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デジタルハリウッド大学でのサイバーコネクトツーの松山 洋氏による講演「ゲームクリエイターの職種と目指し方」をレポート
これは,同大学の客員准教授である,アクワイア代表取締役社長の遠藤琢磨氏が担当する授業の一環として行われたもの。
この授業は,ゲームのプロデューサー/ディレクターとしての基礎的な視野を身に付けるのが目的。ディレクターやプロデューサーの職務内容,プロジェクトマネジメント,開発管理,さらにはマーケティングや損益計算までと,ゲーム制作全体の視野視点を,具体例を交えて学べるというのがポイントだ。これまでにもビサイドの南治一徳氏やスパイク・チュンソフトの寺沢善徳氏ら,現役ゲームクリエイターによるゲスト講演が行われている。
今回のテーマは,「ゲームクリエイターの職種と目指し方」というもので,ゲームクリエイターにはどのような職種があり,どうやったらなれるのかについて,具体的かつ実践的な答えを提示するというものだった。
授業で基礎的な知識を身に付けても,そもそもゲーム業界に就職できなければ「絵に描いた餅」であり,意味がない。そのため遠藤氏は,ゲーム業界に入るための明確な「答え」を学生が得られるよう,松山氏に依頼して今回の講演が実現したとのこと。
今回4Gamerでは,本講義を特別に受講させてもらったので,そのレポートをお伝えしよう。
デジタルハリウッド大学公式サイト
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サイバーコネクトツー公式サイト
大まかな役割としては,ディレクター(監督)が全体の指揮を執り,ゲームデザイナー(企画マン/プランナー),アーティスト(デザイナー/グラフィッカー),サウンドクリエイター,プログラマーの4職種が最低限必要となる。
サイバーコネクトツーでは,職種を問わず,スタッフ全員がゲームクリエイターであるという意識を持つようにしているという。社内で行われている企画コンペには,職種を問わず参加するように取り組んでいるそうだ。
次に,先に挙げられた各職種について,具体的にどのような作業を行うのかを松山氏は説明した。
■ゲームデザイナー
「ゲームを設計し,制作を進行する人」であるゲームデザイナーは,企画書や仕様書のほか,アフレコ台本/発注資料/デバッグ資料など,ゲーム制作に関わるあらゆる書類を作成する能力が求められるなど,いわゆるなんでも屋だ。
また,チームのメンバーと話し合いながらプロジェクトを進めていく調整役でもあるため,高いコミュニケーション能力も求められる。
ここでは,「ゲームデザイナー」「レベルデザイナー」「シナリオデザイナー」に大別し,それぞれの主な役割を紹介した。
ゲームデザイナーが,一般的な「企画職」に当たる職種で,ゲームのシステムをデザインして書面化し,各方面に作成の指示を出す。レベルデザイナーは,ゲームエンジンやMayaなどのDCC(Digital Content Creation)ツールを利用して,ステージ内の遊びを設計する。シナリオデザイナーは,ゲームの設定やストーリー,メッセージ,音声収録用のメッセージなどを書くといった感じである。
■アーティスト
松山氏が例に挙げただけでも,キャラクターモデラー,BGモデラー,キャラクターアニメーター,シネマティックアニメーター,インタフェースデザイナー,エフェクトアーティストなど,その中身は細分化されている。
これは,現行機のPS3やXbox 360はもちろん,PS4やXbox Oneといった新世代機など,ゲーム機のグラフィックスが高精細化してきたことで,制作に時間/人員が必要になっていることが一因とされる。
松山氏はここで,キャラクターモデラーとBGモデラー志望者に向けて,普通にやっていては不合格で,ゲームクリエイターにはなれないと言い放つ。
昨今のゲーム機では表現力が上がり,必要なグラフィックスリソースも膨大なものになってきているため,CGモデリング作業はいわば大量生産の仕事である。そのため,海外,とくに中国などアジア系の企業に外注したほうが,安価に済むからである。
松山氏は,世界で売れているAAAクラスのゲームは数多くあるが,それらのタイトルのスタッフロールを見れば,グラフィックスリソースの約9割は中国で制作されていることが分かると述べる。つまり,そういった企業では安価に済むのはもちろん,クオリティも約束されていると言えるわけだ。
さらに,就職しようとしているメーカーには先輩のモデラーがいるわけで,そこに学生上がりのモデラーが割って入るのは,並大抵の努力では難しい。実際,サイバーコネクトツーでも,「ただの」キャラクターモデラー/BGモデラーには合格を出していないそうだ。
とはいえ,モデラーになれないわけではないと,松山氏は続ける。モデラーとしての才能が業界トップクラスといえるほど尖っていたり,キャラクターデザインなどマルチな方面で活躍できるモデラーであれば可能性は見えてくると,学生達にアドバイスを送っていた。
サイバーコネクトツーでは,福岡本社と東京オフィスで230人ほどのスタッフが在籍しているが,その7割がアーティストで,さらにアーティストの7割がアニメーターだという。
松山氏は,同社では「動き」にこだわった映像表現に力を入れており,とくに,日本にしかできない映像表現手法である“手付け”アニメをリスペクトしていると話す。そのため,アニメーターを積極的に採用していて,セルアニメの経験者などでセンスや能力があれば,PCを触ったことがないような人でも採用しているそうだ。
シネマティックアニメーターは,いわゆる必殺技のカットインなどを演出込みで制作するというアニメーターの花形で,こちらも需要が多いそうだ。松山氏はその必要条件を,「CMの15秒でゲームに惚れさせられる演出ができる人」と表現していた。
インタフェースデザイナーは,いわゆるUI(ユーザーインタフェース)を制作する職種だ。ユーザーとの“対話”を一番多く行う職種であるが,人材はゲーム業界で枯渇している,と松山氏は述べる。
最新世代のゲーム機では,ただゲームを遊ぶだけでなく,インターネットに接続してリプレイ動画をアップできたり,SNSと連携したりというように,ゲームの中でできることが多様化してきている。それを分かりやすく伝えるのが,インタフェースデザイナーの役割だという。
ちなみに松山氏によれば,ゲームは制作中に仕様がコロコロ変わり,何度も作り直すことが多いため,ユーザーインタフェースは,制作期間を通じてもっとも作り直しが多いそうだ。
エフェクトがカッコ悪いとゲームが死ぬ,といっていいほど重要であるにも関わらず,目指している人が少なすぎるとのこと。そのため現在は,アニメーターなどほかの職種から,適性のある人間を見出して,少しずつ育てているという。そのような状況を鑑みれば,ゲームメーカーに入ってゲームクリエイターのスタートラインに立つための職種としては狙い目といえるだろう。
アーティストには,そのほかにも,キャラクターデザイナー,プロップ(小道具)デザイナー,コンセプトアーティストなど,“デザイン”を担当する職種もある(実際はもっと細分化されているが)。
松山氏は,自分が目指そうと思っている職種や業界のことに無頓着だと,ゲーム制作の仕事は務まらないと述べる。人に教えてもらうことではないので,自分で考えて道を創りだしてほしいとまとめた。
■プログラマー
ゲームを制作するプログラマーの場合,家庭用ゲーム機向けタイトルではC++,スマートフォン向けではC#などでプログラムが組めるスキルが求められる。
制作をサポートするプログラマーとは,ゲームの屋台骨を支えるシステム部分や,ゲームの制作を円滑に進めるための開発ツールなどを制作する,裏方の裏方的な存在だ。
具体的には,シェーダの開発や描画パイプラインの構築,描画の最適化などを行う「グラフィックスプログラマー」,ミドルウェアなどでリアルな挙動を実現する「物理プログラマー」,NPCや敵の挙動などのバランスを制御するシステムを構築する「AIプログラマー」などが挙げられる。
また,DCCツールのプラグインや社内ツールなどを開発する「ツールエンジニア」,ゲームにおけるオンラインモードのプログラム設計と実装を行う「ネットワークエンジニア」,データベースの設計やサーバープログラムを担当する「データベースエンジニア」なども含まれる。
中でもデータベースエンジニアは,スマートフォン向けゲームでは必須でありながらも,人が少ない職種で,松山氏曰く「狙い目」とのこと。
なお松山氏は,ゲーム制作は集団作業であり,スタッフ同士のコミュニケーションが必須であるため,アーティストやゲームデザイナーでも,プログラム言語の知識を少しは持っていないと,一緒に仕事をすることはできないと述べていた。
■サウンドクリエイター
サウンドクリエイターは,ゲームにまつわるあらゆる音を制作する職種だ。サイバーコネクトツーでは,BGMやSEの作曲をする「サウンドデザイナー」,BGM/SE/音声などのデータを適切な形で再生する仕組みを作る「サウンドプログラマー」,BGMやSEの制作や音声加工などを行う「コンポーザー」に大別されている。
たとえば,声優が収録した「生の音」を加工して使うのはゲームではよくあること。同じセリフであっても,普通に聞こえるだけでなく,洞窟の中では声が反響したり,遠く離れていたらトランシーバーから聞こえてきたりというように,キャラクターが置かれた状況によって聞こえ方を合わせなくてはならない。その「音」を“自然”な形に“加工”するのが,サウンドクリエイターの仕事というわけだ。
そのほか,クリエイターを支える職種として,アーティストをプログラム面から技術サポートする「テクニカルアーティスト」,ネットワークの構築/管理/運用を担う「ネットワークエンジニア」,サーバーを構築/管理/運用する「サーバーエンジニア」などがある。
加えて,「機材管理」「QA」「ローカライズ」「宣伝広報」「総務」「人事」など,サポート職種にはさまざまなものがある。松山氏は,ゲーム制作に携わる以上,これらの職種に就いている人間もクリエイターであり,各自がその意識を持って業務に取り組む必要があると述べていた。
ゲームクリエイターを目指すために必要なこととは
次に松山氏は,ゲームクリエイターになるために必要なこととは何か,いくつかのテーマを挙げ,具体的に説明をした。
会社というものは,入社後に何をやらせるかまで考えて採用するものである。そのため,受験者の能力や将来像が見えてこなければ判断のしようがなく,結果として採用につながらないことが多いというわけだ。
松山氏によれば,たとえばアーティストなら受験時にポートフォリオを用意してもらうが,それに学校の課題を入れているようでは不合格だという。
松山氏は,アーティストを目指す時点で絵がうまいのは当たり前で,それ以上のものが読み取れない石膏デッサンなどを見ても意味がない,と断言する。趣味で描いた絵をオマケのようにポートフォリオに付ける学生もいるが,採用する側は実はそれこそが見たいものなので,自分の個性を強調する作品を中心に構成するべきだと,松山氏は強調していた。
松山氏は,「1か月で制作を行う場合,スケジュールをどう組むか」と受講者に問いかける。学生の場合,そのほとんどが1か月で「完成」するスケジュールを組むが,プロのやり方は違うとのこと。
松山氏は,現実はそううまくいくものではないと前置きしつつ,プロの場合は100%のものを作るために,半分の期間で本組みまで行い,残りの半分でチェック&モニタリングとその修整を行えるようなスケジュールを立てると話す。
バグチェックは言うまでもなく,そのゲームがターゲット層に受け入れられるかなど,自分達の作品に対してどこまでも「臆病」であるべきで,学生のうちからそのスケジュール感に慣れておいたほうがいい,と松山氏は述べていた。
たとえば「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズの場合は,30人くらいのチームからプロジェクトが始まり,ピーク時には100人を超えることもある。スマートフォン向けのゲームでも常時10人から15人のチームで動いているため,学生のうちから,チーム制作の経験をできる限り積んでおくべきだと松山氏は述べていた。
また松山氏は,チーム制作では対人コミュニケーションが必須となるとコメント。人とのコミュニケーションが苦手な人はゲームクリエイターに向いていないので,そのような人は早めに訓練して克服したほうがいい,とアドバイスを送った。
松山氏曰く,ゲームを売るためには,世の中の動向を知り分析できる力が求められる。好きなものだけを見ている限りは一生消費者のままであり,与えてもらうことに慣れてしまっている人はゲームクリエイターになれないという。
ゲームが商業品である限り「売れているものが正しい」というルールが確実に存在するため,自分が好きなものだけでなく「売れているもの」も学ぶ必要がある,というわけだ。
ちなみにサイバーコネクトツーでは,2000〜3000冊のマンガ雑誌,8000本超のアニメ/映画などのソフトを,会社のライブラリとして用意している。これが用意されているのには,先述した研究だけでなく,スタッフ間の情報共有としての意味合いも含まれているという。
たとえば,今年43歳になる松山氏と,20歳そこそこの新人スタッフでは,今まで遊んだゲーム,見たアニメや映画など,蓄積された経験はまったく異なっている。業務の一環として同じゲームを遊び,同じアニメを見ることで知識を共有し,コミュニケーションに役立てているそうだ。
最後に松山氏は,「作りたいではなく“つくる”,やりたいではなく“やる”」と,明確な意志を持って取り組むことが大事だと述べ,講演を締めくくった。
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