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「rain」における「感染型PR」の事例が紹介された「Unite Japan 2014」のセッションをレポート。低予算で効果的なプロモーションのために何をしたのか
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印刷2014/04/08 14:45

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「rain」における「感染型PR」の事例が紹介された「Unite Japan 2014」のセッションをレポート。低予算で効果的なプロモーションのために何をしたのか

 Unity開発者のためのカンファレンス「Unite Japan 2014」が,2014年4月7日および8日の両日,東京都内で開催されている。初日となる7日,ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(以下,SCEJA)から2013年10月に発売されたアクションアドベンチャー「rain」の開発経緯とプロモーションを語るセッション「雨降って地固まる:rain プロダクションポストモーテム(Unite2014 ver.)」が行われた。

「rain」プロデューサー 鈴田 健氏(左)と,ディレクター 池田佑基氏(右)
画像集#002のサムネイル/「rain」における「感染型PR」の事例が紹介された「Unite Japan 2014」のセッションをレポート。低予算で効果的なプロモーションのために何をしたのか
 セッションの前半では,「rain」のディレクターを務めたSCE Japanスタジオの池田佑基氏が,GDC 2014で行われた「Come Rain or Shine: rain Postmortem」と,ほぼ同じ内容を改めて説明した。こちらはGDC 2014のレポートにて紹介しているので,興味のある人は,ぜひご一読を。
 本稿では,「rain」のプロデューサーである鈴田 健氏が,同タイトルのプロモーション手法を紹介したセッション後半をレポートしよう。

画像集#001のサムネイル/「rain」における「感染型PR」の事例が紹介された「Unite Japan 2014」のセッションをレポート。低予算で効果的なプロモーションのために何をしたのか

「rain」公式サイト

「Unite Japan 2014」公式サイト


 「rain」のプロモーション企画を考えるにあたり,鈴田氏は以下の3つのポイントを意識したという。
 1つめは,「隠れた名作で終わらせない」という目標だ。「rain」は,開発の段階からSCEJA内で非常に高く評価されていたが,それで満足しては,世間に認知されないままで終わってしまう可能性がある。そこで,いいゲームを作ることと同じくらいの気持ちでプロモーションに力を入れることを考えたという。

 2つめのポイントは,「ダウンロード専用で新規IP」という本作が,パッケージやシリーズものと比較したとき,市場規模や費用対効果の面で不利になるということ。

 そして3つめのポイントは,「作品の世界観に沿った表現手法」についてで,ゲームの雰囲気を壊すようなプロモーションは論外だが,その一方で「rain」は3〜4時間程度でエンディングを迎えるため,内容を詳しく説明することはできない。

 以上をまとめて鈴田氏は「rain」のプロモーションを,「しっかり宣伝しないとマズい。けれどお金はない。そして,やりすぎもダメ」という,相当過酷なミッションだったと語った。

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 そこで鈴田氏が採用したのが,継続的にさまざまな情報を露出していくことで,そのゲームに関心を抱く人達を増やしていく「感染型PR」だ。とくに参考にしたのは「風ノ旅ビト」のプロモーション事例で,プロデューサーやディレクターがさまざまなイベントでゲームについて語ったり,試遊した人にノベルティを配布したり,いいニュースがあればFacebookを通じて公開したりといった,地道な努力をしていたことに着目した。

 鈴田氏は,そうした「風ノ旅ビト」型のプロモーションを,「ゲームを中心としたカルチャーの形成」であるとし,全方位型の優秀なPRだと分析する。例えば音楽やアートワーク,あるいは開発スタッフといったカルチャー部分にまず関心を抱いてもらい,気づいたらゲームをプレイしていたという状況へ誘導するための優れた手段というわけだ。

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 そこで鈴田氏は,さっそく「風ノ旅ビト」を例に出しながら,関係各所を説得して回ったという。その過程では,ディレクターの池田氏をはじめ,開発チームのスタッフによるたくさんの協力があったとのことで,結果を先に述べれば,「rain」は,低予算で効果の高いプロモーションを実現することに成功したという。

 具体的に何をやったかといえば,鈴田氏は,まず「rain」そのもののキャラを形成することに着目し,ほかのゲームとは違うということを世間に示すため,プロモーションでは情報の裏にも何らかの意味を持たせることを意識した。

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 その一例が,公式サイトにおけるアートワークの露出だ。普段は建物が描かれたアートと「雨の日にお逢いしましょう」というテキストが表示されているだけだが,関東地方で雨が降っている日には,同じ構図のアートの中に雨に打たれる主人公やタイトルロゴ,そして「雨が映し出す透明な世界の物語」というキャッチコピーが現れる。この手法は非常に話題を呼び,SCEJAの公式Twitterにおけるリツイート数を更新したほどだった。

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 また鈴田氏は,「rain」の発売日に向けたプロモーション展開のストーリーを作成した。これは,「rain」を好きになってもらうための物語で,受け手がどんな気持ちになるかを優先して考えたとのことだ。「ちょっと変わったゲームがあるらしい」というところから始まり,徐々に「rain」の内容を深く知ってもらい,興味が最高潮に達した時点で発売日を迎えるよう,段階的に施策を当てはめていったとのことで,鈴田氏は「人を好きになる過程に似ている」と説明した。

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 さらに,受け手が「rain」を自分とどこか関係があるゲームだと認識しやすくするため,「迷子」というキーワードを前面に打ち出すことを考えた。こうすることで,受け手の過去の記憶へと訴えかけることが可能となり,「見知らぬ街で迷子になり,心細い反面,ワクワクするようなゲーム」を想起させることができるのだ。
 石田氏は,「迷子」というキーワードが生まれたことにより,開発チーム内の意識共有がやりやすくなったとも話していた。

 ほかにも鈴田氏は地道な作業を積み重ねていった。その一つが,「rain」の資料を携えてメディア各社を回った,プレゼンテーションツアーだ。開発で忙しい中,石田氏やデザイナーも同行し,熱意を持ってプレゼンした結果,多くのメディアから応援してもらえたと鈴田氏は振り返った。

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 また,Facebookに「rain」がどう受け止められているかを確認する場を設け,それをもとにプロモーションをどう展開していくかを考えたという。

 加えて,開発チームのクリエイターにスポットを当てることや,アートワークをさまざまな形で紹介することも行い,とくに後者は,ちょっとした攻略ポイントを挟むなど,メディアが記事にしやすくなるように配慮することもあったという。
 サウンドに関しては,プロジェクトの初期からテーマソングを作ろうと決めていたと鈴田氏は述べ,池田氏が打ち出していた,「月の光」というゲーム全体のテーマに沿ったボーカル曲を作成した。

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 そうして迎えた「rain」の発売期には,いかにしてPlayStation Storeにおける露出を最大化するかについて考えたという。
 そのため,PS Storeをジャックするバナーを作ったほか,ダウンロード専売ゲームとしては異例の予約販売を行った。

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 また,ほかのWebサイトに露出する広告バナーは,広告代理店から提示されたキャッチコピー全種類を採用し,クリック率の低いものから落としていったという。この手法を使うと,鈴田氏らが事前に選ぶことなく,最終的に効果の高いキャッチコピーの入ったバナーだけが残るというわけだ。

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 さらに,実際に発売されたあとも,賞のノミネートや獲得など,応援してくれたプレイヤーに喜んでもらえる情報を発信することも怠らなかった。

多くの人にゲームを認知してもらうためのシリアルコードも,お手製の加工を施した用紙に印刷するなどして,ほかのゲームとは違うことをアピールした

 そして「rain」の発売後にも,降水確率が50%を超えた日に「rain」本編をプレゼントするキャンペーンや,カスタムテーマの定期的な配信といった形で,継続的なプロモーションを行ってきたという。

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 鈴田氏は,以上をまとめて,「rain」のプロモーションでは,最終的にゲームプレイに至るカルチャーの形成を目指したと改めて語り,そのポイントを「自分自身のポジショニングをよく分析する」「何をどう売りたいのかをチーム内でしっかり共有する」「いいと思ったことはとにかくやってみる」の3点だとして,セッションを締めくくった。

「rain」公式サイト

「Unite Japan 2014」公式サイト

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