レビュー
「Sandy Bridge時代のOptimus」が持つ実力を,エントリーGPUで確認してみる
GeForce GT 540M
(Acer Aspire AS5750G-F74E/K)
なお,今回入手した個体は英語キーボード&英語OSの北米版であり,後述するように,国内販売されているAS5750Gと100%同じ仕様ではない。また,“Intel 6シリーズチップセット問題”のアオリを受け,2月4日時点において国内モデルの出荷は停止されているので,その点はご注意を。
今回はあくまで,GPU周りを中心としたテストレポートとなるので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
GT 540MのスペックはGT 435Mとほとんど同じ
CPUにはSandy Bridge世代のi7-2630QMを採用
AS5750Gは15.6インチワイドのグレアパネルを採用するノートPCで,パネル解像度は1366×768ドット。GPUとしてGT 540Mを搭載するのは先述のとおりだが,組み合わされるCPUは,「Intel HD Graphics 3000」(以下,HDG3000)を統合した「Core i7-2630QM/2.0GHz」(以下,i7-2630QM)となっている。
ちなみに,今回4Gamerで入手したAS5750Gと,国内流通版のスペックをまとめたものが表1となる。基本的には同じだが,前述したOSとキーボードのほか,HDDの回転数が異なるので,この点は押さえておいてもらえれば幸いだ。
ちなみにこの構成は,デスクトップPC向けGPUコア「GF108」(GeForce GT 430)のアーキテクチャを踏襲するもの。そのため,テクスチャユニット数はSM 1基あたり8基で,合計16基となっている。メモリコントローラは64bit×2で,合計128bitだ。
アプリケーションプロファイルでGPUを自動切り替え
「どちらのGPUを利用するか」も指定可能
AS5750Gでは,グラフィックス機能として基本的にHDG3000を使いつつ,描画負荷が高いアプリケーションを実行すると,その処理担当が,OptimusによってGT 540Mへと自動的に切り替わる。
Optimusの動作原理そのものは,2010年2月に発表されたときから基本的に変わっていないが,本稿でも簡単に紹介しておくと,
NVIDIAのノートPC用グラフィックスドライバである「Verde Notebook Driver」に「CPU側のグラフィックス機能とGPUのどちらを使うか」が記述されたアプリケーションプロファイルが用意されており,「GPUを使う」と設定されたアプリケーションの場合,その実行がトリガーとなって,GPUが起動される
設定項目にはこのほか,「High-performance NVIDIA processor」「Integrated graphics」も用意されていて,対象となるアプリケーションに対して前者を選択した場合は強制的にGPUが有効,後者を選択した場合は無効になる。
GT 540MとHD3000両方でテスト
比較対象にはi7-750+GT 430というマシンを用意
というわけで,ここからは実際にGT 540MのOptimusノートPCがどの程度の性能を持つのかチェックしていこう。
AS5750Gのスペックは表1で紹介済みだが,i7-2630QMは,4コア8スレッド処理が可能なCPUで,搭載するLLC(Last Level Cache)容量は6MB。「Intel Turbo Boost Technology 2」により,動作クロックは最大2.90GHzまで上がるようになっている。HDG3000の動作クロックは650〜1100MHzだ。
そして,今回の比較対象だが,いろいろ悩んだ結果,表3のシステムを用意することにした。GPUが「GeForce GT 430」(以下,GT 430)なのはいいとして,CPUは,「一世代前の4コアエントリーモデル」くらいが,ちょうど釣り合うのではないかという判断が働いた結果となる。一言でまとめるなら,「ゲーマー向けPCを名乗るには,GPU性能的にちょっと厳しいシステム」といったところか。
念のため,i7-2630QMとi5-750のスペックを表4にまとめておいたので,参考にしてほしい。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.2に準拠するが,GT 540Mのスペックを考慮して,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」と「Colin McRae: DiRT 2」のテストは省略。同じ理由で,「高負荷設定」でのテストは行わないことにしたが,「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)と「Just Cause 2」はそれでも“重い”ことが容易に想像できるため,今回はSandy Bridgeのグラフィックス性能レビュー記事で用いた「特別設定」を採用することにした。
残る「3DMark06」(Build 1.2.0)と「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4),「バイオハザード5」は,レギュレーションに従って「標準設定」「エントリー設定」を用いる。
解像度は,AS5750Gが最大で1366×768ドットなので,これと1024×768ドットを選択することとした。
なお以下,AS5750GでGT 540Mを利用した場合を「AS5750G(GT 540M)」,i7-2630QMのHDG3000を利用した場合を「AS5750G(HDG3000)」,そして比較対象として用意したデスクトップPCは「i5-750+GT 430」と表記する。
エントリークラスのデスクトップPCには若干届かず
一方,HDG 3000比では倍以上のスコア
順に見ていこう。
グラフ1は,3DMark06の総合スコアをまとめたもの。AS5750G(GT 540M)のスコアは,i5-750+GT 430比で95%程度のところにある。AS5750G(HDG3000)と比べると216〜223%というスコアになっており,単体GPUを搭載するメリットをはっきり見て取れる。
なお,グラフには示さないが,1366×768ドット時のCPU Scoreは,i5-750+GT 430が4359に対し,AS5750G(GT 540M)が5027,AS5750G(HDG3000)が5043だった。
続いてグラフ2〜6は,1366×768ドット解像度で,3DMark06の「Feature Test」を実行した結果だ。
グラフ2は「Fill Rate」(フィルレート)のスコアをまとめたものになるが,「Multi-Texturing」でAS5750G(GT 540M)がわずかだがi5-750+GT 430を超える結果を残した。動作クロック的に,GT 540MがGT 430を上回る理由はないことを考えると,GeForce 500Mシリーズで物理設計が見直されている(≒GF108をベースにした新しいGPUコアを採用している)可能性もありそうだ。
……もちろん,これだけで断定するのは危険だが。
「Pixel Shader」(ピクセルシェーダ)と「Vertex Shader」(頂点シェーダ)のテスト結果がグラフ3,4。いずれのテストでもAS5750G(GT 540M)はi5-750+GT 430に一歩及ばず,「GT 540MとGT 430は(ほぼ)同一アーキテクチャで,動作クロックだけ異なる」気配を感じさせている。
なお,Vertex Shaderの「Simple」でAS5750G(HDG3000)のスコアが高いのは,頂点処理をCPUコア側で行っているためではないかと思われるが,はっきりしたことは分からない。
グラフ5,6は,Shader Model 3.x世代における汎用演算性能を見る「Shader Particles」(シェーダパーティクル)と,長いシェーダプログラムの実行性能を見る「Perlin Noise」(パーリンノイズ)の結果。前者でAS5750G(GT 540M)がi5-750+GT 430に大きく置いて行かれる理由ははっきりしないが,CPU側の規定動作クロックが“効いている”のかもしれない。
なお,いずれのテストでもAS5750G(GT 540M)がAS5750G(HDG3000)に有意な差を付けている。
以上の傾向を踏まえながら,ゲームアプリケーションにおけるテスト結果を見ていきたい。
グラフ7は特別設定のDirectX 10モードで実行したBFBC2の結果。AS5750G(GT 540M)は,i5-750+GT 430比での90〜95%ほどのスコアを示しており,「グラフィックス設定を落としさえすれば,平均60fpsを出すことも不可能ではない」ことが分かる。
続いてグラフ8は,Call of Duty 4の結果となる。ここでも,AS5750G(GT 540M)のスコアは,i5-750+GT 430の93%ほど。AS5750G(GT 540M)の3D性能は,i5-750+GT 430から若干低いレベルと,そろそろ断定してもよさそうである。
グラフ9に示したJust Cause 2でも,AS5750G(GT 540M)がi5-750+GT 430より若干低いスコアを示すというその傾向は変わらない。
ただ,ここで注意してほしいのは,AS5750G(HDG3000)のスコアがAS5750G(GT 540M)に並んでいること。NVIDIAコントロールパネルからHDG3000の使用を強制しても,アプリケーションを実行するとGT 540Mに切り替わってしまったため,このような結果になっている。要するに,Optimusがうまく動作しなかったわけだ。ここではグラフの色を変えているので,AS5750G(HDG3000)の値はあくまでも参考程度に捉えてほしい。
性能検証の最後はエントリー設定で実行したバイオハザード5だが,ここでは3DMark06のShader Particlesと同じく,i5-750+GT 430とAS5750G(GT 540M)のスコア差が開き気味(グラフ10)。とくに,よりCPU性能がスコアを左右しやすい1024×768ドット設定時に,前者が後者に対して約21%もの差を付けている点は看過できないところだ。4コア4スレッド動作で規定クロック2.66GHzというi5-750と,4コア8スレッド動作で規定クロック2GHzのi7-2630QMの比較でこうなっている以上,ここでもCPUの動作クロックがスコアに影響していると見るべきだろう。
GT 540Mの利用による消費電力増は10数W程度か
デスクトップPCとの違いは歴然
Optimusのメリットとして挙げられる消費電力もチェックしておきたい。
今回は,ACアダプタによる給電状態を前提に,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測してみた。OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時とし,アイドル時ともども各時点の数値をスコアとしてまとめている。
その結果はグラフ11のとおり。AS5750G(GT 540M)は最高でも100Wを超えておらず,152〜182Wを示したデスクトップPCとは比較にならない低消費電力ぶりを確認できよう。AS5750G(HDG3000)との比較でも,Optimusによる切り替えが上手くいっていないJust Cause 2を除けば,10〜16W高いだけである。
同時に,アイドル時の消費電力が14Wと,非常に低いことも評価できる。Optimusにより,GPUの電源がカットされるのが効いているようだ。
なお,アイドル時におけるAS5750G(GT 540M)のスコアがN/Aなのは,とくに問題があったからではなく,「アイドル状態では自動的にGT 540Mが無効化される」ためである。
カジュアルタイトル用としては十分か
機能する限りOptimusの使い勝手は良好
仮にプロファイルへタイトルが登録されていなかったとしても,ユーザー側で登録できるとか,単体GPUが使われているか目で見て確認できる手段が用意されているとかいったあたりも,プラス評価の要因となる。
しかも,本機の実勢価格は10万円以下(だった)。Intel 6シリーズチップセットの回収騒ぎさえなければ,カジュアルゲーム用や,サブで動かしておきたい3Dゲームオンライン用ノートPCとして,十分に買い得感のある製品として勧められただけに,いまこの瞬間,販売が停止されていて購入できないというのは,なんとも残念と言わざるを得まい。
現在,Acerおよび日本エイサーは,国内における対応方法を検討中のこと。チップセットの交換を伴うため,近々にどうにかなる話ではないのだが,なるべく早いタイミングで販売が再開されることを期待したいところだ。
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