レビュー
GeForce GTX 660 Ti搭載のクロックアップモデル4製品を並べて比較
ASUS GTX660 Ti-DC2T-2GD5
GIGA-BYTE GV-N66TOC-2GD
Palit NE5X66TH1049-1043J
ZOTAC GeForce GTX 660 Ti 2GB
GTX 660 Tiの詳しい仕様や基本性能は当該記事を参照してほしいが,端的に述べれば,多くのPCゲーマーが利用しているであろうディスプレイの解像度である1920×1080ドットで使う分には,GeForce GTX 500世代のハイエンドモデルを凌駕するほどのポテンシャルを持つGPUである。
ただ,GPU性能を検証した先行記事では,メーカーレベルのクロックアップが行われたASUSTeK Computer(以下,ASUS)製カード「GTX660 Ti-DC2T-2GD5」を,リファレンス相当のクロックにまで落として検証していた。カード自体の実力は明らかにできていないわけで,こちらの検証を行う必要がある。
4Gamerでは,GTX660 Ti-DC2T-2GD5に前後して,GIGA-BYTE TECHNOLOGY(以下,GIGA-BYTE)の「GV-N66TOC-2GD」とPalit Microsystems(以下,Palit)の「NE5X66TH1049-1043J」,そしてZOTAC International(以下,ZOTAC)の「ZOTAC GeForce GTX 660 Ti 2GB」(型番:ZT-60801-10P)も入手できた。いずれもメーカーレベルのクロックアップ版だが,今回はこれら4枚のカードをまとめて比較してみたいと思う。
それぞれ個性を持った4製品
4枚並べたことで見えてきたものも
というわけで,さっそく4枚のカードをブランド名のアルファベット順で紹介していきたい。なお,本稿では製品紹介のなかでGPUクーラーを取り外しているが,GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為であり,外した時点で保証を受けられなくなる。この点はくれぐれもご注意を。
■GTX660 Ti-DC2T-2GD5
基板は,ASUS独自のデジタルVRMコントローラ「DIGI+ VRM」や,ASUSが独自に選定した電源コンポーネント群「Super Alloy Power」を搭載するなど,相当に豪華な作りとなっている。
■GV-N66TOC-2GD
基板長自体は実測213mm(※突起部含まず)ながら,クーラーがカード後方へはみ出すデザインのため,カード長は同246mmとなっている。
GIGA-BYTEはこれを「Triangle Cool」(トライアングルクール)技術と呼んでいるが,これにより,GPU上の部分で乱気流などが発生しなくなり,結果,エアフローが整って,冷却能力が向上するという。
なお,メモリチップがSK Hynix製の2GbitチップGDDR5「H5GQ2H24AFR-R0C」(6Gbps品)で,カード表側に6枚,裏側に2枚搭載して合計容量2GBを実現している点はASUS製品と同じだ。
動作クロックはGPUのベースが1032MHz,ブーストが1111MHzで,メモリが6008MHz相当。今回のテストではGPU Boostによる最大動作クロックが1215MHzまで上昇するのを確認できている。
■NE5X66TH1049-1043J
さて,長さが同じという時点で予想していた人も多いのではないかと思われるが,クーラーを取り外した基板の外観はGTX 670リファレンスカードと非常によく似ている。また,電源周りは見る限り4+2フェーズだが,同じ構成と思われるGV-N66TOC-2GDからはさらに簡素化されている印象だ。
一方,メモリチップがSK Hynix製のH5GQ2H24AFR-R0CなのはASUS製カードやGIGA-BYTE製カードと変わらず。カード表に6枚,裏に2枚実装する点も変わらないが,それだけに,メモリクロックがチップの仕様を超えて6108MHz相当(実クロック1527MHz)に設定されているのは目を引く。
なお,GPUクロックはベース1006MHz,ブーストが1084MHz。今回のテスト中,GPU Boostによる最大動作クロックは1150MHzを記録した。
■ZOTAC GeForce GTX 660 Ti 2GB
具体的な長さは実測192mm(※突起部含まず)。GTX 670リファレンスカードやNE5X66TH1049-1043Jと同じ,173mmという基板長を採用しているので,クーラーが後方へはみ出ている格好になっているが,それでも200mm以内に収まっているのはインパクトが大きいと述べていいだろう。
クーラーを外した基板は,サイズがサイズなのでGTX 670リファレンスカードやNE5X66TH1049-1043Jとさすがによく似ている。ただ,4+2フェーズ構成に見える電源部はNE5X66TH1049-1043Jよりもコストがかかっている印象を受けた。
なお,メモリチップがSK Hynix製のH5GQ2H24AFR-R0Cで,カード表側に6枚,裏側に2枚搭載されるというのは,ここまでに紹介した3製品と同じである。
動作クロックはGPUコアのベースが928MHz,ブーストが1006MHzで,メモリ6008MHz相当。GPUクロックの引き上げ幅は,今回の4製品中で最も低い。本製品はそのサイズからしても,純然たる3D性能よりは,取り回しやすさに重きを置いた製品と見るべきだろう。
ちなみに,今回のテストだと,GPUの動作クロックは最大1071MHzまで上昇したのを確認している。
……以上,4枚を概観してきたが,NE5X66TH1049-1043JとZOTAC GeForce GTX 660 Ti 2GBの基板がGTX 670リファレンスカードとよく似ているのが分かってもらえたと思う。また,よくよく見比べてみると,基板後方の“はみ出ている部分”以外はGV-N66TOC-2Gも似た印象だ。NVIDIAに近い関係者の話では,GTX 660 Tiリファレンスカードは存在しないとのことだったが,入手した4枚中3枚で似たデザインだと,「リファレンスカードは『存在しない』のではなく,GTX 670と共用なのではないか」と考えたくもなってくる。
いずれにせよ,純然たる意味でのメーカーオリジナル基板は,今回入手した中ではGTX660 Ti-DC2T-2GD5のみと考えておいたほうが安全かもしれない。
なお表1は,そんな4製品の主なスペックをまとめたものになる。
GTX 660 Ti&GTX 670との力関係を確認
テストアプリは一部抜粋
以上を踏まえつつ,テストのセットアップに移ろう。
今回,4製品の比較対象として用意したのは,GTX660 Ti-DC2T-2GD5の動作クロックをリファレンス相当に落としたものと,「GeForce GTX 670」(以下,GTX 670),そして「Radeon HD 7950」(以下,HD 7950)の3製品だ。
テスト環境は表2のとおりで,GTX 660 TiのGPUレビュー記事とまったく同じ構成となるため,今回,比較対象となる3製品のスコアはすべて当該記事から流用することをここでお断りしておきたい。GeForce GTX 500シリーズや「Radeon HD 7870」との力関係は,レビュー記事と見比べ,判断してもらえればと思う。
ところで,スコアを流用するのだから当たり前なのだが,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション12.2準拠で,解像度は1920×1080&2560×1600ドットの2つ。CPU「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」の自動クロックアップ機能である「Intel Turbo Boost Technology」は無効化している。
一点注意してほしいのは,掲載スケジュールを優先し,「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」と「Sid Meier's Civilization V」のテストを省略していることだ。カードの入手タイミングを踏まえた措置なので,この点はご了承を。
なお以下,テスト段の文中,グラフ中とも,主役の4モデルは,GTX660 Ti-DC2T-2GD5を「ASUS 660 Ti」,GV-N66TOC-2GDは「GBT 660 Ti」,NE5X66TH1049-1043Jを「Palit 660 Ti」,ZOTAC GeForce GTX 660 Ti 2GBを「ZOTAC 660 Ti」とそれぞれ表記して区別することとした。「GTX 660 Ti」は,グラフ中だとGTX660 Ti-DC2T-2GD5の動作クロックをリファレンス相当に落としたものを指すこととし,文中では適宜使い分ける。
クロックアップでGTX 670を上回る例も
1920×1080ドットなら上位モデルを喰える印象
テスト結果の考察に入ろう。
グラフ1は,「3DMark 11」(Version 1.0.3)から,「Performance」と「Extreme」の両プリセットにおける総合スコアをまとめたものだ。まず注目したいのは,GPUコアの最大動作クロックが最も高いGBT 660 Tiが,PerformanceプリセットでGTX 670より約4%高いスコアを示しているところ。また,ASUS 660 TiとPalit 660 TiがGTX 670と互角のスコアを示している点に注目したいところだ。高いクロックの設定されたGTX 660 Tiカードであれば,リファレンスクロックのGTX 670と同等かそれ以上のスコアを示せるわけである。
気になったのは,最大動作クロックにそれほど違いのないGBT 660 TiとASUS 660 Tiの間にけっこうなスコア差がついている点だが,挙動を追ってみると,GBT 660 Tiは,最大動作クロックが高いだけでなく,高いクロックに入る時間が長かった。おそらくそこが違いを生んでいるのだろう。
もう1つ,ASUS 660 TiとPalit 660 Tiで,最大動作クロックの低い後者のほうがスコアではわずかながら上回っているのも目を引くが,これはメモリクロックの引き上げが効いているためと思われる。
ただし,クロックアップ版GTX 660 Tiの“景気がいい”のはあくまでもPerformanceプリセットにおいて,である。GPUレビュー記事でも指摘した「GTX 660 Tiが持つメモリ周りの弱点」はクロックアップでどうにかなるものではなく,描画負荷が高まるExtremeプリセットだと,GBT 660 Tiがかろうじて対GTX 670で約97%に留まるのを除き,GTX 670に6〜10%程度のスコア差を付けられている。
続いて「Battlefield 3」(以下,BF3)のテスト結果をまとめたものがグラフ2,3だ。ここではメモリクロックよりむしろGPUクロック順でGTX 660 Ti搭載の4製品はスコアが決まっている印象であり,大きくクロックが引き上げられているASUS 660 TiとGBT 660 Ti,Palit 660 Tiが1つのグループを形成し,ZOTAC 660 TiはGTX 660 Tiのリファレンスクロックより若干高い程度,というところに落ち着いている。
グラフィックス描画負荷が高まる高解像度や「高負荷設定」でGTX 670とのスコア差が開いていくのは,GPUレビュー時と変わらぬ傾向だ。
グラフ4,5は「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果である。
ここでも全体的な傾向は3DMark 11を踏襲しており,グラフィックス描画負荷が低い「標準設定」だと,GBT 660 TiはGTX 670より2〜3%程度高いスコアを示し,ASUS 660 TiとPalit 660 Tiがそれに続く。高負荷設定になるとさすがに192bitメモリインタフェースが足枷となってGTX 660 Tiカード群のスコアは落ちていくが,Call of Duty 4自体が古い世代のタイトルで,それほどメモリ周りの負荷が高くないこともあってか,ZOTAC 660 Tiが対GTX 670で91〜92%のスコアに踏みとどまるなど,全体的にGTX 660 Tiカードのスコアは良好だ。
一方,公式の高解像度テクスチャパックを導入することでグラフィックスメモリ負荷が高まっている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)だと,GTX 660 Tiを搭載する4製品は,標準設定とUltra設定で対照的なスコアを示した(グラフ6,7)。アンチエイリアシング処理を伴わない標準設定では,ここまでとそう変わらない傾向なのだが,8xアンチエイリアシングを適用する「Ultra設定」では,1920×1080ドットでもGTX 670にはまったく歯が立たず,むしろリファレンス動作のGTX 660 Tiとほとんど変わらないスコアで落ち着いてしまうのだ。
非常に分かりやすい形で足回りのボトルネックが出たといえるだろう。
グラフ8,9は「DiRT 3」のテスト結果だが,ここだと全体的な傾向は3DMark 11とよく似ている。
ASUS 660 TiとPalit 660 Tiを比較したとき,標準設定の1920×1080ドットだとGPUコアクロックの高さで前者が若干ながら高いスコアを示すのに対し,それ以外のテスト条件ではメモリクロックの高い後者がわずかに逆転するというのはなかなか示唆的である。
GBT 660 Tiの消費電力は一段高め
クーラーの動作音は4製品でそれほど変わらず
そこで,GPUレビュー記事と同じく,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を測定してみよう。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ10で,アイドル時のスコアは4製品でほぼ同じ。そこで各アプリケーション実行時を見てみると,GBT 660 Tiのスコアが高い。すべてのテスト条件でGTX 670を上回るなど,頭1つ抜け出ている印象だ。
性能検証のところで,GBT 660 Tiは高いクロックに入る時間が長いという話をしたが,それや,大口径のファンを搭載するといったあたりが,消費電力での不利を招いている可能性を指摘できそうである。
一方,ASUS 660 TiとPalit 660 Tiの消費電力はほぼ同じで,基板設計の違いによるものか,メモリクロックの違いによるものかどうか,前者のほうが消費電力は若干低め。ZOTAC 660 TiはGTX 660 Tiのリファレンスクロック動作とほとんど変わらないスコアに落ち着いた。
最後はGPUクーラーの冷却能力だ。GPUレビュー記事に引き続き,3DMark 11の30分間連続実行時を「高負荷時」とし,アイドル時ともどもTechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.6.4)から各GPUの温度を測定した結果をまとめてみよう。
テスト時の室温は24℃。テストシステムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態に置いているが,そのときのテスト結果がグラフ11となる。GPU Boostによる到達クロックは4枚すべてで異なるのだが,高負荷時の温度は70℃前後で収まっているので,各社とも,このあたりで落ち着くよう,回転数を調整してきているということなのだろう。
また,気になる動作音だが,毎度筆者の主観であることを断ったうえで論じるなら,4製品の間に大きな違いはなく,かつ,おおむね静かめである。強いて挙げるならZOTAC 660 Tiが少し大きめかなというぐらいで,ほかはほぼ同じ。
ちなみにテスト中のファン回転数を書き出しておくと,ASUS 660 Tiが1170〜1530rpm,GIGA 660 Tiが1200〜1620rpm,Palit 660 Tiが930〜1320rpm,ZOTAC 660 Tiが1590〜2790rpmだった。
OC前提ならASUS,そのままの性能ならGIGA-BYTE
コスト重視でPalit,小型さを取るならZOTAC
以上のテスト結果から,4製品の立ち位置はかなりはっきりしてきた。具体的にまとめると以下のとおりだ。
- GTX660 Ti-DC2T-2GD5:自己責任でオーバークロックをしたい人や,長い間使い続けていきたい人向け
- GV-N66TOC-2GD:買って差したままの状態で,できる限り高い性能を得たい人向け
- NE5X66TH1049-1043J:とにかく価格対スペック比にこだわる人向け
- ZOTAC GeForce GTX 660 Ti 2GB:小型のPCケース内で使いたい人向け
もちろんこのほかにも市場には,各メーカーからさまざまなカードが登場する見込み。秋から年末にかけて,GTX 660 Tiカードは市場をかなり賑わせることになりそうだ。
「GeForce GTX 660 Ti」レビュー。Kepler世代初のミドルクラスGPUはGTX 580より速かった
ASUSのGTX660 TI-DC2T-2GD5製品情報ページ
PalitのNE5X66TH1049-1043J製品情報ページ(英語)
ZOTACのZOTAC GeForce GTX 660 Ti 2GB製品情報ページ
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