レビュー
「SFだから」「海外生まれだから」と遠慮している人は,きっと損しているはず
マスエフェクト3
宇宙の英雄ジョン・シェパードが銀河を救う。BioWareが開発し,Electronic Artsがパブリッシングを行なう超大作RPG「マスエフェクト3」(PlayStation 3/Xbox 360)が3月15日に発売された。筆者は初代から「マスエフェクト」シリーズをプレイしているのだが,簡単に言って,もう,シェパード活躍しすぎ! かっこよすぎ! Biowareから「おまえらこういうの好きなんだろ?」とドヤ顔で言われているような気がするくらい「マスエフェクト」シリーズは面白い。そんなわけで,さっそくシリーズ最新作のインプレッションをお届けしよう。ちなみに,今回の記事ではPlayStation 3版を使用している。
「マスエフェクト3」公式サイト(英語)
宇宙的有名人でスーパーヒーローの地球人
シェパード少佐が大活躍
舞台は2100年代。古代文明の技術力を利用して宇宙に進出した人類は,新参者ながら存在感を示している。主人公ジョン・シェパードは人類連合の軍人で階級は少佐。なぜか,どれほど活躍をしても昇進しない万年少佐だ。「少佐」という言葉の響きが一番かっこいいと感じる,世界共通の傾向があるのかもしれない。
シェパード少佐は有名人だ。ファンからサインを求められるような英雄であり,銀河の要人。裏社会のボスや秘密結社の総統からも一目置かれるほど顔が広い。どんな死地からも生還するほど強く,周りにいる女性はみんな少佐の前では少し照れたような顔をする。性格は常に謙虚で実直。だがタフ。しかしナイーブで傷つきやすい一面もある。まさに北米のゲーマー達が,こういう男になりたいと思う理想像を体現している。
毎回,陰謀を暴いて人類や宇宙文明を危機から救ってきたシェパード少佐だが,「マスエフェクト」シリーズ三部作の終章に位置づけられるマスエフェクト3で最大の危機を迎える。古代の神とも目されてきた謎の侵略者「リーパー」の本格的な侵攻が始まり,地球はたちまち壊滅状態に追い込まれてしまったのだ。全長2kmもある超巨大リーパーが都市を襲い,シェパード少佐は助けを求め宇宙へ旅立っていく。
スペースオペラの基本中の基本,「俺様カッコいい!」
本作の世界観を一言で表現するなら「スター・ウォーズ」だろう。宇宙船が加速していくときのエンジン音。ビームライフルの発射音,エイリアンの雰囲気,立体映像と話をする量子通信システムなど,そこかしこにスター・ウォーズを思わせる要素が満ちている。
スター・ウォーズは「スペース・オペラ」と呼ばれる,SFの中では少々周辺的なジャンルに属している。スペース・オペラは宇宙を舞台にした「冒険活劇」で,SFはあくまでも風味だ。細かい科学的考証は気にせず,宇宙の英雄が光線銃や特殊なパワーでバッタバッタと敵をなぎ倒し,プリンセスを救う。
マスエフェクト3にも,ありえないほど巨大な宇宙ステーション「シタデル」や,超古代文明が残したスーパーワープホール「マス リレイ」,人智を超えた超能力「バイオテック」など,構造や原理はよく分からないがすごいものがいっぱいある。人類が登場するはるか以前から発展していたはずの宇宙文明のステーションが妙に現代的だったりと,SF的な突っ込みどころもたくさんあるのだが,そういう細かいことは気にせず,ひたすらシェパード少佐の活躍を楽しむのがこのゲームの正しい遊び方だと思う。
どうすれば人が気持ち良くなるのかを研究してマスエフェクト3を作ったのではないかと思うくらい,ストーリーのあちこちには,プレイヤーの自尊心のツボを突きまくってくれる小粋な演出がちりばめられている。日本人にとってもなじみの深い,ハリウッド映画的な演出とセリフ回しとカメラワークで,こういうときにはこんなふうにカッコつけたいというお約束を,期待を裏切ることなく提供してくれるのだ。常に「俺様カッコいい!」状態なわけで,プレイしていて楽しくないわけがない。
「アクション」「RPG」「アドベンチャー」から遊び方をセレクト
では,いったいその楽しさがどんなゲーム性から生まれているのかを見ていこう。マスエフェクト3は,ゲームの難度でゲームジャンルが変わるという画期的なシステムを採用している。
モードは「アクション」「RPG」「ストーリー」の3つで,それぞれアクションゲーム,ベーシックなRPG,アドベンチャーに近いゲーム性となる。アクションでは戦闘重視で,イベントシーンの会話選択はなく,すべてカットシーンになる。面倒なことはいいから,とにかく戦わせろという人向けだろう。RPGは,前2作と同じく会話に選択肢があり,戦闘難度を選ぶことができる。そしてストーリーは,戦闘に中断されずに純粋にストーリーを楽しみたい人向け。戦いはグッとソフトになり,初心者でも無理なくクリアできるはず。このように,違うゲーム性を同居させてプレイヤーに遊び方を選んでもらうというのは,ゲームの自由度への新しいアプローチだ。
用意されているキャラクターのクラスは6つ |
外見のカスタマイズは,パーツごとに細かい部分を変更できる |
キャラクターのスキルには戦闘向きの「コンバット」,敵の防御力を弱体化する「テック」,超能力を使える「バイオテック」の3系統があり,これを組み合わせた6種類のクラスが用意されている。
具体的には,「ソルジャー」クラスはコンバットの,「エンジニア」はテックの,そして「アデプト」はバイオテックのスペシャリストだ。さらに,コンバットとバイオテックのハイブリッドクラス「ヴァンガード」,コンバットとテックの「インフィルトレーター」,そしてテックとバイオテックのハイブリッド「センチネル」の6種類となる。そこのあなた,分かりましたか?
そして,それぞれのクラスは6種類ほどの「アビリティ」を持っている。
筆者はせっかちで前に出たがるタイプなので,近接攻撃を得意とするヴァンガードを使った。本作には近接戦闘用の強攻撃があるが,ヴァンガードの場合,バイオテックパワーを腕にまとい,衝撃波を敵に叩きつけるというカッコいい技が使えるので,かなり気に入った。上記のように,ヴァンガードはコンバットとバイオテックのハイブリッドで,気功で戦うモンクのようなクラスだ。拳には弾切れがないので,考えなしに連射しがちな筆者にはピッタリだ。
さて,クラスのアビリティは,6段階の強化が可能になっている。ただし強化に使うポイントは,ある程度レベルアップしなければもらえない貴重品なので,全部を強化し尽くすのは厳しそうなバランスだ。シェパード少佐が艦長を勤める宇宙船ノルマンディ号には,ゲーム内通貨の「クレジット」を使ってスキルを振り直せる場所があって,それも重宝する。
アクションコマンドと親切なUIで,
道に迷うことなく快適プレイ
近年のアクションRPGブームの影響を受けてか,マスエフェクト3は前作に比べてアクションコマンドが増えている。前作にもあったカバーアクションはもちろん,ダッシュしたり,障害物を乗り越えたり,段差から飛び降りたり,ハシゴを上がったり,隙間を飛び越えたりとアクションゲームさながらの動きが可能だ。アクション要素が増えたことで,見えない壁に阻まれる不自然さは格段に解消されている。
ハシゴを上るなど,アクションコマンドが増えた |
遮蔽物を乗り越えたり,別の遮蔽物の背後にダッシュで移動したりといったこともできる |
アクションだけでなく,UIも進化している。ミッションの場所は矢印アイコンと,そのミッションでの目的を添えたマークで表示される。前作ではいちいちジャーナルを開いて進行状況を確認する必要があったので,これはとても楽チンだ。
体力バーの上に出る目の形のアイコンは,近くに何か重要なものがあるというシグナルで,そこで「R3」を押すと自動的にそれがある方向を向いてくれる。また,通常の街や宇宙船内のマップでは,誰がどこにいるのかが分かるリストがあり,これまた格段に使いやすくなった。初代マスエフェクトでは迷子になりがちだった筆者のジョン・シェパードも,これら親切UIのおかげで方向音痴を卒業できたのだ。
リアラ,ギャレスなど,
前作からの懐かしい顔ぶれが勢ぞろい
ゲームの序盤で仲間になるのは,これまでのシリーズにも登場したおなじみのキャラクター達だ。マスエフェクトシリーズきっての萌えキャラ,リアラはアサリ族の考古学者。バイオテックの使い手で,控えめなしゃべり方がとてもかわいい。ヒロインが青色なのはちょっと……などというのはリアラの魅力が分かっていない証拠だ。反省するように。
登場するたびに偉くなっているのは,トゥーリアン族のギャレス。初代では,正義感の強い自警団の警官だったのに,マスエフェクト3では将軍とタメ口がきけるVIPになっている。顔は怖いが,おいしいところで必ず出てくるナイスガイだ。
チーム編成を,筆者は主としてキャラクターの好みで決めていたが,各人の得意スキルを見てお互いが補いあえるような最強の組み合わせを探すというクレバーな方法もある。
敵の中にはダメージを無効化するシールドや防御スキルを使うものがおり,敵の名前が黄色で表示されているときには,そのスキルを発動させている。これをいかに解除して,攻撃が当たる状態を作るかが,マスエフェクト3のバトルの戦略になる。
パワーリングを呼び出して,部隊メンバーのアビリティを使用できる |
間隔をあけて襲ってくる敵から,拠点を防衛するミッション |
サブミッションでリーパーと戦う味方を増やそう
会話シーンでは,リング状のUIに3つの選択肢が出る。一番上は英雄らしい王道の選択で「パラゴン」を上昇させる。一番下は,我が道をゆく覇道の選択で「レネゲイド」を上昇させる。この2つの要素の増減によって,ミッションの結果が変わったりとストーリーが分岐していくのだ。
ミッションはあちこちの惑星,ときには宇宙空間でも発生する。移動は「ギャラクシーマップ」の中を,ノルマンディ号を操作して進んでいくというもので,前作と同じだ。だが今作はリーパーに襲われている惑星に巨大リーパーのアイコンがついたりと,マップを見るだけで,銀河がかなりせっぱつまった状況になっていることが分かる。
海外ゲームが苦手な人にもぜひ遊んでほしい
RPGの新たな頂(いただき)
かなり駆け足で紹介してきたが,分かってもらえただろうか。本作はシリーズものの3作目となる作品ではあるが,本作からプレイしても問題はない。もちろん,出てくる単語の意味が分からずに混乱する可能性はあるが,そういった用語はジャーナルにあるコーデックスで調べられる。最近の海外ゲームの例に漏れず,本作もさまざまな部分が親切に設計されており,余計なところでひっかかることなくゲームに集中できるはずだ。
個人的に少々気になったのは,エリアチェンジの際のロードが頻繁で長いことだ。テンポが悪くなるので,ここはもうちょっとがんばってほしかった。
さて,もしパッケージに描かれているのが「妙なボディスーツを着た一分刈りの男」であるという理由だけで本作を敬遠しているなら,もったいなさすぎる話だ。プレイしてみれば,パッケージで難しい顔をしている男が,意外とおちゃめなナイスガイだと分かる。ドが付くほどシリアスなストーリーだが,宇宙船の中で見つけたプラモデルを艦長室に飾ったり,シタデルで買った錦鯉を水槽で飼ったりなど,遊びの要素もふんだんに盛り込まれている。グラフィックスは豪華になったが,その根底に流れる思想にはファミコン時代に遊んだJRPGの名作たちと同じものが感じられて,懐かしさすら覚えた。もしやる気があるならぜひ第1作からプレイしてほしい。ダンサーが踊るいかがわしい酒場で,身を乗り出して踊りを見る姿を見て,シェパードが一気に好きになるはずだ。
「マスエフェクト3」公式サイト(英語)
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