レビュー
長寿シリーズ最新作は,ドライバーが車を降りて走る!
ニード・フォー・スピード ザ・ラン
サンフランシスコからニューヨークまで駆け抜ける,
無法レースに挑め
毎年,最低でも1本,ときには2本の新作をリリースし続けているエレクトロニック・アーツのニード・フォー・スピードシリーズは,日頃レースゲームは遊ばないという人でも名前くらいは知っているかもしれない。その最新作となる「ニード・フォー・スピード ザ・ラン」(PlayStation 3/Xbox 360/Wii/3DS)が2011年12月8日に発売されたのだ。いろいろとスピンオフ作品もあったりするので,これが何作目になるのか数え切れないが,ともかく,欧米ゲーム業界では一,二を争う長寿シリーズの最新作ということになる。
毎年出るとは言っても,ファンならよくご存じのとおり,サーキットでの純粋な走りに重点をおいた「プロストリート」「シフト」などの「レース系」,そして公道レースやパトカーとのカーチェイスが面白い「アンダーカバー」「ホット・パースート」といった「モストウォンテッド系」が,毎年交互にリリースされてきた。前作「SHIFT 2 UNLEASHED」がレース系の作品だったので,本作のゲーム性はお約束どおりモストウォンテッド系に近いものの,今回はレースの要素もたっぷり入っており,両方の特色を持った複合型になったという印象だ。
開発はニード・フォー・スピードシリーズのほか「SKATE」シリーズなどを手がけた,カナダのEA Black Boxが担当しており,ゲームエンジンにはスウェーデンのEA DICEが開発した「Frostbite 2」が使用されている。バトルフィールド 3並みに,これでもか,これでもかとぶっ壊れるボディ破壊の描写は一見の価値ありだ。また,主人公が車を降りて走り回るシーンでは,ヒューマンアニメーションシステム「ANT」が使用されており,レースゲームとは思えない動きを見せる。シリーズだけでなく,レースゲームジャンルの中でも初となる試みが満載された作品といえるだろう。シリーズも長期間にわたるとマンネリ化は避けられなくなるが,本作はそこに果敢に挑戦し続けている。
ストリートレース界で名を馳せるジャック(演じるのは俳優のショーン・ファリスさん)だったが,言動や貯まった借金で敵を増やし,命までもを狙われている |
ザ・ランでジャックをサポートしてくれるサム(演じるのは俳優のクリスティーナ・ヘンドリックスさん)。こんな美女と組めるなら,どんな危険なレースだって頑張れるさ |
ゲームエンジン「Frostbite 2」により大小さまざまなボディダメージが再現される。自慢じゃないが,綺麗なボディのままゴールしたことはない |
クイックタイムイベントによるアクションパートが導入され,ムービーシーンも忙しい。ただし,コマンド入力に失敗しても直前からやり直せる |
トップ以外は負け!
ライバルと警察が相手の熱いストリートレース
腕の立つドライバーとしてストリートレース界で知られたジャック・ロークだったが,うぬぼれや傲慢な態度で敵を増やしてしまう。また,車のために作った借金が,返済できないほど膨れあがり,命さえも狙われるほど危険な状況に陥ってしまう。そんな彼に声をかけたのが,同じストリートレーサーで危険な状況を生き抜く術を知りつくした美女,サム・ハーパーだった。彼女は,一緒に手を組んでサンフランシスコからニューヨークまでのアメリカ大陸横断レース「ザ・ラン」に参加しないかと持ちかける。賞金は2500万ドルだ。
……こんなストーリーで展開するのが,ストーリーモード,ザ・ランだ。このモードでは,ジャックはサムのサポートを受けながら,サンフランシスコからニューヨークまでアメリカ大陸横断レースに挑む。賞金目当てにレースに参加した200人以上のライバルが当面の相手だが,公道で危険な走りをするストリートレーサーを取り締まる警察も黙ってはいない。パトカーによる体当たりやロードブロックなど,あの手この手で邪魔をしてくるのだ。邪魔というか,それが仕事なんですけど。
ニューヨークまでの道のりは,10のステージに分かれ,各ステージは4〜7のイベントで構成されている。イベントごとに獲得順位や制限時間といったクリア条件が設定され,それを満たすと次のイベントに進めるというシステムだ。つまり,ニューヨークまで必死に爆走して優勝を目指すのではなく,優勝に至るシナリオが最初にあり,その展開を追っていくようなイメージだ。
サンフランシスコを出発し,砂漠地帯を走り抜け,ネオン煌めく夜のラスベガスへ。滑りやすい雪道がメインとなるコロラド州グランド・メサから,のどかな平原地帯へ。再び大都会シカゴを抜けると,大自然と紅葉を満喫できるペンシルバニア州からニューヨークへと入っていく。北米大陸のさまざまな表情に触れることができる,豊富なロケーションも本作の魅力だ。
レースモードは,規定台数を抜いて順位を上げる「パスレース」,制限時間内に各チェックポイントを通過していく「チェックポイントレース」,制限時間内にライバルを追い抜く「バトルレース」,そして,腕の立つ特定のライバルと一対一で戦う「ライバルレース」が用意されている。もちろん,警察の皆さんを交えてのレースになることも多く,パトカーの体当たりやバリケードなどがあるから大変だ。
冒頭でも触れたように,本作ではプレイヤーが車から降りて行動するアクションシーンが挿入される。ただし,グランド・セフト・オートシリーズのようにマップを自由に歩き回れるわけではなく,画面を見ながら表示されるボタンを的確に押すクイックタイムイベント仕立てになっている。レースゲームなのに,プレイヤーが車から降りるというフィーチャーがちょっとした話題になった本作だが,そういう仕掛けだったのだ。
ミニマップでショートカットルートが分かるが,ショートカットコースは幅が狭いなど難度が高く,タイムロスとなってしまうことも多い |
理不尽なタイミングで道路を封鎖するパトカーにイライラさせられるが,パターンが決まっているので覚えてしまえば切り抜けられる |
高級スポーツカーから往年の名車まで
国内外の100台以上の名車を収録
例によって,本作には,BMW 1 Mクーペ,ダッヂ チャレンジャー R/T,ランボルギーニ アヴェンタドール,フォルクスワーゲン シロッコ R,ポルシェ GT3 RS 4.0,マクラーレン MP4-12C,トヨタ スープラ,日産 GT-R SpecV,スバル WRX STI,三菱 ランサーエボリューションXなど,国内外の自動車メーカーの車が合計124台,すべて実名で収録されている。
最初から使用できる車は限られているが,ストーリーモード,決められた車の中から一台をチョイスしてレースをすることになる「チャレンジシリーズ」,そしてマルチプレイの進行状況などによって次々にアンロックされていく。なにしろ収録台数が多いため,すべての車を使えるようにするのは相当大変だが,何を達成すればどの車をアンロックできるのかは分かるので,お気に入りの車のアンロックを目指してプレイしてみよう。
ストーリーモードで自分の車を乗り換えるには,コースにあるガソリンスタンドに飛び込めばいい。ただし,ガソリンスタンドは頻繁に登場するわけではないし,また,気づいたら通り過ぎていたなんてこともあるから注意が必要だ。それより,せっかくガソリンスタンドがあるのだから,ガソリンに制限があって,ガス欠などが起きるとさらに面白かったかもしれない。
ストーリーモードでの車の乗り換えはガソリンスタンドで行う。ミニマップ上にマークが表示されるが,レース中にうっかり通り過ぎることも多い |
車のセッティングやカスタマイズなどはできないが,車によって,車高や外観を選択できる“キット”が用意される |
本作では車を細かくセッティングしたり,カスタマイズしたりはできない。そのため,用意された車を乗りこなすしかないのだ。車種ごとにトップスピード,100mタイム,馬力,ハンドリング,駆動系統などのパラメータがあり,路面状況やレースに対して得意,不得意がある。とはいえ,筆者は細かいことを考えず,見た目とトップスピード,駆動系統で決めてしまうことがほとんどであり,それでも大きな問題はなかった。ちなみに,車ごとに“キット”という形で外観や車高,エアロパーツの異なる車を選択できるようになっている。
なお,すべての車でナイトロが使用でき,一定時間加速可能になっている。ナイトロゲージは走っているうちに溜まり,溜まったぶんだけナイトロが使用できる。ゲージは,対向車線を走る,対向車とのニアミス,ドリフト,ショートカットを走るなどをすることでより早く溜まるので,アグレッシブな走りをすればするほどナイトロが多く使えるようになるのだ。
ただし,適当に使うと,本当に必要なときに使えなかったりするので,使用するポイントを見きわめるのもテクニックのうちだ。
アグレッシブルなだけでなく,
冷静かつ我慢の走りができるかが勝利への鍵
車の挙動については,完全にアーケード系といっていいだろう。そのため,普通はジャジャ馬的な挙動を示す昔の車や,高級スポーツカーでも比較的扱いやすく,この手のゲームが初めてという人でも簡単にプレイできるだろう。コントローラについては,ステアリングコントローラよりゲームパッドのほうが個人的にはプレイしやすかった。
本作には経験値(XP)という要素が用意されており,ゲームを進めていくとプレイヤーレベルが上がる。レベルが上がると新しい車がアンロックされたり,ナイトロがより早く溜まるようになったり,ドラフティング(スリップストリーム)が使えるようになったりなど,より速く走れるようになる。したがって,ゲームをうまく進めたいならできるだけ多くの経験値を稼いでレベルアップにいそしもう。多くの経験値を稼ぐためには,ドリフトする,ジャンプする,パトカーを破壊する,バリケードをかわす&体当たりするなど,アグレッシブルな走りを心がけたい。ナイトロ同様,過激な走行によって追加経験値が得られるのだ。
ストーリーモードやチャレンジシリーズでは,抜きつ抜かれつのレースシーンを演出するため,前を走るライバル車には追いつきやすく,追い抜くと相手が猛烈な勢いで追い上げてくるというバランスになっている。数秒程度のタイム差はあっという間に消えてしまうし,逆に差を広げられても追いつく可能性は残っている。
熱いバトルが展開されるのは確かだが,せっかく築いたタイム差をあっという間に失い,ゴール直前でうっかりミスをして敗北,最初からレースをやり直しという,泣くに泣けないシチュエーションも多かった。
本作では時間を巻き戻してミスをなかったことにするリワインド機能や,時間の流れを遅くするバレットタイムは用意されていないため,一つのミスが命取りになる。しかし,コースはいくつかのチェックポイントに区切られており,コースアウトしたり,大きなクラッシュをすると,直前のチェックポイントから復活できるリセット機能が用意されている。ちなみに,ゲームの難度はイージー,ノーマル,ハード,エクストリームから選択できるが,難度が高くなるにつれてチェックポイントも少なくなる。
本作では,コースから少しでも外れると強制的にリセットされるし,ライバルにガードレールに押しつけられてクラッシュしたり,パトカーに道路を塞がれたりされると,簡単にリセットになる。フルスピードで走る自車の前で突然,パトカーが真横を向けて停車したりなど,思わず「えー!」と叫んでしまうほど理不尽な状況も多く,そのつどロードが入るため,このへんのバランスはもう少し調整してほしかった。
さて,ストリートレースということもあり,ポイントになるのはやはり一般車の処理だろう。ハイウェイには,おそらくシリーズで最多ではないかと思えるほど大量の一般車が走っており,また,狙ってるんじゃないか? と思わせるタイミングで対向車が現れてくる。そのため,一般車をどうさばくかがレースの勝敗を分けることが多い。かっ飛ばしたい気持ちも分かるが,しっかり速度を落として正確に追い抜いたほうがタイムロスは少ない。常に冷静な走り,我慢の走りが要求されるわけだ。
ハイスピードで大量の一般車の間をぬっていく,ハイウェイバトルが怖い。無理せず速度を抑えて抜くほうが,追突するよりタイムロスは少ない |
プレイ視点はバンパー,ボンネット,ビハインドの3つが用意されており,好みに合わせて切り替えられるが,コクピットビューがないのが残念 |
充実したゲームモードとアンロック要素で長く遊べる一本
ストーリーモードのほかには,前記のように,プレイヤーのドライビングスキルが試される「チャレンジシリーズ」が用意されている。ストーリーモードの進行に合わせてプレイできるステージがアンロックされていき,合計11ステージ・54チャレンジが用意されている。走破タイムによりプラチナ,ゴールド,シルバー,カッパーのメダルを獲得できるので,プラチナを目指して何度も挑戦したい。
さらに,世界中のライバルと競えるマルチプレイも用意されている。マルチプレイでは使用できる車とロケーションが異なる6つのプレイリストから,一つを選んでプレイすることになる。それぞれのプレイリストは3〜5レースで構成されており,それぞれのレースで獲得できるポイントの合計で競うことになる。したがって,最後のレースが終わるまで誰が優勝するかは分からず,ハラハラドキドキだ。
プレイリストごとに「ほかのレーサーを5人追い抜く」「5位以内でゴールする」といった目標が用意されており,目標を達成すると経験値が得られるほか,レース中にほかのレーサーや一般車との接触がなかったり,最高速度を記録するなど,特定の条件を満たしても追加経験値が得られるので,できるだけクリーンなレースを心がけたい。
とはいえマルチプレイでは,あっちこっちぶつかりまくるハチャメチャなレースになることが多く,綺麗なボディのままゴールしたことは一度もなかったりする筆者だ。また,タイム差が開くとナイトロを長時間使えるといった補正はあるものの,ストーリーモードのような猛烈な追い上げはできない印象で,ワンミスで最下位脱落なんてこともある。やはり,人間相手だと緊張感が高い。
前作に引き続き,本作でも「オートログ」機能が利用できて便利だ。この機能を有効にしておけば,レースイベントやチャレンジで出したタイムが自動的にサーバーに送られて,意識せずに世界中のプレイヤーとタイムを競い合える。1位のタイムはどのくらいか,また自分が今何位なのかなのが簡単に分かり,レースを熱くしてくれる。
チャレンジシリーズでは,走破タイムによって,それに応じたメダルが獲得できる。簡単にプラチナを取れるレースもあれば,ゴールドさえ難しいものもあり,バラエティ豊富だ |
最初はほとんどの車がロックされていて使えないが,ゲームを進めると次第にアンロックされていく。どの条件でどの車がアンロックされるのか分かるので,乗りたい車を狙っていこう |
ニード・フォー・スピードシリーズの従来作は,モストウォンテッド系とレース系にきれいに分けられていたが,これまで書いてきたように,本作にはそのどちらの要素もあり,何系とは分けにくい。サンフランシスコからニューヨークまでの長丁場のレースが,一本の映画のように展開されていくため,最初から最後まで没頭できたのは素晴らしかった。
シングルプレイのゲームモードが充実しているほか,マルチプレイ人口も多いため,対戦相手に困ることはない。さまざまなアンロック要素も充実しており,やりごたえ十分のゲームに仕上がっている。ニード・フォー・スピードファンでなくても楽しめると思うので,興味のある人はぜひ試してほしい。
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- ニード・フォー・スピード ザ・ラン (初回特典:限定マシン等DLコード&予約特典:歴代人気タイトルチャレンジイベントDLコード 付き)
- ビデオゲーム
- 発売日:2011/12/08
- 価格:¥4,130円(Amazon) / 4992円(Yahoo)