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KONAMIの新作「BLADES of TIME」インタビュー。ロシア発の尖ったアクションを日本展開するために,藤井隆之プロデューサーが振った手腕とは
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印刷2011/12/19 10:00

インタビュー

KONAMIの新作「BLADES of TIME」インタビュー。ロシア発の尖ったアクションを日本展開するために,藤井隆之プロデューサーが振った手腕とは

ローカライズはなぜ必要なのか?


画像集#007のサムネイル/KONAMIの新作「BLADES of TIME」インタビュー。ロシア発の尖ったアクションを日本展開するために,藤井隆之プロデューサーが振った手腕とは

4Gamer:
 ちょっと気になったんですが,BLADES of TIMEの開発元はロシアで,欧米をメインターゲットにしているわけですよね。そうなると,“重さ”の表現も欧米向けになっていると思うんです。となると,日本では受け入れられにくい作品になってしまわないんですか?

藤井氏:
 そこがローカライズの腕の見せどころなんですよ。結局,ゲームデザインや演出をいじり過ぎてしまうと,無国籍の作品になって,個性も消えてしまいます。ですから重さの感覚などはローカライズの際にはいじりません。それよりも,ゲームは海外向けのゲームなんだけど,日本人でもスッと入っていけるようにローカライズをするんです。

 海外ドラマって日本でも大ヒットしていますよね? かなりの方が日本語吹き替え版を見ていると思いますが,そこで日本の声優さんが吹き替えている声を“そういうもの”として自然に受け取っていると思うんです。これは,まさにローカライズがよくできているからでしょう。

4Gamer:
 確かに。では,BLADES of TIMEではどんなローカライズを?

藤井氏:
 BLADES of TIMEには釘宮さんという一つの入口があり,そこに僕が日本に合わせたテキストと世界観を与えました。実は,テキストには相当手をいれています。Gaijinさんがイメージするアユミと,僕らのイメージするアユミって,やっぱり違いますし,人物の構築の仕方も異なりますから。

4Gamer:
 人物の構築の仕方,ですか。

藤井氏:
 通常はキャラクターの性別や年齢,身長,体重くらいまでしか設定されていないんですけど,僕らはそこから彼女の好物が何なのか,どんな本を読むのか,どの程度の教育を受けてきたのか,お父さんはまだ生きているのか,お母さんは誰なのか……と,そういうものを“作っていく”んです。つまり,ゲームには出てこないプロフィールまで,すべてを書き出すんですよ。

 そこまでやると,今度は言葉遣いや言葉尻,使う単語,ボキャブラリーも変わってきます。お父さんが軍隊出身なら軍隊用語を多用するかもしれないし,お母さんの影響を大きく受けているなら女性的な言葉を使うかもしれない。本をたくさん読む人なら,語いだってきっと多いでしょう。そういうイメージをどんどん膨らませていきます。

4Gamer:
 なるほど。ちなみに英語版のアユミはどういう人物だったんですか?

藤井氏:
 英語版のアユミはちょっと強そうなんです。もっと言うとファンキーで,面白おかしいお姉ちゃんだったんですね。クールといえばクールなんですけど,日本語に置き換えて釘宮さんに演じてもらうとなったときに,ちょっとズレみたいなものがありました。そこでテキストを直させていただいて,「貴様ァ!」とか「手助け無用!」とか言っちゃう,ちょっと侍っぽい味付けのアユミにしました。

4Gamer:
 英語だと一人称はIという風に,みんな同じ言葉になっちゃいますもんね。

藤井氏:
 私はIだし,あなたはYou。お主も貴様もあなたも君もないわけですから。そんな中でアユミはどういう言葉遣いなんだろうってキャラを決めていくわけです。で,キャラを決めたあとにスクリプトをあらためて確認していくと,「ここでアユミはこういうこと言わないよな」というシーンに出くわすんですよ。

4Gamer:
 そういうときにはどうするんですか?

藤井氏:
 変えちゃう(笑)。

4Gamer:
 それではお話が変わってしまうのでは……。

藤井氏:
 話は一切変えません。そうではなくて,キャラの心情といったストーリー以外の細かい部分に手を入れるんです。ロシア人なりアメリカ人の考え方をそのまま日本語にしても,心に響かないことが多いですから,僕らに親しみのある言葉を散りばめて,すべてを語らなくても背景にあるものが見えてくるようにするんです。そうすると,アユミに親近感が沸いてくるんですよ。

4Gamer:
 では,そうやって構築されたアユミのパーソナルデータは,たとえばゲーム内で明かされたりするんでしょうか?

藤井氏:
 それは出すものではないですから,プレイヤーの皆さんが,自分の好きなアユミを見つけてくれたらいいと思います。

4Gamer:
 あくまで裏設定ということですね。でも,そこまで作り込んでいくと,今度は映像と日本語がうまくかみ合わないといった問題が出てきませんか?

藤井氏:
 そうですねぇ。普通のローカライズでは,音声を節などでぶつ切りにして収録して,それをタイムラインに乗せてお終いというのが基本ですから,そういうこともあり得るでしょう。多少アラがあったとしても,それが一番コストパフォーマンスに優れていますから,決して“間違いではない”んです。
 でも僕らは今回,カットシーンに対して,0:00から始まってシーンが終わるまでの,ベタの大きい音声ファイルとして納品しました。そうすることで,今の指摘にあった問題も回避できますし,英語にない日本独特の相槌や細かい掛け声を散りばめることもできました。
 よく使ったテクニックには,キャラクターが下を向いているときやオフカメラのときに,一言入れたりというのがあります。これをやると,空気感が出るんですね。多少尺はこぼれても,ここはカメラが引くから,オリジナル音声にはないけど追加で2ワードいける,といった具合に入れていきました。

画像集#008のサムネイル/KONAMIの新作「BLADES of TIME」インタビュー。ロシア発の尖ったアクションを日本展開するために,藤井隆之プロデューサーが振った手腕とは

4Gamer:
 文字だけでなく音声もそこまで気合いを入れてローカライズするとなると,作業量も膨大になりますよね。

藤井氏:
 膨大な割に,仕事としては地味ですね。社内でも僕がどんな作業をしているか分からない人がいるくらいですから(笑)。
 はっきり言うと,ローカライズをしなくてもゲームはできます。でもそこをおろそかにすると,感情移入できないだけでなく,おっしゃるとおり見た目にまで不都合が出てきたりするんです。

4Gamer:
 とはいえ,どうしても翻訳しようのない言葉に出くわすこともあるのでは?

藤井氏:
 ありますね。たとえば「Action」という単語が表示されたときに,それがドアの前なら扉を開くし,モノの近くならばそれを押すし,段差の近くであればジャンプするんです。では,日本語でこれをどうするの? ってことになる。Actionという文字が入っている限られたスペースでは,そもそも表現できない状況が日本語には多々あるんです。だからそういうところだけは目をつむってカタカナで「アクション」にしてしまうなど,割り切っています。

4Gamer:
 その程度であれば,置き換えなくてもほぼ違和感なくプレイできますね。

藤井氏:
 そうですね。僕の中では割り切ったことであれ,プレイヤーさんにとって気にならないものなら許そうと。これが一番大切なラインです。

 とにかく,細部までこだわりをもってやらないと,「ただの海外のゲームだね」と言われて終わってしまいますからね。Gaijinさんは僕らを信用してやってくれているわけですから,そこは妥協できないんですよ。ゲームは1本に2年以上の歳月をかけて,しかもチーム全員が頑張って作るものですから,ローカライズも相応の仕事をするのが当然だと思っています。

4Gamer:
 では,BLADES of TIMEのタイトルそのものを日本語にするという考えはなかったんですか?

藤井氏:
 もちろんありました。ただ,Gaijinさんには“BLADES”という名前でフランチャイズを組みたいという意図がありましたし,TIMEという単語の意味が分からない人もそうはいないでしょう。時間を操るゲーム性ともマッチしていましたから,タイトルはそのままにしました。

 TGS 2011で,BLADES of TIMEの隣に出展したゼロ戦のフライトシミュは「蒼の英雄」というタイトルになっていますけど,あれは海外だと「Birds of Steel」と表記されていて,直訳すると「鉄の鳥」になります。それは間違ってはいませんが,そこから太平洋での戦いは連想できませんよね。青い空や青い海,そしてそこで戦う奴らの話だから,あのタイトルになったわけです。タイトルから何を連想させるかということには,いつも気を使っていますね。


藤井氏が見る海外のコンシューマゲーム市場


4Gamer:
 では,逆のパターンのお話なんですが,日本のゲームを英語にローカライズするときには,細かなニュアンスの違いにも気を使うものなんですか?

藤井氏:
 どうでしょうね……。確かに最近はアメリカ人やイギリス人の脚本家をチームに入れてやっているところも多くなってはいます。でもそういう動きが出てきたのは,本当にここ数年のことなんです。それまでは,英語の音声を入れてテキストを流し込んで,間違っていなければいいよね,という程度でしたから。

4Gamer:
 海外への意識が変わってきたということですか。

画像集#009のサムネイル/KONAMIの新作「BLADES of TIME」インタビュー。ロシア発の尖ったアクションを日本展開するために,藤井隆之プロデューサーが振った手腕とは
藤井氏:
 その話をすると,長くなりますよ?(笑)
 まずはゲームの体系的な話なんですけど,Xbox 360がアメリカで今の勢力をつかむまでは,日本のゲームもなんだかんだで海外で売れていたんですよ。日本のファーストパーティからの厚いサポートを受けつつ。あくまで日本市場がメインとしてしっかりあって,それをローカライズしたら海外でも少し売れた。要するに,日本のタイトルにとって海外で売れるというのは,ボーナスみたいなものというバランスがあったんです。

4Gamer:
 つまり,日本国内の市場だけでも十分やっていけた時代があったわけですよね。

藤井氏:
 90年代末くらいまででしょうか。欧米ゲームメーカーとしてみれば,分からないところがあるから聞いてみようと思っても,そこで翻訳が入るので,時間もかかるし質問内容が曲がる可能性もある。とにかくやりとりに時間がかかっていたと聞いたことがあります。そういう状況だと,当然1年間に出せる本数は減るでしょう。実際の本数を追ったわけではないので比率は分かりませんが,やはり初めからある種のエクスクルーシブ環境であった日本のゲームは強かったと思います。

4Gamer:
 日本のメーカーが国産プラットフォーム向けにゲームを開発するにあたって,実際の開発以外の部分がネックになりにくかったと。

藤井氏:
 そうです。やがて,21世紀に入ったあたりになると,アメリカやヨーロッパのパブリッシャやデベロッパが,さっきお話したような“重さ”のあるゲーム,言い換えれば欧米のためのゲームを,コンシューマで出せるようになってきました。そうすると,海外のゲーマーが日本のゲームをやる理由がなくなるんですよ。そして,“従来より日本のゲームに触れる時間が短くなる”という事態になります。

4Gamer:
 なるほど。ゲーム観についてもう1個気になることがあるんですが,倫理観の違いといったことはどう思われますか? FPSに限った話をすれば,銃社会であるか否かで,受け取る側の気持ちもずいぶん変わってきますよね。

藤井氏:
 そうですね。僕らは銃というものに対して嫌悪や恐怖を覚えますけど,彼らにとってそれは正義であったり力であったり,もっと言えば象徴だったりするのかもしれない。さらにそこで,人に対しての暴力を“笑い(ジョーク)”にできるかどうかも重要です。なんでもできちゃうオープンワールドのゲーム(笑)にあるような,ブラックな笑いって,日本で生まれ育った人からは出てきにくいものですよね。

 僕らの中で,暴力というのは絶対にやってはいけないことなんだと思います。それが戦争であっても,正当防衛であったとしても。だから日本では,ゲームの中でも一般人を攻撃した瞬間にCERO:Zになりますし,僕もそれで正しいと思っているんです。日本はそういう倫理観に基づいた国で,それこそが良さだと思っていますから。

 ……ローカライズをやっていると,「日本版は規制が入るんですね」ってよく残念がられますが,そういう国だからこその恩恵もたくさんあるはずなんですけどね(笑)。

4Gamer:
 大きな枠でいえば,安全な国ってことですからね。
 ただ,海外のビッグタイトルが数千万本も売れる理由というのは,そういった文化的背景の違いや倫理観の違いだけでは到底説明しきれませんよね。

藤井氏:
 それは,海外のタイトルは数十億円を投入して数百万人に売るという戦略なのに,日本ではそういう作り方ができないといったことでしょう。それでも市場に出れば,相手と同じように定価6980円とか,49.99ドルとかで売っていかなければならないんです。制作費だけでなく,マーケティングに使える額の桁も違うんですから,差は生まれますよね。あと,最近だとハリウッドの資本が流れてきているのも,影響していると思います。

4Gamer:
 ああ,それもよく言われていますね。

藤井氏:
 ええ。数年前からハリウッドに投資されていた資金,そしてそのスキームのファンドやプロジェクトマネジメントが,どかっとゲーム業界に入ってきたりしています。

4Gamer:
 ハリウッド映画の作り方をゲーム業界に適用させたわけですか。

藤井氏:
 作り方だけでなく,売り方も含めて完全にハリウッド流なのかなって気はしていますね。僕らからすると桁が違うんですけど,出資元がその桁で生きている人達ならできてしまうんです。当然,日本の映画産業とハリウッドの映画産業なんてゼロの数が2つも3つも違うじゃないですか。そういう投資の考え方の差は表れていると思います。

4Gamer:
 投資のことを考え始めると,国民の数や娯楽に対して支払う全体の金額そのものまで話が広がってしまいますね。

藤井氏:
 ええ。これは余談になりますが,アジアで携帯電話向けゲーム産業がなぜあんなに儲かっているのか,彼らにはまったく分からないそうですし。

4Gamer:
 日本人の私自身も分かりませんが,確かに携帯電話の進化という面ではすごいと思います。細かい部分を徹底的に掘り下げるのは日本人の性というところでしょうか。

藤井氏:
 海外の方は「面倒なことをコンピュータにいかにうまくやらせるか」ということに,死ぬほど頭を使う人達が多いんですね。日本のいわゆる職人さんは,手で細かくやるのが好きじゃないですか。「これは手作業でしか出せないんですよ」とか言いながら1個1個作ったりするでしょう。アメリカ人なんかがそれを見たら「意味ガ,分カラナイデース。ソンナノ,僕ノスーパープログラムデ,オッケーデース!」ってなるんですよ(笑)。


ハリウッドは無理。でも日本人にしかできないことはある!


4Gamer:
 さて,そんな中で日本はどうすればいいんでしょうか。

画像集#010のサムネイル/KONAMIの新作「BLADES of TIME」インタビュー。ロシア発の尖ったアクションを日本展開するために,藤井隆之プロデューサーが振った手腕とは
藤井氏:
 それは仮に知っていても,教えられません(笑)。ただ,せっかくなので少し考えてみると,やはり携帯電話向けゲームなどでは世界的に見ても日本が頭一つ抜き出ています。これは一つの産業として成長していて,しかもそれは欧米人が真似したくてもできないものになっていると言えるでしょう。昔の日本のゲームというのは,まさにそういうものでした。

 海外の人とたまに話すと「日本人は海外向けのゲームなんか作らなくていい。だって海外向けのゲームなんてやったことのない人たちが,まるでコピーしたような作品を作るんだから面白いわけがない。そんなことしなくても自分達は日本のゲームが大好きだ。それは日本というニッチな市場を見た,ドメスティックな作品だから好きなんだ」とか力説されるんですよ。

4Gamer:
 確かに一理ありますね。頼みの綱の日本市場が厳しいから海外に目を向けざるを得ななくてやってみたものの,海外から見るとそれはただのマネに見えてしまう。要は,向こうの文化に則したものを作れていないということですよね。

藤井氏:
 やっぱり,作ったことのないものは,なかなか作れないんです。でも,僕らが大好きでたまらないものならば,きっとそれを面白いと思ってくれる人は世界中にいるでしょう。数は少ないかもしれませんけど。

4Gamer:
 では,藤井さんはこれからどう戦っていくんでしょうか。

藤井氏:
 まず,ローカライズは得意分野ですから当然力を入れていきます。海外の文化にできるだけ沿った作品を作ることも,一つの勝負の仕方だと思っていますしね。

 プロデューサーとしての戦いを考えるのであれば,僕も日本人ですから,仮に欧米パブリッシャのマーケティングを考えている人たちと同じ条件でやってみろと言われても,きっと同じ結果は残せません。あるいは“騙されずに”ハリウッド俳優を起用しようと思っても,どこに話にいけばいいかはまったく分かりませんね。たた,それでも僕には釘宮さんをブッキングすることができます(笑)。

4Gamer:
 確かにそれは海外の方にはできない戦略ですね(笑)。

藤井氏:
 こういうプランがある,じゃあどうすればそのプランを実現できるかということを考えて,そのパイを持っている人に話しに行く。これがプロデューサー業ですから。

4Gamer:
 なるほど。……ところでそろそろ,お時間がきてしまったようですね。

藤井氏:
 まぁこんなことばかりしゃべっていますけど,誰か一人でもどこか一部分に共感してくれて,世界で戦う意識を今の若い人達が持ってくれたら嬉しいですよね。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。


 インタビュー終了後に軽く雑談をしているとき,藤井氏は「BLADES of TIMEは“最強系肉食女子”という看板を持っている作品ですので,骨太アクションを期待している方にもぜひ一度触ってみてほしいんですよね」とも話していた。
 実際,タイムリワインドを使いこなさなければならない戦闘と,“初見殺し”のギミックがそこかしこに散りばめられたマップの攻略は一筋縄ではいかない。本格的なアクションを求めているという人も,きっと満足できるはずだ。

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