レビュー
繰り返される惨劇から,君は逃れられるか――ループ系惨劇体験型推理ボードゲーム
惨劇RoopeR
例えば1980年代に書かれたKen Milton Grimwoodの小説「リプレイ」は,記憶を保ったまま人生を何度もやり直すことになる男を描いた名作SFだし,アニメ監督・押井 守の出世作として知られる「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」なども,ループものの一種といえる。また,何度も同じ状況をやり直すという構造が,ノベルゲームやアドベンチャーゲームなどと親和性が高いためか,冒頭に挙げたタイトルなどをはじめとして,近年多くの名作が生み出されている。
本作,惨劇RoopeRは,こうしたループものを題材としたボードゲームだ。プレイヤーは理不尽なループの囚われ人となり,繰り返される惨劇からの脱出を目指していく。同人サークル BakaFire Partyの制作により,2011年のゲームマーケット秋で発売。以来,アナログ同人ゲームとしてはかなりのヒットとなり,基本セットはすでに第4版を数えている。拡張セットもすでに2作が発表されている。
本稿では,その基本セットを用いたリプレイなどを交えつつ,本作の魅力に迫っていこう。普段はあまりボードゲームを遊ばないという人も,ループものに興味があれば,ぜひご一読いただきたい。
「惨劇RoopeR」公式サイト
惨劇の真相を推理せよ
以下,ゲームとしての本作について解説していくが,両タイトルの未経験者向けの説明に加え,経験者向けの解説も囲みで付け加えている。自分にとって分かりやすい説明を選んで読み進めてほしい。
まず本作は,「脚本家」役のプレイヤー1名と,「主人公」役のプレイヤー3名による対戦ゲーム――つまり4人プレイ専用という形をとっている。
「脚本家」プレイヤーは,ゲーム開始前に,シナリオを用意しておく必要があり,いわばテーブルトークRPGにおけるゲームマスターのような立ち位置と考えてもらえばいいだろう。とはいえテーブルトークRPGとは違って話の筋書きなどを考える必要はなく,「主人公」が解き明かさなければならない3つの「ルール」(1つの「ルールY」と2つの「ルールX」)と,登場人物の「役職」,そして惨劇のスケジュールを決めるだけなので,その負担はグッと少なくなっている。
つまり,「脚本家」とは「うみねこ」でいうところの魔女――ベアトリーチェやベルンカステルに相当する役割ということができる。3人のプレイヤーを欺き,ゲーム盤での勝利を目指すのが「脚本家」の勝利条件となる。
対する「主人公」側のプレイヤーは,定められたループ回数のうちに,「脚本家」が選んだ3つの「ルール」と,登場人物の「役職」を解き明かすことがゲームの目的となる。「脚本家」が定めた規定のループ回数のうちに,すべての謎を解明できれば「主人公」側の勝ち。逆に解き明かせないままに規定のループ回数が尽きてしまえば,「脚本家」の勝ちだ。
「主人公」側は,「ひぐらし」の羽入や古手梨花,あるいは「うみねこ」のメタ戦人の役目と考えれば良い。ただしゲーム盤上のキャラクターの誰かではなく,完全にメタ視点の「主人公」なのが少し異なっている。
それでは箱をあけ,本作の内容物――コンポーネントを見ていこう。まず目に入るのは,4枚を組み合わせて使用する「ゲームボード」(神社 / 病院 / 学校 / 都市)とフルカラーの「キャラクターカード」(9枚),そして各プレイヤーが手札として使用する「行動カード」(「主人公」用24枚と「脚本家」用10枚)だ。
まずは「ゲームボード」を机に広げ,その上に9枚の「キャラクターカード」を配置していく。このときカードを配置する場所は,「キャラクターカード」ごとに決まっていて(例えば「医者」なら必ず「病院」からスタートする),「脚本家」にも変更はできない。
最後に「行動カード」をすべてのプレイヤーに手札として配れば(行動カードは色分けされており,必ず決まった枚数/内容となる),晴れて惨劇の準備が整うことに。
「脚本家」vs.「主人公」。ゲーム盤に潜む悪意を見破れ
■惨劇Rooperリプレイ:準備編
脚本家:
では今回の惨劇を始めよう。まず今回のシナリオは,こんな感じだ(といって「公開シート」を見せる)。
主人公A:
公開シート
経験者なので,ルール説明のサポートをしますね。えーと,ループ回数が5回で,ループ日数が7日,相談可ですか。ここまでは基本ですね。
主人公B:
1日目と2日目に「不安拡大」,後半に「殺人事件」「自殺」「病院の事件」とありますね。これはなんですか?
脚本家:
ループする7日間の中で,起こる予定のイベントだね。
主人公C:
予定……ということは,止めることもできる?
主人公A:
止められます。それぞれのイベントでは,それを引き起こす犯人が決まっているので,まずそれを突き止めないといけない。……とりあえず「病院の事件」が起こってしまうと大量に死者が出てしまうので,これを何とかしないとね。
主人公B:
その犯人を当てれば,我々の勝ちですか?
脚本家:
それだけではダメだね。主人公側の目的は,バッドエンドを回避してループを抜け出すこと。そのためには,5回ループする間にすべてのキャラクターの「役職」を推理して,敗北条件となる3つのルールをすべて解き明かし,回避する必要がある。
主人公C:
なるほど。(ボードを見ながら)僕のキャラクターはどれです?
初期配置状態のゲームボード
脚本家:
「主人公」たるプレイヤーは,カードでは表されていないんだ。その代わりに,手札の「行動カード」を出し合って,キャラクター達の行動に介入できる。
主人公A:
「行動カード」を使えば,キャラクターを移動させたり,ほかのキャラクターに「友好カウンター」や「不安カウンター」を載せたりできます。「友好カウンター」がたまっていると,そのキャラクターの特殊能力が使えるし,逆に「不安カウンター」がたまっていると,それがトリガーとなって事件が起こる。
脚本家:
たまってなくても起こるけどね(笑)。例えば「役職」が「シリアルキラー」のキャラクターと二人きりになると,100%殺されちゃうわけで。
主人公B:
惨劇だ!
本作のプレイは,1日を1ターンとして進行していく。その1ターンの間に,「脚本家」は3枚の,「主人公」側は各1枚の「行動カード」を出すことができ,これでゲームボード上に配置された9人のキャラクター達を動かして,事件を引き起こす/探っていくのがゲームの流れだ。
■第1ループ・1日目
脚本家:
では第1ループ1日目,「脚本家行動フェイズ」から。「脚本家」は,「学校」の「女子学生」と「お嬢様」にそれぞれ1枚,そして「病院」に1枚,「行動カード」を置きます。ただし,カードは伏せておくので,内容についてはまだ分からない。
主人公A:
今回のルールは「相談可」なので,「主人公」側は相談してカードを置いていくことができます。とりあえず,「病院」のあれが「暗躍+2」だとかなり絶望的※なので……。
※6日目の「病院の事件」発生時,「病院」に「暗躍カウンター」が2つ以上ある場合,その時点でこのループでの主人公側の敗北が決定する。
主人公B:
「暗躍禁止」を打ち込みましょう。リーダーの仕事ですね。
脚本家:
「暗躍禁止」が2枚被ったら,両方無効になるからご注意を。まあ,「相談可」だから大丈夫だと思うけど。
主人公C:
なるほど。そうすると「相談不可」って,かなりマゾい気配がします。
主人公A:
中級者以上のためのハードコアルールだからね。よし,じゃあ「主人公行動フェイズ」。とりあえず「病院」に「暗躍禁止」を置きましょう。
脚本家:
行動順はリーダーから時計回りね。リーダーはターンが終わったら左隣の人に移っていきます。
主人公B:
じゃあ,自分は「お嬢様」に「友好+1」。
主人公C:
えーとじゃあ,「巫女」が一人だと寂しそうなので,「男子学生」に「移動↑↓」とか。
脚本家:
では「行動解決フェイズ」。「脚本家」のカードは「お嬢様」と「女子学生」に「不安+1」,「病院」が「暗躍+1」でした。病院は「暗躍禁止」で迎撃されてしまったけど,後は通った。あと「お嬢様」に「友好+1」だね。
「行動解決フェイズ」直後のゲームボードの様子
主人公A:
しまった。「お嬢様」がすでに「不安臨界」に!
主人公C:
「不安臨界」になると,どうなるんです?
脚本家:
公開シートで予告された事件には,それぞれ犯人役のキャラクターがいるんだけど,実際に事件が起こるには,その犯人が「不安臨界」状態になっている必要があるのだ。
主人公A:
つまり,1日目の「不安拡大」の犯人は……。
「行動カード」の効果を解決したあとは,各キャラクターが能力を使用するフェイズとなる。まずは脚本家が,キャラクターの「役職」に従った能力を使っていく。例えば「ミスリーダー」の役職を持ったキャラクターがいるなら,同じエリアにいるキャラクターに対して,「不安カウンター」を1つ追加できる,といった具合だ。
キャラクターの裏の顔である「役職」に沿った能力で,「脚本家」が惨劇を引き起こすなら,「主人公」側はキャラクターが本来持っている「友好能力」で,これを食い止めることができる。ただしこれを使うためには,そのキャラクターに定められた数の「友好カウンター」が置かれていなければならない。例えば「巫女」キャラクターの「友好能力」は,同じエリアのキャラクター1人の「役職」を暴くことができる強力な効果を持つが,発動には「友好カウンター」が5つ必要になる。
脚本家:
「脚本家能力使用フェイズ」ですが……(「ミスリーダー」がいるけど)今回は何もしません。
主人公A:
「主人公能力使用フェイズ」も,何もできないですね。
主人公B:
「友好カウンター」は「お嬢様」の1つだけですから,まだ足りない。
主人公A:
あ,ちなみに脚本家が何もしないからといって,能力持ちがいない訳ではないですからね。任意能力は,あえて使わない手もあるので。
脚本家:
ダメだよ,そこバラしたら!
そして,いよいよ事件が起こる。
先にも書いたように事件は,公開シートで予告されてはいるものの,誰が犯人であるかは,「主人公」プレイヤー達が推理によって導き出さなくてはならない。何度かのループを繰り返して,少しずつ「敗北条件」――ループを引き起こす「ルールX」と「ルールY」,事件を引き起こす犯人とその「役職」を明らかにし,事件の発生を回避していくのだ。
脚本家:
それじゃあ「事件フェイズ」。「不安拡大」によって,街に不安が広がります※。「お嬢様」にさらに「不安カウンター」が2つ追加される。これで3つ目。さらに「巫女」に「暗躍カウンター」を1つ置きます。
※「不安拡大」は,任意のキャラ1人に「不安+2」,また別のキャラクターに「暗躍+1」の効果。
主人公B:
「お嬢様」の動きが怪しい。もしかして,彼女が?
主人公A:
ブラフの可能性もありますし。でも,もし何か組み込まれていたら……。
脚本家:
では「リーダーマーカー」を左隣にまわして,ターン終了フェイズ。おっと,ここで何故か「女子学生」が死んでしまった。……ついでに世界も滅びてしまって,君達の負け。第1ループはこれにて終了です。
一同:
おいィ!
1日目にして,早くも「敗北条件」が満たされてしまった。
だが,まだ最初のループが発動したに過ぎず,「公開シート」に定められたループ数が残っている限り,プレイヤー達は1日目に戻って惨劇を繰り返すことになる。「平穏な日々」を取り戻すため,「主人公」達は何を間違えたのかを整理して考えることにした。
■時の狭間
主人公C:
えーと,死んだキャラクターは「女子学生」だけですか?
脚本家:
「女子学生」だけだね。キャラクターが死んだ場合は,そのカードをこういう風に横向きにするんだ。
主人公A:
ループが途中で強制終了するのは,「キーパーソン」が死んだときと,「主人公」が死んだときだけど……。
脚本家:
今回は「主人公」――つまりプレイヤーの死は発生していない。
主人公A:
すると,この「女子学生」が「キーパーソン」だったに違いない。そして「女子学生」を殺した「お嬢様」は「シリアルキラー」です。
主人公B:
(早見表を見ながら)「キーパーソン」が登場するということは,「ルールY」は「殺人計画」か「僕と契約しようよ!」のどちらかですね。「シリアルキラー」も登場するのなら,「ルールX」のうち1つは「潜む殺人鬼」になるのかな?
プレイ時に参照する早見表。推理に必要なルールが一覧できるようになっている
主人公C:
いや,「妄想拡大ウイルス」の可能性もありますよね。ほら「お嬢様」に「不安カウンター」が3つ載ってますし※。
※ルールX「妄想拡大ウイルス」が適用されている場合,「不安カウンター」が3つたまった「パーソン(=役職なしのキャラクター)」は,「シリアルキラー」へと変貌することになる。
主人公A:
「脚本家」のブラフである可能性もあるので,「ルールX」については,まだどちらの可能性も考えられる。ループはあと4回あるから,慎重にいきましょう。
主人公B:
「シリアルキラー」の疑いのある迷惑お嬢様。不安臨界が1なところも,実にトラブルメーカー気質である
とりあえず「女子学生」の役職は「キーパーソン」で確定ですね。で,「お嬢様」の役職は単なる「パーソン」,もしくは「シリアルキラー」。
主人公C:
あと1日目の「不安拡大」の犯人も「お嬢様」ですね。とんだ迷惑お嬢様だ(笑)。
主人公A:
とりあえず,安易にキャラクターを2人きりにするのはやめましょう。あと次のループでは,「女子学生」と「お嬢様」のメンタルケアに務めたほうが良さそうですね。
脚本家:
方針はまとまったかな? それではゲームボードを初期配置に戻して,第2ループを開始しよう。
と,こうして推理を繰り返しつつ,「主人公」側は惨劇の真相に少しずつ近づいていく。「主人公」達が真相に気付くのが早いか,はたまた「脚本家」が煙に巻いてしまうのか。ルールについては,ここまでの流れで概ね分かっていただけたのではないかと思うが,もう少しだけこの「惨劇」の行方を追いかけてみることにしよう。
■第2ループ・1日目
脚本家:
では,第2ループ1日目。「脚本家」のカードは「男子学生」「お嬢様」「病院」に置こう。
主人公B:
前回を踏まえて,「お嬢様」に「不安−1」を置きましょう。
主人公C:
「女子学生」が「キーパーソン」なら「お嬢様」から引き離したほうがいいですよね。「女子学生」に「移動↑↓」を打ち込んで動かしておこう。
主人公A:
では,「病院」への「暗躍禁止」は,私が貼っておきます。
「脚本家」のカードは,「病院」への「暗躍+1」が「暗躍禁止」で迎撃されたものの,ほかの2枚は予想と違っていた。「男子学生」には「不安カウンター」が1個乗り,「お嬢様」は「移動←→」によって「都市」へと移動する。
第2ループ・1日目の「行動解決フェイズ」後
主人公B:
「お嬢様」がグれて夜遊びに!
主人公C:
むむむ,別のバッドエンドルートがあるということですかね?
脚本家:
「脚本家能力使用フェイズ」。どこからともなく「不安カウンター」が「お嬢様」に1個乗る。
主人公A:
なるほど,そういうことか。これは「ミスリーダー」の能力ですね。つまり「都市」にいる誰か(「刑事」「サラリーマン」「情報屋」)が「ミスリーダー」ということです。
主人公B:
「ミスリーダー」が登場するということは……「ルールX」の一つは,「恋愛模様」「不穏な噂」「マイナス13」「妄想拡大ウィルス」のいずれかってことですね。
そして「お嬢様」が「不安臨界」になったことから,1日目の「不安拡大」が発生。「サラリーマン」に「不安カウンター」が2個乗り「不安臨界」に。さらに「巫女」にも「暗躍カウンター」が1個乗るも,ターン終了時に死者は発生しなかった。
主人公B:
よし,「不安拡大」は防げなかったけど,とりあえず1日目は越えられた。誰も死ななかったということは,やっぱり「妄想拡大ウィルス」が「ルールX」の一つなのかな。
主人公C:
いや,分かりませんね。仮に「お嬢様」が「シリアルキラー」だったとしても,二人きりではないから殺人は起こらない。
■第2ループ・2日目
2日目,「脚本家」の「病院」「サラリーマン」「お嬢様」というカード采配に対し,「主人公」側は「病院」に「暗躍禁止」,「お嬢様」に「移動禁止」,「サラリーマン」に「不安−1」で対抗する。
結果は「病院」が「暗躍+1」,「お嬢様」が「移動←→」,「サラリーマン」が「不安+1」で,すべての迎撃に成功するも,「ミスリーダー」の能力によって「不安カウンター」が「サラリーマン」に追加される。
第2ループ・2日目の「行動解決フェイズ」後
主人公B:
これで「サラリーマン」の「不安カウンター」は計3つ。「ルールX」が「妄想拡大ウィルス」だったとしたら,「サラリーマン」が「シリアルキラー」になってしまったかもしれない。
脚本家:
「事件フェイズ」で2日目の「不安拡大」が発生。「男子学生」に「不安カウンター」が2個,「女子学生」に「暗躍カウンター」が1個乗ります。
主人公C:
ついに「男子学生」まで「不安臨界」に(汗)。
脚本家:
しかし2日目も死者はありません。そのまま3日目に突入します。
主人公A:
うーん,誰が「シリアルキラー」だったとしても,今の状況じゃ殺人の機会がそもそもないんだよね。あえて二人きりの状況をつくって,本性をあぶり出したほうがいいのかも……。
■第2ループ・3日目
脚本家:
(難しい顔をして)「女子学生」「お嬢様」「病院」。
主人公B:
「脚本家」が動きましたね。「お嬢様」はやっぱり「移動←→」ですかね? 一応,「移動禁止」を張っておこうかな。
第2ループ・3日目,「脚本家行動フェイズ」後
主人公A:
いや,「キーパーソン」である「女子学生」にさえ危害が及ばなければ,あえて放置してみるのもいいかもしれない。それよりも「女子学生」に貼られたカードが「暗躍+1」だった場合,「僕と契約しようよ」の条件をクリアしてしまいます。そうなると詰みですね。
主人公C:
なるほど。このループは半ば捨てても,「シリアルキラー」のあぶり出しに努めたほうがいいのかも。
主人公B:
「お嬢様」が移動した結果,「男子学生」が殺されるのなら,彼女はナチュラルボーンの「シリアルキラー」というわけですね。「男子学生」には悪いけど,犠牲になってもらおう。というわけで,自分は「女子学生」が万が一にも魔女化しないよう,「女子学生」に「暗躍禁止」を置きます。
主人公A:
キャラクターの役職を知ることが出来る,「サラリーマン」の「友好能力」
「暗躍禁止」を複数枚同時に出すと無効化されてしまうから,この際「病院」は諦めよう。自分は「サラリーマン」に「友好+2」を置きます。次のターンで「サラリーマン」の能力を使えば,「ミスリーダー」を絞り込めるかもしれない。
主人公C:
うーん,じゃあ自分はどうしましょうか。
主人公B:
「刑事」「サラリーマン」「情報屋」のうちの誰かを移動させてみるというのはどうかな。「ミスリーダー」が誰なのか,突き止められるかもしれない。
主人公C:
なるほど。じゃあ「刑事」に「移動↑↓」を貼ってみます。
「主人公」達の読みは概ね正しく,「病院」のカードは「暗躍+1」で,「病院」に初の「暗躍カウンター」が乗る。「お嬢様」は「移動←→」で「学校」に移動となった。しかし「女子学生」へのカードは予想外の「移動斜め」で,「主人公」側の「暗躍禁止」は空振りに終わる。「女子学生」は「都市」に迷い込むことに。「刑事」は主人公Cの「移動↑↓」で「病院」へ移動した。
第2ループ・3日目の「行動解決フェイズ」後
脚本家:
「脚本家能力使用フェイズ」ですが,このターンの能力の発動はありません(ニヤリ)。そして3日目は事件もないので,これにてターン終了。
主人公B:
しまった,その手があったか。でも「男子学生」の運命は?
脚本家:
はい。ターン終了時に「男子学生」は死亡します。あーあ,見殺しなんてひどいなあ。
主人公A:
「脚本家」にだけは言われたくない(笑)。でもこれで,「お嬢様」は本物の「シリアルキラー」で確定ですね。だとすると,ルールXの一つは「潜む殺人鬼」ということになります。
脚本家:
そこはノーコメントで。それに,まだこれで終わりじゃない。「男子学生」が死んだ後,「巫女」に「不安カウンター」が6個追加されます。
主人公C:
ええっ?
主人公A:
つまり「男子学生」と「巫女」は恋仲だったと。ということは……。
脚本家:
はい。あなた達「主人公」は死亡しました。ここでループは強制終了。では「時の狭間」へどうぞ。
主人公B:
な,なんてこった。
「主人公」自身を殺してしまう,「メインラバーズ」の恐るべき特殊能力
■時の狭間
主人公C:
ここもバッドエンドだったかあ。
主人公A:
まあ,最初の1〜2ループは,情報収集だと割り切った方がいいですよね。次のループに活かすためにも,現状をまとめてみよう。
主人公B:
えーとこれまでに分かっていることは……
- 「女子学生」は「キーパーソン」である。
- 「ルールY」は「殺人計画」か「僕と契約しようよ!」のいずれか。
- 「ルールX」のうち一つは「潜む殺人鬼」。「お嬢様」が「シリアルキラー」。
- 「ルールX」のうち一つは「恋愛模様」。「巫女」が「メインラバーズ」で,「男子学生」が「ラバーズ」。
- 「刑事」「サラリーマン」「情報屋」のうちの誰かが「ミスリーダー」。
- 1日目の「不安拡大」の犯人は「お嬢様」,2日目の「不安拡大」の犯人は「お嬢様」もしくは「サラリーマン」のどちらか。
と,これくらいですかね。
主人公C:
ループの鍵を握る「女子学生」。彼女はもしや“契約”してしまったのか?
こうして見ると,かなり真相が分かってきましたね。
主人公B:
「脚本家」が「まどか」好きなので,「ルールY」はたぶん「僕と契約しようよ!」だな。おのれキュゥべえ,許すまじ!
主人公A:
油断は禁物だけど,「クロマク」や「キラー」の気配が見えないので,それで合っていると思う。あとは「ミスリーダー」が誰かを突き止めよう。そのための考えがある。
主人公C:
初手の「不安拡大」を回避すれば,「脚本家」の2手目も止まるハズ。あと,ここからは長期戦になりそうだし,「友好能力」をもっと使っていきたいですね。
主人公A:
そうだね。そのあたりを念頭に,3ループ目を始めよう。我々の戦場はここじゃない!
というわけで,またしても「脚本家」にしてやられてしまった「主人公」達。第1ループの終わりに比べれば,かなり真相に近づけているようである。果たして「主人公」達は,残る3ループのうちに平穏を取り戻すことができるのだろうか? この続きは,ぜひ読者の皆さん自身で確かめてみてほしい。
ニッチなモチーフを忠実に再現した,通好みの一作
プレイ時間も1シナリオあたり約3〜4時間前後と,昨今のスピード型ゲームに比べると時間はかかるものの,各人がかなり頭を使うことになるので,それほど長いとは感じられないはずだ。推理ゲーム好きが集まってワイワイ遊ぶときには,非常にオススメできるゲームといっていい。
あえて欠点を挙げるならば,4人でのプレイに特化しているため,少ない,もしくは多い人数では遊ぶことができない点,また事前にシナリオを用意する必要があるため,気軽に遊ぶのがやや難しい点などがあるだろう。このあたりはテーブルトークRPGなどと同じ欠点といえる。ただロールプレイの要素は少なく,制作者の言うように「中身の見えないチェス」に近いゲームなので,プレイフィールはかなり異なるだろう。
またゲームの難度もシナリオに大きく依存する(適当に作ると「詰んでしまう」こともありえる)ので,プレイ中のルール判定なども含めて,「脚本家」となるプレイヤーの負担は,それなりに大きい。基本セットに含まれるサンプルシナリオや「シナリオ作成ガイド」,また公式サイトで公開されているシナリオ集を参考にすることで幾分かは軽減されるはずなので,慣れるまではこれらを利用してみるのがいいだろう。
なお,本作は同人ゲームであるため,残念ながら通常のゲーム流通には乗っておらず,入手に苦労することもあるはずだ。本稿を読んでプレイしてみたいと思った人は,ゲームマーケットなどの各種即売会に足を運ぶか,もしくは一部のアナログゲーム専門店――イエローサブマリン,テンデイズゲームズ,BORADWALKといった各店舗を当たってみてほしい。また萬印堂や,先日オープンしたばかりのインディーズゲーム専門店,ドロッセルマイヤーズ ラウンドテーブルでは,通信販売も行われているとのことである。こちらもぜひ利用してみよう。
■BakaFire Party新作ボードゲーム「終わった世界と紺碧の追憶(メモリー)」
惨劇RoopeRを制作したBakaFire Partyでは,最新作「終わった世界と紺碧の追憶(メモリー)」をゲームマーケット2012秋にて発表している(店頭価格:3200円/税込)。こちらは「世界探索型情報戦ボードゲーム」とのことで,惨劇RoopeRとは,また一味違ったゲームに仕上がっている。
ゲームとしては,特定の「行動」に対してコマを配置し,アイテムや情報の獲得を目指すワーカープレイスメント系のゲームだが,勝利条件および敗北条件がカードによってランダム化されているのが特徴となる。プレイ時間は約1時間弱と短いが,ほかのプレイヤーの勝利条件を推理しながら情報戦を戦うという意味では,惨劇RoopeRにも通じる,濃厚な推理ゲームとなっている。
人類が滅びた後の世界を舞台に,人造人間が遺跡を探索しながら,人類の記憶をたどっていく……という背景を持つ「終わった世界と紺碧の追憶(メモリー)」。コンポーネントの美しさも惨劇RoopeRに引けを取らないので,興味のある人は,セットで購入してみても良いかもしれない
「惨劇RoopeR」公式サイト
■■朱鷺田祐介(ライター)■■
TRPGデザイナー。スザク・ゲームズ代表(BLOG:黒い森の祠)。ダーク・ファンタジー「深淵」を筆頭に,「霊障都市捜査ファイル 罪の街新宿」 「クトゥルフ神話TRPGサプリメント:比叡山炎上」など独特の作品を送り出す一方,サイバーパンク&ファンタジーRPG「シャドウラン 4th Edition」の翻訳に取り組む。「クトゥルフ神話ガイドブック」 「超古代文明」 「海の神話」 「図解 巫女」 「酒の伝説」などの著作があり,2011年よりPHP社のクトゥルフ・コミック「ダゴン」 「ニャルラトホテプ」で解説を担当している。
- 関連タイトル:
惨劇RoopeR
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