僕らは“トーナメントコミュニティ”と呼んでるんですけど,開発している僕らはどうしてもそちらに目が行きがちです。でも格闘ゲームがこれだけ世界の国に受け入れられて,300万本とか400万本とか売れるのは,それ以外の層も買ってくれるからじゃないですか。
格闘ゲームの遊び方って本当に人それぞれで,例えば兄弟でプレイしてて,お兄ちゃんより強ければいいとか,勝ち負けすらどうでもよくて,ただ単に対戦がしたいという人もいる。対戦をまったくしないで,コンボだけ練習している人だっていますよ。
もちろん格闘ゲームなんだから,対戦ツールであるのは間違いないんだけど,そこを強くしすぎると,今度はその裾野を切ってしまうことになる。
4Gamer:
対戦ツールであることを突き詰めていくと,カスタマイズなどのオマケ要素は邪魔になっていきますよね。背景だって,必要ないかもしれない。
原田氏:
そう。だからすごく難しいテーマで,結局どっちもやるしかないんだろうってのが,僕の結論なんですよ。一番良いのは,シンプルかつ奥が深いという,良く言われることなんですけど。でもそれって,ときには相反する部分もあるわけで,本当に難しいです。
4Gamer:
“トーナメントコミュニティ”に属する人だって,じゃあ個性も何もない,デッサン人形みたいなキャラクターでいいのかっていわれれば,そうではないですもんね。
原田氏:
そうなんですよ! 本当にその見極めが難しい。でも本質としては,もしかしたら勝敗すら関係がなくて。「動かすだけで面白い」というベースがあるからこそ,幅広いファンに受け入れられるゲームになるんじゃないかと思うんです。アクションゲームの究極というのはそこにあって,アクション自体が面白い,キャラクターを思いどおりに,自由自在に動かせることで,プレイヤーが満足できる。
そういった意味では,技を出したときのモーションやエフェクト,相手のやられ方,吹き飛び方や表情なんかには,かなり力を入れています。
4Gamer:
確かに鉄拳は,ほかの格闘ゲームと比べて演出がかなり「濃い」ですよね。
原田氏:
そう。だから例えば,ブライアンのマッハパンチなんかは,本当は僕がパラメータを間違えてできてしまった技だったんですよ。たまたま相手が吹き飛びすぎてしまって,みんなから「このやられ方はやりすぎだろ」と言われたんですが,「逆にそれが面白いんじゃないか」ということでそのまま通したんですよね。そういう技って,バランスだけ考えたらありえないんだけど,アクションの「面白さ」を追求するうえでは,必要なものだと思ってます。
技をガードしただけで,ガードなのにモーションが激しく動くというのも,実は鉄拳が最初で,僕らが徹底してこだわってる部分なんです。「とにかく体を揺らして,吹っ飛ぶときは素早く」って言って,やってましたね。
4Gamer:
そのこだわりが,今の“鉄拳らしさ”に繋がっていると。ではもう一つ「こだわり」についての質問させてください。先ほども家庭用の売り上げ本数的には,欧米地域が中心という話がありましたが,それでもなおアーケード版を先行して稼働させるのは,やはりなにかこだわりがあるんでしょうか。
原田氏:
ああ,この質問を日本で受けたのは初めてですね。本音でいうと,こだわってます。ゲームセンターって,凄いシビアな世界なんですよ。だって毎回100円入れて遊んでもらうわけじゃないですか。そこでつまらなかったら二度とプレイしてくれない。
そういうシビアな世界で意見をもらって研鑽されているからこそ,格闘ゲームとしての質が高いという評判を得られる側面がある。そういう意味ではすごく重要だと個人的に思ってます。
ただ半面,これだけ市場として拡大してきたヨーロッパ,北米がある中で,いつまでもアーケード先行でやっていくのはどうなんだって意見もあって。その地域の人達に早くゲームを提供してあげたい気持ちもあるんです。アーケード発信だから良質な格闘ゲームとは限らない,という議論もあるし,そこはせめぎ合いですね。
4Gamer:
あのアーケードのシビアさ,独特の空気というのは確かにほかでは得がたいものだと思います。それを踏まえた上で,あえてお聞きしたいんですが,今ってネット対戦がかなり進歩してきましたよね。「ストリートファイターIV」シリーズなんかも,ほぼラグを感じないで対戦が実現できている。それでもなお,アーケードという場は必要だとお考えですか?
原田氏:
うーん,これは小野さんとも話したんですけど,ネット対戦に関しては,今はまだ色々な問題があると思っています。ストリートファイターはシリーズが10年沈黙したあと,ストIVで復活したじゃないですか。その際,ある程度ネット対戦を前提に開発された部分もあって,うまくやってると思います。
その点鉄拳は,ゲームの内容的にキーデータがほかの格闘ゲームの2〜3倍必要で,回線の太さもレスポンスも,そうとうなレベルでないと難しいところを持ち続けている。アーケードで,よく「レスポンスが良い」「ヌルヌル動く」と評価されていることからも分かると思うんですが,キー入力から描画までのレスポンスの早さを追求したことで,逆に処理に一切マージンがなくなってしまってるんですね。ネットに不向きな側面があるんです。
だから基本的に家庭用に合わせた作りに基本設計を変えなきゃいけない部分があると思いますし,また別の側面では,世界的にインフラが整備されたら,その時は「ネット対戦用の格闘ゲーム」というものを1から作り直す必要があると思ってるんですよ。
4Gamer:
ネット対戦用,というと,例えばどういうことなんでしょうか。
原田氏:
これは極端な例えですが,ボタンを押してから3フレームぐらいは同じモーションが続いて,そこからパンチがグッっと出てくるような「ラグを吸収する仕組み」を入れる。そうすれば公平性を確保した上で,比較的違和感のない対戦格闘の基礎を作れます。
ボタンを押してから1フレーム以内に描画を完了させて,アニメーション的にも明らかな移動量が発生しているような作りだと,ネット対戦に対応させるのはかなり厳しくなります。ただネット対戦ネイティブだけを前提に作ると,今みたいなヌルヌルした3D系格闘ゲームの動きの気持ち良さというのは,やっぱりちょっと減ってしまうかもしれない。
4Gamer:
確かに。先ほどのアクションの気持ち良さ,という話にも繋がる部分ですね。
原田氏:
ただそうであろうとも,将来的にはいつかやるべきなんだろうと思ってます。そういう意味では,実は次の「鉄拳 X ストリートファイター」では,そこを結構意識した作りにするつもりです。
4Gamer:
おお,そうなんですか! というか「鉄拳 X ストリートファイター」の情報って,初めて聞いた気がします。
原田氏:
まだ何にも決まってないので。というかこれから作るんだから,机を漁っても何も出てこない(笑)。登場キャラクターを,いま決め始めたくらいですからね。ただ方針として,ネット対戦を意識するというのは決まってて。でもアーケードは一度通したいなあ,と思ってるんですよね。
4Gamer:
そこも未定なんですね。やっぱりアーケードで出てくれると,嬉しいですけど。「鉄拳 X ストリートファイター」の話が出たので,カプコンさんの「STREET FIGHTER X 鉄拳」(PS3 / Xbox 360 / PSVita)についてもお聞きしてみたいんですが。
原田氏:
「STREET FIGHTER X 鉄拳」はこれからまだ登場キャラクターが発表されていくんで,楽しみにしていてください。僕らはまったく口出ししてないんで,ノータッチなんですけど,駆け引きはストリートファイターだけど,対戦ルールやコンボの繋がりなんかは鉄拳ぽくなってて,お互いの良いところが入っているんじゃないかな。だから間口は意外と広いと思いますよ。小野さんもかなり慎重に作ってくれてて,バージョンもどんどん上がってきているので,TGSでぜひ遊んでみてほしいですね。
4Gamer:
口を出さないというのは,お互いの希望なんですか?
原田氏:
お互いの希望です。もし「監修してください」っていわれたら,やっぱり口を出してしまうと思うんですよ。そうしてお互いに気を使いはじめると,ブレーキになって良いものができなくなっちゃうと思うんです。そこで「鉄拳っぽさ」を意識するあまり,ストリートファイターの良さがなくなってしまったら本末転倒なんで。
4Gamer:
なるほど。そして「鉄拳 X ストリートファイター」では,小野さんの監修は受けずに,原田さんが作りたいものを作れると。
原田氏:
いや,それは聞くかもしれない(笑)。向こうからは「どうぞどうぞ,自由に作ってください」と言われてるんですけど,やっぱり「ストリートファイター」というブランドから受けるプレッシャーって半端ないんですよ。今でこそ「鉄拳」は家庭用総売り上げではトップシェアだ,アーケードインカムランキングで5年トップだとかいろいろウリ文句がついてますが,そういう数値だけで語れない部分が格闘ゲームにはある。
例えばアメリカの10代の人に「ストリートファイター」とか「鉄拳」とか格闘ゲームのタイトルを並べて語らせると,「ストリートファイターは格闘ゲームの元祖であるからして」とか,語り出すんです。なるほどそれは解る,ところで今現在で10代という事は,そもそもお前……。
4Gamer:
生まれてないじゃん(笑)。
原田氏:
元祖があった頃に生まれてないし,絶対現役じゃなかったでしょと(笑)。せいぜい「ストリートファイター ZERO」からでは?とツッコミたくなるんですけどね。でもそういうのを聞いてると,やっぱり「元祖」のブランドというのは凄いなと。その凄さってのは,カプコンさんにとっては当たり前のことなんですけど,僕らにはないものなんです。だから,何を考えてこのキャラは作っているのかとか,そこは聞いておかないと,ストリートファイターファンの人に失礼になってしまうと思うんですよね。
4Gamer:
分かりました。両作とも発売を楽しみにしておきます。それでは,最後に稼働を楽しみに待っているプレイヤーに,何かメッセージをいただければと。
原田氏:
はい。今回は十分時間をいただいてつくったので,稼働後はどんどん意見をぶつけてほしいと思ってます。今はTwitterとかFacebookがあるので,良いところも悪いところも,直接ね。そうやって,これまで寄せられた期待になるべく答えられるように作ったつもりですし,今後にも活かしていきたいなと。
4Gamer:
ロケテストの反響では,かなり好評だったようで。
原田氏:
今回のTAG2は,稼働前から世界中でもの凄く期待されていて,逆にちょっと怖いんですよ。だから不安になっちゃってて。「準にまたハメがあるんじゃないか」とか,考えちゃうんですよね。
(一同笑)
原田氏:
これは今のうちに叩かれたほうが良いんじゃないかって。もしそんなのがあったら,もちろん速攻でパッチしますけどね(笑)。
あと今回は,見ているだけでも面白いし「明日はどんな組み合わせで遊ぼうかな」というワクワク感,お祭り感のある「明るい鉄拳」になってます。ゲームからしばらく離れていた人も,これを機会にぜひゲームセンターを覗いてみてほしい。
それに鉄拳だけじゃなくてね,「格闘ゲーム全体を盛り上げたい」という思いを,強く持っているんです。以前から明言していますが,僕らは90年代後半に「格闘ゲームブームが終わった終わった」といわれてようが,第2次格闘ゲームブームだといわれようが,16年間ブームに左右されず止まらず作り続けてきたし,数字の面でもブームに関係なくちゃんと売り続けてきた。
あらためて言いますが,僕は格闘ゲームというジャンルが大好きなんです。はっきり言って執着してますよ。だから格闘ゲームにこだわり続けるし,このジャンルの盛り上がりに少しでも寄与できればと思って作っている。だからぜひ鉄拳ファン以外の人も,今回のTAG2は,一度は触ってみてほしいですね。
4Gamer:
はい,稼働後の盛り上がりにも期待しています。本日は,ありがとうございました!
また稼働日の翌日からは,千葉の幕張メッセにて「東京ゲームショウ2011」(一般公開日は17日と18日)と「アミューズメントマシンショー vol.49」(一般公開日は17日)が開幕される。「東京ゲームショウ2011」のカプコンブースでは,本文中で触れられた「STREET FIGHTER X 鉄拳」の展示も予定されており,また「アミューズメントマシンショー vol.49」では,本作「鉄拳TAG TOURNAMENT2」の特別称号が貰える体験イベントもあるとのこと。いずれも訪れる予定がある人は,ぜひそちらもチェックしてみよう。
そのほかにも,現在上映中の映画「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」やPS3「鉄拳 ハイブリッド」,ニンテンドー3DS「鉄拳 3D プライムエディション」など,そして「鉄拳 X ストリートファイター」など,鉄拳シリーズの展開はまだまだ止まらない。鉄拳シリーズに触れたことのない人も,ぜひそのいずれかを入口に,めくるめく格闘ゲームの世界,鉄拳ワールドに足を踏み入れてみてはいかがだろうか。
「鉄拳TAG TOURNAMENT2」公式サイト
「鉄拳」シリーズ 公式サイト
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鉄拳TAG TOURNAMENT2
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鉄拳 3D プライムエディション
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鉄拳6 BLOODLINE REBELLION
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